制空権を取った後は上を気にしないで突撃するに限りますなぁ。
重桜陸軍第109師団に所属する第8戦車小隊小隊長
『全軍、進撃開始せよ。戦車小隊は前方へ展開。機械化歩兵の盾になれ!』
無線から、快活な男の声が聞こえてくる。栗林だ。
「了解…」
「少佐、お姫様からですか?」
座上する戦車の砲手が、にやけながら話しかけてくる。
「いや、大将からだ。残念だったな」
「そうですか。それにしても少佐はいいですね~。俺たちの中で1番お姫様たちの声を聞く機会があるんですから」
その言葉に、装填手と操縦手が笑みを浮かべる。
「お姫様たち」とは、陸軍第109師団の幹部のことだ。
「いやいや。階級が2つ違うだけだが、その差は大きいぞ。あの方たちは栗林大将のお気に入りだし、一介の少佐と話すなんて早々ないさ」
内心呆れつつ言う。
砲手が握る17ポンド砲の引き金には、いくつもの写真がテープで固定されていた。そのすべてが幹部たちのもの。
「いやぁ~。女王様な伊刈大佐か、ガテン系の華賀江大佐か、愛らしい小動物こと
「わかったわかった…そろそろ戦闘だ。照準器覗いとけよ。"
栗林から譲ってもらったらしい、幹部の写真を見ながら呟く部下に釘を刺すと、小隊全車へ前進を指示した。
転移前、重桜陸軍が導入したばかりだったロイヤル製の最新鋭戦車――A41"センチュリオン"Mk.1(SE)の搭載する液冷V型12気筒ディーゼルエンジン(630馬力)エンジンが唸りを上げ、重量52トンの巨体を動かす。
整備性の問題と、ガソリンエンジンは燃えやすい欠点があるため、エンジンだけは国産のディーゼルを用いている。
データベース上には、遥かに高出力且つ低燃費なディーゼルエンジンの設計図があったが、争いに懲りた者たちは軍事利用を避け、これ以上技術の深掘りはしていない。
「しかし、車種転換後初の実戦が異世界とは、人生何が起こるか分かりませんね…」
「あぁ…。だが、心配するな。俺たちが乗ってるのは
重桜陸軍は戦車を重視しておらず、18口径57ミリ砲を装備する九七式中戦車、主砲を48口径47ミリ砲に換装した新砲塔型を搭載すれば十分だと考えてきた。
実際、東煌陸軍との戦闘では圧倒的な実力差を見せ、重桜の勝利に貢献してきた。
しかし、いざセイレーンとの戦いが始まってみれば、高火力型セイレノイド――オブザーバーが開発した、4足歩行型の多脚陸戦兵器。M4"シャーマン"程度なら容易に撃破可能な威力を持つ砲塔を背面に搭載――によって九七式、九五式軽戦車は容易く撃破され、初速の遅い57ミリ砲弾、37ミリの小口径弾は小石をぶつけた程度の打撃にしかならなかった。
重桜陸軍が装備するこの2車種を待っていたのは、東煌戦線とは比較にならないほどの、過酷な戦場だったのだ。
この結果に愕然とした重桜陸軍は、東煌との仲介を担当し、お陰で良好な関係にあった北方連合に援助を求めた。
北連は世界最大の陸軍国家であり、装備兵器には高性能なものが多い。
上層部は当時、北連陸軍が大量生産を始めていたT-34/76に興味を持ち、ライセンス生産を申し入れた。
相手方も快諾し、漸く真面な戦車を配備することができたのだった。
その後、T-34の後継車両として、国産の新型戦車が提案された。
傾斜装甲を採用した最大装甲50ミリの車体に、高射砲を改良した75ミリ戦車砲を備えるものであったが、ロイヤルからの兵器売り込みが、それに待ったをかけた。
重桜戦車の低性能を見かねた同国は、軍に採用されたばかりの"センチュリオン"Mk.1をちらつかせてきたのである。
攻防走すべての性能が高い次元で揃った同車は、陸軍上層部を瞠目させ、国産戦車の案をすぐさま却下。
″センチュリオン″の導入を決定したのだった。
