流島への移動はCCGが保有する船で行われた。巡視船艇によく似た船に本部が設置され、ある程度接近してからは漁船のようなボートで現場の者が乗り込む。揚陸作戦だ。
佐々木班の乗るボートは、危機感とは別種の緊張が漂っていた。海を眺めながら佐々木と六月はかつてのように話せていた。
「……あんまり歓迎されてないみたいですね」
「まぁ、ね。Qs自体が非倫理的だっていう人も多いし。僕も暴走したりしたから……仕方が無いことだよ。少しずつ信頼を勝ち取るしかない。宇井特等みたいに考えを変えてくれる人も出てきてくれる」
「宇井特等はQs反対派……それでなぜ先生をパートナーに?」
「元のパートナーだったハイル。彼女の死が特等を変えたんじゃないかな……」
琲世は上陸後、宇井が指揮する第3隊の第2班班長として動くことになる。こうした大規模作戦では間々あることだが、クインケ持ちは琲世と六月透だけで、あとはRcバレットの銃を装備した構成だ。
役割としては敵側の最重要幹部、タタラを目指す1班が突き進んだ後の安定にある。琲世は自分も知っていたハイルという女のクインケが入ったケースを撫でる。
「喰種を殺すことにまだ抵抗が無いわけじゃないけれど……せめて、痛みなくやれるよう頑張るよ」
鱗赫-Rate/S+……Aus。凄まじい切れ味と軽さを両立したクインケだが、元はハイルの持ち物だ。宇井特等にこれを早く返すべきだと琲世は考えている。
この戦いではレートA以上の喰種が多い。強力な喰種を倒し、己のクインケを獲得しなければ
Ausであれば、痛みなく、そして赫子の元である赫包を傷つけることなくたおせるはずだ。
それ以外にも気にすることは多い。第1隊には古巣であるQs部隊がいて、第2隊の隊長は友人とも言える鈴谷特等だ。
「上陸時に注意してね、透くん。敵はまずそこでこちらの数を減らそうとしてくるはずだから」
「はい……しかし、隻眼の梟は出てくるんでしょうか……?」
「どうだろう……正直言って、流島の喰種にとってはこの作戦が立案された時点で無事は期待できない。かといって敵だって馬鹿じゃないし……梟がどう出るかは分からないね。一人で特等方を相手に出来る存在だ」
組織としてのアオギリはここで終わったとしても、強力な喰種……タタラと梟は逃亡する可能性を生み出すだけの実力がある。もし逃せば、また逆戻りになってしまう。
「見えてきた……!」
「いよいよだね。装備の点検を忘れないで」
ボートが速度を上げた。第1班に追従する形で進み……ついには上陸が可能な場所まで到達した。
「佐々木班! 全員水に足を取られないで!」
行った側から刃に貫かれる班員に、歯噛みする。守ろうとしても、手からこぼれ落ちてしまうのはなぜだと問うても答えは無い。
鋭い呼気と共に班員を貫いた喰種を、琲世はあっさりと両断した。琲世の実力もあるが、敵が小型だからでもある。小型で鋭い赫子を持つ、喰種集団“刃”。速度に長けた前衛で、できるだけ数を減らすつもりか。
しかし、個体として注意すべきは首領であるミザだけだ。均衡はすぐに崩れ、段々とCCG側へと傾いていく。隊長、班長格が上陸に成功したのもあるが、第2隊鈴谷班の恐るべき実力が発揮されたのだ。
海岸沿いは第1班の一部に任され、佐々木班は追従して海岸を抜け、島の森へと足を踏み入れた。