輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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茶道部2人のキャラってこれで合ってるかな・・・?
と一抹の不安を抱えながらの第3話です。


3

 何か軽く体を揺すられるような感覚に意識がうっすらと覚醒する。今日は悪い夢を見ずに済んだな、と一息ついて寝直そうとする。だが、寝るのを遮るように上から声が聞こえてきた。

 

「お、岡崎くーん……朝だよー……」

「ん……」

「そろそろ起きないと遅刻しちゃうよー」

 

 俺の部屋の中で美也以外の声が聞こえてきている。誰がいるのか確かめるべきなのだろうが、眠気が勝ってしまい動かずにいた。すると次に聞こえてきた言葉で急に嫌な予感を覚えた。

 

「こうなったら、いつも私が香苗ちゃんにやられてる最終手段……えーい!」

 

 ガバッと音がした直後、俺の身体を包んでいた温もりが消え去った。

 

「うぉ……さみぃ」

 

 段々と身体が冷えていく感覚に眠気が少しずつ引いていく。頭がようやく動き始めて状況を少しずつ理解し始める。どうやら掛け布団をひっぺがされたようだ。上半身を起こして先程から声がしていた方を見ると、制服で俺の掛け布団を持った桜井がいた。

 

「あ、やっと起きたね!」

「……なんで俺の部屋にいるんだ?」

「え、もしかして忘れちゃってる? 約束通りに起こしに来たんだよー」

「あぁ……そうだったか」

 

 昨日決まった約束の通りに、桜井は律儀に俺の部屋まで来たのだった。流石にここまでさせておいて遅刻にさせてしまうのは忍びないので学校に行く支度を始める。

 

「よーし、それじゃあ行こー!」

「待て待て、その前に着替えだけさせてくれ」

「あそっか、わかった」

 

 そう言うとその場で少しうとうとしながら待ち始めた。眠い目を擦りながら俺の様子を見ると、支度を始めない俺に『ん?』と首を傾げる。

 

「あれ、どうしたの?」

「……着替えたいんだが」

「え? ……あ、そっかごめん!」

 

 眠気で頭が回っていなかったのだろうか、理解すると直ぐ様部屋から出て勢い良くドアを閉めた。危うく俺の着替えを終始見届けられるところだった。いくら何でも男の部屋で無防備すぎると思う。制服を取り出して着替えをしながら、昨日美也と話をしたときのことを思い出す。

 

 美也が寝付くギリギリ前に帰ってきた俺は、眠そうな美也に朝に桜井が来ることを話した。眠さから理解しきれずに『どゆこと?』となっていたので、経緯をざっくりと説明した。

 

「えー、なんでそんな話になったの?」

「俺もわからん」

 

 経緯を話し終わった俺も正直どうしてこうなったかよくわからなかった。伊藤は名案だと言うし俺としてもメリットはあるのだが、別の何かを失いそうな気がする。

 

「にぃにが遅刻しなくなるのはいいんだけど……なんか複雑だよー」

「気分で言えば俺の方が複雑だから安心してくれ」

「そういう問題じゃないの!」

 

 美也としては賛成して良いものか悩ましいという様子だ。俺としても頼ってしまっていいものかと少し迷い始めてきたところだ。

 

「まあ、桜井さんが来るのは問題ないけど……」

「桜井の事知ってるんだな」

「え? うん、中学の時に何度かにぃにの事聞かれたから」

「何を聞かれたんだ?」

「体調はどうかー、とかご飯食べてるのかー、とかだったかな」

「親戚のおばちゃんかよ……」

 

 同級生にそこまで気にされていた事を聞いて、俺の気分は更に複雑になっていた。

 

「もっと色々ツッコミ所はあるけど、みゃーは眠気が限界だからもういいや」

「ああ、寝る前に悪かったな」

「うん、起こしてもらうなら早く寝ときなよー……」

「そうするよ」

 

 ふらふらと寝室に向かう美也を見送った後、俺もすぐに寝ることにした。

 

 

 という事で完全に納得してもらったわけじゃないが、桜井が来ることの了承は得ていた。着替えが終わり、部屋の外で待っていた桜井と合流して家を出る。通学路には他の生徒がちらほらと歩いている様子が見えた。同じ制服なのだが、普段誰もいない時間に登校している俺にとっては落ち着かない光景だ。そしていつもなら寝過ごしている時間なのでとても眠い。

