白銀の烏と異世界母港【再演】   作:夜叉烏

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 こんばんは。夜叉烏です。

 久しぶりでございます。設定とか色々迷ったもので…。


【外伝3⃣】死神の指揮下にて②

 

 

 「ふむ。こうして見ると、我々が処理すべき書類はそうでもないですねぇ…」

 

 午前6時半。

 起床時刻まで30分というところで、薙刃桐生大佐は執務机を見て呟いた。

 

 5時半に起床し、書類を自分たちで処理できるもの、黒烏の裁可が必要なもの、見るまでもないもの――黒烏に対して理由もなしに会食を願い出ているもの、KAN-SENを一部引き抜かせろ等といった内容――に分けていたため、執務机の上はすっきり片付いていた。

 

 薙刃や秘書艦でも処理できる書類に集中すればいいため、書類の総量にしては、やるべき仕事は少ない。

 

 ――コンコンッ

 

 「どうぞ」

 

 ノックの音へ反応し、入室を許可する。

 入ってきたのは、ウェーブのかかった茶髪を左から垂らし、王冠を被った女性と、胸元と二の腕を露出させたメイド服を纏う女性だった。

 

 「薙刃大佐殿。指揮官殿より、本日付けで貴方様の秘書艦を担当させていただきます。重巡のエクセターと申します」

 

 「メイドのベルファストでございます。薙刃様の身の回りのお世話をさせていただきます」

 

 恭しく一礼する2人。

 それぞれ薙刃の補助を担う事、周囲の世話をすることについて、不満はないようだ。一応、黒烏の代理人であることから、一定の理解は得られているらしい。

 恐らく、放たれている禍々しいオーラは我慢しているのだろうが…。

 

 「はい。今回はどうぞよろしくお願いします」

 

 「いえ。では、本日の業務は…え?」

 

 書類が溜まっているであろう机上へ目を向けたエクセターだったが、目線の先には綺麗に分別された書類の山。

 

 「あぁ。先ほど、黒烏さんの裁可が必要な書類とそうでないものを分けておりましてねぇ。今終わったところです…それにしても」

 

 机上の一角へ顔を向ける薙刃。

 そこには、煙草の吸殻が無数に突っ込まれた、桜柄の黒い灰皿が置かれていた。

 

 「白銀中将は、相当なヘビースモーカーのようですねぇ。医者の端くれとしては、見逃せません」

 

 「ご主人様がお吸いになられているものは本物のお煙草ではありませんから、体調面での悪影響は見られません」

 

 「なるほど。"無害煙草"ですか…。確かに、煙草臭さはそうでもありませんねぇ」

 

 呟きに対するベルファストの答えに、薙刃は納得したように頷く。

 

 "無害煙草"とは、煙草葉やニコチンを使わず、様々な香料物質を配合して製造された煙草だ。

 燃焼しても有害物質の出ない、食品燃焼性のタールを排出する。

 

 嫌煙・禁煙の風潮が顕著になってきたのと同時期に登場した電子タバコと違い、従来通りの吸い方で他人に迷惑もかけず、身体に悪影響が出ないという、正しく"理想の煙草"と言うべき代物だ。

 ただし、可能な限り本物の煙草に似せているとはいえ、愛煙家からすれば「子供だまし」「まったくの別物」らしく、敬遠されているらしいが。

 

 それでも、決して粗悪品というわけではないため、黒烏は休憩時間の他、戦闘における数々の極限状態の際に、この煙草の世話になっている。

 また、幼い駆逐艦や潜水艦のKAN-SENが多くいるこの母港で、本物の煙草をプカプカと吸うわけにはいかないのと、専属艦との夜伽の際に気になるから…というのも理由の内だ。

 

 「まぁ、いくら無害とはいえ、何事もやりすぎは体に毒ですからねぇ…」

 

 「というより…薙刃殿、いつから書類の整理を?」

 

 綺麗に纏められた紙束を揃え、そう訊くエクセター。

 

 「昨夜遅くに、黒烏さんから泊地運営の代理を任されてから…ですねぇ。5時半に起床してまた整理していました。女性のベッドに寝転がるのもあれなので、執務室の椅子で仮眠を取りましたが」

 

