EVANGELION -夢の後にあるセカイ- 作:KYON-
時間軸は、葛城が米空母に降り立つ少し前に移る。
シンジとアスカは、長い廊下を何時間にもわたって歩き通していた。
もし職員がいて、NERVが正式に活動していれば、ジオフロント内部に建設された直轄の核融合炉が、第三新東京市並みに電気を食う膨大な施設にエネルギーを供給しているだろう。だが今やここは廃墟。エネルギーの類は一切無く、エレベータやケーブルなどの移動手段は全て止まってしまっている。
頼りになるのは、残量僅かと推定される乾電池のみだ。
「また行き止まり…」
しかし、乾電池の残り電力もどんどん削られていく。多くの廊下では隔壁が封鎖され、本部の主要施設へ辿り着くには、行き止まりだらけの迷宮を攻略しなければならなかった。もとより侵入者対策で電気が点いていても迷宮な廊下だが、加えて今は電力ゼロ、そして予期せず立ちはだかる隔壁。この状況で攻略を成し遂げるのは、何年もこの施設に出入りしてた二人といえども、かなり難しいものがある。
降りている隔壁に気付き、引き返す度に方向感覚が怪しくなる。アスカの思い付きで、分岐点に印を付けるという一手間が無ければ、廊下の途中で迷い、飢え死にすることになったかもしれない。
「何でジオフロントに降りる方法は知っているのに、ケージへのルートは忘れてるのか…」
「ごめん…実はジオフロントへのルートも…最近確立したばかりで…」
「…まさかケージへは」
シンジはゆっくりと首を縦に振る。彼の答え『ケージへのルートは知らない』。途端に、アスカが彼の胸倉を掴んだ。
「アンタバカァ!? 迷い死ぬかもしれないトコによくも嫁を連れて入れたわね!!」
「ごめん、ごめんってばアスカ」
本気で困っているシンジを見て、アスカは溜息と共に仕方ないといった感じで手を放す。
彼女は本気で怒っていたわけではない。ちゃんと印を付けて歩いているから、帰ろうと思えば帰れるのだ。ただ、前世と変わらないシンジの変な部分での間抜けっぷりに呆れ、そしてそれを懐かしいと思った懐古感によるもの。だから、久しく使っていない『アンタバカァ!?』のフレーズも使った。
もう、仕方ないわねっ――彼女は昔の様に言うと、今まで向かっていなかった方向に歩き出す。
「ちょっと、そっちは」
「分かってるわよ、こっちは作業用通路でしょ。危ないけど、これに賭けるわ」
足音を響かせながら、闇の中へ消えていくアスカ。その背中を、シンジは急いで追った。
βは必ずやってくる、その前にエヴァを動かす。その為に。
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同時刻、NERV食糧庫。ここにはNERV全職員が一年以上持ちこたえられるだけの食糧が備蓄されている。食糧と言っても、非常食のような急場しのぎの物ではない。肉や魚、野菜に果実と、食堂で使う食材が、一年分スタックされているのだ。そんな備蓄の中には、ビールやワインなど、嗜好性の飲食品も多々ある。
食糧庫は、熱を発する機器などから十分に離された地中にある。ジオフロント地下には極低温の地下水が流れており、この食糧庫はそれを利用して、エネルギー無しで食糧を長期間保存する特殊な物。前世NERVは、この技術で荒稼ぎして、エヴァの補修費用を工面したという――。
その食糧庫に、迷い込んだ者がいた。
「何…ここ…? 食糧庫!?」南京錠の壊れた鉄の戸を開けて、喜びと驚きの声を上げたのは、六分儀の部下で公安職員の伊吹マヤ。公安の華と呼ばれたその幼く可愛らしい顔は、疲れと埃でやつれ切っていた。
彼女は、丸一日以上何も食べていない。何故か、それは彼女に降りかかった
ここ最近、六分儀の部隊約五十名は、冬月の密命を帯びて
そのマヤのグループは、その時は命令通り探索をしていた。だが突然懐中電灯が壊れた事が探索を遭難に変えた。GPSが読み取れないように細工された廊下の中では、光を失うことは命取り、あまりにも過酷な不運だった。
