「 感 謝 ! よくぞアドマイヤベガを連れてきてくれたッ!」
状況がつかめない。迷子のウマ娘を拾ったら競バ場まで連れてこいと言われ、引き取り人らしき人物は海外赴任しているはずの元理事長。あんた何してんだ。スズカも固まっている。
「あ、その…、お二人の間柄は…?」
よくぞ訊いてくれたといわんばかりに元理事長はその無い胸を反らす。
「 驚 愕 ! 灯台下暗しとはまさにこのこと!様々な国を回ったが私のカンにクるウマ娘は見つけることは叶わなかった!
失意ののちに帰国し、我が母校、ノーザン学舎に顔を出してみたところ…、
感 嘆 ッ ! いるではないかッ!私のカンにビンッビンにクるウマ娘が!その走りを見るなりすぐさま学舎に話を入れて、共に世界中を飛び回った!
まさしく破竹の勢い全戦全勝百戦錬磨!
かのナリタタイシンやゴールドシップに勝るとも劣らないその追込はまさに蒼い閃光!バ群をするりするりと潜り抜けて一瞬で先頭に躍り出る様は彗星の如く!そしてなによりもトレーナーなしでここまで上り詰めたその才能ッッッッッッッ!
これがクラシッククラスのウマ娘だと誰が思うだろうかッッッ!だから私は決めたのだッ!」
すうううっと息を吸い込む。
「 契 約 ッ ! 名をアドマイヤベガ!夜空に閃めく蒼い彗星ッッ!私がこの手でお前を鍛え上げ、共にベガの名のもと一等星となるのだッッッッッ!!!!!!!!!」
ぎょっとした表情のアドマイヤベガが食い気味に口を開く。
「ですから何度もお断りしているでしょう。そもそも秋川さんと私は所属が違いますから。それに、私はそんな大層なものじゃありませんよ。」
「そんなものは些細な問題に過ぎないッ!ノーザン学舎は私の母校でもある。所属は違えど目的は同じ、越境してでも指導することを認めさせる所存だッッッ!」
だめだ。完全にキマってしまっている。こうなるともうテコでも動かないのが元理事長の特徴は今日も絶好調。…韻を踏んでいる場合ではない。
「ですから秋川さん、わたしのことをそんなに大声で触れて回らないでください!」
すこしだけ語気を強めたアドマイヤベガ。驚いたのか理事長が止まる。
「 謝 罪 ! ひとりで舞い上がってしまったようだ。何にしても会えてよかった。今日ここで勝ったウマ娘が、お前と同じアルカディアステークスに出走することになるんだ。しっかり見ておくんだぞ。」
あれ?なんか今すごい大変なことを言ったような気がする。
「理事長、今なんと?」
「ああ、言っていなかったな。こいつは世界各国あらゆるレースで負けなしでな!君たちが目指しているキングアルカディア6世&クイーンダイヤモンドステークスに出走する権利を実力で勝ち取っている。いわば君たちが目指す背中だな。」
とんでもないことを聞いた。ということはつまり、彼女のレベルはスズカやスペシャルウィークよりはるか格上。そもそも戦っているステージが違うということか。あのシンボリルドルフですら《届く》のみに終わった世界で、目の前のアドマイヤベガは戦い、そして勝利を重ねているの。世界最高峰のレースに、実力で選ばれる程に。
無論、スズカやスペシャルウィークも選出対象に入っているという点では張り合えるかもしれない。しかしながら、それに見合うだけの実力を示せていたかは正直わからない。まだ彼女が走っているところを見ていないので、いかんとも判断しかねるが。
「それでは、我々は観客席へ行くことにする。健闘を祈っているぞ!」
スズカとわっし、と握手を交わし、理事長とアドマイヤベガは去っていった。
見送るスズカ。ふたりが小さくなり人込みに消えるまでそれを見つめていた眼には、心なしか力が籠っているように見える。
「そういえば、スズカは彼女の走りを見たのか?」
ふるると首を横に振る。
「いいえ。―でも、彼女のいうように、私と彼女は似たようなものを感じています。理事長さんは《追込》だと言っていたので脚質は違いますが、そこに通ずるモノは、もしかしたら私と同じレベル、いえ、さらに高いところまで来ているるのかもしれません。」
珍しくスズカの闘争心に火が点いたようだ。隣に並んでいるだけでメラメラとした圧を感じる。ふと時計を見ると思いのほか時間がない。人込みのぽっかり空けた関係者専用のエリア。呆けているスズカの手を取り、控室へ急いだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、私はここまでだからね。毎回のことだからもう判ってると思うけど、インタビューで変なこと答えないでよ。」
ウマ娘控室で改めてスペシャルウィークに念を押し、私はその扉を開けて部屋を出た。
今回のレースは特例で、トレーナーにも枠を取ってインタビューが行われる。もちろん、注目株とされているウマ娘のトレーナーだったりすると突発的に取材が入ったりすることもあるが、今回は全員順番だ。そしてそれはすでに開始されており、私の番が近づいていると、メールで連絡があった。
おそらくメインはトレーナーではなくウマ娘なので、我々にされる質問はそう多くはないだろう。ということは、割かし早く進行する可能性だってある。遅れないよう、急ぎ気味にフロアを移動し、部屋へ通されるとちょうど前の番―、サイレンススズカのトレーナーのインタビューが始まったところだった。
―よろしくお願いします。
「ええ、よろしくお願いします。」
紺色の、よくよくみればチェック柄だとわかる落ち着いた雰囲気の3ピース。深い緑のネクタイにはアクセントで黄色いラインが差してある。襟には学園のバッジが誇らしげに輝いていた。
―サイレンススズカさん。調子はいかがですか?