 

「「ふぁ……」」

「な、なんか重なっちゃったね」

「……だな」

 

 欠伸が重なってしまい、桜井は顔を赤らめてそわそわし始めた。そんな様子を見て俺も少し恥ずかしくなってしまう。その後はお互いに眠かったからか、会話は少ないまま学校に辿り着いた。そろそろ教室に着きそうになる頃に美也の事を思い出して聞いてみた。

 

「そういや、美也には会ったのか?」

「あ、うん! でも私が来てからすぐに出ちゃったからあんまり話せなかったよー」

「ああ、あいつ最近は早く出てるらしいからな」

「そうなんだー」

 

 最近できた友達と一緒に登校するため、と以前言っていたのを思い出す。

 

「朝美也ちゃんに言われたんだけど、『起きなそうだったら切り捨てちゃっていいので!』……って」

「俺はとかげのしっぽか何かかよ……」

 

 これまで美也には散々切り捨てられているという扱いだった事に少し落ち込んでしまった。

 

「でも、岡崎君がすんなりと起きてくれたからよかったよー」

「桜井も今日は起きれたんだな」

「あはは……結局香苗ちゃんに起こしてもらったんだけどね」

 

 俺から少し目線を逸らして人差し指で頬をかきながら答えた。今日も自力で起きられたわけじゃないということなのだろうが、ここで伊藤との約束を思い出す。

 

「確か明日からは伊藤に起こしてもらえないんじゃなかったか?」

「そうだった! 明日からは自分で……」

「……どうした?」

「ど、どうしよー……心配になってきちゃったよー……」

 

 うぅー……と唸りながら縮こまっていく。そんな様子に見て、流石に桜井への負担が大きいかもしれないと感じた。

 

「なあ、無理そうなら俺の事は気にしなくても……」

「ううん! そこは頑張るから!」

「あ、あぁ」

「じゃあまた明日の朝もよろしくね!」

 

 俺が言い切る前に桜井は頑張ると言いきった。勢いに押されて俺はただうなずくしかできなかった。そして桜井は自分の教室に早足で去っていった。

 

 

 教室に入るといくつか数奇な目線を感じたが、気にせず席につく。今日は遅刻を免れる事が出来たという安心感からか、授業中はぐっすり眠れた。どこかから『いや、早く来てもそれじゃ意味ないでしょうが!』という声が飛んできたが無視した。

 

 深い眠りに落ちていると、あっという間に昼休みになった。すっかり固まってしまった身体をほぐすために中庭辺りを歩いていた。すると渡り廊下辺りから女生徒の声が響いてきた。

 

「そこの君、ちょっといいかな?」

「ん?」

 

 声がした方向を見てみると、近くに声の主らしき二人の女生徒が立っていた。二人は何故か大きめの段ボール一つを協力して抱えている。状況がわからずに様子を伺っていると、俺が聞くよりも先に自己紹介を始めた。

 

「おっと、私は三年の夕月琉璃子だ」

「同じく三年、飛羽愛歌」

「はぁ……二年の岡崎っす」

 

 簡潔に情報交換を終えたところで、眼鏡を光らせる夕月先輩は矢継ぎ早に次の話を始めてしまう。

 

「さて、私たちの状態を見て何か言うことは無いか?」

「はぁ?」

「君、これが何に見えるかな?」

「段ボール、っすね」

 

 普通に答えたのだが、夕月先輩ははぁ……とあからさまにため息をついた。その横から飛羽先輩からボソッとツッコミが飛んで来る。

 

「ひねりが足りない」

「はぁ……」

「もう一声」

「いや、特に無いっすけど……」

 

 この先輩二人は初対面の俺に一体何を求めているのだろうか。返答に困っているとヒソヒソと会議を始める。但し俺にも丸聞こえな声量で、だ。

 

「変だな、君は段ボールを見ると持たずにはいられない人だと聞いたのだが」

「何すかそれ……」

「段ボールを見ると我慢できずに『岡崎サイコーーッッ!!』と叫んでしまうとか」

「上半身裸で校舎を駆け回る変質者」

「やっても無いことで人を変質者扱いするなよ……」

 

 そんな奇行癖も持っていない。というか岡崎サイコーーッッ!!はどこから来たのだろうか。

 

