EVANGELION -夢の後にあるセカイ- 作:KYON-
月が沈み、日が昇る。
学生にとって憩いの日である土曜日の朝を、アスカはほぼ初対面の男の家で迎えた。
もっとも、連れ込まれたり、やましいことは何もなかったのだが。
夜中の雨は打って変わって、朝の空は快晴だった。
目を覚ましたアスカは、カーテンを開けると朝日を体全体で浴びる。その眩しさに彼女の蒼い瞳は一時瞼に覆われるが、次第にそれは開いて、サファイアのように虹彩は輝いた。
住人が一人だけの団地には、小鳥の囀りが広がる。
少し荒れた髪を手で解きながら、彼女はリビングダイニングに姿を現した。
「石狩、おは…ありゃ、こんな所で寝てる…」
彼女が見つけたのは、椅子に座り、ダイニングテーブルに突っ伏して寝ている、石狩ジンの無防備な姿だった。彼の頭の下に敷かれた枕代わりの腕の近くには、飲み干されたジュース缶が転がっていた。
「風邪ひくわよ…ったく」
アスカは彼の布団から毛布を取ってくると、彼を起こさぬようにそっとそれをかけてやる。
「何か作ってやるか」
アスカは洗面台に向かい身支度を整えると、髪をゴムで一つ括りにしてキッチンに立った。
平穏な朝の時間が、ゆっくりと流れていた。
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アスカが起きて数十分、ジンは暖かな毛布に包まれて目覚めを迎えた。
最初に彼の耳に入ってきた音は、フライパンの上で食材が躍る音。少し遅れて、食欲を刺激する香ばしい匂いも漂ってきた。
むくりと顔を上げると、キッチンに立つ一人の女性がぼやけて見えた。日本人離れしたスタイルの良さと、窓から差す太陽に光に照らされ輝く金色の髪。
彼女の纏う家庭的な雰囲気に、彼は一瞬、夢を見ているような気がした。
まだ残る眠気に目を閉じると、予期しなかった涙が一筋頬を伝う。
ジンは無意識のうちに泣いていた。
――何これ…?
テーブルに出来た小さな水たまりに映る自分の顔を見つめていると、アスカがジンの起床に気付いた。
「おはよう石狩…って何泣いてんのよ?」
「い、いや、ただ目にゴミが入っただけだよ」
ジンはすぐに涙を拭い、水たまりも拭いてしまった。ボサボサの髪で慌ただしそうにする彼の姿は子供らしく、滑稽で、アスカは母性的な笑みを浮かべた。ジンはそれを見て、また涙を流しそうになる。
「速く着替えちゃいなさい、今朝は私が作ってるから」
「ごめんね、作らせちゃって」
「いいのよ。というかアンタ、忘れてたけど一応病人でしょ? そんな奴の家に転がり込んで何もしないってのはね…」
ジンは彼女の言葉を最後まで聞くことなく、洗面所へと向かった。
昨日のヒキニートのような恰好ではなく、しっかりとした外出用の服装に着替える途中、ジンは一瞬手を止める。
「俺、嬉しいんだろうな…アスカが傍に居てくれて」
誰にも聞こえない小声だった。
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時間は流れて正午近く。週末課題をこなすジンに、テレビを見てくつろぐアスカが尋ねる。
「石狩~、ここ家賃いくらなの~?」
「もうとっくの昔に廃棄された区画だからね、タダで住まわせてもらってるよ」
「ほんとに!?」
アスカの大声にジンはペンを止める。
「本当だよ。解体するのも手間だし、かといって住む人がいるかって言うとね…」
「放射線数値が多いっていう噂でしょ。だから人が来ないのね」
「実際のところデータに何ら問題はないし、自転車で少し走れば駅もあるから不便ではないよ」
「どうしよっかな~」
自分の物の様に、遠慮なく彼女はジンのベッドに体を投げ出す。
少しの間天井を見つめて何か考えていると思ったすぐ後、バネでも仕掛けられているかのように飛び起き、ジンの方を向いて言った。
「決めた、隣に住む」
「はあっ!?」
「今住んでる家は駅から遠いし、親戚に払う家賃も高いし。ここの方が静かで良いじゃん」
「本気なのアスカ? 夜はかなり危ないよ」
ジンはいささか心配になった。このアスカは武術なんてほとんどできない。自分が居なければ、アスカの身が危ないと。
加えて、自分の近くにいると余計に危険だと。
しかしアスカはそんな心配知らんとばかりに「大丈夫」の三文字を言い放つと、すぐに行動に移す。
「もしもし叔母さん? 引っ越そうかなと思ってるけど良いかな。うん。オッケーわかった」
携帯をしまったアスカの顔は輝いてた、それを見たジンの顔は複雑だった。
「来週からよろしく、ジン」
共に居れる喜びと、傷つけてしまうかもしれない不安、守らなければいけない重圧が、彼女の彼への呼び名が変わると同時に、のしかかった。
お久しぶりです、間が開きすぎてしまいました。
夏休みも佳境・・・宿題は当然のごとく終わりません。
読書の秋ならぬ執筆の秋に向けて、もう一度エンジンを踏み込めたらいいなぁ…。
くれぐれも体調を崩しませんよう、皆さまご自愛ください。