予備は一時点灯したが、一瞬広がった闇も、道を失わせるのには十分な力を持っていた。
闇の中で右往左往するうちに、どんどんと今まで進んだことのない方向へ彼らは引き込まれてしまう。そして結局、遭難するうちに、彼らは『アタリ』すなわちジオフロントへの経路を見つける『幸運』を手に入れて
食糧庫を見つけた喜びの声を聴いて、近くにいた隊員二人、日向と青葉もやって来た。
「おお、これは…」
「凄い量だ、これなら暫くどころか一生食いつなげる!」
三人とも、公安で鍛えられているとはいえ疲労の色は隠せない。それを癒す為、早速見つけた食糧の幾つかを外に持ち出し、自然解凍を待った。
廊下でへたり込む三人、日向が口を開いた。
「食糧は当分大丈夫だ、後はどうやって地上に戻るかだ…」
「そうですよね…こんな地下で一生暮らすなんて嫌ですし」
「だが無線機は全く使い物にならないし、ここまでどうやって来たかもわからない」
三人は暫く言葉が出なかった。もしやすると、一生地下生活。死んだ方がましかもしれないと、死を隣に感じられていた遭難中を羨んだ。
重い空気が広がる。
その重い空気の方へ進んでいた人影が二つ。
アスカとシンジであった…。
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最初に気付いたのはアスカだった、足元を照らしながら進み、丁字路を右に曲がった時。
誰かいる!!――顔を角から出した途端に、光の周りでへたり込んでいる人間に気付いた彼女は、咄嗟に頭を引っ込めて息を潜ませた。シンジを手で制し、懐中電灯を切った。
暫く無音が続いた。向こう側から足音がしていないのを考えると、あちらはこちらに気付いていないのだろう。
だが、その憶測は外れていた。
マヤが無意識の中で、スイッチを切るような『カチッ』という音に反応した。条件反射の様に身構えて腰から銃を抜くと、足音を立てずに音の聞こえた方に向かう。
青葉と日向も同様にしていた。彼らはハンドガンの安全装置を解除する。
その音に、今度はシンジが反応した。気付かれていると確信した彼は、足音など気にしなかった。咄嗟にアスカの前に出ると、彼女を庇いながら後ろへ下がる。アスカも状況を理解したようで、格闘戦に備えて腰を落とした。
その時発せられた足音に、マヤは確信した。誰かいる。自分たちを警戒する辺り、同じ隊の人間ではないとも。青葉と日向に目線で状況を伝えると、一気に丁字路に走り込み、銃口を向ける。
「即座に手を頭の上に置いて身分を明かしなさい!」
彼女の銃口の先には、闇が広がっていた。だがその中に、彼女はアスカとシンジの姿をはっきりと捉えている。
三対二。相手の方が数が多い、加えてあっちはハンドガン、こちらは丸腰。普通なら、シンジとアスカは言われたことに従うのが、命を守る鉄則だろう。だがシンジは従わなかった。
静止した闇が、互いの緊張を高める。聞こえるのは、息を吸う音だけ。
シンジが問う。
「あなたは誰ですか」初対面の人間に対する当然の問いだが、この場面には不釣り合いすぎる。神経を逆撫でされたような日向は、伊吹の言った警告を怒鳴るようにして繰り返した。
だが、やはりシンジはそれを聞き入れなかった。何らかの思慮が有るだろうと静観していたアスカも、不安になって小声で訊いた。大丈夫なの? と。
「大丈夫だよ」気楽に言う彼の手の平は、オレンジ色に淡く光っていた。彼女はそこに、見慣れた六角形のモアレを見た。
「まさか…」
フッと笑ったシンジは、もう一度呼びかけるようにして言った。
「攻撃の意志はありません。こんなところに公安の方がいらっしゃるということは、迷ってらっしゃるのでしょう?」
シンジはゆっくりと進み出る。その前面には、光が抑えられて見えにくいが、確かにA.T.フィールドが張られていた。
久々に非常に不安定な文章になってしまいました。
やっぱりエヴァは難しい…支部や施設の位置の設定を見つけて来れない時は想像で書いています。
10月中に、もう一本はじめられたらなぁ…