輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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数分遅れましたが、投稿します!
桜井編最終話です!


9

 創設祭当日、校内は輝日東高校の生徒や校外から来た人達で賑わっていた。いつもは真面目な奴だらけに見えていた生徒たちだが、今日だけは羽目を外しているようだ。

 

 そんな中、茶道部も普段とは装いを変えていた。小さめの柳の木に赤い番傘と赤い椅子が茶道のスペースに揃っている。椅子には緑色が主だった和服を着ている桜井が座っていて、かなり様になっていた。その点、桜井の横に座っている俺は普通に制服だ。誰から見ても浮いた存在になっているだろう。

 

 しかし離れようにも俺の袖を桜井がしっかり掴んでいるために離れることができない。いつもなら自分の意見の主張が控えめな桜井だが、今日は俺を茶道部にいさせるという決意が感じられた。和服に合わせて整えられた髪型やメイクも相まって、俺は抵抗できずにいた。

 

「……来ないな」

「そうだねー……こっちを見てる人は何人かいるんだけどなー」

 

 茶道部の出し物は、見に来てくれた人に茶道でのおもてなしをするというものだ。つまり誰かが見に来るまではこちらもあまり動くことができない。そして肝心の見物客は、遠巻きで見てくることはあっても近くまで来る人はいなかった。まだ午前中とはいえ一人も来ないという事は、やはり近づき難い原因があるはずだ。

 

 俺を見て離れる奴がもう何人もいた。こうなると予想はついていたが、実際に自分が避けられているとわかるとキツい。しかもそれが自分でなく茶道部への来客に影響を与えてしまっている。ふと桜井の横顔を見る。桜井には、今まで何度も気を使わせてきた。これ以上は、迷惑をかけすぎてしまう。

 

「……やっぱり俺は、ここにいない方がいいだろ」

「ま、待って!」

 

 袖を掴む手は離そうとしない。ここは流石に振りほどこうと思ったが、俺が行動に写す前に桜井の呟きが聞こえた。

 

「……そろそろ、来てくれるはずだから」

「来る? 誰が……」

 

 聞こうとした時、おーいという声が聞こえた方向を見るとこちらに駆け寄ってくる伊藤がいた。来てくれる、というのは伊藤のことだったのだろうか?

 

「あ、岡崎くんもいるね!」

「香苗ちゃん!来てくれた!」

「いやーパソコン部は今年も閑古鳥が鳴いてるよー……茶道部はどう?」

「うちもねー、まだ一人も来てないんだよー」

「そっかー……」

 

 伊藤は辺りを見回して、状況を理解したのか軽く頷く。そして俺に向き直り、先程よりも少し大声気味に話を始めた。

 

「そういえば、こないだは手伝ってくれて助かったよー!」

「こないだ?」

 

 突然話を振られて返答に困ってしまう。何のことかわからずにいると、伊藤は何故か説明口調で周囲に聞こえそうな音量で語る。

 

「ほら、私がパソコンを運んでたのを手伝ってくれたこと!」

「あぁ、あのぐらいは全然……お礼ならもう済んだだろ?」

「やっぱりパソコンって女子には重いからさー、やっぱ男手は頼りになるよ!」

「いや、前は慣れてるからへっちゃらって……」

 

 不自然さに違和感を抱いて訂正しようとするが、突然近づいてきて小声で俺を制止してきた。

 

「しーっ! 今は大人しくお礼言われといて!」

「は? それってどういう……」

 

 伊藤の意図がわからずに狼狽えてしまう。混乱しているとまた別の方向から声が聞こえてきた。

 

「やー二人とも、頑張ってるかー?」

「あっ、先輩!」

 

 今度は夕月先輩と飛羽先輩だ。二人は桜井の様に和装している訳ではなく制服で様子を見に来たようだった。

 

「今回の出し物は桜井と岡崎に任せているから安心して見物してられるよ」

「高みの見物」

「あんたらそれでいいのかよ……」

 

 今年の出し物は桜井に一任しているとはいえ、完全に気を抜いている様子にツッコまざるを得なかった。夕月先輩が俺の肩に手を置き、軽くニヤつきながら少し声を張りながら俺に言う。

 

「お前も立派に雑用係をこなしてくれているようで何よりだ」

「何でそんな雑用係を強調するんすか……」

 

