白銀の烏と異世界母港【再演】   作:夜叉烏

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こんにちは。夜叉烏です。

 後半、苦手な描写だから上手く書けたか心配…。

作者のYoutube
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猫と猛虎の働きどころ

「いいか?相手が何であれ、一撃を加えたら戦果に拘らずに離脱だ。ペアを崩さず連携を密にしろ!」

 

 『『『了解!』』』

 

 ロデ二ウス連邦海軍第1航空艦隊の空母『チョモール』の戦闘機隊小隊長ムーラ・フラッツァ大尉の指示に、小隊の部下3人が無線越しに返事した。

 

 現在、ロ連海軍は急速な近代化を実施しており、最初は改造ガレー船が主力だったが、最近は《烏の巣》の建造ドッグをフル稼働させ、キューブ建造や可塑性ロボティクスアーム、パワードスーツを纏ったアンドロイド"饅頭"を全面的に導入することで、短期間での建造を可能にしている。

 

 第1航空艦隊は、チョモール級空母2隻を基幹としたロ連海軍初の空母機動部隊であり、ロ連海軍仕様の金剛型(ゼイルガルーダ級)戦艦2隻、ボルティモア級(グリティムグ級)重巡2隻、ファーゴ級(ナンセム級)軽巡4隻、アレン・M・サムナー級(ダッケル級)駆逐艦16隻で構成された艦隊だ。

 現状、ロ連海軍の真面な水上部隊はこれだけであるが、最終的にはチョモール級以上の大型空母を有する大規模機動部隊を創設する予定だ。

 

 そして今、この部隊は《烏の巣》所属のKAN-SENや軍人たちから指導を受けている真っ最中だった。

 

 『分隊長!敵機、右下方!』

 

 小隊2番機からの報告を聞き、ムーラはその方向を見る。

 蒼海の中で、4つの胡麻粒のような物体が飛んでいるのが分かった。

 

 「敵は"ゼロ"!格闘戦は厳禁だ!一旦やり過ごして後ろから仕掛ける」

 

 相手の機種を見抜き、小隊全員に注意喚起しつつ指示を飛ばす。

 

 血気盛んなパイロットであればすぐさま降下し、前上方から仕掛けるところだろうが、ムーラは敢えて待った。

 馬鹿正直に前方から攻撃を仕掛ければ、回避される可能性大だ。それに、今回の相手は運動性能に優れた零戦である。

 後ろ上方という優位な位置から仕掛けると決めた。

 

 愛機――グラマンF6F-5R"ヘルキャット"が整然たる編隊を組み、敵戦闘機の斜め上方を通過していく。

 擦れ違って10秒ほど巡航速度で飛行したところで、ムーラが指示を飛ばした。

 

 「かかれ!」

 

 操縦桿を倒し、降下に転ずる。小隊各機も同様だ。

 6トン近い機体重量を持つF6Fの機首が下向き、ごつい機体がぐんぐんと加速していく。

 

 嘗て、竜騎士として相棒の背中に跨っていたときとはまったく違う速度感は、航空機パイロットに転職してからかなり驚いたものである。

 巡航速度で飛行している零戦の後ろ姿が、急速に拡大する。

 

 後方から接近してくるF6Fに気付いたらしく、零戦4機がほぼ同時に機体を捻り、回避を試みる。

 確かに素早い横転動作だが…。

 

 「そこだッ!」

 

 発射ボタンを押すや、両翼に発射炎が閃き、太い4条の火箭が吹き伸びる。

 横転し、下腹を見せた零戦の機体底面に火箭が突き込まれ、一瞬でバラバラに砕け散った。

 

 ほぼ同時に、小隊4番機の射弾も零戦を捉え、撃砕されたエンジンから炎を黒煙を噴き出しながら真っ逆さまに墜ちていく。

 

 「手はず通りだ!残りはペアで追い詰めろ!」

 

 ムーラと小隊2番機、3番機と4番機が2機1組のペアに分かれ、それぞれの零戦に向かっていく。

 