 執務机とセットになっている椅子は、それなりに座りやすく疲れにくいよう作られた一品なのだが、所詮は椅子。

 常人が座ったまま長時間寝ていれば、身体のあちこちが痛くなるもので、寝起きの良さはベッドで眠った時とは比べ物にならない。

 

 薙刃にとってはそうでもないのだが…。

 

 「…その、遠慮なさらなくとも、仮眠室はご自由にお使いしていただいて構いませんが…」

 

 ベルファストが言った。

 エンタープライズの生活習慣を矯正すべく奮闘していた彼女からすれば、椅子で眠った薙刃の行為は目に余ったようだ。

 嘗ての生活習慣がぶっ壊れていたエンタープライズでさえ、寝るときはベッドへ横になっていたというのに…(なお、着替えることなく寝ていたが)。

 

 「そういえば、私が代理人として暫く母港を仕切るお話は、艦隊へ伝わっているのですか?」

 

 話題を変えた薙刃。昨晩、急に母港運営の代理を任務を伝えられたのだから、この事実を把握していないKAN-SENがいるのではないかと思ったのだ。

 

 「えぇ、各陣営の責任者にはお話ししてありますし、食堂の掲示板へ重要事項として張り出されていましたから。ですが、薙刃殿を初めて知る方も多いため、この件についてピンと来ていない方も多いかと…」

 

 普段、第2医務室か"夜桜"の本部へ引き篭もっていることが裏目に出たようだ。

 この2人と専属艦の他、一航戦、ヨークタウン姉妹、ビスマルク姉妹等、彼の存在を知る者は、一部の古参や陣営のリーダー的存在のみ。

 

 一応、代理人が指揮を執ることを知らせているとはいえ、「え?代理人?そんな人いたの?」と、混乱している者が多かった。

 

 「…いいでしょう。朝食までに、ある程度書類を片付けてしまいましょう。この程度の量なら、午前中に終わると思いますよ」

 

 

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 空母KAN-SEN『赤城』の心中は、8割の使命感と2割の不満で占められていた。

 

 先日、各陣営の責任者を集めた黒烏からの伝言――『本土に呼ばれて泊地を留守にするから、その間薙刃に指揮を代行してもらう』という言葉に、最も不満を見せていたのが彼女だった。

 

 黒烏の命令であれば、反論することなく従う赤城であったが、黒烏が母港を留守にすることも、別の者が引き継ぐことも不満に感じた。

 共に黒烏の伝言を聞いていた長門は、特段感情を表すことはなかったのだが。

 

 急になって、それも陣営の責任者や古参艦に限って伝言を残したのは、大鳳、隼鷹、ローンといった、一癖も二癖もある面子を考慮してのことだろう。

 普通なら一週間ほど前に知らせるだろうが、そうすれば彼女たちの妨害に遭うのは明らかである。

 

 『重桜空母KAN-SENの総括たる貴女が、私の不在ごときでグチグチ言わないわよね?』

 

 試すような口調で本人から言われてしまえば、赤城も黙らざるを得ないし、自身の立場と職務も分かっている。

 一航戦の旗艦として、重桜空母KAN-SENの総括としての任をこなし、黒烏の期待に応えなければならない――という使命感に燃えていた。

 

 それでも、多少の抵抗感はある。

 第一、その代理人とやらには会ったことすらないのだ。他の陣営責任者も同じくである。一応、『そういう役目を持つ人物がいる』程度には知っているのだが…。

 

 ――なお、これ以前に黒烏が不在だった時期もあるのだが、丁度その時も薙刃率いる"夜桜"は世界中の不穏分子潰しに駆り出されており、指揮官の代行はエクセターに任せていた。

 

 「姉様。いつも通りでお願いしますよ?」

 

 心中を察したように、加賀が言ってきた。不満を表に出したつもりはないが、見抜かれていたようだ。

 

 「…指揮官様は私たちに『代理人の指示へ従うように』と仰せになられたわ」

 

 あくまで指揮官の命令に従うまでであり、代理人に心を許すつもりはない――そう言外に込め、きっぱりと告げると、赤城は話題を変えた。

 

 「それより、加賀は今朝のメニュー、何にするのかしら?」

 

 「私は鮭の塩焼きにしようかと」

 

