クリスマス当日、外は人で賑わっていた。街はすっかりクリスマスムードになっている。更に天気予報では夕方辺りから雪が降るらしい。そんな中、俺は人混みを避けつつ待ち合わせの場所に向かっていた。寒空の下、少し身を縮こまらせながら歩く。時間は少し早めに到着できそうだ。家を出る前に美也に「学校は遅刻してもデートは流石にダメだからね!」と念を押された。遅刻も駄目なのだが、どうも俺の影響を受けてしまっているようだ。
(この辺だよな……あ、あれか?)
そこには森島先輩がいた。しかし先輩の前に若い男が一人、彼女に話しかけていた。大学生くらいだろうか、茶髪で少し背が高くいかにもチャラそうな姿と態度が見える。
「もしかして、君は私をナンパしようとしてるのかな?」
「おっ、話しわかるじゃーん!今夜は俺とデートしてみない?しようよー!」
「うーん、悪いんだけど私には先約があるのよね」
「こんな美人さん待たせちゃう奴なんか忘れちゃおーぜー?それよりも俺と……」
気がつくと俺は少し急ぎ足になっていた。先輩を早くあの男から引きはなす事しか考えられなかった。
「あっ、来た来た!」
「あー?こいつが彼?」
「ああ」
男は俺を品定めする様に見てくる。ここから早く去れ、という気を込めて男を睨み付けた。少し沈黙が流れた後、俺は距離を少し詰める。
「ちっ!」
男はそれに反応して少し怪訝な顔をして後ろに下がった。こいつは喧嘩慣れしていなさそうだ。その隙を見て森島先輩の手を取る。
「行きますよ、先輩」
「え?う、うん」
どのくらい歩いたかわからないが、気がついた頃には少し息があがる程になっていた。
(あいつは見えなくなったな……そろそろいいか)
もう大丈夫だろうと先輩の手を掴んでいた手の力を緩める。しかし、先輩が俺の手を離さないため手は繋がれたままだ。しかもしっかり繋がれているためこちらから離せない。
「あの……」
「ふふっ、ベリーグッド! さっきの君がかっこよくてグッときちゃった!」
「いや、そうじゃなくて」
「あと今日ははるかって呼んで良いよ!私も朋也君って呼ぶから!」
「それって……うぉっ」
手を引っ張られた勢いで俺たちはクリスマスいろに彩られた町中を歩き出した。その後二人でクリスマスイベントで彩られている大通りを歩いていた。街の景色を見渡したり、店を見て回ったり。店頭の着ぐるみに思いっきり抱きついたり。そんなはしゃいでいる先輩の姿を見ると、どちらが先輩なのかわからなくて笑ってしまった。先輩が着ぐるみの人と楽しんでいる中、さっきの自分の行動を思い返していた。
(さっきは大胆な事しちまったな……)
あの時の行動に迷いは感じていなかった。さっきの男と話している所を見かけて、俺は心がモヤっとしていたのは間違いない。俺が先輩とそういう関係になりたいのか、まだわからない。でも、先輩との縁を手離したくないと思っている。
(できればもっと、この時間が続いて欲しい)
これは、紛れもなく俺の意思だ。これまでのように流されて決めたことじゃない。
(って、あの人どこに行った?)
さっきまで目の前の店で着ぐるみと戯れていた先輩の姿が見当たらない。俺が考え事をしている間に移動してしまっていたのだろうか。そこまで遠くには行っていないだろう。しかし街はどこもかしこも人が多い。周囲を見渡してみるがそれらしき人はいなかった。
それから今日寄った道や入った店を見て回ったが、それでも見つからなかった。かれこれ三十分程経っただろうか。クリスマスの寒空の下にも関わらず、額から汗が垂れる程になっていた。俺の思い当たる場所はほとんど探してみた。でも、見つけることはおろか手がかりすら無かった。
一度立ち止まって、他にあてが無いかを考えてみる。しかし、先輩が行っていそうな所が浮かばない。ここで、俺はハッとした。
(……俺、あの人の事全然知らないんだな)
先輩の行動パターンはもっとわかっていると思っていた。思い当たる場所というのも、今日行った所ばかり。先輩の事をもっと知っていたら。もっと早く見つけられたのかもしれない。さっきまで手を繋いでいたのに、今はとても昔の事のように感じていた。あれは夢だったのでは無いか。なんて事を考える程に俺の気持ちは暗くなっていった。
「見つけた!」
先輩の声だ。後ろから聞こえてきた。振り向くと先輩が息を切らしながら駆け寄ってきていた。そして勢いのままに俺の胸に飛び込んできた。
「はぁ……はぁ……よかった」
顔をうずめられているため表情は分からない。けれど、息絶え絶えな話し方と少し震えた手から気持ちが伝わってくるようだった。
「どこ、いってたの」
「そりゃこっちの台詞ですよ」
「……うん、わかってる。私って気分屋だからはぐれやすいの」
「そうっすね」
俺の肩を掴んでいた手が、腕を撫で下ろして手を強く握った。
「だから、次は離さないようにしましょう!」
手を握られても嫌がらなかった俺の顔を見たからか、顔を上げた先輩は安心したような嬉しそうな表情をしていた。そんな表情に、内心かなりドキッとした。繋がれた手の温もりや、先輩の言葉から伝わってきた気持ちを感じていた。身も凍るような寒さを忘れてしまう程に。
この時ようやく実感した。俺は、先輩と一緒にいたい。気づけばそれなりに一緒の時間を過ごしてきたのに、自分の気持ちを理解できるまでかなりかかってしまったものだな、と自嘲気味に笑った。
「でも、先に離したのは先輩っすよね」
「もー、今はそういうイジワル禁止!」
こんな気の抜けたやりとりも、すれ違いがあった時も。俺は今まで感じたことのない高揚感に包まれていた。
「少し暗くなってきましたね」
「そうね。でも私達のデートはまだまだこれからでしょ? 次行きましょ!」
「はいはい」
「こら、はいは一回!」
「はいはい」
「もう……ふふっ」
そう言いながら向かい合った位置から横並びになる。繋いだ手を離さないように、再び街を歩き始めた。