白銀の烏と異世界母港【再演】   作:夜叉烏

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 外伝進めてばかりもあれなので、さっさと本編進めます。

 タグにもありますが、本作品のムー・ミリシアル両国は強化入れてます。
 色々オリ兵器とかありますのでよろしくです。

 作者のYouTube(https://www.youtube.com/channel/UCUn4CBwIg1kM4rdr-AkW3Cg/videos)


衝撃のムー国
ムーの守護翼


 

 第二文明圏の列強ムー国の首都オタハイト。

 そこへ土地を持つ軍民共同のアイナンク空港では、軍関係者やムーの航空企業『ラファーネ』の技術者が滑走路に集まっていた。

 同社が開発した新型戦闘機の採用を賭けた飛行試験と、既存機――それでもまだ旧式機とはいえない――である37年式戦闘機"マリン"との模擬空戦が待っているのだ。

 

 「ついに来たな、この時が…!」

 

 ムー統括軍情報通信部に所属する技術士官、マイラス・ルクレールも軍関係者の中にいた。

 

 中性的な顔を歓喜に染め、新型機の雄姿を眺めている。

 彼は直接その機体の設計に関わったわけではないが、若手ながら『ムー軍随一の技術士官』との呼び声の高い彼は、未だ複葉機しか開発してこなかったムーで初めての単葉機、そして設計主任の運用思想に感銘を受け、この機体の開発を支持し続けてきた身だ。

 

 何が何でも採用してもらわねば困る…そんな思いで、この試験に参加していた。

 

 「やぁ、マイラス君。来てくれたのかね?」

 

 「グラディア主任!」

 

 白いワイシャツにネクタイ、黒のズボン、白い白衣に腕を通している、如何にも技術者ですと言いたげな、40代前半程度の男性が、マイラスに話しかけてくる。

 

 彼こそ、新型機の設計責任者であるグラディア・カルポリポフである。

 敏腕の航空技術者であり、四発旅客機である37年式旅客機"ラ・カオス"の開発にも携わった。

 

 今回開発した新型機が採用されるかは不明だが、どちらにせよ『ムー初の単葉機を開発した技術者』として後世に名を残すことになるのは間違いない。

 

 「さて、お堅い軍部が納得してくれるかな?」

 

 「もししなくても、させて見せますよ」

 

 不安げな表情を見せるグラディアを元気付けようと、マイラスが拳を握りしめながらそう言いつつ、駐機場で整備員に身を任せている機体に目をやる。

 暖機運転はすでに始まっており、発動機が唸りを上げていた。

 

 その機体は、"マリン"を見慣れた身からすればあまりにも先進的で、同時に無骨であった。

 太く短い胴体を持つ、寸詰まりでずんぐりした外観は虻を思わせる。しかし、離れた場所に駐機してある"マリン"よりも力強さを感じさせた。

 

 39年式戦闘機"アナクス"。

 ムーが開発した初めての単葉戦闘機だ。

 

 密閉されたスライド式のコクピット、引き込み脚、推力単排気管、純モノコック構造の全金属胴体、操縦席後方に5ミリ厚の防弾板、全速降下に耐えられる頑丈な機体構造などなど、革新的な機構をふんだんに詰め込んだ最新鋭機である。

 武装はガエタン工業製の35年式8ミリ機銃を機首と両翼に2丁ずつ。ガラッゾ社製の空冷星型9気筒エンジン(700馬力)を搭載しており、速度性能は"マリン"を上回るとみられている。

 

 外観は、北方連合の航空機I-16と瓜二つ。

 違いといえば、一式戦"隼"と同じ前縁直線翼であること、全長がI-16よりも長いこと、艦上戦闘機としての運用も視野に入れられているため、操縦席の取り付け位置が前よりで、燃料の搭載スペースも多いこと位だ。

 

 「さて、開始時刻だ」

 

 試験飛行の時刻になり、"アナクス"に取り付いていた整備員が輪留めを払う。

 

 やや不格好ではあるが、ムーの空を守る新たな翼が、滑走路へと進んでいった。

 

 

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 "アナクス"の操縦桿を握るのは、ムー国空軍所属のアルビノ・ヴァイツ少尉だった。

 本土防空隊に所属している彼は、空軍でも指折りのエースパイロットであり、最新鋭機の試験飛行を担当することとなった。

 彼としても、ムー初の単葉・全金属製戦闘機を操縦するのは名誉なことだと思い、喜んで"アナクス"の操縦桿を握っている。

 

 (隙間風が入らないのは良いが、まるで牢屋に入れられているみたいだ)

 

 軽やかに離陸した自機の飛行性能に感嘆しながら、同時に不満を胸中で漏らした。

 

 ムー国のガラス加工精度は発達段階であるため、"アナクス"の操縦席を密閉する風防ガラスは窓枠が多い。

 それが鉄格子のように思えてしまい、牢屋に入れられているような感触を覚えたのだ。

 

 「上昇力は大したことないな。"マリン"よりは良いが、圧倒的に優れている訳でもない」

 

 高度計の針が3500メートル地点まで回ったところで、"アナクス"は無線で操縦した感想を報せる。

 エンジン出力は"マリン"よりも100馬力上だが、重量はその分嵩んでいる。上昇力がそうでもないのはそのせいだ。

 

 (隙間風も入らんし、電熱服とやらのお陰で寒くもない。少々嵩張るが…)

 