「ええ。J-CUPでの敗戦から彼女はひとまわりもふたまわりも速く、そしてなにより強くなりました。本日は、その成果として何物にも揺さぶられない逃げをご披露できるかと。」
―2400はスタミナの問題があるという見解がなされていましたが、そこについては何か対策はされたのですか。
「はい。坂路などのトレーニングを重点的に行いスタミナと精神力の強化を図りました。スタミナはもちろん、精神、メンタルはレース中様々な事象で試されます。私としてはそれが“強さ”につながると思っております。」
―1番人気はスペシャルウィークに譲ってしまいましたが、それについてどう思われますか。
「やはり彼女の実力と人気なのでしょう。スズカはあまり愛想がよくないタイプのウマ娘ですから。―1番人気だからといって必ずしも1着になるとは限りません。我々は粛々と、自信にできることを全うするのみです。」
―最後に、応援しているファンの方々へひと言お願いします。
「スズカの仕上がりは完ぺきに近い。追われる側から追う側になっていくつも学ぶことがあった。今日それをすべて発揮できればと思っております。応援よろしくお願いします。」
今一瞬私のほうを見たな。目が合ってしまった。
サイレンススズカのトレーナーはおじぎをし、壇上から退いていった。
「次!スペシャルウィークのトレーナーさん!お願いします!」
呼ばれて登壇する。フラッシュがばしばしと焚かれ、おびただしい量のマイクが向けられた。
―昨年のJ-CUPをクラシッククラスながら制し、シニアデビュー戦である春の天皇盃も圧倒的な強さで勝利したスペシャルウィーク。波に乗っているといえますね。
「はい。間違いなく今レース1番人気たる所以はそちらにあると思われます。」
―ずばり、そこまでスペシャルウィークを引き上げたものとは何でしょうか。
「もともと本人には光る差脚がありました。それをより鋭くするためのパワー、維持するためのメンタル面で大きく成長したからだと思います。J-CUPなどいい例ですね。」
―サイレンススズカは2番人気となっていますが、何か思うところはありますか。
「ありませんね。勝ったのは我々ですし。当然の結果ともいえます。」
―応援してくださっている方にひと言お願いします。
「唯一抜きんでて並ぶものなし。」
記者団がざわつく。そりゃそうだ。これの意味するところは英語に直すと”Eclipse first, the rest nowhere.”。我々の属する学園の校訓たる言葉である。その昔、外国にエクリプスというウマ娘がおり、それがあまりにも強いので予想にて《Eclipse first, the rest nowhere(エクリプス一着。ほかはなし》という言葉が使われ、また実際にそのようになったことで、エクリプスとこの言葉は伝説となった。らしい。
エクリプスというのは固有名詞でもあるため、文脈としては唯一抜きんでて並ぶものが無いのはエクリプスに限定されそうなのでどうかとは思うけれど、そうなっているのだ。要するにそのようになれたらいいねってことなんでしょう、きっと。
「あなた方はスペシャルウィークだけ見ていればいい。唯一無二。完全無欠。最強で最高の、エキサイティングな走りを御覧にいれましょう。」
ざわつく記者団をしり目に降壇する。とってもいい気持ちだ。スペシャルウィークには悪いけど、こうやって大見得きるのもトレーナーの特権みたいなもんだしね。事実そうさせるだけの走りはできるわけだし。
波乱はない。番狂わせもない。今最も強い私のスペシャルウィークが、順当に勝つだけだ。
サイレンススズカ 逃
SS/B/C/D/A
先頭の景色は譲らない(3) 先頭プライド 先駆け 急ぎ足 逃亡者 末脚 前途洋々
左回り◎
スペシャルウィーク 先/差
S+/A/SS/B/E
シューティングスター(5) 全身全霊 豪脚 差し切り体制 外差し準備 静かな呼吸