ガンダムビルドファイターズトライの世界でがんばる話 作:キャプテンキャップ
1
セーフティエリア出入り口をくぐってフィールドへ足を踏み入れる。視界に入るのは巨大なリビングルーム。
「おぉ……」
20㎝そこらの視点から見る1/1ってこんな感じなのかー。何もかもが見上げるほどに大きい。
左手の壁の3分の2ほどを占める大きな窓から入り込む柔らかな日の光が、フィールドの時刻が昼過ぎに設定されているということを教えてくれる。
天井にはシーリングライトが取り付けられているけど今は点いてはいないようで、窓から入る光が唯一の光源。その為けっこう明暗がはっきりしている。乱雑に散らばっている積み木が落とす長く伸びた影。子供用テーブル下は薄暗く、敵陣奥深くにあるテレビ台の方などは一段と濃い影が落ちているのがここからでも見て取れる。
けどまあ、昼頃っていう時刻設定だから見えないほど暗いわけじゃないし、それほど影部分を注意するほどでもない……かな?
いやー、それにしてもこうやって見ると凄いな。これが1/1スケールがもつ迫力かと圧倒される。場所がリビングで、周りに散乱しているのも普段目にする物ばかりということもあって、より自分たちが
日常的な風景なのに、視点が低いだけで非日常的な風景に早変わり。これは面白い。
なんて思いながらフィールドを眺めていると、ハールーが声をかけてきた。
『あ、そうだレン。お前アシムレイトできるか?』
「アシムレイト? ガンプラとファイターが一心同体になって性能を引き上げる代わりに、ガンプラが受けたダメージもファイターにフィードバックする、あのアシムレイト?」
そうそれ。と言うハールーに首を横に振る。いやいや無理むり。
『だったら弾が当たっても気づきにくいかもな。オプションに
あいよー。……ってこれか。ぽちー。
「オッケ、オンにしたぞー。……にしてもアシムレイトできるか聞いてくるってことは、もしかしてハールーはできるの?」
『ん? おう、できるぞ。まあガンプラサバゲーやってる人の大半はできるんじゃないかな?』
ガンプラサバゲーは基本オープン通信なので、俺たちの会話が聞こえた周りの人――ガンプラたちが頷く。おおぅ、マジでみんなできるのか。
その方が被弾したかどうか分かるから便利なんだよ。とハールー。いや軽く言ってるけど、あれって思い込みとか自己投影が激しくないとできないんじゃなかったっけ? だから扱える人が少ないって聞いたことがあるんだけど?
『いいかレン。ガンプラサバゲーやってる人の
自分の考えた装備の組み合わせこそ最強。今日の俺は○○軍だ、
『だからガンプラサバゲーやってるサバゲーマーは、自分が使っているガンプラに自分を投影しやすいんだよ』
えーっと。……つまり、ハールー達アシムレイト使いはガンプラを操作してるんじゃなくってガンプラになりきってるってこと? さっきのゴリラに例えると、ガンプラっていう着ぐるみを着てサバゲーをやってるみたいな?
『お、言い得て妙じゃないかνガンダム君。正しくそんな感じだ』
そう渋い声で言ってきたのは、サブマシンガンの
2
《では! 両チーム全員がフィールドに入ったようなので、ゲームを開始します!》
どこからともなく聞こえてきたスタッフさんの声に、周りが一層騒がしくなる。
――お、始まるようだな。――じゃあジムスナⅡと護衛のストライクルージュ、百式はテーブル狙い。あとは自由ってことで。――オッケー。――キャー! メメちゃん、リミちゃん! 私たちでヒット取りまくるわよー! ――はいはい。分かったから落ち着け―。
……あれ、今ミコさんたちの声しなかった? あの人たち味方だったのか。……ガンプラだから誰が誰だかわかんないなぁ。
『おーい、セーフティーロック外してるか?』
「おっとぉ、そうだったそうだった。……オッケ、ありがとーハールー」
《5秒前! 4! 3! 2! 1! スタートでーす!》
スタッフさんによるカウントダウン。その終了とともに、プァーンッ! と一際大きな音がフィールドに響き渡いた。
駆け出していく味方のスナイパーと、その護衛を買って出た2機がテーブル目掛けて一目散に駆け出す。残りの面々もほうほうに散らばっていく中、俺とハールーはまだ動かない。どこから行くか決めるの忘れてたからね。
『レン、どっから行く?』
どうやら俺がルートを選んでいいようだ。俺はハールーについていく気だったんだけど。
まあせっかく選んでいいと言ってくれてるんだし、決めてみよっかな。文句言うなよーと念を押しつつ脳裏にフィールドマップを思い起こす。ガンプラサバゲーではマップ機能の類はオミットされてるから、覚えるしかないんだよね。
えぇっと……北の敵フラッグまでのルートは大まかに分けて3つ――かな?