 いつもよりも俺に対する態度が砕けているように思う。先程の伊藤もだったが、三人はどうも俺の立場を周囲に説明しているかのように見える。

 

「いいんだよこれで、梨穂子に頼っておきな」

「桜井が?」

「いいからお前は感謝されとけばいいんだよ!」

「詮索は野暮」

「はぁ……」

 

 言っていることは嘘という訳ではないので止めることでもない。しかし何だか変に祭り上げられてる感じがむず痒い。体よく追い出されようとしているのか?なんてネガティブな想像をしてしまった。しかし俺の想像を否定するように、周囲から生徒たちの話し声がちらほらと聞こえてきた。

 

「ねぇ、岡崎くんってあんなに普通に接して大丈夫な人だったの?」

「不良って聞いてたけど、なんか平気そう……?」

「茶道部の雑用をしてくれてたんだ、ちょっと覗いてみようかな?」

「あいつ僕の知らないところであんなモテモテになってるなんて……チクショー!!!!」

 

 最後の悔し涙を流しながら走り去っていった金髪は見なかったことにする。先程まで遠巻きにこちらの様子を見ていた人たちからの警戒が解かれていくのがわかった。こうなることを知っていた、もといこうなるようにしたであろう彼女を見る。彼女は小さくだけど確かにこう呟いた。

 

「……うん、上手くいきそう!」

 

 やはりこれまでの芝居じみた周囲の行動について、今の彼女の言葉で理解した。全部、俺が茶道部にいても大丈夫なように桜井が計画したことだったのだ。

 

「あのー、見学したいんですが……」

「わ、私もいいですか?」

「あっ、はーい!こちらにどうそー!」

 

 見学に来た中学生くらいの女子二人が見学にきた。桜井は受け答えして、部室へ案内するために二人を連れて離れていった。その様子をボーッと見ていた俺は、隣の夕月先輩から肩を小突かれてハッとした。

 

「上手くいったみたいだな」

「作戦成功」

「やっぱり、作戦だったんすね」

「そういうこと!梨穂子が私たちに提案したんだよ!」

「そうだったのか……」

 

 桜井が俺のためにそこまでしてくれていた、それが純粋に嬉しくなった。俺をもう、独りにしないため。ここにいてもいいと言われているようで、心から安堵した。

 

 

 結果として、出し物は盛況だった。俺が懸念していた不安は桜井の作戦によって解決されていた。創設祭で盛り上がっていた校内も徐々に明かりが消えていく。桜井はこの後友人達と打ち上げをする予定らしい。そこに俺が行くのは流石に無粋だと思い、大人しく帰ることにした。

 

「桜井」

「あ、岡崎くん!私たち打ち上げに行くんだけど、よかったら……」

「いや、俺は遠慮しておくよ」

「そっか、残念」

 

 何度も見た桜井の少し残念そうな顔。そんな顔をさせないとはいかないけれど、もう投げ出すようなような事はしない。

 

「……今日は、ありがとな」

「うん!どういたしまして!」

 

 少しでも減らしてやりたい、と思ったのだった。

 

 

 創設祭という大きなイベントが終わり、翌朝になった。俺は昨晩、すぐに寝ついたためにかなり早起きをしていた。時間を少し持て余した後、思い付いたことがあった。

 

 俺は桜井の部屋に来ていた。何度も桜井に起こしてもらっていた恩返しというほどでも無いが、今日は俺が起こそうと考えた。桜井は昨日友達との打ち上げがあったため、きっとまだ起きていないだろう。意趣返し、というやつで合ってるだろうか。

 

 単なる思い付きを実行した結果、女子の部屋に上がってしまった。少し緊張しながら、桜井の寝顔を見る。どこか満足そうな表情に俺の気も落ち着いてきた。しかし、そろそろ起きてもらわないと遅刻してしまうかもしれない。そっと肩を揺すって起こすことにした。

 

「桜井、朝だぞ」

「んぅー……?」

 

 まだ寝ぼけているようで、起き上がってもまだふにゃふにゃしている。体が左右にふらついていて目もまだ半開きだ。

 

「あれー? 岡崎くんが私の部屋に? まだ夢なのかなー……」

「……ああ、まだ夢だ」

 