足元を見られ、かなり高い買い物になってしまったと兵の間では噂になっているが、その実態は上層部にしかわからない。
『″橘″、″桔梗″はそのまま前進。火砲を最優先で潰せ』
「おっ!神奈川大佐ですね。あの方も可愛いよなぁ…」
スピーカーに設定した無線から、今度は神奈川の声が聞こえてくる。
岩井はそれを聞くと、車内に身を収め、ハッチを固く閉ざした。
点視孔の僅かな視界から外の様子を見ると、散り散りになった部隊の奥に、馬車で牽引された魔導砲を見つける。発射準備さえ整えていないようだ。
回りの兵は、突撃してくる″センチュリオン″を指差し、何かを叫んでいるように見える。
戦車は元より、自動車すら知らない文明だ。
正真正銘の化け物だと思っているのかもしれない。
「目標、前方700の敵火砲。弾種、キャニスター弾!」
「了解!」
岩井の指示通りに、装填手が指定された砲弾を込め、尻栓を閉める。
砲手が17ポンド砲の長大な砲身を、敵の魔導砲へと思考させた。
「撃てッ!」
号令一下、砲手が引き金を引く。
直後、マズルブレーキの先端から炎が噴き出し、一瞬遅れて巨大な砲声が周囲を満たした。
轟音を聞いたせいか、ロウリア兵の動きが止まったが、それが仇となった。
飛翔途中に分解したキャニスター弾が無数の鉄球を放出し、横向きのスコールのように彼らへ襲い掛かる。
魔導砲に取り付いていた兵が、暴風を受けたかのように吹っ飛んだ。
砲本体も、銃弾並みの速度で飛び散る鉄球により、木製の土台や車輪を穴だらけにされ、砲身の重量を支えられずに崩れ落ちる。
「次!距離700の敵火砲!キャニスター弾、続けて撃て!」
僚車も砲撃を開始したらしく、愛車の周囲を絶えず轟音が満たしている中、新たな目標を岩井が指示し、装填手が指定された砲弾を込め、砲手が放つ。
砲声と共に放たれた、大型の散弾とも言うべきキャニスター弾は、魔導砲とその操作員、馬車を押し包むように直撃し、木や肉の欠片へと変えていく。
直後、金属的な叫喚とともに爆発音が車内に届いた。
爆裂魔法を付与させた砲弾が、砲塔正面を直撃したらしかった。
「何か当たりましたかな?」
「敵の砲撃らしいな。だが、俺たちからすれば榴弾のようなものらしい。徹甲弾の類じゃないな」
しかし、"センチュリオン"にはまるで効かない。
火砲を装備しているのは少々予想外だったとはいえ、時代錯誤な球形砲弾を使用する大砲に撃破されるほど軟ではないのだ。
火砲を牽引していたと思しき馬車は、全てが穴だらけのまま横倒しになっていた。
「あの地竜を仕留めとくか。次!距離400の敵地竜!弾種、APDS!」
装填手が指示通り砲弾を込め、砲手が引き金を引く。
97式に乗っていたときから、訓練と実戦で何百回と繰り返してきた動作だ。
三度砲口から発射炎が閃き、直径76.2ミリのAPDS弾が猛速で飛ぶ。
飛翔途中に装弾筒を脱ぎ捨てたそれは、狙い通り地竜の眉間を直撃した。
距離910メートルで192ミリ圧の均質圧延鋼を貫徹できるAPDSは、眉間から尾部を真一文字に貫き、絶叫を上げさせぬまま倒し、胴体を突き抜けた凶弾が後方へ着弾し、その衝撃で数人の歩兵が吹き飛ぶ。
「おぉ…。想像以上です」
「あぁ。完全に威力過剰だった…っと、歩兵がうざったいな」
あまりのあっけなさに拍子抜けする間もなく、今度は歩兵の津波が迫ってくる。
ハッチを開けると、備え付けてあるDshk重機関銃のグリップを握った。
「弓矢の攻撃がちっとばかり怖いが、こいつも使ってやらんとな…」
巨大な弾薬の連なりを装填し、コッキングレバーを力いっぱい引く。
ユニオン製のM2ブローニング重機関銃と同じ口径12.7ミリの機関銃だが、弾薬長が長い分、ストッピングパワーが大きい。
「主砲には常にキャニスター弾を装填しておけ。指示あるまで自由射撃だ」
「了解!」
