佐々木琲世は攻め手に欠けていた。しかし、多くの捜査官を殺しに殺した隻眼の梟の猛攻を、流麗な動きで躱し続けるのはかつての彼にも不可能なことだった。
それは彼の精神世界における優劣順位によるものだ。ある種の多重人格者であった彼は“佐々木琲世”が他の人格をほぼ完全に掌握している。そのため、喰種としての強さよりも捜査官としての強さが表に出ていた。それも身体能力はそのままで。
ただし、その分赫子の扱いには制限がかかる。ちぎられた右手を修復した時、彼自身も理解できない理由で量が抑えられてしまった。
RC細胞の割り振りが自己強化へ偏る……自分はあくまで人間“佐々木琲世”であるという無意識のトラウマの発露だった。
「佐々木上等!」
避けるしかないところに一本の刀にも似た、対喰種兵器……クインケ・ユキムラが宙を舞って落ちて来た。実に良いタイミングで現れた宇井特等とその部下達が駆けつけたのだ。
「ありがとうございます! 宇井特等!」
赫子で作られた右手が刃を握る。Bレート甲赫・ユキムラ1/3。甲赫は起動時間が長い上に、相性で梟の羽赫部分と相性がいい。ギミックこそ無いが、この場にうってつけだ。
「佐々木上等と私が前に出る! 他は後方支援に回れ!」
「ん~なんか、どっかで見た顔だぁ」
おかっぱ頭が特徴の宇井特等は、梟と以前戦っている。ゆえにご都合の良い援軍でもあるが、同時に隻眼の梟の力量をもっとも良く知る人物だ。
「そこで倒れているのが、月山の彼ですが……」
「梟相手だけでも笑えてくるのに、それが時間制限付きか……有馬さんが間に合うはずもない」
「ついでに月山の従者も一人残っています。消耗はさせましたが、まだ動いてくるでしょう」
「それは後衛と後続に任せるしかないよ……」
梟と対峙しながら、部下の死を一旦置くことができた宇井はもうひとつの事実に気付く。佐々木琲世に対する隔意が薄れている。以前から半喰種である琲世を警戒し、手柄を立てることすら危惧していにも関わらず、すんなりと肩を並べられた。
なんというか、以前の彼と何かが違うことを感じ取ったのだ。琲世自身も“捜査官”として喰種を駆逐することに以前ほど抵抗が無くなっていた。
「よっこらしょ」
再びの大振り、宇井と琲世は体を傾げながらの攻撃で、振るわれた腕を避けつつも相手を斬った。彼らには共通点があった。最強の捜査官とうたわれている有馬貴将の薫陶を受けた、いわば兄弟弟子なのだ。
「あ~あ~つまんな。私の玩具は好きにしていいよ。もう飽きた」
そこで梟は思わぬ行動に出た。背中に棘とも羽ともつかぬ器官を生やし、凄まじい勢いの棘を発射した。狙いを付けてもいないだろう大雑把な攻撃は、それだけに回避を難しくした。
大きく吹き飛ばされた二人の捜査官が、裂帛の気合と共に立ち上がると……隻眼の梟の巨体は既にその場に無かった。