 妹分に笑顔を見せつつやり取りを交わし、それぞれ目的の膳を取ると――赤城は珍しくバターロールとベーコン&エッグの洋食セット――、席について食事を始めた。

 

 「指揮官、いないんだぁ~。ちょっと寂しいねぇ」

 

 「そりゃそうよ。私たちを率いる唯一の人材なんだから。上層部も危険視してるんでしょ」

 

 「…もしかして、接待と称してあんなことやこんなことさせられちゃったり…?」

 

 「あら、どうしましょう?イライラする(^^)

 

 「ローン。抑えなさい」

 

 食堂内の喧騒を聞きながら食を進める一航戦。大戦以来続いている平和な日常を感じていると、また別のKAN-SENが食堂へ入ってきた。

 

 「おっはよ~!」

 

 変わった髪飾りに、白と黒の身体にフィットする服、腰に提げた剣の柄、コートを羽織った女性が、気さくな挨拶と共に現れる。

 彼女はKAN-SEN『ニュージャージー』。セイレーン大戦終結から間もない時期に、ユニオンから派遣された戦艦のKAN-SENであり、実戦経験は皆無ながら、演習では常にMVPを獲得している猛者である。

 

 「…朝から元気だな、お前は」

 

 「そういう貴女は朝から怖い顔してるわね、加賀?」

 

 加賀からすれば、フレンドリーが過ぎる性格のニュージャージーは苦手だった。実力の程は認めているのだが…。

 

 「あ!そうそう、指揮官がいなくて代理人の人が指揮を執るとか書いてあったけど、あれホントなの?というか、代理人なんていたの!?」

 

 「あぁ、お前も知らない奴だったか。ま、ここの奴らは大体そうだが」

 

 「本当よ。直々に指揮官様から伝達されたことですもの」

 

 ニュージャージーも、ユニオンの代表に相応しい実力の持ち主だが、ここでは新参者だ。慣れるまでは、引き続きエンタープライズが代表を務めている。

 当然、各陣営のトップのみを集めた黒烏からの伝言は聞いておらず、今朝の掲示板で全てを知ることとなったのだった。

 

 「え?誰も見たことないの?そんな人が指揮を執るって、大丈夫?」

 

 当然の疑問だろう。見ず知らずの人物の指揮に身を委ねなければならないのだから。

 

 「…正直、完全には納得できてはいないわ。私も会ったことがないし…」

 

 急になって、それも陣営の責任者にだけ伝言を伝えた理由は、大体想像がつく。

 大鳳、隼鷹といった面子を警戒してのことだろう。

 

 事前に伝えていようものなら、黒烏を迎えに来て待機している船舶やら飛行機やらに片っ端から爆撃や機銃掃射を浴びせて破壊し、本土に行けなくしていたであろう。

 一応、無辜の生命と美しい蒼海を守るというKAN-SENの本分は自覚しているはずだが、黒烏が絡んだ事案でこの2人が真面な行動を取った試しがないため、断言はできない。

 

 ローンも危険人物として外せないし、鈴谷、デューク・オブ・ヨーク、愛宕といった危険人物予備群扱いされている面子にも目を光らせなければ…。

 

 『指揮官様ぁぁぁぁっ!!??』

 

 『嘘でしょうッッッ!!??』

 

 入口の方から、件の人物たちの悲鳴が聞こえてきた。

 暫し間を置いて、ずかずかとKAN-SEN『大鳳』『隼鷹』が食堂内へ入ってくる。ちゃっかり膳を持っている。

 

 手に持った膳を、近くにあるテーブルへ叩きつけるように置くと、陣営の代表の片割れである赤城に向かって迫る。

 

 「どういうことですの、赤城さん!?あのような事実、聞いてもいなければ受け入れられる筈もありませんわッ!!」

 

 「貴女ほどの地位にいる方に、指揮官が事前に伝えないとは思えませんね。…本当のことを教えてくださいませんか?」

 

 重桜空母KAN-SENの総括に対する言葉遣いには到底思えない、片や叫ぶような、片や冷静ながらも内心では怒りが渦巻いていそうな声。

 それぞれ、鉄扇と重桜刀に手が掛けられており、赤城の返答次第では斬りかかってくるに違いなかった。

 

