白銀の烏と異世界母港【再演】   作:夜叉烏

10 / 49
 こんばんは。夜叉烏です。

 You tubeの動画編集で遅れました。


進撃先は地獄

 「何?一切の抵抗が見られない?」

 

 「はい。ワイバーンの迎撃はなく、地上に動くものは何もなかったと…」

 

 東方征伐軍副将アデム・カイオワの問いかけに、魔信を担当する兵員が、彼の表情を伺いながら応えた。

 

 彼率いる先遣隊がギムを堕とし、食糧と水をたらふく奪う計画に基づき、まずワイバーンによる威力偵察を行ったのだが、敵ワイバーンの迎撃がないどころか、地上にも動くものが見当たらなかったのだ。

 

 「それと、変わった道らしきものがエジェイ方面まで続いていたとのことです」

 

 これは、《烏の巣》の手で設営された線路のことだ。

 

 報告内容にアデムは顔を顰めたが、表情を戻して指示を出す。

 

 「この軍勢を前に、委縮して引き篭もっているのでしょう。早々に堕としなさい。そうすれば、残った亜人共は好きにしていい」

 

 全軍に伝えられたこの命令に、各兵は下品な笑みを浮かべ、街へ向かって進軍を開始した。

 だが、僅かその数分後、大軍の前進は停滞を余儀なくされる。

 

 「うん…?」

 

 土や石とは違う感触を足裏に感じた1人の兵が、疑問の声を発した瞬間、足元の地面から筒が飛び出した。

 

 「んな…っ!?」

 

 驚愕のあまり後ろへ飛び退き、後続していた兵にぶつかって転んだ瞬間、その筒が弾けた。

 内部へ仕込まれた無数の鉄球が、銃弾並の速度で全方位へ飛び散り、兵士たちへ襲い掛かる。

 

 「ぎゃあぁぁぁぁっ!?」

 

 「ぐえっ!?」

 

 甲冑を貫いて肉体まで食い込んだ鉄球が兵士に絶叫を上げさせ、顔面を蜂の巣にされた者が声を上げる間もなく地に這った。

 

 鉄血製のSマイン地雷――Sim44が、威力を発揮した瞬間だ。

 踏むと地面から1.2メートルの高さまで筒が飛び出し、内包された350個の鉄球を半径10メートルの範囲へばら撒く。対人向けの地雷だ。

 戦車をはじめとした装甲車両、五式機動装甲服にも、近接防御火器として搭載されている。

 

 地中から襲い掛かる謎の攻撃に兵たちは恐れおののき、進軍がストップしてしまった。 

 

 「糞っ!!魔獣共を前に出す!!ギムまで走り抜けろ!!」

 

 この状況に目を剥いたアデムだが、すぐに魔信を通じて全員へ怒鳴るように指示を出した。

 彼の率いる魔獣軍団が兵たちの前に展開し、盾となって前進を開始する。

 

 案の定、ゴブリンや百足蛇がSマインの餌食となり、肉体や硬い外骨格が抉られる音、聞くに堪えない絶叫が聞こえ、兵の何人かが体を震わせるが、魔獣たちの犠牲が功を奏し、新たな死傷者は出なかった。

 

 しかし、地雷原を抜けた途端に、張り巡らされた鉄条網が邪魔をする。

 引き千切ろうと触れたゴブリンの手と、乗り越えようとした百足蛇の柔らかい下腹を傷つけ、呻き声を上げさせた。

 

 鉄条網を乗り越えようと四苦八苦する魔獣たちのお陰で、兵士たちの進軍は完全に止まり、渋滞を起こしてしまう。

 

 「おのれぇ…!!薄汚い亜人共の分際でこの私をコケにしよってぇ…!!」

 

 結局、鉄条網の柵の根元を掘り、引っこ抜くことで突破口を形成することに成功したが、鉄条網は三重に設置されており、その合間にも地雷原が広がっている。

 鉄条網の第1陣を突破しても、第2のそこに行きつくまでに、Sマインの脅威に晒され続ける羽目になった。

 

