アニメも1話だけだったしそんなに多く描けんだろ……って思っていたのに
楽しくなって気づいたら8000文字に……。
1
「岡崎くん!私と付き合ってください!」
それは、恋愛話は興味ないと割り切った翌日のことだった。遅刻して来た俺の靴箱に、赤いハートのシールで封をしている手紙が入っていたのである。
待ち合わせの場所は使用されていない準備室、時間は放課後になってから一時間後。誰かに見られないようにするためなのだろうが、ちょっと気にしすぎな気もする。まあいいか、と手紙を鞄にしまい適当に授業を寝て過ごした。
そして待ち合わせの場所に行き、会って直ぐに告白をされたのである。俺に手紙を渡してくれた同じ学年の彼女の名前は、上崎裡沙。彼女の熱を帯びた目は間違いなく俺に向けられていた。
「上崎、だったよな? 悪い、俺お前のこと全然知らないんだが……」
「……やっぱり、覚えてないよね」
話した覚えも無ければ、名前すらも初めて聞いたところだ。戸惑う俺だったが、上崎はお構い無しと言わんばかりにグイグイと俺に迫ってくる。気づけば鼻の先がくっついてしまいそうな距離にまで近づいていた。
「でも! 私の気持ちは本当なんです! だから……」
「わ、わかったから落ち着いてくれ!」
一度上崎の肩を掴んで少し距離を戻す。それでも上崎の目線は俺から全く外れる様子がない。
正直な気持ちを言えば、ここまで一直線に好きだと言われて悪い気持ちはしていない。けれど、勢いのままにただ受け入れるというのはなんだか良くない気がする。一度深呼吸を挟んで心を落ち着けてから、俺は返事の言葉を紡ぐ。
「さっきも言ったけど、俺はまだお前のことを全然知らないんだ」
「……はい」
「まだ整理ついてないけどさ、好きだって言ってくれたのは嬉しいと思った。だから……」
「っ!」
肩をビクッと震わせて固く目を瞑る。スカートを掴む両手の力が強くなっていく。
「だから、今から……彼氏彼女としてお互いの事を知っていくってのもありかなって思う」
「……へっ?」
俺の返事を聞いた上崎は呆気に取られたような顔をしたまま固まってしまった。思えば途中までの俺の言い方がややこしかったかもしれない。その、と小さく声を漏らした後、俺に聞き直してくる。
「つまり……良いってことですか?」
「ああ、俺なんかでよければだけど」
「いえっ! あなたが良いんですっ!」
「そ、そうか」
さっき空けた距離をまたあっという間に詰められてしまった。終始勢いに押されたまま、俺は上崎の告白に答えた。
「それじゃあ、これからよろしくな」
「はい! ふつつか者ですがよろしくお願いします! ……ぐすっ」
「ど、どうした?」
「ごめんなさい、嬉しくて……!」
その後、彼女が泣き止むまでを二人きりの準備室で過ごした。
こうして俺は上崎と付き合うことになった。けれど怒濤の展開に気持ちが追い付かず、その日はずっと実感がわかないままでいた。
その翌日、早速付き合うことになった上崎と一緒に登校、していなかった。加えて校内で会う時間もかなり限られることになっていた。その理由は上崎と付き合うことになった時、とあるお願いをされたからだった。
「校内で一緒にいるのを誰かに見られたくない?」
「そうなの」
なんとも変わったお願いだった。告白の時の勢いとはうって変わって、やや距離を開けて軽く俯きながら言ってきたのだ。
「理由を聞いてもいいか?」
「その……まだちょっと照れ臭くて、からかわれたりしないか心配で」
「そんなに気にする程なのか?」
「……うん」
やや腑に落ちないような気もしたが、別に無理をさせる必要もないだろう。俺も彼女との付き合い方がまだ掴めていないため、ひとまず了承しておいた。
昼休み、屋上でパンを食べながら彼女の事について思いに耽る。人気の無い場所に呼び出されて、行ったら女子に告白された。男子高校生としては相当舞い上がってしまうような出来事だろう。あれは夢だったと誰かに言われても信じてしまう気がする。
会ってほんの数分で彼女になったというのは事実なのだが、頭が理解しきれていない感じだ。告白の後はすぐに出ていってしまったために本当に数分しか会話をしていない。勢いに押されてOKしたが、本当に良かったのだろうかと今になって不安が募る。
そんな迷いに悩まされていると、いつからか横にいた春原が俺に訝しげな目を向けてきた。気持ち悪いな、と思っていると俺に顔を寄せて来て尋問のように尋ねてきた。
「岡崎」
「気持ち悪りぃ」
「……」
思っていた事が口に出てしまった。ツッコミが来るかと思ったが、俺の意に返さず質問を続ける。
「お前を許せなくなる噂を聞いちゃってさ……」
「また噂かよ……どんなやつだ?」
「何かお前、付き合っている彼女がいるらしいじゃん……?」
「は? もうそんな噂が立ってるのか?」
上崎と付き合うことになったのは、つい昨日の事だ。まだ丸一日も立たない間にもう広まってしまったのだろうか。そもそも俺が上崎と行動している姿を見た奴は誰もいないはず。約束の事もありお互い誰かに言いふらすような事もしていない。もう少し聞いてみないとわからないと思い、春原の次の言葉を待つ。
「お前が高校に入った時から既にいたって聞いたんだけど」
「ん? いや、付き合い始めたのは昨日だぞ?」
「へ? どゆこと?」
ここで噂と事実の食い違いが見つかった。噂では俺は入学した頃から彼女がいることになっているが、そんなことはない。春原に軽く状況を説明すると、何やら興味ありげという笑みを浮かべ始めた。