 愛が重い者たちが作り出す険悪な雰囲気に、周囲の席に着くKAN-SENたちは巻き込まれまいと慌てて移動する。

 面倒事に巻き込まれては敵わん…とばかりに、加賀も箸を咥えたまま、鮭の塩焼き定食が乗ったお盆と共に避難した。

 

 「…私は、指揮官様の御命令に従ったまでよ」

 

 素っ気なく応える赤城。

 彼女らと同じように、愛が重い勢に属する彼女だが、黒烏のことで周りが見えなくなるほどではない。

 命令に対する不満も抱いたりもする。それでも、指示を違えることはなく実力で成し遂げてきた。

 

 「貴女…!!」

 

 閉じた鉄扇を、目にも止まらぬ速さで横薙ぎに一閃する大鳳。隼鷹も無言で、軽い居合を放った。

 名のある剣士でも、決して目で追えない一撃。某大秘宝を探す海賊アニメでも通用しそうな業だ。

 

 「…」

 

 赤城は無言で、赤い式神を人差し指と中指で摘まんで取り出す。その直後、赤い炎が噴き出した。

 その炎は赤城の掌の中で形を変え、全体が赤く染まった重桜刀となる。

 

 ガキィィィ…ンッ!!

 

 3つの得物がぶつかる寸前、その間へこれまた赤い刃物が差し入れられた。

 赤城が持つ刀よりも深みのある、鮮血のような赤色が特徴的な大鎌だった。

 

 「…何なのですか?朝早くから。騒がしいですよ」

 

 血の凍るような男の声だった。

 恐る恐る、3人は視線を横に移し、大鎌の持ち主を視界に捉えた。

 

 男性にしては長めの黒髪、黒くつばの長いハットに黒いコート、俗に言うイケメンな顔立ち。

 右手に大鎌、左手に料理の乗ったプレートというアンバランスな組み合わせだが、そんなものは彼から発せられる殺気でどうでもよくなってしまう。

 

 雌しべの部分が、3つの勾玉が絡み合うようになっている桜のパターンが浮かんだ瞳で見据えられ、蛇に睨まれた蛙のように動けない。

 

 「さぁ。他の皆様の迷惑になりますから、凶器を収めてください」

 

 黒烏以外の人物の命令なら、余程の理由がない限り、この3人は絶対聞かないだろう。

 だが、殺気を撒き散らすこの男からは、カリスマというか、不思議と従いたくなるような感覚を覚える。

 

 KAN-SENを率いる指揮官の"適正"を持っていること、そして彼が黒烏の代理人だということを、この場の全員がたった今察した瞬間だった。

 

 反射的に、3人はそれぞれの得物を仕舞った。

 

 「…あぁ、皆様初めまして。この度、黒烏さんより代理を言いつけられました。薙刃桐生大佐です」

 

 思い出したかのように、その場の全員に対して自己紹介を行い、恭しく一礼する薙刃。如何にも紳士と言わんばかりの所作に、自然と姿勢を正してしまう。

 

 (あぁ…危険な匂い…❤❤それに関しては指揮官よりも良いかも…この感じ…❤❤)

 

 「ろ…ローン?」

 

 (邪神の如き佇まい…この男の元で腕を振るうのも、悪くはなさそうね…♪♪)

 

 「む、惚れてしまったのか?ヨーク。珍しいな」

 

 危ない笑みを浮かべながら、薙刃を見つめるローンとデューク・オブ・ヨーク。黒烏以外の人物に特段興味を持たない彼女らにしては珍しい。

 

 それだけ言って自己紹介を済ますと、自らの膳を持って適当な席に着き、ブロック状の固形栄養食を齧りながら、片手で医学書を読み始めた。

 

 (…なるほど。中々面白そうな代理人だな)

 

 横目で彼を見ながら食事を再開した加賀は、強者の存在に内心ほくそ笑んでいたが、大多数のKAN-SENは依然薙刃の食事シーンを、畏怖しながら遠巻きに眺めていた。

 

 

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 (…っ!?悪寒が…!薙刃大佐、まさか変な騒ぎ起こしてないわよね…?)