手短に命じた直後、M2重機関銃と同形状のトリガーを押し込む。
Dshkの太い銃身の先端からマズルフラッシュが連続して発生し、口径12.7ミリの巨弾を毎分600発の速度で敵集団へ送り込む。
M2よりも強力なストッピングパワーで放たれる12.7ミリ弾の前には、兵が纏う防具も、盾も、地竜の硬い表皮も全くの無力だ。
命中した瞬間、身体が文字通り弾け飛び、肉片や鮮血、臓物が荒れ地にぶちまけられ、虫や鳥の餌を大量生産していく。
砲手が足踏み式トリガーを踏んでいるらしく、砲塔正面からも7.7ミリ弾の火箭が伸び、剣を持って突っ込んでくる歩兵を打ち倒す。
『"橘"、"桔梗"はその場で停止。機械化部隊が先行する。両隊は突撃を援護せよ』
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「来やがれ原始人共ォ!!勝負だぁッ!!はっはっはっ!!」
「大将、うざ~い❤」
DP-28(SE)を撃ちまくりながら奇声を上げる上司に、孤狼がそう言った。
直後、彼らの乗る04式に撥ね飛ばされたロウリア兵が兵員室に落ちてくるが、孤狼がナックルダスターの一撃を食らわせ、くの字に折れた死体はどこかに飛んでいった。
「大将、まったく勝負になっていません」
「気にすんな!…弾だ!早く!」
神奈川の突っ込みに短く応えると、弾切れしたパンマガジンを取り外しながら、傍らで栗林の補助に付いている藤堂に弾を寄越すよう指示し、彼女は素早く新しい弾倉を渡す。
「もっと数撃てる機関銃が欲しいぜ…おらぁッ!!」
「ふぐ…ッ!?」
空になったマガジンをフリスビーのように投擲し、ロウリア兵の顔面に突き刺さる。
別に鋭利なものでもないのだが、マガジンの半分程が顔にめり込んでいる。一体どれほどの膂力で放られたのだろうか。
他の04式も、搭乗する歩兵が九九式小銃やDP-28(SE)、PPSh-41で逃げ惑うロウリア兵を容赦なく射撃し、操縦手も躊躇いなく轢き殺していく。
「ひ…ひぃぃぃッ!!鉄の化け物だぁッ!!」
「ぐぎゃ…ッ!?あ、脚がぁッ!?」
「…五月蠅いですわね。ぎゃあぎゃあと」
撃たれ、轢かれ、高速回転するタイヤのスパイクで切り裂かれていくロウリア兵の断末魔を聞き、金髪を長く伸ばした少女が、顰めた表情を浮かべながら言った。
すると、隣で縮こまって震えている少女に声を掛ける。
「万災さん?大丈夫ですか?」
「は…はひ…ッ…
長い銀髪をポニーテールにし、顔の左側へ縦に傷が入った少女――
「落ち着いて下さい。貴女はお強いのですから、心配しなくても大丈夫ですわ」
自身を見つめながらそう言う花笠に落ち着きを取り戻したのか、ぎこちなく頷いたものの、震えは止まらない。
(((可愛いなぁ~…)))
小銃や軽機の銃把を握る兵が、その様を見て内心で呟く。
まるで、初めて会った飼い主に怯えるハムスターのような様子が、彼らの心に響いたらしい。
「ほらお前等、手が留守になってるぞ!(万災が可愛いのはわかるが)撃って撃って撃ちまくれ!」
「「「はッ!!」」」
彼らの心中を見透かしたかのような栗林の指示を受け、全員は気持ちを切り替えた。
(上手いものだ。我が軍の兵士たちも、いずれは彼ら程の練度を持たせたいな…)
同乗しているモイジが、彼らの射撃を見ながら舌を巻いていた。
高速で走る車両からの射撃は、不動状態のそれに比べ、目標へ命中させるのが遥かに難しい。
軽機関銃で弾幕を張る者は兎も角、ボルトアクション方式の99式を持つライフル兵は、ほぼ百発百中の命中率を叩き出している。
幹部や栗林に目が行きがちになるだろうが、彼らも決して雑兵ではないのだ。
(しかし…)
モイジは、兵員室内に視線を移し、席に座る幹部たちを見る。
(本当に彼女らは、《烏の巣》の最高戦力なのか?)