 ムーラが狙っている零戦は水平旋回に入っており、内懐に回り込もうとしていた。

 それを見て、彼も操縦桿を傾けてフットバーを踏み込み、水平旋回に入る。

 

 本来なら、あっという間に零戦が鈍重なF6Fの後方へ回り込み、20ミリ弾を浴びせて撃墜している筈だった。

 しかし、ムーラの乗るF6F-5Rは、在来型よりも小さい旋回半径を描き、零戦に食い下がっている。

 

 ――このF6F-5Rは、《烏の巣》泊地の倉庫で埃を被っていたF6F-5を引っ張り出し、エンジンを2300馬力の離床出力を誇るR-2800-32Wに換装、武装をイスパノ 20ミリ機関砲4門に改め、ブレード材質を見直して軽量化した直径4.2メートルの四翅プロペラへの交換といった改造を施した機体なのだが、その他に自動空戦フラップを搭載しているのが特徴だ。

 これら改造により、速力・上昇力、火力、運動性能、爆弾搭載量が格段に向上している。

 

 自動空戦フラップと2300馬力のエンジン出力にものを言わせて食らいつくが、やはり零戦相手の格闘戦は終わる様子を見せない。

 しかし、今のムーラには頼りがいのあるペアがいる。

 

 暫し後ろを取り合っていたムーラと零戦だったが、後者の横合いから太い火箭が飛んできた。前方へ差し出された火箭に突っ込む格好になった零戦は、エンジンを真横から一撃され、機首から眩い炎を噴き上げた。

 

 『隊長、一丁上がりです!』

 

 「よし、よくやった!」

 

 基本、零戦相手の格闘戦は厳禁だが、ムーラは敢えてそれを実行して誘い込み、部下へ撃墜の機会を与えたのだった。

 

 『こっちも墜としました!』

 

 小隊の3番機も、ペアと共同で零戦撃墜の戦果を上げたようだ。

 

 『お前たち、よくやった。レンジャー殿の評価も上々だぞ!』

 

 飛行長から連絡が入り、やっとのことで肩の力を抜くことができた。

 教官役として空母『チョモール』に乗艦しているKAN-SEN『レンジャー』は、優し気な雰囲気と口調に依らず、厳しい教練を課し、その出来に対する評価も辛口だ――それでも姉妹艦『ギマイル』に乗艦しているラングレーよりは優しい――。

 

 そんな教官から高評価を得られたのだ。胸の内に熱いものを感じてしまう。

 

 (さて、次の相手は何かな?)

 

 帰艦途中、ムーラはそんなことを考えていた。

 訓練相手は、《烏の巣》の倉庫に眠っていた退役済みの航空機(饅頭が操縦)なのだが、空を飛んで相手を視認するまで、敵機がどんな機体なのかは知らされていないのだ。

 

 今回のように零戦が相手だったこともあれば、F4U"コルセア"、Bf-109T、シーファイア、烈風とも戦ったことがある。

 特に、速度性能と運動性能を高い次元で両立させた烈風は始末の悪い相手であり、何度も撃墜判定を喰らったものだ。

 

 それでも、在来型から向上したF6F-5Rの速度性能と運動性能、そして僚機との連携を活かした立ち回りで、烈風相手にもある程度対抗できるようになってきたところだった。

 

 「着艦するぞ!…ないとは思うが、フックを引っ掛け損ねてやり直しなんて格好つかないことはするなよ!」

 

 部下にそう指示を飛ばすと、フラップと脚を下げた機体を飛行甲板へと滑り込ませていった。

 

 

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 《烏の巣》には、各陣営の国営企業から派遣された多くの技術者と設備を収容する区画が、陣営毎に整備されている。

 

 クロキッド社の《烏の巣》支部が所有する航空機用の格納庫に、2つの人影があった。

 

 「いや~…見れば見るほど信じられないにゃ。これ、ホントに()()なのかにゃ?」

 

