EVANGELION -夢の後にあるセカイ- 作:KYON-
増援が来た時には、襲撃を受けた基地は見る影も無かった。
滑走路についた巨大な足跡では、離陸途中の戦闘機が潰されて燃え、整備場は倒壊。司令部の建物も、通信途絶から鑑みれば、無事であるわけがない。
増援部隊の報告を聞いた大統領は、蹂躙された基地の映像に衝撃を受け、しばらく言葉が出なかった。
国防長官が聞く。
「現在、目標は出現位置付近を徘徊しています。増援部隊も幾度と会敵、攻撃はいかがいたしましょう」
大統領は額に手を当てた。基地が攻撃された、その一報を受けた時、米国民は断固たる反撃を加える、と皆声を荒げていた。だが相手、そして被害を見てしまった今、もうそんな事を叫ぶ連中などいない。大統領も攻撃直後には国際社会に大見得を切って、絶対に許さない、そのような内容の声明文を読み上げた。しかし基地一つをものの数分で滅した、圧倒的な力を纏う未知の敵。それは彼と国民の士気を粉砕するのに十分すぎた。
基地が最後に送った写真には、バリアを張る赤い巨人が映っている。大統領と机を挟んで反対側のモニターは、簡易的であるもののそのバリアの分析結果を表示している。
「物理的攻撃による戦闘は無意味、か」
「水爆による攻撃も、近隣住民を避難させれば可能ですが…」
「だめだ、土地がなくなるだけだぞ。それよりも、あの巨人の攻撃目標を探らねば」
絶望の中でも、大統領は至って冷静だった。いや、冷静になるしかなかった、と言った方が適切だろう。猛っていた闘志の火を消され、無理やり平常心にさせられている。大統領自身、そのことを自覚していた。
「未だ通信は無し。しかし・・・」
「どうした」
国防長官は、無言で新たな画像を差し出した。巨人の肩を撮った物だったが、それを見た大統領はたちまち顔を青ざめた。
「噂には聞いていたが…本当だったか」
「はい、世界の裏で暗躍する組織、WILLEです」
巨人の肩の、Wを元とした緑色のロゴはアメリカの戦意をとうとう削ぎ落とし尽くした。
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テレビをしばらく見つめていたジンだったが、赤い巨人の画像を見るやいなや、テレビの電源を消した。
「どうしたの、ジン」アスカが不安そうに尋ねる。彼の、感情を露骨に表に出したような態度に、一縷の不安を覚えたからだ。
だがジンはそれには答えずに、代わりにアスカの腕を掴んだ。
「ちょっと、ついてきて」
「・・・いきなり何よ」
「君には、知っとかなきゃならない事が有る・・・・・・」
アスカは拒否しようとした、だがベッドから起き上がって彼の目を見ると、そこに宿る力に圧倒されてしまった。息が詰まる、言葉が出ない。同い年の人間とは考えられないほどに、彼の目は強い意志に満ちていた。
「・・・わかったわよ」
ジンはその言葉に頷くと、アスカの腕を握ったまま、玄関を出た。
アスカはジンに連れられるままに、彼と同じ電車に乗った。いつも使わない行先に戸惑うアスカとは対照的に、彼女の隣で落ち着き払っているジンの姿は、最近親しくなっとたはいえ、彼女に見覚えのないものだった。
先ほどから、そんなジンの新しい面、主に恐怖や不安を抱かせるに、アスカは戸惑いっぱなしである。
「次、降りるよ」
ジンの手が、より一層強くアスカの腕を握る。
駅を降りると、腕を握られる痛みにとうとうアスカが手を振りほどいた。
「もう、痛いってば!!」
「ご・・・ごめん」
ジンは我に返ったかのように、日常の「押されると引く」態度で謝る。
「連れて歩くならこうしなさいよ」
アスカがジンに体をぴたりと寄せると、彼女はスッと腕をとる。ジンの、華奢ながらもつくべき筋肉はしっかりとついた腕を、柔らかい胸に抱く。要するに、腕組み。