 頭が回っていない様子が面白くて、つい夢だということにしてしまった。しかしそんな悪ノリをした結果、桜井は遠慮なくとんでもない事を言い出すのであった。

 

「そっかー……えへへ、夢でも会えるなんて嬉しいなー……それじゃあ遠慮なく」

「っ! さ、桜井待て、冗談……」

 

「大好きだよ、岡崎君。中学の頃からずっと」

 

 止める間もなく、桜井は今まで秘めていたのであろう言葉を俺にぶつけてしまった。時間が止まったような錯覚に陥った。衝撃が強すぎて聞いた言葉を飲み込みきれず、何も言葉が出てこない。困惑で固まってしまっている俺に、今だ夢だと思っている桜井は容赦なく続けてくる。

 

「中学でバスケ部だった頃から、ずっと見てたんだ」

 

 俺が桜井の事を知る前から。

 

「辞めちゃってからどんどん暗くなっていっちゃうのが見ていられなくて」

 

 やっぱり、俺が部活で挫折したことも知っていた。

 

「なんとかしてあげたいって、でも私じゃ何もできなくて」

 

 どうしてそんな俺を助けようとしてくれていたのか、ようやく理由を聞けた。

 

「だからね、昨日は役に立てて嬉しかったんだよ」

 

 そう言いながら浮かべる笑顔は、嘘偽り無い本心だと伝わってくる。

 

「だから……私を彼女にしてほしいな」

 

 桜井は、俺の悪いところも知った上で好きだと言ってくれた。心が舞い上がる反面、朝日よりも顔が熱く火照ってしまうような恥ずかしさに包まれた。桜井はここまで言い切った後、意識がさっきよりも覚醒してきたのか体の揺れが収まった。

 

「って、あれぇー? いつもならそろそろ目が覚める頃なのに……」

「すまん桜井……夢じゃ、ないんだ」

「…………ふぇ?」

 

 しばらく固まった後、状況を理解していけば行くほど体が強張っていく。そして完全に目が覚めたタイミングで思いきり顔を赤くして叫んだ。

 

「え、え……えぇーーーーーーー!?」

 

 部屋の外まで響いていそうな大声に、俺の鼓膜が破れそうになった。

 

「ということは……私の気持ち、本人に全部聞かれ……うわぁーー!!」

 

 叫んだ後、掛け布団にくるまってしまった。うぅ~~、と唸り続ける布団の膨らみを見ながら自分の心を整理する。といっても、答えはもう決まっている。

 

「なあ、桜井」

「……ふぁい」

「こんな状況で悪いんだけどさ、返事をさせてくれないか?」

「は、はい!」

 

 彼女の寝室で、かたや寝巻きで髪もボサボサな彼女と普通に制服を着ている自分。ムードも色気もあったものじゃない。けれども、俺たちはお互いの良いところも悪いところも知っている。変に飾るよりも、素をさらけ出していた今の方が合っているのかもしれない。

 

「……まず、ありがとな。色々とさ」

「う、うん」

「中学の時、俺にはもうなにも無くなったと思ってたんだ。けどそんな俺を……ずっと見てくれていたんだよな」

 

 俺がどんな奴か知った上で見てくれた彼女の大きさを知った。

 

「本当に嬉しかったんだ。気づくのがこんなに遅れちまったけどさ」

 

 本当に、待たせてしまったと思う。彼女の気持ちに、応える。

 

「だから……俺と、一緒にいて欲しい。……もっと近くで」

「……っ!」

 

 今にも泣き出しそうな顔を見せたのも一瞬、また布団を被ってしまった。小さく震えながら発された籠った声を、俺はしっかりと聞き取ることができた。

 

「うん……うん……!嬉しい……!」

「これからもよろしくな、梨穂子」

「うん!……ずっとこう呼びたかったんだ!朋也くん!」

 

 この後、遅刻ギリギリになっていることに気づき、また二人で走りだした。前にも似たように走ったことを思い出して、一緒に笑いながら。運動不足の体が悲鳴をあげていても、しっかりと握りあった手は離したくない。もう独りにならなくてもいいんだという彼女の優しさが伝わってくる気がするから。




ということでヒロイン6人分が終わりました!
改めて皆いいキャラしてたなあと改めて感じています。

・・・でもアマガミのヒロインってもう一人いるんですよね。
1話だけの短い作品になりそうですが、よければお付き合いください。
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