 「うむ。かなり様変わりしたが、確かにそうだぞ。…本当ならこいつが重桜空軍の主力になるはずだったのに、忌々しいコミュニスト共め、余計な真似を…」

 

 「お、落ち着くにゃ!文句ならお偉方に言ってくれにゃ!」

 

 ブツブツと恨み節を吐くユニオン人技術者の男を、KAN-SEN『明石』が何とか宥める。

 重桜と北方連合のお偉方に文句を吐こうにも、彼らのいる前世界に男の訴えは届かない。

 

 「まぁ、異世界で活躍の場を与えられたのは嬉しいが…。巷ではこいつのことを『やられメカ』扱いしているならず者がいるらしいじゃないか。こいつの底力を見せるいい機会だ」

 

 パキポキと指の関節を鳴らしながら、目の前の機体を不敵な笑みを浮かべながら見つめる男。

 

 液冷エンジン機であることを示すほっそりとした機首と、主翼付け根のオイルクーラーが特徴的な戦闘機だ。

 その他、爆撃機と思われる単発複座の機体も駐機してある。

 

 ムー国へ供与する予定の機体として、航空技術者である男が選定したものだ。

 

 「あと、R-1820エンジンも搔き集めたぞ。ムーにとっては丁度良い位の性能だろう」

 

 「エンジンもこいつらもなるべく相手の足元を見てなるべく高く売らせるにゃ。ムーも国が滅びるのだけは回避したいところだろうし、この取引は絶対成功するにゃ…」

 

 算盤を取り出し弾き出した明石を、呆れたような眼差しで見つめる。

 

 「まぁ、向こうも供与品だけでこれからを乗り切っていくわけじゃないだろ。今回の発注も、あくまで試験的なものだと聞く。それで満足いただけたなら、ライセンス料を払って自分たちで作っていくはずだ」

 

 マイラスを介してユニオン人技術者が提示した戦闘機と爆撃機、航空機用エンジンを、ムーは試験的にそれぞれ1個飛行隊32機、エンジンを10基発注してきた――整備・修理用部品、機体とエンジンの生産設備も併せて発注し、更に技術者の派遣も要請――。

 

 「にゃふふ…それならライセンス料と設備料もがっぽり」

 

 「黒烏元帥殿は格安で売りに出すそうだぞ?ライセンス料もそこまで取らないらしい。これは元帥殿のみならず、カナタ大統領らロ連首脳部と協議しての決定だ」

 

 いけないことを考える明石に釘を刺すかのように、男が無情にもそう告げる。

 

 ロ連としては、多くの軍事的支援を行い、ムーを愚帝に対する防波堤として相応しい存在へ仕立て上げたかった。無論、ロデ二ウス連邦の実力を保障し、第四文明圏構想を容認する列強国が欲しかったというのもあるが。

 しかし、曲がりなりにもこの世界第二位の列強国であるムーが、ロ連による支援を受け容れるか不安だったため、『格安で手に入る高性能航空機とエンジン、そのライセンス』という甘い蜜をチラつかせたのだ。

 

 ムー議会はロ連の要求を受け入れるか否かでかなり紛糾したようだが、最終的には国王ラ・ムーの鶴の一声で受け容れが決定したという。

 列強のプライドと意地を履き違えて国を滅ぼす愚行は回避したいのだろう。

 

 「う…指揮官、抜け目ないにゃ…」

 

 がっくりと肩を落とす明石を、何とも言えない表情で一目見つつ、男はムーへ派遣する技術者の名簿作成へと移るのだった。

 

 




F6F-5R艦上戦闘機

 全長:10.24メートル
 全幅:13.06メートル
 全備重量:5.97トン
 実用上昇限度:11260メートル
 エンジン:P&W R-2800-32W(2300馬力)
 最高時速:高度5730メートル/624キロ
航続距離:2151キロ

 武装:イスパノ20ミリ機関砲×4(弾数800発)
    爆弾・ロケット弾最大2トン


 
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