EVANGELION -夢の後にあるセカイ-   作:KYON-

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12,時空の扉

 アスカは一週間後、予告通りにジンの隣に越してきた。彼女は叔父の運転する軽トラックに乗って、段ボール十個ほどの荷物を団地の玄関前に置くと、叔父に礼を言ってからそれを部屋に運び始めた。アスカを見送った叔父の顔をジンは見たが、その表情は作られた心配の顔、その態度に彼は冷たかった最初の父を重ねた。

 軽トラックが走り去った後、ジンとアスカはせっせと荷物を運び入れる。季節は梅雨目前、湿った空気はジンの風邪からの回復に役立ったが、全快した今は鬱陶しいだけ。壊れたエレベータは使わずに一つ一つ階段を使えば、たちまち二人の額には汗が滲む。

 最後の荷物をアスカが運び入れた時、ジンは彼女を自分の部屋に手招きした。

「アスカの部屋、クーラー無いでしょ。涼んでいきなよ」

 リビングでは、旧式のクーラーが必死で部屋を冷やしていた。だが力不足でお世辞にも涼しいとは言えない。なのでジンは、アスカを風のちょうど当たる場所の椅子に座らせると、自分と彼女二人分のアイスバーを冷凍庫から出し、渡す。

「ありがと」

 服の襟元を動かして涼むアスカは笑ってウィンクをジンに返した。彼は赤面した、思わず顔を逸らした。

 アスカは自分の隣に椅子を引き寄せて、そんな彼に隣に座るように促す。畳みかけられたジンは一瞬ためらったが、ゆっくりと座る。

「私の部屋にもクーラー付けないとね」と言いながらアイスを咥えるアスカ。ジンは様々な要因で上がった体温が下がっているのを感じながら頷いた。

 しばらく無言でアイスを食べる二人。疲れと熱さが舌の上でアイスと一緒に溶ける感覚を共有していると、まるで昔からこうであったようにアスカは感じる。なぜか安心できて、なぜか自分をさらけだせる様な気がした。自分の表層・・・勉強ができる、スポーツができる、美人だ、クォーターだ…それだけで寄ってくる友人達とは違う、ジンの目は、自分の内面を見つめているようだ。

 そんな考え事にのめりこんだ後、ふと食べ終えたバーを見てみると・・・。

 

「・・・あ、当たってる」

 

 アスカの転居初日、ささやかな幸せが舞い降りた。

 

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 一方その頃、米軍は、その空に起きている異常事態に気付き始めていた。

 

「何だこれは」

 レーダーに映る巨大な白い影。微動だにせず、非常に高い高度で静止している影は、日を追うごとに少しずつ大きくなっている。

「偵察を出すか?」

 すでに影が出現してから一週間、旅客機の飛行経路こそ侵食しないが、現場と大統領、その側近達の悩みの種にそれはなっていた。

 

 最もそれに近い空軍基地の司令官は、とうとう大統領に偵察の許可を求めた。ホワイトハウスも巨大化するだけの未確認飛行物体に堪え切れず、すぐさま承諾の返事を送る。

 司令官はすぐさま戦闘機二機を発進させた。

 

 滑走路を飛び立った戦闘機は、続いて高度を上げ北東に進路を取る。人の住んでいない無人地域に差し掛かる辺りで、戦闘機は目標エリアに到達した。

 だが、そこには何も無かった。あったのは、ただただ青い空と眼下に広がる砂交じりの地面のみ。

「何だ、何も無いじゃないか」

 パイロットは困惑し、その報告を受けた基地も戸惑いを隠せない。もう一度よく探せと命令は出されたが、(から)の空間のどこを探せばいいのか。

「仕方ない、引き返せ」

「了解」

 結局、戦闘機は三十分余り空域をウロウロして、基地へ帰投する、はずだった。

 

 戦闘機二機は、命令に従って空域を抜けようとした。だがその時、レーダーから二機が忽然と姿を消した。音も衝撃も、通信越しには伝わってこない。

「どうした、ホーク1。応答しろ!」

「シグナルロスト、消息不明です」

 

 この報告を受けた大統領は、やっとこの時になって情報を他国に提供した。

 

 

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 アスカの転居後二日目、月曜日だったが学校は豪雨による警報で臨時休校。アスカはこの日もジンの部屋にいる。

「何でまた僕の部屋に…」

「クーラーないもん」

 だがこの日、ジンの部屋のクーラーはスイッチを入れていない。苦しみしかない口実を思うと、ジンは苦笑いを浮かべた。

 テレビは朝から同じことばかり報道している。

 

『米軍機二機消失 未確認飛行物体によるものと米政府断定』

 

 このニュースに、ネットはおろかニュース番組も一報を受けてから騒ぎ立てている。臨時の報道番組には未確認飛行物体研究家、といった謎の肩書きを持った専門家が出演し、自慢しながら持論を展開している。

 ベッドに寝転んで体を伸ばし、隣の部屋のテレビを見ようとしてベッドから度々落ちかけているアスカは、目を細めてそれを聞き流している。

 

「ホントにUFOなのかなぁ」

 専門家の持論を不審がるアスカは、至って力が抜けている。報道番組の人間の様に騒ぎ立ててはおらず、どちらかというと面白がっている。それに対してジンは不安そうな目で画面を見つめていた。

「ジン? まさかビビってるの?」

「・・・違うよ」

 

 だがジンの思考は不安と心配一色だった。戦闘機が消えた場所、そこには思い当たる節があったからだ。

 

――第2支部・・・

 

 エヴァンゲリオン4号機へのS²機関搭載実験失敗、それによって抉じ開けられた異相空間への入り口は前の世界で閉じたが、その不安定さは平行世界であるここにまで波及している。

 

――WILLEはそこを突く気か、考えたな。

 

 ジンは自分の胸に手を当てた。鼓動はヒトには不釣り合いなほどゆっくりと、力強く生命の音を刻んでいる。この心臓が暴れる日も近い。

 

 ニュースが速報を伝えた。米軍基地が、赤い巨人によって焦土となった、と。

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