1.窓側の東ルート。
2.カーペットを縦断する中央ルート。
3.そして壁側西ルートだ。
最短ルートは言うまでもなく、中央ルートの子供テーブルの下を潜って行くのだろうけど、その分間違いなく激戦になる。俺たちにとっての最短ルートは敵にとっても最短ルート。だから、侵攻するにしろ防衛するにしろ一定の敵がいると思った方がいい。
それに加えてテーブル上を敵に抑えられた場合は頭上からの狙撃にも気を付けないといけなくなるし、展開が一番目まぐるしくなりそうなのがこのルート。
カーペットを迂回する東・西ルートは中央ルートよりも遠回りにはなるものの、積み木などの障害物が多いから身を隠しながら比較的安全に進めるんじゃないかな。その代わりこっちと同じく身を潜めながら進んでくるであろう敵との突発的な遭遇戦には十分注意する必要はある。隠れながら移動する『静』と、遭遇戦の『動』が楽しめそうなルートだよねぇ。
それとマップを思い出す限り、
でもやっぱり、俺としては中央ルートから行きたい。
こういうの詳しくないから分からないけど、障害物に隠れながら進む左右のルートは何というか、
それにこれは
そう言うと、ハールーは大笑いしながら『レンはやっぱアタッカー向きだよ』と楽しげに言って、ゼクアインでνガンダムの
「え、
『
「なるほどねえ、納得出来ちゃったよ……ぃよっし、じゃあいっちょカッコよく死にに逝きますか!」
『いいねぇ!』
俺たちは笑いながら駆け出し、カーペットへと上がる。至る所に乱立する積み木を縫うように前進。と、前方遠くから銃声音が。
――タタン! ――パタタタタン!
――タン! タン! ――ゥィタンン……
断続的に鳴り響くソレは交戦が始まった
『テーブル、敵スロープ側っ、スナ1、護衛3!』
お、交戦中の味方からの報告が聞こえてきたけど、残念ながら距離がありすぎて聞き取れない。声が遠いのはガンプラサバゲーに通信がないから、大声で話すしかないのよな。これもサバゲー基準らしいよ。通信したければ無線機を取り付けるなりする必要があるんだってさ。
「ハールーどうする? 近くの積み木にいったん隠れる?」
『音からしてまだ遠い! そのままゴーゴーゴー!』
とのことなので目の前にある何種類かの積み木で作られた隙間だらけで不格好なトンネルを潜り抜けると、その先には子供用テーブルの姿が見えた。ここからテーブルまで距離はおおよそ2.5mそこら。人の視点だとそんなに遠くなくても、ガンプラ視点だと結構離れて見えるから不思議。
んで実際に見て感じたのは、ここからでもテーブルの上が思った以上に見えること。
これならスナイパーがテーブル上から下を狙撃しようとしても、十分こちらからも狙える。それくらい丸見えだった。
それをハールーに言えば、運営側がわざとそうしているらしい。
『スナイパーが身を隠しやすくし過ぎると、有利になりすぎるからな。だからテーブルの縁には守りになる遮蔽物を排してるんだろうよ』
なるほど、それもそうか。
スナイパーが一方的に狙撃できるのであれば、狙われる側は撃たれないよう身を隠すしかなくなる。そして隠れられるとスナイパーもやる事がなくなる。それは
そうならないように、テーブルの上は『遠くまで狙いやすいけど、近くからは撃たれやすい』
これが運営が設定したコンセプトなんだと思う。
そんなテーブルの両横にはカーペットに積み上げられた雑誌がくっつくように置かれていて、一番上の雑誌が崩れてスロープのようになっている。あれを
あれってジムスナⅡと護衛のストライクルージュと百式だよね? どうやら敵も反対側のスロープから上って来ていて打ち合いになったみたい。さっきの銃声と報告はあそこからかー。
『テーブル、敵スロープ側っ、スナ1、護衛4!』
お、も一回報告がきた。
『あちゃ~、上に着く前に鉢合わせたみたいだな』
「みたいだねぇ。どうする? 加勢に行く?」
『……いや、他の味方に向かっているみたいだからそっちに任せて、俺たちは最初の予定通りテーブルの下をくぐって敵フラッグを狙おう。
ハールーが操るゼクアインが顎をしゃくった先では激しい撃ち合いに加えて、時おり何やら大きな破裂音までする。なんだあの音?
