1枠 1番 タマモクロス 2番人気
2枠 2番 ゴールドシチー
3番 キングヘイロー
3枠 4番 ツインターボ
5番 オグリキャップ 1番人気
4枠 6番 ミホノブルボン
7番 サイレンススズカ
5枠 8番 メジロマックイーン 5番人気
9番 ナリタブライアン 3番人気
6枠10番 スペシャルウィーク
11番 ヤエノムテキ
7枠12番 トウカイテイオー 4番人気
13番 スーパークリーク
8枠14番 ビワハヤヒデ
15番 マヤノトップガン
ついに昇ってきた朝日は、これまでのどれより輝いていたように感じた。結局あまり眠れずに朝を迎えてしまったが、担当ウマ娘の前でそのような姿は見せられない。気持ちを切り替えるために、クローゼットにあるスーツに手をかける。担当の―、サイレンススズカの国内最終レース。研ぎ澄まされた心情でそのときを迎えたい。
髭を剃り、眉を整え、髪をセットする。ここまでパリッとさせるのは何年振りだろうか。生来髪の毛がうねっていてなかなか思うように仕上がらないが、時間も時間なので妥協し、外へ出た。
「おはようございます、トレーナーさん。」
学園の裏門で、サイレンススズカがひとり左回りに回っているのを見つけた。
「おはよう。何してるんだ、こんなところで。」
左に回るのを止め、ぴたりと脚を揃えてスズカは笑った。
「決まってるじゃないですか。トレーナーさんを待ってたんですよ。」
待ってたって―。今日は理事長が、スペシャルウィークともどもレース場まで送ってくださるんじゃなかったっけ。他のみんなも見送るとか見送らないとか―。
「私、あんまり賑やかすぎるのは苦手なんです。それに、これから競い合う娘とふたりで、なんてできません。」
気持ちはわかる。今日の今日だ。変になれ合ってなあなあになるのはよくない。スペシャルウィークも一人で気持ちを高めたいところだろう。―そして、次に何を言わんとするかも判る―、その瞳が語っているようなものだった。
「―わかった。俺はこれから理事長に断りを入れてくる。あと見送りはしっかり受けろ。それでいいなら、乗せてやるよ。」
はいっ、と嬉しそうに、スズカは後ろをついてきた。
理事長室で事情を話す。
「了承ッ!余計な手出しだったな!実は先ほどスペシャルウィークからも同じような話があったのだ!彼女はもう出て行ってしまったが、君たちはどうするんだ?」
スペシャルウィークが居ないのなら理事長の世話になってもいいんじゃないか?とスズカの方を見ると、それを察したのか少し膨れたので、自分の入りのついでに送り届ける旨を伝えた。
「承知ッ!競バ場までの車は私の学園車を使うといい!手配はかけておこう!彼女はトレセンの―、日本の宝だ!くれぐれも事故の無いようによろしく頼む!」
理事長が用意してくれた車は黒塗りの高級セダンだった。スズカはまだ見送りの連中にもみくちゃにされている。
「そろそろ行くぞ!」
一瞬目が合い―、スズカは瞳で返事をして、きちんと見送られてきた。
普段縁のない厳つい風貌の高級車に一時たじろぐも、彼女は後部座席の扉を開こうとした。
「後ろでいいのか?」
代わりに扉を開いてやる。はい、とスズカは頷く。思えば、去年の合宿のときとか、個人的に送迎するときなんかも、スズカはいつもあそこに座っていたような気がする。へたにいつもと違うことをすると調子を崩すかもしれないと思い。そのまま後部扉を閉めた。
「―じゃあ、行ってきます。」
祈願ッ!サイレンススズカの一着を願っているぞ!
様々な声援やら応援やらが聞こえてくる。正門の奥や二階三階にも窓から乗り出して声援を送るウマ娘もいる。
一礼し、運転席―、ああ、これは左ハンドルか。いつもの助手席の方に回り込み、車に乗り込む。シフトをDにすると、ウマ娘のスタートとは違い、ゆるやかに、車は走り出した。
学園から東京競バ場までたっぷり1時間はかかる。ときどきバックミラーから彼女を盗み見るが、窓に頭を当てて景色に見入っている。
「みんな、応援してくれていたな。」
ええ―、と窓の景色からは目を逸らさずにスズカは答える。往々にしてあることだが、誰かの期待に応えたいという想いは、ときに自身から冷静さを奪う。逃げ出したくなるような気持ちにもなるだろう。今スズカは、近づいてくるスタートの瞬間に対する想い、応援や期待からくるプレッシャーと今まさに戦っているのかもしれない。スズカ自身が走る目的を見失わなければいいのだが―。
「―無理にプレッシャーを撥ね退けようとするなよ。誰かのために走るレースじゃないんだろう?期待や応援に応えるかどうかは二の次だ。まずはお前が何のために走るのかを考えろ。」
スズカはそれから、ずっと無言で窓から見える景色を見続けていた。