輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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報告で出した時刻にはギリ間に合わせました!
第7話です


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「というわけで! 梨穂子が部長になるための特訓の会を始めます!」

「おー!」

 

 とある空き教室に二人の声が響き渡った。教壇に桜井が立ち、それに向き合う形で置かれた椅子に、伊藤と俺が座っている。意気込んでいる二人の様子を、俺は頬杖をつきながら見ていた。

 

「……俺要るのか?」

 

 思っていたことがつい声に出てしまう。正直伊藤がいれば俺が力になれることは無さそうな気がする。なんて考えているうちに、桜井が俺へフォローを始めた。

 

「要るよ! ほら、三人寄れば……えーっとあれ! あのことわざ!」

「ああ……なんかあったな、そんなの」

「何だっけ?」

「わからん」

「文殊の知恵だよー」

 

 三人寄ったがそのうち二人が戦力外レベルだった。

 

「いろんな視点があったら、より梨穂子の経験になると思うよ?」

「そ、そういうことだよ!」

「まあ、二人がいいならそれでいいけどさ」

 

 特別なことを求められているわけではなさそうだ。それならば、参加することは吝かではない。桜井はやる気十分なようで、すぐに練習を開始した。

 

「それじゃあまずは自己紹介をお願いします!」

「はい! 桜井梨穂子です! 部長です!」

 

 ビシッと気を付けをしながら宣言をしたのだが、かなり表情が強張っている。

 

「あはは、ちょっと力入りすぎかも」

「相手は後輩なんだし、もうちょっと力抜いてもいいんじゃないか?」

「同じ部活の仲間になるんだから、私たちと話す時ぐらいな感じでいこう!」

「そっ、そうだね! もっとリラックスして……」

 

 リラックスするのを待っていたが眉間のシワがいっこうに収まらない。落ち着いた物腰を思い浮かべると、先日あった人の事を思い出した。

 

「ほら、前に会った早苗さんの様子を思い出してみろよ」

「早苗さん……あぁ、梨穂子が言ってたパン屋の人ね! いいじゃん!」

「確かに! よーし……こほん……」

 

 軽く咳払いと深呼吸をした後、頬に手をあててにっこりし始める。自然な笑顔とは程遠い引きつった笑みから、ぎこちない声が出た。

 

「こ、こんな感じでしょうかぁ~……?」

 

「無いな」

「無いね」

「ちょっと!ひどいよー!」

 

 違和感がスゴすぎて即不採用となった。同じおっとりでも、人が違うだけでこうも変わるんだな、という気づきが得られた。自己紹介は普通にしようという事にして次の話題に移った。

 

「じゃあ……茶道部ってどんなことするんだ?」

「茶道部はねー、こたつでのんびりするところだよー」

「いや説明足りないよ梨穂子! それじゃただのサボり部だから!」

 

 それだけだと確実に部活を名乗ることができないだろう。けれど学校に一つくらいはああいう緩い部活があってもいいのではないかとも思う。

 

「って岡崎君も頷いちゃってるし!」

「こたつで喋ってるところしか見たことないからな、てっきりそうなのかと……」

「ちゃ、ちゃんと作法の練習もしてるからね!」

 

 体の前で両腕を上下にブンブンしながら釈明してくるが、正直俺は信じきれなかった。

 

 

 それからいくつか質疑応答を繰り返してみたが、思いの外大丈夫そうだという結果になった。他の茶道部の活動についてはきちんと説明ができていたからである。俺が知らない本来の活動はかなり前向きに取り組んでいるようだった。そして話題は、宣伝活動はどうするかという内容に変わった。次の新入部員が入らなければ、部活そのものが続けられなくなってしまうため真剣に考える。

 

「これまで勧誘的なことってやってたのか?」

「うーん、創設祭の出し物以外は特に何もしてなかったかも」

 

 文化部だと宣伝に力を入れているという話しはあまり聞かない。

 

「じゃあ、呼び込みとかやるのかな?」

「梨穂子が?」

「やるのか?」

「……恥ずかしいからいいかな」

 