「まあ今のはジョークだから気にしないでくれ」

「ジョークのセンスが独特すぎる……学校の七不思議レベルだろ」

「確かに、七不思議に認定」

「マジで濡れ衣だぞ……」

 

 身に覚えの無い行為で七不思議認定されてはたまったものじゃない。

 

「本題に入るが、君の事は梨穂っちから聞いて知っていてな」

「梨穂っち?」

「桜井梨穂子の知り合いだろう?」

「調べはついてる」

「ああ、桜井のことか」

 

 どうやら桜井の知り合いだったようだ。顔が広いとは聞いていたが、ここまで癖のある先輩とも付き合いがあるとは知らなかった。

 

「そこでなんだが、梨穂子の知り合いである君に頼みがあるんだ」

「何すか?」

「それは……」

 

 謎に思わせ振りな数秒の無言が続いた後、二人の腕が震えだした。

 

「……とりあえず、これ運ぶの手伝ってくれ」

「腕が限界……」

「話す間は置いとけば良かっただろ……」

 

 

 結局、俺も段ボールを運ぶのを手伝うことになった。昨日運んだパソコンほど重くは無かったが、目的地である茶道部の部室がやや遠くて苦戦した。段ボールの中身は、こたつのテーブルの骨組みだった。運び終えたところで抜けだろうとしたのだが、何やかんやで完成まで手伝ってしまったのだった。

 

「いやー助かったよ、セッティングまで手伝ってくれて!」

「……あんたらが出口を塞いできたんだけどな」

「細かい男はモテない」

「別にモテなくていいんすけど……」

 

 どうもこの先輩達はマイペースすぎて調子が狂ってしまう。肩を落とす俺に構わず夕月先輩は更に話を続ける。

 

「我が茶道部は部員が少なくてね、我々と梨穂子の三人しかいないんだよ」

「え? あいつ茶道部だったんすか?」

「……待て、お前本当に梨穂子の知り合いなんだよな?」

「想定外」

 

 桜井が茶道部に入っているとは本当に初耳だった。桜井は自分の部活の話は全くしてこない。そう思った時、とある可能性が浮かんだ。もしかして部活嫌いの俺に気を使って敢えて言わなかったのだろうか。その時、俺の思考を遮るように部室の襖が開かれた。

 

「せんぱーい、こたつ運ぶの手伝いま……ってあれ? どうして岡崎君がここに?」

「おう、来たか梨穂子」

 

 ここに茶道部三人、と部外者の俺が集ったのである。

 

 

「……そっかー、こたつを運ぶのを手伝ってくれたんだね」

「ああ、前にパソコン部の足になったという話を聞いてあてにさせてもらった」

「まんまと成功」

「本人の前でまんまととか言っちゃうのかよ……」

 

 俺たち四人は残りの昼休み時間をこたつを囲んで過ごした。寒い中庭でずっと過ごすのに比べたら非常に快適だ。それにしてもこの先輩二人は会ったときから全く俺への配慮が感じられないのは気のせいだろうか。段ボールを運んだ腕の疲れを感じつつ、こたつで手足を暖めながら軽くため息をつく。

 

 するとふと横から覗き込んできた桜井がポソッと言う。

 

「岡崎君、やっぱり優しいね」

「……そうでもない」

「そんなことないよー」

 

 突然の直球な誉め言葉に少し照れてしまう。なんだか急に暖める必要が無くなった気がしてこたつを出た。それと同時に昼休み終わりのチャイムが部室に鳴り響く。

 

「よし、こたつタイム終了だ」

「続きは放課後」

「はーい」

 

 桜井が合流してからの短い時間は、特別何をするでもなくゆったりとしたひとときだった。ただこたつに入って話しを聞いているだけだった俺としてはいい時間潰しになった。

 

 俺の知っている部活は、もっと活気があって向上心の塊のような空間だった。全員が使命感のような物を抱えながら必死に体を動かしていた。そんな俺のイメージとこの場所は、全くと言って良いほどかけ離れていた。

 

(このままじゃ春原の部屋はお役御免になっちまうな)

 

 そんな事を考えてしまう位に、俺の心は穏やかになっていた。




岡崎サイコーーッッ!!を突然入れたくなりました。
この中で一番常識人って一体誰になるんでしょうかね・・・?
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