 「うぎゃあぁぁっ!!」

 

 「痛っ…!?またこれか!!」

 

 Sマインの炸裂によって魔獣の数が激減したため、再び兵士が犠牲になり始めた。

 一応、パーパルディア皇国から供与されたリントブルムも盾になっていたのだが、アンキロサウルスを思わせる頑丈そうな見た目によらず、重弓でも通じる程度の防御力しか持たないため、20体いたそれも、この時点で5体にまで減っていた。

 

 「貴重なリントブルムが…!」

 

 パーパルディアから供与されたリントブルムは総数100体。

 15体の喪失程度なら問題ないように感じるだろうが、本来クワ・トイネとクイラの軍を相手に無双できると太鼓判を押されていた生物なのだ。

 

 それが、まだ敵と戦っていないうちに失われ、おまけに自身が従える魔獣軍団も全滅という運命を辿った事実に、アデムはかなり焦っていた。

 

 「まぁいい。邪魔な柵は全て取り除いた。ギムはもうすぐそこだ!!総員、突っ込めぇっ!!」

 

 「「「うおぉぉぉぉぉっ!!」」」

 

 自分たちを散々足止めしてくれたクワ・トイネ軍に対する怒号を上げ、兵士たちはギムへ雪崩れ込んでいった。

 

 ――その直後だった。

 

 「うわぁぁぁっ!?」

 

 「地面が…抜け!?」

 

 草原から石畳に切り替わる地点に兵士たちが走り込んだ瞬間、彼らの足元が陥没し、巨大な穴へと落ちていった。

 

 モイジたちは、ロウリア軍がどんなに犠牲を払っても地雷原と鉄条網地帯を突破してくると予想し、部下と共に大規模な落とし穴をこしらえていたのだ。

 この穴は、ギムの西側に沿った一本の長大なもので、普通に街に入ろうとすれば、必ず引っ掛かる。

 

 人力で掘るなど思いもよらないだろうが、《烏の巣》よりパワーショベルやブルドーザーをはじめとした重機が多数供与されていたため、実現させることができた。

 

 しかも、深さ5メートル、幅2メートルほどのこれは、ただの落とし穴ではない。

 

 「うがぁっ!?いでぇよぉぉぉぉっ!!」

 

 「臭っ!?何だこれはぁっ!?」

 

 底には、先端を鋭く尖らせた無数の木の棒と、家畜や人の糞尿が溜まっていた。

 

 この長大な落とし穴を建設することが決まった際、ギムのみならずクワ・トイネ、クイラ全国から家畜、人間問わない排泄物をかき集め、それを完成した落とし穴に放り込んだのである。

 

 傷口に糞尿を浴びれば破傷風になってしまうため、直ぐに水で洗い流さなければならないが、そんな暇はない。

 

 1番目に落ちた最前列の兵士たちは、無数の棒に全身を貫かれて絶命し、さらに落ちてきた後続の兵も、先に落ちた者の身体から突き出る棒によって田楽刺しにされた。

 

 「うわっ!?おい!止まれっ!!落とし穴だ!!」

 

 最前列の出来事は、後ろの兵士に伝わっていない。

 落とし穴があるなど露ほども思っていない彼らは、早くギムへ向かおうと全力疾走で走り抜け、そして穴に嵌まっていった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 「どういうことだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

 落とし穴が兵士で埋まり、後の者が普通に歩けるようになったため、やっとのことでギムへ入場できた東方征伐軍だったが、そこで待ち受けていたのは、「あの苦労は何だったんだ」では済まない結果だった。

 

 大量のSマインと落とし穴により、アデム率いる魔獣軍団は壊滅、リントブルムも15体を喪失し、40万もいた兵の内2万人以上が隊列から消えている。

 それほどの被害を負い、生き残った者も生死の境を彷徨った末に心身ともに疲弊していたにも拘わらず、彼らを待っていたのは、人も物も何もない、もぬけの殻となったギムだった。

