EVANGELION -夢の後にあるセカイ-   作:KYON-

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2,アイツとの一悶着

 学校が始まって一週間が経とうとしていた。

 始業式の日は、まだバラバラしていた感のあったクラスであったが、それぞれが互いを少し知り始めてきたことによって、だんだんとはまとまりつつある時期。

 もとより友人の多いアスカだが、この時期になるとその数がさらに増える。名前や住所、アドレスなどがごちゃごちゃし始める事が、彼女はあまり好きではなかった。

 

 ――でも、友達が多いっていう悩みって、贅沢なんだろうな。

 

 昼休みも終わりに近づいた教室では、再テストの招集がかけられた者が多いせいで、いつもより静かな時が流れている。常に友人に囲まれているアスカにとっては、久々に学校内で心の休まる一時であった。

 全開の窓からは、春の柔らかい日差しと、少し寒いものの心地の良い風が、教室の澱んだ空気を洗っているよう。窓辺の無人の席に腰かけ、体に陽光を浴びるアスカを、風が睡眠へと誘う。

 腕を枕代わりにして、安心して睡魔に身を預ける。だが、彼女はすぐに揺り起こされることになった。

 

 数秒もしない、まだ意識が残っているうちに、アスカは自分の近くに人の気配を感じた。窓の方を向いていた顔を逆方向へ向けると、半開きの目には確かに人影が映っている。そしてその人影は、ただ彼女の横を通り過ぎたとかの物ではなく、彼女に明確な用事があるように彼女の近くで立っていた。

 その態度は、アスカの意識を現実と幻想の境界線から引き戻す。邪魔だ。

 ――うっとうしい…

 アスカは無条件にその事を不快に感じ、その感情を隠そうともしなかった。

 

「何か用?」

 寝た姿勢のまま話す、だが意識は完全に覚醒してしまっていた。今や風も眠気覚ましの物に過ぎない。声にもはっきりと、不快の色が現れている。

「……」

 だが、それに対する返答は返ってこない。

 ――何よ…無視してんの…?

 感情の温度がじわじわ上がる。逆鱗という名の沸点に、目盛りは着実に近づいていた。

 

 そしてとうとうアスカも耐え切れず体を起こす。

 見開かれた目に見えたのは、戸惑った表情で彼女の目を覗く、石狩ジンのひ弱な姿だった。

 ――こんな奴にっ…!

 

 目盛りが一気に沸点を超えた。

 

「何の用って聞いてんだけど、何か言ったらどうなのよ!⁉」

 

 アスカが滅多に見せない怒りの表情に、教室に残っていた数人は驚きと恐怖の表情で目線を彼女に向ける。だが怒りをぶつけられた当の石狩本人は、表情一切変えずに机を指差した。

 

「その席…」

「はぁ? 席がどうしたって? ……!」

 

 ジンが指差した方向、そこには机の引き出しからはみ出した状態の教科書があった。そしてそこには整った字で「石狩ジン」と書いてある。

 

「寝るなら…自分の席で。やる事…あるんで…」

 

 アスカが寝ていたのは、石狩の席だった。やることあるからそこをどけ、乱暴な言葉でまとめるとこんな感じとなるジンの思いと行動は、筋が通っている。

 文章をぶつ切りにして、しかも聞こえるか聞こえないほどの小さな声。アスカ自身初めて交わした石狩との会話は、不快を通り越して唖然とするほどの感情を抱かせる。アスカはそれを奥歯で噛み潰し、引き下がった。睡眠を邪魔され、完全にやりこまれ、アスカは不機嫌そうに自分の席へ戻る。空いた席にはジンが座り、せっせと古典の予習を始めた。

 

 アスカは恨みのこもった目でその様子を見ていた。だが、ふとした疑問が浮かぶ。

 ――こいつ、いつも一人よね…。

 だが、このときはまだそれは「ふとした疑問」で留まる程度の物だった。まだまだ気に留めるほどの物でもない。

 

 

 けれども後々、アスカは彼、石狩ジンを無視することができなくなってゆく――。




お気に入り登録、評価など有難うございます。
五ケタに行くか行かない程度の短い話をコンスタントに更新できたらと思っています
次回もよろしくお願いします
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