 何か進んだわけでも無いのだが、この会の中で今の会話が一番無駄だったと思う。

 

「他の部活は掲示板にポスターが貼ってあったりするな」

「ポスター! 確か去年は先輩が描こうとしてたらしいんだけど……」

「貼ってないの?」

「……前衛的すぎて貼るのを止められちゃったんだって」

「どんなもん描いたらそうなるんだよ……」

 

 あの先輩達の絵のセンスはちょっと想像がつかない。

 

「じゃあ描いてみようよ! 印刷とかは私がやるから!」

「うん! ……これって私の好きに描いちゃっていいのかな?」

「桜井が部長なんだし、いいんじゃないか?」

「そうだよね! じゃあ好きに描いちゃうね!」

 

 美術室から色鉛筆を借りて、しばらく桜井に描くのを任せてみた。

 

「出来た! 二人とも、これでどうかな?」

「……なんだこりゃ?」

 

 もちっとした丸に縦棒の目が二つ書き込まれた生き物。これがぎっしりと敷き詰めて書かれていた。借りた色鉛筆を全種類使っていそうなカラフルさに、見ていると目がチカチカしてくる。そもそもこれはどういうキャラクターなのだろうか。

 

「あー、これ昔流行ってたかも……。確か、だんご大家族だったっけ?」

「そう! かわいいでしょー?」

 

 そういえば以前に少しこのキャラクターが流行っていたような気がする。キャラクター自体は可愛いのだが、ぎっしりと描きすぎていて何かわかりづらい。集まりすぎて一部の人が怖がりそうな絵になってしまっていた。

 

「ちょーっと詰め込みすぎかもねー」

「これじゃ何部の紹介かわからないんじゃないか?」

「そっかー、ちょっと多すぎたかー」

 

 肝心な茶道部の紹介文を入れるスペースが無くなっていたので、その分空けないといけない。

 

「全部消さなくてもいいから、少し減らすぐらいでいいと思うよ!」

「ああ、間引きしよう」

「それは農作物に言うやつだけどね……」

 

 まともにツッコミを入れてくれる伊藤がいなかったら、この会はグダグダで終わっていた気がする。残念そうにしながらだんごの数を減らす桜井に、何故描いたのかを聞いてみる。

 

「このキャラ、茶道部と何か関係あるのか?」

「え? お団子ってお茶と合わせて食べたら美味しそうだなーって……」

「食うつもりだったのかよ……」

 

 だんご大家族というよりも団子として扱われていた。そして試行錯誤の末、何とかポスターが形になった。

 

「できたー!!」

「それじゃあ印刷して掲示板に出来たポスターを貼りに行こっか!」

 

 十枚印刷して、どこに貼るかを相談する。

 

「確か掲示板って何ヵ所かあるよな」

「そうなんだ……とりあえず全部に貼っちゃいたいな!」

「それなら手分けした方が良さそうだね!」

「そうだな、じゃあ各自貼り終わったらまたここに集合だ」

「「はーい!」」

 

 各自で校舎を回って、見かけた掲示板にポスターを貼っていく事になった。一人になって廊下を少し歩くと、他の部活のポスターが目立つ掲示板を見つけた。右肩の事があるので自分の肩と同じぐらいの高さにあるスペースに、ポスターを一枚貼り付ける。貼り終わった時に後ろから聞き慣れない声がした。

 

「あら、可愛いポスターね!」

「ん?」

 

 背後からした声の方に振り替えると、見慣れない人物が二名立っていた。

 

「あ、ごめんなさい? 驚かせちゃったかしら……私、森島はるか!」

「全く、いつも急に動くんだから……私は塚原響、突然ごめんなさいね」

「はぁ……」

 

 三年生の二人が、俺が貼ったポスターに興味を持ったようだ。うーん、と考える素振りをする森島先輩は、ポスターのキャラクターを凝視していた。

 

