皇国の思惑
第三文明圏の東端には、フェン王国という国がある。
魔法がなく、裕福とは言い難い国であるが、国民の精神レベルは高く、皆礼儀正しい。
「いやはや。凄まじいものだな、ロデニウス連邦…FATOの力というものは」
国王シハンは、自らの城の天守閣から首都アマノキの街並みを見下ろす。
第四文明圏構想を容認し、それに参加した結果が、彼の目に映っている。
江戸時代の日本を思わせる、古風な街並みのそこかしこで巨大な足場が組み上げられ、クレーンが忙しなく動き回っている。
その他にも、近代的な建物がいくつか建設されている。それらはフェン王国の景観に合うよう配慮され、茶色や紺色に塗装されており、可能な限り重桜風の建築様式で建てられていた。
「えぇ。それに、近代的な施設の建設だけでもありがたいというのに、我が国の国風に合うよう配慮していただけるとは…」
側近の剣豪モトムが、関心したように言う。
近代的な施設が建てられ、国民の生活が豊かになるのは無論いいことだが、他国の建築様式を無理やり建設され、自国の景観が損なわれてしまうのは、どうしてももやもやしてしまうものだ。
相手にその気がなくとも、自国の文化を否定されていると考えてしまう。
「うむ。彼らの気遣いには、感謝してもしきれんよ。…パーパルディアの要求を蹴ったのは、どうやら正解だったようだ」
「同感です」
先日、第三文明圏の列強国であるパーパルディア皇国から領土の割譲要求が伝えられ、その要求を即座に蹴ったばかりだ。
パーパルディアが要求してきたのは、フェン王国北東地域の割譲。フェン側にとって、経済的・軍事的にそれほど価値のある土地ではない。
それを割譲する代わりに、フェン王国を同盟国として認め、敵対する国家に共同で対応する体制を作れるという内容だ。
(古い手を使うものだ、パーパルディアめ…)
心中で独り言ちるシハン。お前の考えていることはお見通しだ、と言いたげに。
30年ほど前、領土拡張のための侵略戦争を続けていた嘗てのパーパルディア皇国は、とある国と凄惨な争いを行っていた。
技術・軍事力はパーパルディアが絶対優勢であったが、相対する国も、皇国ほどではないが強力な軍隊を保有。
さらに、防衛側の利点を生かし、ゲリラ戦法を駆使した局地戦をそこここで展開。何時まで経っても戦線は動かず、双方が夥しい血を流し続けた。
いつまで経っても終わらない戦争に業を煮やしたパーパルディアは、急に態度を軟化させ、その国へ講和を持ちかけた。
相手国は突然の豹変に驚いたものの、自国の損害が馬鹿にならないこと、国力は依然パーパルディアが優勢であり、戦争を続ければその物量が自分たちを圧すると考えられたことから、この話を受け入れた。
これ以降、両国は技術交流や移民の許可等、極度に悪化した両国関係を関係・進展させる政策を実施し合う。
講和条約締結から10年、両国は正式に国交が回復。蜜月の時代を過ごすこととなり、互いにとってかけてはならないパートナーとして、未来永劫歩み続ける…と思われた。
パーパルディア皇国は、戦争が泥沼化した事態に備え、時間をかけてその国を"内側から"崩壊させる作戦を、開戦前から練っていた。
元々、その国には1400万の国民がいたのだが、国交回復を境にパーパルディアからの移民が増え、その数は600万にも及んだ。
無論、何も知らない一般人が多数を占めていたのだが、その中には密命を帯びた工作員がかなり混じっていた。
さらに時が経つにつれ、パーパルディア人はその国の土地へ馴染み、そして工作員の活動も活発化。
戦争終結から25年、移民にも行政参加が出来る政策が履行された結果、多くのパーパルディア移民が地方都市の役人に採用され、政治に関わることで国家を内側から蝕んでいった。