クラスのアイドルである式波・アスカ・ラングレーに、こんなことをしてもらえるなど、ほかの同級生の男たちが見れば、羨ましがり、からかい、そして彼に対するやり場のない怒りを持つだろう。ジンも嬉しいのだが、しかしそれよりも申し訳無い気持ちと、
彼はアスカの腕をほどくと、やはり先ほどの様に強引に腕を掴んで引っ張って行く。
落胆したアスカが訊く。
「何処行くのよ」
しかし、ジンは答えない。繁華街の途中で路地裏に入ると、迷いも無く更にその先の、猫が通っていそうな細い道を、横歩きで進む。腕を掴まれているアスカは、無理のある態勢だが、何とか通り抜けた。
道の先には、塀で囲まれた少し広い空間――その広さ六畳ほどの、空が見える空き地があった。民家と店舗の間の未活用地らしく、近隣住民が勝手に花壇を置いて私有地化している感があった。見上げると、幾重にも重なった電線とその奥に青い空があった。
コンクリートで一応舗装された地面には、一つ、四角いマンホールがある。
「何処よここ」
「唯一残された、ジオフロントへの入口・・・」
「ジオフロント?」
ジンはしゃがみ、マンホールの蓋の凹みに指をかけながら尋ねた。
「聞き覚えある?」
力一杯に蓋を開けるジンを横目に、アスカは少しばかり悩む。聞き覚えがあるか、こんな単純な質問なのに、なかなか答えが出せない。聞き覚えなど無い新出単語のはずなのに、何故かはっきり「No」と言い切れなかったからだ。
「わからない?」
「うん……何でだろう」
「降りれば分かるよ」
ジンはマンホールに身を潜らせたかと思うと、中からはしご車の梯子の先に設置されてあるのに似たバケットを押し出した。マンホール内にはレールが有るらしく、それを辿って下に降りれるらしい。
「行こう、アスカ」
バケットにアスカを乗せると、ジンはそれをマンホールまで押し込み、それから飛び乗った。蓋が閉まり、六畳ほどの空間には誰も居なくなる。バケットは闇に包まれた。
アスカは無意識にジンの手を握る。昔から、理由も無く暗闇が苦手だった。克服したはずなのだが、今日はその苦手が蘇る。
バケットは、十秒ほど降下すると速度を落とした。レール側にブレーキが仕込んであるらしく、終点の地面にぶつかる寸前にバケットは止まった。アスカとジンは足先で地面を確認すると、バケットから降りる。
足裏からは、硬く冷たい地面の感覚が伝わってくる。土ではなく、金属もしくはコンクリートだろう。しかし、かなりの深さだ。こんな大深度にトンネルがあるなんて言う話は、アスカは一度も聞いたことがない。
ジンがどこからともなく懐中電灯を取り出し、手探りで位置を確認したアスカに渡す。
懐中電灯を灯すと、そこは何かの施設の廊下だった。かなりしっかりした施設で、部屋の扉がいくつも並ぶ。
「ここは…?」
アスカの問いに、ジンは一呼吸置いた。落ち着いて深呼吸を一つした後、口を開く。
「NERV、君と僕の思い出の中心」
アスカには、ジンの言っていることがわからなかった。全く答えになっていなかった。
思い出の中心? まだ会ってそれほど日数も経っていないのに、しかもこんな施設見覚えあるはず……。
彼女の思考は壁にぶつかった。彼女の脳裏に、照明の点いたこの廊下を、多くの職員が行きかう様子が浮かんだ。それは想像という曖昧な物ではない。職員は皆揃いの制服を着ている。そのうち何人かは…名前さえ分かった。
「シンジ…これ…どういう事」
「僕の名前はジンだよ、アスカ」
「!!?」
無意識に呼んだ名も、彼女の記憶には無い筈。
ジンは少し笑みを浮かべた。
「もうシンジ、でいいよ。偽名を使うのも疲れたからね」
「アタシ…おかしくなった…どうしてか分からないけど、ここに見覚えがあるし、アンタにも見覚えが…」
涙を流すアスカ。彼女の震える小さな肩を、石狩ジン、いや碇シンジは優しく抱いた。
「安心してアスカ、もうすぐ分かる。この世界も、君のデジャヴも」
二人は廊下を進んだ。
少し投稿ペースを詰めました。
宿題終わってませんけどw。
今度は九月に入ってからになりそうです。