輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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他のヒロインとの話ほどシリアスにはならないかな・・・?
第4話です。


4

「岡崎君!起きてー!」

「んあ……、また布団が……」

 

 眩しさに目をくらませながら起き上がると、かなり焦った様子の桜井が俺の前に立っていた。

 

「お、起きれたんだな」

「うん! でもすっごくギリギリになっちゃったの!だからすぐ着替えてね!」

 

 早口で言い終わるなり脱兎の如く部屋から出ていった。時計を見ると、確かに急げば間に合いそうな時間を指している。せっかく起こしてもらったのに遅れてしまうのは悪いと思い、手短に身支度を終える。

 

「終わったぞ」

「よし、行こー!」

 

 二人で通学路を走っている最中、昨日ほど同じ学校の生徒は見かけない。つまり普通に歩いていたら間に合わないということである。ようやく学校が見えてきたところで、俺と桜井は息切れして走れなくなる。

 

「はぁ、はぁ……もう無理かも……」

「やべぇな……俺もだ……」

 

 茶道部と元運動部の二人にはどちらも体力が無かった。しかしここまでお膳立てしてもらってしまっているために、これで遅刻は後味が悪い。

 

「桜井、もう少しだ……頑張るぞ」

「えっ!? ……う、うん!」

 

 まるで俺にやる気が宿っているように見えたのか、桜井は少し驚いていた。ただ単に今の頑張りが無駄になるのが嫌なだけなのだが、説明する余裕は無い。校舎の大きな時計が見えたが、ここから正門まで向かうとなると間に合うかが怪しい時間だ。思うように体が動かない歯痒さと間に合わない悔しさに顔をしかめる。

 

「くそ……このままだと間に合わないかもしれないな」

「岡崎君! こっち!」

「え? ……あぁ、あれか!」

 

 桜井が指差したのは、正門とは逆方向。その理由は俺の記憶にもまだ新しい例の場所があるからだ。痛くなってきた脇腹を気にしながら桜井の後ろに着いていく。

 

「よっと……これなら間に合いそうだな」

「前に岡崎君が広げておいてくれたから、もう挟まる心配なし!よいしょっと……」

 

 桜井が提案したのは、以前彼女が挟まっていた学校の裏門にあるフェンスの穴だった。ここを通れば靴箱まで近いので間に合いそうだ。鞄を先に通して自分も腹這いになって潜り抜ける。穴に嵌まったりすることも無く俺、桜井の順番で通り抜けることができた。

 

「確かにこの穴があって良かったな」

「ふふん、でしょー?」

「何でお前が得意気なんだよ……」

 

 穴については桜井が胸を張って威張ることではない気がする。しかしこの抜け道を見つけていた事は功績と言えるだろうか。靴箱で靴を履き替えて教室に向かう間に、ここまで走った疲れがどっと押し寄せてきた。時間的に安全圏まで来たために走るのを止めて歩いているのだが、お互い会話する元気は無かった。

 

「はぁ……はぁ……そ、それじゃあまたね……」

「あ、あぁ……」

 

 お互いに疲弊した状態でそれぞれの教室に入る。学校での一日が始まる前に二人して満身創痍になってしまったが、遅刻は回避することができた。席についた瞬間、糸が切れたように席に突っ伏した。そのまま眠りにつこうとしたのだが、前の席から俺の頭をつついてくるやつに邪魔された。

 

「……怪しいわ」

 

 痛いわけじゃないが丁度眠るのを遮られる程度に延々とつつき続けられる。このままでは話しを聞いてやらないと眠れなさそうだったので、仕方なく体を起こす。

 

「何だよ……せっかく間に合ったんだから寝させてくれ」

「それよ、あんたが昨日から遅刻してないなんて怪しいわ」

 

 せっかくまともになったというのに悲しい事を言われてしまった。

 

「どういう心境の変化よ?」

「担任に目をつけられちまったから、流石にな」

「それはわかるんだけど……今まで起きられなかったのにどうやって起きてるのよ?」

「気合いで頑張って起きてるんだよ」

「ぐうたらなあんたが気合いって本当に似合わない言葉ね……」

 

 ()()()気合いで起きてくれているので嘘は言っていない。肝心なことも言っていないが、言うと俺の情けなさがバレてしまうから伏せておく。けれど今の疲労感を抱えたままだとボロが出てしまいそうだ。

 俺が重力に抗いきれずゆっくりと頭を下げ始めると、棚町はやれやれという顔をする。

 