 

 食糧はなく、水も井戸を埋められていたため使えない。ついでに言うと、人っ子一人いないため、様々な"欲"を発散させることもできない。

 

 特に、落とし穴から奇跡的に帰還できた兵は、助かったとはいえ全身が糞尿に塗れており、洗い流すための水が必要だったが、本土から持ってきた分しかないため、適量を使えなかった。

 そのせいで臭いが取れず、周りの兵士から幾分距離を置かれてしまう。

 

 しかも…。

 

 「ぐあぁぁぁっ!?」

 

 突如家屋の2階が爆発し、板材とともに人間の惨死体数人分が路上へ降ってきた。

 

 これも、モイジらが仕掛けたトラップの1つだ。

 ドアにピアノ線を括り付け、開くと近くに置いてあった九九式手榴弾のピンが抜け、炸裂する。

 全建物にこれらが設置されており、入ってきたロウリア兵を残らず肉片に変えていた。

 

 おまけに、各通りは石畳が引っぺがされ歩きにくく、しかもどさくさに紛れて地雷――Sマインではなくシュッツェンミーネ S42――が敷設されており、これを踏んだお陰で脚を吹き飛ばされた者が100人ほど出ている。

 

 また、ピアノ線によって転ばせるだけの単純なトラップもあちこちに作られており、顔中が擦り傷だらけになる位転倒した者もいた。

 

 「おのれおのれおのれぇっ!!薄汚い亜人共がぁ!!小癪な真似をっ!!」

 

 近場にあった壺や樽に向けて剣を振りおろし、八つ当たりを始めるアデムに対し、周りの兵たちは極力関わらないようにしつつ、石畳の復旧作業やピアノ線トラップの撤去作業を行っていた。

 

 「パンドール将軍に連絡しろ!!追加の兵士とリントブルムを含む魔獣、工兵も派遣してほしいと!!」

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 重桜海兵隊第12師団師団長の荒川玲少将は、エジェイの街を守る城壁上の壁に寄り掛かり、煙草を吹かしていた。

 既に重桜陸軍・海兵隊の参加兵力はエジェイに終結しており、クワ・トイネ軍と共同で防衛に充たる手筈になっている。

 

 「及第点ってところか…」

 

 城壁の内側で、複数の操作員が122ミリ加農砲へ取り付く様子を見て、彼らの練度をそう評価した。

 

 元バリスタ兵を中心に編成された砲兵部隊だ。

 最初は多少のもたつきがあったものの、短期間の訓練で荒川にこう言わせるだけの技量を身につけている。

 

 「おう、中々辛口じゃねぇか」

 

 全身傷だらけの男が言った。

 DP-28(SE)と予備のパンマガジンが数個入った金属製ケースを肩に、重桜刀と手榴弾複数を腰に提げ、長いスコップ、鉄血製歩兵用対戦車兵器である"パンツァーファウスト75(SE)"を背負っている。

 

 菊嶋炎(きくしまほむら)海兵隊大佐。

 工兵出身の幹部であり、重火器のスペシャリストだ。CQCの能力も目を見張るものがある。

 

 また、某SF映画に出てくるサイボーグを思わせるほどの頑丈な身体が特徴で、陸軍第109師団に属する幹部の拳――ナックルダスターを使用したもので、装甲車のボディーを凹ませる威力――を額に受けても、軽く怯む程度だったという逸話もあるほどだ。

 

 「そうかァ…あん?」

 

 足音が近づいてくるのに気付いた2人は、それが聞こえる方に目を向ける。

40代後半と思しき将官が、現役の陸上選手など目ではないスピードで走ってきた。

 

 「どうしたんだよ師匠」

 

 「静かにしてくれ」

 