『手榴弾を投げ合ってるんだと思う』
手榴弾!?
『といっても爆発すんじゃなくて、大量の弾を周囲にばらまくだけなんだけどな』
「いや、それでも十分怖いんだけど」
一発でも当たったら死ぬガンプラサバゲーで大量の弾を吐き出す武器は非常に強いのでは?
俺がそう言うと、ハールーは『違いない』と苦笑する。
ともあれあんなところに飛び込みたくないので、ハールの言うように俺たちは下から素通りさせてもらおう。味方のHGザクウォーリアとHGUCガンダムピクシーが援護に向かっているみたいだしね。
さて、そうと決まればテーブルの下を確認しよっか。
一応テーブルの下にも横倒しになった積み木がいくつか転がっているみたい。ただ背が低い。あれだと
νガンダムでも立ったまま隠れきれそうな積み木は……あった。長方形のヤツが全部で5個。ちょっと少ないけど、しゃがんで隠れきれるのと
そう確認していると、横に並んでいた
『――レン、さっき敵は近くにいないってオレ言ったんじゃん?』
「? 言ってたね。それが?」
『前言撤回! 正面テーブル下に何機か来てる! すぐに隠れろおぉ!!』
言うが早いか近くにあった積み木へと素早くその陰に身を寄せて隠れる親友。そのハツカネズミじみたゼクアインの動きを目を点にして眺めていた俺の視界の端に“ゥィタタタタ!”と乾いた音とともに迫りくる何かが映った。
ん? とνガンダムの頭をそちらに動かせば、数珠つなぎを彷彿とさせる無数の弾の帯だと分かり――
「うぉあ?!」
とっさに屈む。頭上を通り過ぎていく銃弾。BB弾と同程度の速度に抑えられたガンプラサバゲー専用弾だからこそ躱せた。でなければヤられてたな今の。そのことに冷や汗をかきながら安堵していると、先に隠れたハールーからまたも警告が飛んでくる。
『安心してないでさっさと隠れろ! すぐにまた撃たれるぞ!! ――ほら来た!』
――ゥィタタタタタタタタ!!!!
「フルオートかよおおおお!?」
屈んだままだったので走って避けることもできない俺は、近くの積み木へと体を投げ出す。
後ろから“ぽすぽすぽすぽす”と柔らかい音。おそらくラグカーペットに着弾した音だろう。その音を聞きながら、どうにか積み木の陰へとヘッドスライディングして身を隠すことができた。
急いで体を起こすと同時に積み木へと“カカカカカン!”と敵の弾が当たりはじき返されていく
「ハールー! そっちから撃てる!?」
『オレの120mmマシンガンだと銃身が長すぎて難しいな!』
だよねぇ! その長さだと積み木から半身だけ出して、撃って隠れるっていう動作は難しいよね!? 俺のHR417アーミーマリアントも120mmマシンガンほどじゃないけど結構な長物だし。でもまあ、ハールーが難しいってんなら――
「いっちょやってみますか!」
銃撃の空白を狙って体を半分出して素早く銃を構える。ダットサイトを覗きながらまずは敵を捜す。――いた! テーブル下に散乱する積み木の1つ。横倒しになったソレをバリケード代わりにして屈み、上半身だけ出してアサルトライフルを構えながらこちらを
撃ちまくっていたのはアイツに違いない。そしてマガジンを交換中なら
「ハールー! 前方に
言いながらドットサイトの
『レン! 待て狙われてる引っ込め!』
――トトト! トトト!
