EVANGELION -夢の後にあるセカイ-   作:KYON-

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11,ジンの部屋で、後篇

 月が沈み、日が昇る。

 学生にとって憩いの日である土曜日の朝を、アスカはほぼ初対面の男の家で迎えた。

 もっとも、連れ込まれたり、やましいことは何もなかったのだが。

 

 夜中の雨は打って変わって、朝の空は快晴だった。

 目を覚ましたアスカは、カーテンを開けると朝日を体全体で浴びる。その眩しさに彼女の蒼い瞳は一時瞼に覆われるが、次第にそれは開いて、サファイアのように虹彩は輝いた。

 住人が一人だけの団地には、小鳥の囀りが広がる。

 

 

 少し荒れた髪を手で解きながら、彼女はリビングダイニングに姿を現した。

「石狩、おは…ありゃ、こんな所で寝てる…」

 彼女が見つけたのは、椅子に座り、ダイニングテーブルに突っ伏して寝ている、石狩ジンの無防備な姿だった。彼の頭の下に敷かれた枕代わりの腕の近くには、飲み干されたジュース缶が転がっていた。

「風邪ひくわよ…ったく」

 アスカは彼の布団から毛布を取ってくると、彼を起こさぬようにそっとそれをかけてやる。

「何か作ってやるか」

 アスカは洗面台に向かい身支度を整えると、髪をゴムで一つ括りにしてキッチンに立った。

 

 

 平穏な朝の時間が、ゆっくりと流れていた。

 

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 アスカが起きて数十分、ジンは暖かな毛布に包まれて目覚めを迎えた。

 最初に彼の耳に入ってきた音は、フライパンの上で食材が躍る音。少し遅れて、食欲を刺激する香ばしい匂いも漂ってきた。

 むくりと顔を上げると、キッチンに立つ一人の女性がぼやけて見えた。日本人離れしたスタイルの良さと、窓から差す太陽に光に照らされ輝く金色の髪。

 彼女の纏う家庭的な雰囲気に、彼は一瞬、夢を見ているような気がした。

 まだ残る眠気に目を閉じると、予期しなかった涙が一筋頬を伝う。

 

 ジンは無意識のうちに泣いていた。

 

――何これ…?

 

 テーブルに出来た小さな水たまりに映る自分の顔を見つめていると、アスカがジンの起床に気付いた。

 

「おはよう石狩…って何泣いてんのよ?」

「い、いや、ただ目にゴミが入っただけだよ」

 ジンはすぐに涙を拭い、水たまりも拭いてしまった。ボサボサの髪で慌ただしそうにする彼の姿は子供らしく、滑稽で、アスカは母性的な笑みを浮かべた。ジンはそれを見て、また涙を流しそうになる。

「速く着替えちゃいなさい、今朝は私が作ってるから」

「ごめんね、作らせちゃって」

「いいのよ。というかアンタ、忘れてたけど一応病人でしょ? そんな奴の家に転がり込んで何もしないってのはね…」

 ジンは彼女の言葉を最後まで聞くことなく、洗面所へと向かった。

 

 昨日のヒキニートのような恰好ではなく、しっかりとした外出用の服装に着替える途中、ジンは一瞬手を止める。

「俺、嬉しいんだろうな…アスカが傍に居てくれて」

 

 誰にも聞こえない小声だった。

 

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 時間は流れて正午近く。週末課題をこなすジンに、テレビを見てくつろぐアスカが尋ねる。

「石狩~、ここ家賃いくらなの~?」

「もうとっくの昔に廃棄された区画だからね、タダで住まわせてもらってるよ」

「ほんとに!?」

 

 アスカの大声にジンはペンを止める。

「本当だよ。解体するのも手間だし、かといって住む人がいるかって言うとね…」

「放射線数値が多いっていう噂でしょ。だから人が来ないのね」

「実際のところデータに何ら問題はないし、自転車で少し走れば駅もあるから不便ではないよ」

「どうしよっかな~」

 

 自分の物の様に、遠慮なく彼女はジンのベッドに体を投げ出す。

 少しの間天井を見つめて何か考えていると思ったすぐ後、バネでも仕掛けられているかのように飛び起き、ジンの方を向いて言った。

 

「決めた、隣に住む」

「はあっ!?」

「今住んでる家は駅から遠いし、親戚に払う家賃も高いし。ここの方が静かで良いじゃん」

「本気なのアスカ? 夜はかなり危ないよ」

 

 ジンはいささか心配になった。このアスカは武術なんてほとんどできない。自分が居なければ、アスカの身が危ないと。

 加えて、自分の近くにいると余計に危険だと。

 

 しかしアスカはそんな心配知らんとばかりに「大丈夫」の三文字を言い放つと、すぐに行動に移す。

 

「もしもし叔母さん? 引っ越そうかなと思ってるけど良いかな。うん。オッケーわかった」

 

 携帯をしまったアスカの顔は輝いてた、それを見たジンの顔は複雑だった。

 

「来週からよろしく、ジン」

 

 共に居れる喜びと、傷つけてしまうかもしれない不安、守らなければいけない重圧が、彼女の彼への呼び名が変わると同時に、のしかかった。




お久しぶりです、間が開きすぎてしまいました。

夏休みも佳境・・・宿題は当然のごとく終わりません。

読書の秋ならぬ執筆の秋に向けて、もう一度エンジンを踏み込めたらいいなぁ…。

くれぐれも体調を崩しませんよう、皆さまご自愛ください。
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