講和後の技術交流や移民許可といった関係改善のための政策も、パーパルディア人が国内で好き勝手できる状況を作り出すための布石だったのだ。
無論、国王――戦争時の国王が亡くなり、後にその息子が即位した――もその状況を見過ごすわけにはいかなかったのだが、有力な地方領が中央の命令を受け付けなくなり、さらに中央の閣僚までもが行方を眩ますに至った。
遅ればせながら、国王はパーパルディアの魔の手が国内の奥深くにまで浸透していることを悟ったが、そこへ皇国が交渉を持ちかける。
パーパルディアの大軍が侵攻の準備を整えている、度重なる騒動で国内は混乱の渦中にあり、外地軍の侵攻を受ければ瞬く間に蹂躙され、国民は虐殺される…。
苦渋の決断の末、国王はパーパルディアの軍門に下ることを決めたのだった。
――この出来事を覚えていたシハンは、『皇国は最初に甘い蜜を与えて要求を呑ませ、後から時間をかけてフェン王国を自分たちに都合のいいように作り変え、最終的に無血で自国領とする』と判断し、要求を蹴ったのだ。
「パーパルディアは、やってくるでしょうな」
「うむ。面子で成り立っているような国だ、必ず来る。恐らく、2週間後の軍際辺りには…」
文明圏外国に要求を突っぱねられたとすれば、警告・報復のために何らかの軍事行動を起こすのは確実だ。
前者の目的が含まれるのであれば、文明圏外国の軍が集まる軍際当日が怪しい。
「だが、以前の我々ではないぞ」
そう言って、シハンは軍港に向けて顎をしゃくる。
真上から見ると、殆ど長方形の形をした全長50メートル程の船が8隻停泊していた。
前後甲板には箱型の単装砲が1基ずつ、その他に大口径機銃を多数装備している。
鉄血製のAFP砲兵フェリーだ。
元はロイヤル本土侵攻を目的に鉄血が開発したものがベースなだけあり、浅海域でも運用できるほど喫水が浅いにも関わらず、ロイヤルとエウロパ大陸を隔てる海峡の荒波に耐える外洋航行能力を持っている。
また、この世界へ転移してから得られた魔法技術も組み込まれた。
まず、船体を遠心分離機によって生成した高純度魔石を含有させ、土・水属性魔法を付与した
このFRPは、パーパルディア皇国の『対魔弾鉄鋼式装甲』なぞ鼻で笑えるレベルの性能を持っており、機銃弾は疎か、野戦砲の直撃さえ耐える。
実際、FRPの耐久試験では、122ミリ加農砲の榴弾の直撃に耐え、火災への耐性も極めて高いと評された。
船体全てをこの新素材で構成したAFPは、弾片防御用のコンクリート装甲や防弾鋼板を搭載していないのにも関わらず、オリジナルよりも遥かに防御力の高い砲艦へ生まれ変わった。
さらに、魔導FRPは鋼材よりもずっと軽く、前述の通り無駄な重しも載せていないため、速力も向上した。
こうして、より実戦的な艦となったAFPは、第四文明圏加盟国へ輸出され、各国海軍の標準装備となった。
一応、河川・沿岸警備のための砲艦なのだが、既存のガレー船・帆船よりも外洋航行能力が高く、凌波性が良好なのをいいことに、時折長駆進出しての海賊退治に使っている国もある。
「水軍だけでなく、陸軍にも新兵器が行き渡りつつあります。仮に上陸を許しても、十分海に追い落とせましょう。それに、有事にはFATOの援軍も来ます」
「うむ。だが、祖国の危機は我らの手で守らねばならぬ。皆には苦労を掛けるが、無様な戦にならぬよう訓練を続けさせてくれ」
「はっ…」
・AFP砲艦
全長:55.04メートル
全幅:6.55メートル
基準排水量:198トン
速力:21ノット
航続距離:450海里
主機:ディーゼル(470馬力)
《武装》
8.8センチ単装高角砲Flak37×2
Flak303 30ミリ単装機銃×1
エリコンMk.V 20ミリ連装機銃(M45銃架)×2
MG151/15 15ミリ機銃×2