 "マリン"であれば、上空3000メートル以上まで昇ることはできない。

 機体は大丈夫でも、開放式のコクピットで機体を操るパイロットが、高空の冷気によって命の危険に晒されるためだ。

 新たに開発された酸素マスクと電熱服を標準装備としている"アナクス"には、その心配はない。

 

 その間にも、機体は上昇を続けている。以前までは未知の高度だった空域を昇り続けるが、空気が薄くなったせいか、遅々とした歩みだ。

 もう少し高性能な発動機に換装されれば、上昇力の問題も改善されるだろう。

 

 「現在、高度7500。これ以上は無理だ」

 

 今、自分はムーで一番高いところにいる――そんな感動を覚えつつ、冷静な口調で報告する。

 電熱服を纏っていても、寒さが伝わってくる高度だ。

 

 無線機の向こうからは、驚きの声や歓声が僅かながら聞こえる。

 ムーの航空史における快挙なのだから、仕方ないことだろう。

 

 『少尉、急降下の試験に移ってくれ』

 

 「了解」

 

 通信相手の指示に従い、高高度の薄い空気に喘いでいた機体を何とか動かす。

 機首を下げ、エンジンスロットルを開き、急降下へと転じた。

 

 雲と海が視界の全てを占め、降下速度が段々と上がっていき、高度計の針が凄まじいスピードで回転する。

 "マリン"をはじめ、従来のムー国の飛行機では絶対にできない機動だ。

 

 速度計の針が振り切る手前、時速700キロに差し掛かろうとしたところで、機体が不気味な振動に見舞われた。

 大気の抵抗に耐えかねたかのように震え、それに眉を僅かに顰めたアルビノは、咄嗟に操縦桿を引いて機体を水平に戻す。

 最高時速である442キロを超えるか超えないかといった速度帯に落ち着き、異常振動も収まった。

 

 「時速700キロ手前にて異常振動を確認したため、水平飛行に戻りました。現在、高度4500」

 

 今まで経験したことのない速度性能に手を震えさせながら、努めて冷静を保ちつつ報告。

 地上からどよめきが起きるが、それもすぐのこと。

 

 『分かった。着陸して少し休んでくれ。予定通り、次は模擬空戦を行う』

 

 「了解。帰還します」

 

 そう言うと、操縦桿を前に倒し、高度を下げていく。

 高度5000メートルを超えてからは息をつきっぱなしだった700馬力のエンジンは、3000メートル以下の低高度に降りるや活気を取り戻し、機体を軽やかに引っ張り始めた。

 

 「お、急に素直になりやがった」

 

 高高度を這うような速度で昇っていた時とは比べ物にならないほど機敏に反応する機体に、思わずそう呟いた。

 

 

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 「はぁ…」

 

 試験飛行・"マリン"との模擬空戦が終わった後、アイナンク空港の休憩スペースではマイラスが溜息をついていた。

 

 最新鋭戦闘機"アナクス"のお披露目は成功したと言っていい。

 トラブルもなく、万全の状態でテストに臨むことができたし、その性能も見せつけることができた。

 

 しかし…。

 

 「あれは一撃離脱専門の機体だって言ってるだろ…何が『旋回性能は"マリン"に比べて悪い。これでは話にならない』だよ…」

 

 試験の場に居合わせた軍高官の言葉を思い出し、苦言を呈する。

 

 ほぼすべての性能で"マリン"を上回る結果を叩き出した"アナクス"だが、唯一"マリン"に劣っていた旋回性能が、評価者の印象に残った。

 

 これまで複葉戦闘機を運用していたムー軍において、一撃離脱戦法はまだ未知の概念だった。

 "マリン"をはじめ、複葉機特有の卓越した旋回性能によって相手を追い詰めることで、敵機を撃ち落とす格闘戦を主眼としているのだ。

 なお、遥かに劣速のワイバーン相手は、単純な速度性能によるゴリ押しで戦うことが多い。

 

 一応、設計主任のグラディアからは一撃離脱戦法を前提とした機体と説明はされたが、その戦法自体に空軍は懐疑的であり、

 

 『速度性能が優れているのは認めるが、上昇力はそうでもなく、旋回性能は話にならない。このような機体では役に立たない』

 

 『酸素ボンベや電熱服、格納脚の採用によって1機辺りのコスト・工数が"マリン"よりも多い』

 

 『"マリン"に同機のエンジンを積んだ方が良いのではないか』

 

 という意見が出たのだ。

 あれほどの性能を示したというのに、まだ上は納得しないのか…と思う。

 

 恐らく、上層部は"マリン"のような複葉戦闘機に絶対の信頼を置いているのではないか。

 それがマイラスの見解だった。保守的に過ぎるのもどうかと感じるが。

 

 「というか、機体に限ってはそこらの町工場でも製造できる位には簡素にできてるんだぞ。酸素ボンベも電熱服も、パイロットのコンディションを整えるためには必要だろ…」

 

 上層部に対する恨み事は尽きず、休憩スペースを訪れた職員はぶつぶつと呟くその様子に不気味さを感じてしまい、無意識に距離を取ってしまうのだった。

 彼の上層部に対する嫌悪は、外交官に話しかけられるまで続いた。

 

 ――しかし、ロデニウス連邦との接触によって、この機体が後々化けていくことになるのだが、この時のマイラスには思いもしなかった。

 





 外伝もほどほどに書いていきます。
 急に新装備が出てきたら、『あ、外伝の方で魔帝の遺跡から発見された兵器絡みだな』って思っておいていただければ。
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