「その可愛いキャラクター、なんだったかしら? 見たことはあるんだけど……」

「ああ……確か前に流行ってたわね」

「うーん……あ、タピオカ一族みたいな名前だったかしら?」

 

 可愛さがあるようなないような集団になってしまっていた。少し呆れ笑いを浮かべながら、塚原先輩がツッコミを入れる。

 

「それじゃ可愛く無くなってるわ。だんご大家族よ」

「ナイス響ちゃん! ……それで、これって君が描いたの?」

「いや、描いたのは茶道部の次の部長っす」

「そっか! でも、もし君がこの可愛いのを描いてたとしたら……」

 

 俺の容姿をじっと見つめた後、少し考え込んだ後に納得したような表情を浮かべる。

 

「グッド! カッコいい系の子が可愛い物好きっていいギャップだと思う!」

「またそういう男の子を誤解させるようなこと言って……」

「はぁ……」

 

 そういえば三年の女子に男子からの告白を断りまくっている人がいる、と聞いたことがあった。多分、この人がそうなのだろうなと何となく思った。

 

「新入部員募集……部員は部長さんと貴方の二人?」

「いや、俺は入ってないんで……三年が二人と二年が一人っす」

「つまり、頑張って勧誘しないと部活が無くなっちゃうって訳ね」

 

 塚原先輩は初対面にも関わらず親身になってくれるいい人だった。

 

「大変! それなら私が入ったら……」

「いや、あんた三年だから意味無いだろ」

「君! 先輩にその口の聞き方は失礼でしょ!」

 

 こっちは初対面にも関わらずタメ口でツッコミを入れたくなる人だった。凸凹な二人だな……と考えていると、森島先輩がふと気づいた事を口にした。

 

「そういえば、なんで君は部員じゃないのに手伝ってるの?」

「え?」

 

 確かに俺がここまで手伝っている事に今まで疑問を持っていなかった。端から見ればおかしな存在だ。今の部長に頼まれたから、という理由はあるためそう伝えようと思ったのだが、それよりも先に森島先輩が暴走し始めた。

 

「わかった! 茶道部には君がとーっても気になる娘がいるんでしょ!」

「はぁ?」

「好きな娘のために頑張ってるなんて、君可愛いところあるじゃない!」

「そういうわけじゃ……」

 

 言い返そうとして、止める。自分でもどうしてこの先が言えなかったのか、分からなかった。

 

「ほらはるか、そろそろ行くわよ」

「えー? 良いところだったのにー……」

「はるかがごめんなさいね、それじゃあ」

「それじゃあまたね!」

「はぁ」

 

 塚原先輩が森島先輩の腕を掴んで歩いていった。俺はその様子に生返事を返すことしかできなかった。ほんの数分の会話だったのに、色々なことを考えさせられてしまった。俺は桜井に対して、そういう気持ちがあったのだろうか。

 

 これまであいつの優しさに甘えてきた分を返しているだけだ、と考えていた。けれど俺の中には、それ以外にも手伝いをする原動力があったのかもしれない。今はまだその答えがわかりそうにない。そんな浮わついてしまいそうな気持ちと、対極的な暗い気持ちがもう一つ。

 

「誤解させる、か」

 

 塚原先輩が言った、俺を見たことで感じた茶道部に対する誤解。俺のような不良が茶道部にいるという誤解が、もしも新入生達に広まってしまったら。当日は茶道部に興味を持った新入生が見に来ることだろう。そこで不良である俺なんかがい部室に居座っているのを見たら、きっと誤解されてしまう。俺が、ではなく桜井が頑張ろうとしている茶道部が、だ。

 

 それだけは、避けないといけない。あいつの頑張りは近くで見てきたからよく知ってる。そして俺も、あいつに報われて欲しいと思っている。なら俺のするべき事は、決まっている。暗い決心を胸に、残りのポスターを貼り終えるのだった。




演劇部を設立するための渚と岡崎の奮闘が元ネタです。
教室の教壇と椅子を使っているのは風子よりになっていますね。

残り2話の展開に向けて岡崎ネガティブモード突入です。
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