20歳に満たない、普通なら高等学校に通っているような少女たち。
そんな彼女らが軍用車両の兵員室で待機している様は、普通であれば異質に見えるだろう。
しかし、幹部たちはこの状況に眉1つ動かすことなく、ネイルを塗ったり、鋏を磨いたり、床に盤を置いて詰将棋をしたりして待機している。
敵兵の絶叫や銃声、味方が上げる鬨の声を至近距離で聞いても、「どこかで鳥が鳴いてるな」位にしか思っていないようだった。
ただ1人を除いて。
「その…万災殿?無理なら後方で待機しておられた方が…」
怯え散らかす万災を見かねたモイジが声を掛けた。
紹介時に、彼女も幹部の1人だということを知ったが、正直モイジには、まともな戦力になるとは思わなかった。
「大丈夫ですわ、モイジさん。番災さんはこの中でもお強い方ですから」
花笠がフォローするが、モイジは怪訝な表情を隠せなかった。
《烏の巣》軍人たちの人外ぶりの一端は、先の焼き肉パーティーで確認済みだったが、番災もその枠組みに入っているとは思えないのだ。
ただでさえしなやかな肢体を持つ幹部連中の中でも、取り分け細い手足に、既に戦場にいるにも拘らず治まらない怯え。それを見てしまったら無理もないだろう。
ついでに言うと、世間知らずなお嬢様といったイメージしかない花笠も、前線で戦えるのか疑問だった。
因みに、黒烏らがクワ・トイネ公国へ交渉に赴いた際に座乗していた豪華客船「河合丸」を保有しているのが花笠財閥であり、彼女はその御令嬢というわけである。
「…大将、間もなく敵の前線指揮所です」
無線を手にした神奈川が報告した。
「…そっちは海兵隊の連中に任せる。荒川や幹部連中も来てるだろ。俺たちは戦線を迂回し、本陣まで突っ走る」
射撃を継続しつつ、栗林は頭の中で兵力を振り分ける。
現場指揮官のジェーンフィルアが陣取る前線指揮所の殲滅乃至占拠は海兵隊に任せ、陸軍は後方で指揮を執るアデム以下幹部らを殺害するのだ。
特にアデムは、嘗て諸侯の兵士を惨殺したりなど、目に余る残虐行為を繰り返してきている情報が届けられていたため、必ず消したいところである。
「玲!聞こえたな!お前らは奴らの前線指揮所を引っ搔き回してやれぃ!!」
『騒ぐな師匠!!聞こえてるから!!後名前で呼ぶな!!』
『おぉ~?荒川ちゃんと大将、いいカップル~~』
『うっさいぞこのオカマがッ!!』
喧噪が電波に乗って飛び交う中、陸軍兵が乗る04式が戦線を離脱していった。
「ったく…。お前等!さっさとやっつけて帰るぞ!とことん暴れまくれ!」
「「「ヒャッハ~~~~ッ!!」」」
どこの国も関係なく、海兵隊は荒くれ者の巣だ。
鬨の声を上げる彼らを乗せた四式は、既に敗走状態にあったロウリア兵を轢き飛ばしながら、東方征伐軍の前線陣地へ迫りつつあった。
閲覧ありがとうございました。
重桜式電撃戦のやり方は簡単!戦車と機械化歩兵と機動装甲服小隊を用意してアホみたいに突っ込めばいいんだ!
セイレノイドの外観イメージは、実写版『宇宙戦艦ヤマト』に登場したガミラス兵みたいな感じです。
後、機動装甲服小隊はパンドール将軍のところへ向かってる所ですね。