「ふーん、じゃあ誰かが嘘の噂を流してたってことになるねー」
「何のためにそんなややこしいことを……」
「誰かがお前の評判を下げようとしてるとか?」
「んなことしなくても評判は悪いんだけどな」
「まあねー、僕ら町内一のワルらしいし」
「……まともに聞くだけアホらしいな」
この学校内で暴れた事も無ければ色恋沙汰なんてのも全く無い。そんな根も葉も無い噂が飛び交う中で、俺の彼女の件だけすぐに伝わっているのは妙だ。
「まあ岡崎、それはそれとしてさ……」
「なんだ?」
爽やかな表情を浮かべたと思ったら一変、血涙を流しそうな険しい顔になった。もう誤解は解けたはずだが、他に何か気になることがあったのだろうか。春原の持っていた食いかけの焼きそばパンが握りつぶされてしまった。あーあ、と思ったのも束の間、春原は心の叫びを屋上に響き渡らせた。
「昨日彼女出来たってどういうことだぁぁぁーーー!?」
「あ」
屋上から校舎全体に響き渡っていたかのような叫びだった。バレてしまったのは俺の不注意だったため、観念して春原に簡単に昨日起きたことを話した。
「事情は大体わかったけど……なんかその娘、ちょっと怪しいかもね」
「怪しいってお前、上崎と会ったことも、話したことも無いだろ」
「うん。というか、どういう娘なのか全然浮かばないや」
あっけらかんと答える春原の様子にガックリと肩を落とす。落胆した俺を見てまぁまぁ、と春原は持論を続ける。
「不自然というか……普通彼氏とか彼女とか出来たなら見せびらかすだろ?」
「それはお前だけじゃないか?」
「いーや! 出来た奴は全員メガフォンで叫びたくなるに決まってるよ!」
「迷惑すぎるだろ……」
俺がそう思っていない時点で全員では無くなっている。仮にカップル成立した奴が全員叫んでいる学校があったら嫌すぎて転校したくなりそうだ。
「つーか一緒にいるのを誰かに見られたくないって、何か気にしすぎじゃない?」
「まぁ、それは確かに……」
「もしかしてその娘が噂を流してる本人で、お前をハメようとしてるとか」
「アホくせぇ、漫画の見すぎだろ」
そんな陰謀の渦巻いた学校があったら、通うのが面倒くさすぎる。
「そう言って油断するなよ?キレイなバラには毒があるって言うじゃない」
「……薔薇って字一生書けそうにない奴に言われてもな」
「バカにすんなよ!?たった六画しか無いんだから楽勝だっつの!」
片仮名じゃなくて漢字の話だったのだが伝わらなかったようだ。きっとこいつは毒に気づく事無くやられてしまうタイプだろう。
「ま、その娘のことはもう少し知っておいた方が良いんじゃない?」
「……これから知っていくつもりだよ」
結局その時点では何もわからず、噂の件は保留にした。
それから上崎と放課後に二人で会う時間を作る日々が続いた。大抵放課後に同じ準備室で合流して、少し話をする程度だ。
「今日購買のパンが売り切れてたから、お腹空いてるでしょ? よかったらこれ食べて!」
「マジか、助かる……待て、なんで知ってんだ?」
「さっき移動教室の時にこっそり抜け出してたけど、先生にバレてなかったね!」
「……俺、お前と違うクラスだよな?」
「今日もこの後は春原くんの家に行くの?」
「当たり前のように俺の放課後の行動を先読みするなよ……」
何故か悉く俺の行動が筒抜けな事は気になるが、別に嫌な気分にはならなかった。これまで学校はただ退屈な場所だったが、放課後のこの時間は楽しみになっている。
俺と上崎の関係は恙無く続いていた。最初に会ったときの緊張は解けていき、お互いに自然体で居られるようになった。しかし、俺に付き合っている相手がいるという噂は未だに変わっていなかった。その相手が上崎のことなのか、見当違いな噂なのかも謎のままだ。今日の会う時間に、このことを上崎に確かめようと思った。
「なあ、今更かもしれないけどさ」
「どうしたの?」
「俺たちの関係って、秘密なんだよな?」
「うん……まだちょっと恥ずかしいから、あまり広まってほしくないかな」
心なしか理由の部分を妙に強調されたような気がしたが今は置いておく。噂の件について、意を決して尋ねてみる。
「……俺が誰かと付き合ってるって噂が流れてるらしいんだ」
「!」
上崎はハッとした顔になる。やはり噂については上崎も把握していたのだろうか?
「前はそんな噂気にしてなかったんだけどな、今は状況が違うだろ。お前との関係がバレちまってるのかもと思ったら、気にせずにはいられなかったんだよ」
「そっ……か、そうだよね」
上崎は何か納得したのだろう、そのまま俯いてしまった。これは俺たちの付き合いがバレてしまったことに落ち込んでいるのだろうか。最悪の場合、この関係が終わってしまう可能性がある。一抹の不安が過って体がすくんでしまう。恐る恐る上崎に改めて尋ねる。
「バレると……そんなにマズいのか?」
「違うの、私たちの事はバレてないと思う。その噂は……その……」
上崎は噂について思ったよりも何か知っているようだった。話すのを躊躇っている様子だったが、俺は更に踏み込んだ。
「……上崎、教えてくれ」
「!……はい」
俺がじっと上崎を見つめて問いかけると、観念して俺に打ち明け始めた。その意外な内容に、上崎からの告白に負けず劣らずの衝撃を受けることとなるのであった。
「実はその噂……私が流したの」
困ったときの春原は本当に便利なキャラですほんと・・・。
流れは本家と同じですが橘さんとはちょいちょい違いが出てきます。