「!?」
ハールーの声に慌てて体を引く。直後、目の前を通過していく銃弾。なんだ今の!? 辛うじて銃声が聞こえたけど、ハールーの忠告がなければ聞き逃してたくらい小さかったぞ!?
『
「徹底的に静音化した銃ってことね。……今撃ってきた敵の姿とか位置は見えた?」
『スマン、見えなかった。けど、多分ガンダムの後ろらへんだろうな。レンを撃てる射線といったらそこらしかないし、現にさっきの弾はそこから飛んでくるのは見えたぜ』
なるほど、ガンダムの後ろか。
『あとヤツら、連携が上手いな。
「誘い出された敵を、もう一機がどっかからパーン! って戦法かぁ。やるぅ」
『だな』
ハールーの解説を聞きながら頭を少しだけ出して正面を見やる。もう一機の敵はどこだぁ? ハールーによるとガンダムの後ろってことだけど……あ、見っけ!
ガンダムの左後ろにある積み木にSDサイズのキティザク(赤)がザクマシンガン(サイレンサー付き)を持って隠れてる! わーお、ザクヘルメットとリボンがとってもキュート♡
しかも細身の
「くそうっ、カワイイかよ! あれ撃っても大丈夫!? ブーイングされない!?」
『気持ちは分かるけど躊躇するな! 撃て撃て! サバゲーに容赦は無用!』
「えぇええ!? マジかよサバゲー怖い! ええぃクソ! 撃つよ! だけど恨むんなら俺じゃなくてハールーを恨んでよね!」
『マジかよレン怖い!』などとほざいてるハールーを無視してキティザクに照準を合わせてトリガーを――あ、目が合った。するとどうだろう、突然キティザクがわたわたと両手を振りながら右往左往するではないか。あ、こけた。目が
キティザクの可愛い姿に心臓をやられた俺は、HR417と両膝を力なく落として四つん這いとなった。
「ダメだ! 俺には……俺にはあの可愛い生き物(?)は撃てない!!」
『あほーー! レンのあほーーーー!!』
いやだってしょうがなくない!? キティだよ!?
とはいえ、それは俺の事情であって、四つん這いという無防備な俺をガンダムとキティザクが見逃してくれるはずもなく。
とっくにマガジンを交換し終えていたガンダムが、ハールーが援護できないように隠れている積み木へと牽制射撃を開始。そしてキティザクがザクマシンガンの銃口をゆっくりと俺へと向ける。ハールーも絶え間なく降り注ぐ銃弾に動きを封じられてるし。くっ、
『私に任せなさい!』
俺たちと敵の間に割って入るかのように横から
――ゥィタタタタタタタタタタタタ!!!!
『うげっ!? ヒットォ!』『ちょっ、あっ、ヒットー!!』『あ
計3つのヒットコールが敵側から上がる。……え、3つ? もう1機いたの? あ、キティザクの後ろからHGUCガブスレイが新しく来てたのね。このカーペット、毛足が長い分足音が吸収されて近づいてくる敵の位置が把握しにくいようだ。
にしても助かったー。どこの誰かは知らないけど、
『あなたたち。大丈夫だったかしら?』
めっちゃカスタムされた右手に持ったN4*2を肩に担ぎ、左を腰に当てたゼフィランサスが振り向きながら芝居がかった調子で問うてくる。声色からして女性。しかもこの声聞き覚えがあるぞ。っていうかミコさんだよね。
戦闘シーンの描写が難しい……。