 

 「…白銀中将っ!!話をしっかり聞き給えっ!!」

 

 「まぁまぁ。君、彼女も疲れているんだから」

 

 「…申し訳ございません」

 

 背筋を幽霊に舐められたかのような感覚を覚えた黒烏は、会議に参加していた重桜海軍の大将からの指摘に姿勢を正す。

 

 旅客機に改造された二式大艇に乗り、硫黄島から横須賀までの長距離飛行を終えた後は、その疲れが癒えないまま軍令部へと招集、会議に参加させられた。

 昨夜9時の定期便に乗り、横須賀へ到着したのは朝4時。移動間に睡眠をとったが、いつものようにふかふかのベッドで寝たわけではないため、身体のところどころが若干痛いし、気を抜けば居眠りしそうになる。

 

 「確かに、君のところはセイレーン大戦における最前線だった。虎の子のKAN-SENたちを集中配置したのもそれ故だ。だが…平和になったこの世の中、それは最早無意味なんだよ」

 

 KAN-SENの一部を他の軍港へ配置させるべき…と、言外に主張している軍令部の参謀長。

 しかし、黒烏の答えは否だった。

 

 「承諾しかねます。先のセイレーン大戦は、戦いの序章に過ぎません。下層個体相手の戦闘であれです。中層以上の個体が出張ってきた場合、より苛烈な戦いになることは間違いありません」

 

 赤城・加賀両名を裏で操り、巨大戦艦『オロチ』を乗り回して戦線を引っ掻き回したオブザーバー以下セイレーン。

 そんな強敵でも、末席である下層端末なのだ。彼女らが再び出現したり、より強力な中層・上層端末が出張ってくるのは容易に想像できる。

 

 また、セイレーンの人型個体を倒しても、新しい身体に意識を入れれば再び復活する。つまり、完全な消滅は実質不可能だ。

 人類の混乱を望んでいるセイレーンのことであるため、また争いの種を蒔いてくるのではないかと、黒烏は分析していた。

 

 「ふむ…」

 

 納得した様子の参謀長。重桜海軍の元帥とは海軍兵学校の同期であり、砲術を先行していた男なのだが、黒烏の存在に対しては好意的に捉えており、理に適っていれば彼女の意見にも賛成する程度には信頼している。

 未だ、元セイレーン出身である黒烏を排阻的な目で見る者が多い海軍内でも珍しい、黒烏擁護派の一員だ。

 

 出席している将官の何人かは、忌々し気に顔を歪める。

 

 (ちっ…!アンタらにはうちの娘たちは絶対渡さない…!)

 

 重桜各地の鎮守府を任されている者たちだ。戦力の問題だけでKAN-SENを欲しているわけではないだろう。

 見目麗しい彼女たちがどうしても欲しいのだろうが、そんな要求を容れるわけにはいかない。

 

 「まぁまぁ、怖い顔をするな黒烏よ。これ食うか?水饅頭。参謀長も」

 

 「糖尿になるわこの甘味親父ッ!!」

 

 50を少し超えたと思しき将官が器を差し出す。彼こそ、重桜海軍を統括する元帥なのだが、参謀長の態度は上官へ口を利くものとは思えない。

 同期とはいえ、今は公式の場であるため、この口調での会話は言語道断なのだが、この2人には当てはまらない。

 

 (早くお姉ちゃんのとこに行きたい…)

 

 思わず――無論内心で、である――独り言ちる黒烏。しかし、言葉には出さずとも態度には表れていたようで、先ほどの将校が声を上げた。

 

 「黒烏中将ッ!!貴官は真面目に会議へ臨む気があるのk」

 

 色々と溜まっていた黒烏の何かがキレた。

 椅子に立てかけてある"紫雲神去"の鯉口が切られる。

 

 キンッ!!

 

 「「「…ッ!!??」」」

 

 暢気に水饅頭を頬張る元帥と、それを見て呆れる参謀長を除いたすべての将校が、自身の首に両手をやる。

 首を斬られた、殺された――鯉口を切っただけでそう錯覚してしまうほどの、凄まじい怖気が全員を襲ったのだ。

 

 「参謀長、コーヒーを淹れてくれ。濃いやつを頼む」

 

 「従兵に頼みやがれッ!!このシュガシュガの実の砂糖人間がッ!!」

 

 これ以上ないほど混沌(カオス)な状況が現出している会議室には、この2人のやり取りだけが響いていた。

 





 薙刃さん率いる艦隊の演習風景も書こうかなと思いますが、本編の方も進めたいですね…。
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