 重桜陸軍第109師団師団長栗林忠泰大将は、荒川の問に対し完結に返すと、積み上げられた空の木箱の陰へ隠れた。

 謎の行動に疑問符を浮かべる間もなく、今度は1人の女性が素早い身のこなしで上がってくる。

 

 「あらぁ…。玲に炎じゃない。ここに大将来なかったぁ?」

 

 臍と胸元を大胆に晒す黒い長袖のトップス、紫のミニスカートを身に着け、長い美脚をサイハイブーツで覆った美女だ。大佐の肩章を付けている。

 

 彼女の手には、まるで布のようにしなる刀身を持った重桜刀が握られている。

 "ウルミ"と呼ばれる刀剣を、重桜風にアレンジしたものだ。柄頭には刀身の巻き取り装置と、ナックルダスターを兼ねた護拳を備えている。

 

 世の男性を残らず惹きつけてしましそうな笑顔を浮かべているが、その裏では激怒していることがヒシヒシと伝わってきた。

 

 「あ~~…どうしたんだ、伊刈?」

 

 「あの人また何かやったのかァ?」

 

 怒りの感情を発する彼女に少しびくびくしながら訊いてくる2人に対し、女性――孤狼伊刈(ころういかり)陸軍大佐は、笑みを絶やさずに言った。

 

 「お仕置きよ、お仕置き。私の写真をそこら中にばら撒いてくれちゃってぇ~」

 

 「おいエロ爺…」

 

 目線だけを木箱の山に向け、荒川が独り言ちる。

 確かに、大将の位を頂く男がすることではない。

 

 「……そこね」

 

 荒川の目線が動いたのを見逃さなかったようだ。

 

 短く発した瞬間、半端な剣士では視認すら敵わない速度で重桜刀が振られる。

 新体操のリボンのような軌跡を描いた剣戟が、空箱の山を一瞬で斬り崩した。一応クワ・トイネ軍の所有物なのだが、別に重要なものではないので、壊れても何ら影響はない。

 

 埃が一時的に全員の視界を奪う中、それを突っ切って栗林が飛び出した。

 右手に孤狼の写真を持った彼は、スライディングで彼女の股下を潜り抜ける。

 

 「…おいおい。随分派手なの穿いてるなぁ。これじゃあ敵に捕まった時大変だぞ、孤狼」

 

 そう部下に言い残すと、城壁から飛び降りた。

 最低でも15メートルはある高さの城壁なのだが、栗林は受け身を取って衝撃を吸収し、頭上から降ってきた雲上人に驚く重桜兵、クワ・トイネ騎士の敬礼を受けながら走り抜ける。

 もうすぐ50に差し掛かる男とは思えない身のこなしだった。

 

 「…決めた。殺す❤」

 

 下着を見られた怒りに駆られる孤狼も、重桜刀の刀身を巻き取り、城壁からダイブした。

 身体を捻りながら宙を舞い、地面に映った人影に驚いて彼女を視認した兵たちの只中へ着地すると、彼らに構わず走り出し、あっという間に姿が見えなくなってしまった。

 

 「…もう知らん。戦闘終わったら詰め寄られるだろうが」

 

 投げやりな荒川の言葉を背に、菊嶋も頷いて煙草を吹かし始めた。

 

 「黒か…」「いいねぇ…」「Fooo↑↑」「こいつも見ろよ!」などと発する両軍兵士の声は、風に乗って2人の耳に入ってきた。

 栗林がばら撒いた孤狼の写真を見せ合ったりもしているらしい。

 

 彼からすれば、有能な部下を自慢したかったのかもしれない。

 

 奴の写真1枚で士気が上がるならいいかと考えながら、荒川は役目を終えた煙草を右手で握り潰し、紫煙を吐き出した。




 修正なんですが、使用する対戦車兵器を"パンツァーファウスト"に変更しました。

 理由としては、RPG-7開発のベースとなるからですね…。後は単純に生産が簡単で輸出できそうだとか、ブービートラップとしても使えそうだとか、そんな感じです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。