「眠そうだし、聞くのは後にしてあげるわ」

「そうしてくれ……おやすみ」

「一応言っとくけど、これから授業……ってもう聞いてないか」

 

 棚町が何か言っているのを聞き終わる前に俺の意識は途絶えた。

 

 

 三時間目が終わった後の休み時間、前の席の棚町に起こされた。

 

「岡崎ー、次移動教室だからそろそろ起きなさいよー」

「あぁ……サンキュ」

 

 朝から登校はできるようになったものの、授業は全く起きていられなかった。次は教室の移動が必要のため、重い腰をあげなければいけない。観念して立ち上がろうかと足に力を入れたタイミングで春原がのっそりと俺の横に来た。

 

「おーかーざーきーくぅーーん……?」

 

 ボコッ!パシンッ!

 

「おごごぁっ!!」

 

 俺の右からそっと出てきた金髪にビックリして思わず殴ってしまった。俺が左頬に殴打を入れたのと同時に、俺の前で同様に驚いた棚町が右頬にビンタしていた。両頬をおさえて悶絶する春原を見て、流石に悪いことをしたと思い声をかける。

 

「悪い、つい手が出た」

「あがが……つい、でグーはおかしいだろ!」

「よし、パーだったから私の勝ちね」

「こんな暴力的なじゃんけんねーよ!」

 

 大声で訴える春原の頬には、じゃんけんの結果が赤くくっきりと残っていた。

 

「今のはチョキで目潰しが正解だったか……」

「これでお昼はあんたの奢りになっちゃうけど、もう一回やる?」

「よし、望むところ……」

「僕が出すから二人ともそのチョキしまってください!!!」

 

 まるで命乞いのようにも聞こえる叫びを聞いて、俺と棚町は黙って手を引いた。春原のこの判断は正しかった。このままお互いがチョキを出していたらあいこでひたすらもう一回繰り返すことになるからだ。かなりエグいゲームを降りてホッとする春原に対して、棚町はニヤついた笑いを浮かべていた。

 

「ラッキー!お昼代浮いちゃったわ!」

「俺が言うのも何だけど脅しといてラッキー、は流石にどうなんだ……?」

「……冗談のつもりだったんだけど、こいつが思ったよりビビりだったのよ」

「ま、ヘタレだしな」

「そうね」

「もうやだこのコンビ……」

 

 余談だが、三人で話しているとこういう展開になることが多いため、春原が奢る事になる確率が高いのである。教室から出て次の授業が行われる場所へ向かう。

 

「そういや春原、俺に何か話しでもあったのか?」

「え? ……なんだっけ? 岡崎わかる?」

「俺に聞かれてもわかるわけないだろ……」

 

 さっきのじゃんけんのやりとりで吹き飛んでしまっていた。うーん、と考えた後ハッと思い出しては俺に小物ヤンキーのようなしかめっ面をし始めた。

 

「そうだった……僕は岡崎を呪わなきゃいけないんだったよ……」

「何でだよ……つーか忘れてたんだったら呪うほどでもないってことじゃないのか?」

「いーや! それじゃあ僕の気が済まないね!」

 

 忘れていた数秒前のアホ面を撮っておけばよかったかもしれない。そして無駄に溜めてから春原は理由を話した。

 

「お前が最近女子をとっかえひっかえしてる、って噂があるんだよぉ……」

「アホか……お前の妄想だろ」

「あ、私も近い話聞いたかも」

「マジか、何でまたそんな……」

「僕の時と対応が違いすぎやしませんか!?」

 

 何かと思えば噂に踊らされていただけだった。ここまで振り回されてしまうのを見ると逆に少し哀れに思えてしまう。

 

「で、どうなの?」

「どうも何も心当たりがないぞ」

「ははっ、なーんだ……ま、僕は違うってわかってたけどね!」

「……さっきまで目が血走ってたじゃないの」

 

 僕の信用、と言っていたが俺への信用もちょっと足りないのではないだろうか。一瞬乾いた笑いを浮かべた春原だったが、今度は気分が悪そうな顔になった。

 

「……うぅ」

「どうした?」

「さっきまで女を次々と誑かすお前を想像しすぎて気分悪くなったから帰る……」

「お前は何しに学校へ来たんだよ……」

「……授業一個も聞いてないあんたにも聞きたいんだけど」

 

 こうして春原は学校への滞在時間十分という初の実績を解除した。ちなみに俺は授業中の起床時間が十分位になりそうだった。

 

 

 移動した先の教室で授業を聞き流す退屈な時間が過ぎていく。寝直しても良かったのだが、春原の言っていた噂の事が引っ掛かっていた。一体どうしてだろうと考えていると、ふと思い出す。そういえば最近は急に知り合いが増えている。ここ数日の間に桜井づてで新たに知り合った相手が計三人。パソコン部の伊藤、茶道部の夕月先輩と飛羽先輩。それに加えて桜井とは一緒に行動する機会が多くなった。

 

 もしかして噂の原因ってそれなのだろうか。俺の評判はどうでもいいが、桜井達に迷惑がかかるのは避けたい。早いうちに本人へ伝えておいたほうが良さそうだ。

 

 

 そう思って放課後に噂の事を伝えてみたのだが、桜井の反応はえらく薄かった。

 

「へー、そんな噂になってるんだー」

「へーって……、嫌じゃないのか?」

「うーん、私は別に気にならないかなー」

 

 俺の噂に巻き込まれているというのに、当の桜井はこの様子だった。

 

「それより、岡崎君は嫌じゃないの?」

「いや、俺も全然だ」

「なら大丈夫!」

 

 お互い気にしていないのならこれ以上話す必要も無さそうだ。特にやることも無いので茶道部に向かう桜井と途中まで一緒に歩く。

 

「ふんふーん」

「なんか機嫌良いな」

「うん! 今日はとーっても上手くいった日だったからね!」

「確かに頑張ったな」

「でしょー? えへへー」

 

 今日の桜井はまさに有言実行を実現できていた。おっとりしてちょっと抜けている印象ではあるが、意志は意外と強いらしい。

 

「一番不安だった朝がどうにか起きられて岡崎君と一緒に間に合ったし!」

「……それも噂の原因の一つだな」

「あ、確かにそうかも」

 

 一緒に遅刻ギリギリに登校したのも噂を広めた一端なのかもしれない。

 

「……あと、岡崎君といるお陰で体重も減ってるし……」

「なんだ?」

「へっ!? ううん! なんでもないよ! 順調順調!」

「そ、そうか……」

 

 小声であまり聞き取れなかったが、別に悪い話ではなさそうなので気にしないでおく。茶道部の部室が見えてきたところで、この後について桜井が尋ねてくる。

 

「ところで今日は部室来るの?」

「……俺は部員じゃないぞ?」

「部員じゃなくても、うちは歓迎だよー」

「それでいいのかよ茶道部……」

 

 一度部室に行ったときも感じたが、やはり俺の思う部活よりも断然緩い。俺のような部外者も普通にこたつに入れているのも、茶道部の雰囲気あってのことだろう。

 

「どうかな? 一緒に部室、来ない?」

 

 桜井はそう言ってくれるが、やはり俺は乗り気になれなかった。例え緩くても、やはり部活は部活だ。俺が踏み行ってもいい場所だと思いきる事ができない。

 

「放課後は一応茶道部の活動時間なんだろ? なら邪魔になるだろうし止めておくよ」

「そんなに気にしなくていいのにー……うん、わかった」

 

 遠慮する俺に少しだけ寂しそうな表情を見せる。その表情を見て俺は昔の事を思い出した。

 

『悪い。今は誰とも話したくない』

『わかった、ごめんね』

 

 中学で俺が塞ぎ込んでいた時、桜井は俺に話しかけてくれていた。しかし、桜井の善意に俺は応える余裕が無かった。そんな時に見せた桜井の寂しさを我慢している表情と重なって見えた。

 

「……昼休みの暇な時間ぐらいだったら、行ってもいいか?」

「! うん、先輩たちにもそう伝えておくね!」

「ああ」

 

 茶道部の方にはあまり関わらないようにしておこうと思ったのだが、出来なかった。これまで散々心配させてしまったのだから少しでも寂しさを紛らわせたら……と思った。

 

「それじゃあ、また明日ねー!」

「ああ、よろしくな」

 

 桜井は茶道部の部室に向かい、俺は学校を出る。しばらく歩いてから自分の言ったことを思い返す。俺はもう、心の中では彼女に頼りきってしまっているようだ。本当の意味で頑張れるようになるのはまだ先の話だった。




春原のいじり度合いはやり過ぎないように気を付けています。

かぎなどの1話を見たときに「ここまでいじりひどかったっけ?」ってなってしまい
続きを見れてないという・・・(椋の扱いがひどくて辛いのも大きいですが)
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