今回と次は日常回になります。
「指揮官殿、朝ですよ。起きてください」
「う…ん…」
スーパーワイドキングサイズ(キングサイズベッド2つ分)が面積の8割以上を占める寝室で、女性の声を聞いた黒烏は目を覚ました。
うつ伏せで横になっていた彼女は、脚を蛙のように広げたまま上半身を起こした。
薄目で髪が乱れ、身に着けている下着が所々ずれたりしている様は、正しく寝起き直後を体現したかのような格好である。
「……うにゃあ…」
「はぁ…。ほら、早く起きてください」
寝ぼけて枕へ頭を突っ込んだ彼女を、呆れながら見る女性――戦闘巡洋艦『エクセター』は、黒烏の腰を抱きかかえ、強制的に身体を起こす。
第2の専属艦である彼女は昨夜、黒烏と同衾していたのだ。
時刻は午前5時半で、まだ始業時間には遠いのだが、彼女たちにはある予定があった。
「んぶ…っ」
「ひゃ…っ!?」
白いレースが施されている桃色タンクトップを纏ったエクセターの、御立派な胸部装甲に飛び込んだ。
押し倒されそうになったが、寸前で堪えて黒烏の身体を抱いて支える。
「ちょっと!?何してるんですか…ひぃんっ!?」
黒烏が呼吸する度に、生暖かい息が谷間から流れ込み、エクセターは思わず頓狂な声を上げた。
「えくせたーの…においがするぅ…」
「へ、変な事言わないでください…!って、ちょっと…!?」
臀部に手を回され、胸に顔を埋められているエクセターは、すっかり顔を真っ赤にしてしまった。
直後、入口が開いて誰かが入ってきた。
「指揮官!早く起きて、早朝の訓練†エクササイズ†に行きましょう!」
黄色のビキニを纏った、エクセターと同じ緑の瞳が特徴の少女だった。
着替え途中だったのか、黒のアームカバーとニーソを一緒に穿いた状態である。
「…って、あれ?」
「よ、ヨーク姉さん!助けてください!」
戦闘巡洋艦『ヨーク』だ。エクセターの実姉である。
黒烏に抱き着かれている妹を見て、一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。
「まさか、2人で抱き合うことで力†フォース†を共有しているというの…!?私も混ぜて!」
エクセターの後ろから、思い切り抱き着いた。
そこそこのサイズを持った姉の双丘が背中から押し当てられ、思わず顔を赤くしてしまう。
「へっ!?ちょ、何するんですかぁ~~っ!!」
黒烏とヨークの板挟みになったエクセターは、朝っぱらから大声を上げる羽目になった。
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「もう…。だから昨夜は飲み過ぎだって注意したじゃないですか!あんなに寝ぼけて…」
「そんなに怒っちゃって。ホントはもっと抱きつかれたかったんじゃないの?」
「…っ///知りません…!!」
「でも、さっきのエクセターは満更でもなさそうだったけど…」
「ヨーク姉さんっ!!」
微かな朝日が辺りを照らす中、そんな言葉を交わしながら、3人は泊地内を歩いていた。
クイラ王国との国交締結も上手く運び、食糧と資源の問題が即片付いたということで、昨日は泊地の皆でパーティーを開いていたのだ。
黒烏もそれに参加し、メイド隊の作った料理をたらふく食したのだが、その後にワインを4本開けて酔い潰れた挙句、寝室まで介抱したエクセターを、勢いのままに抱いたのである。
その後、様子を見に来たヨークが下着のまま寝ている両者を見て、暫く2人の寝顔を堪能していたのだが、眠くなりロイヤル僚まで戻るのが億劫になった彼女は、仕方なくこの部屋で夜を明かしたのだった。
酒が入ったせいか、コトが済んだ黒烏はぐっすりと眠りに就くことができたのだが、夜遅くまで飲み明かしていた影響なのか、普段ならすっきりと起きられるにも拘わらず、今日は極端に寝起きが悪くなっていた。
「まぁまぁ。…それにしても、2人とも似合ってるわね」
「…露骨に話を逸らされた気がしますけど、ありがとうございます」
「指揮官が繕ったこの衣装†コスチューム†、私気に入ってます!」
エクセター他専属艦たちは、黒烏のお供として様々な場所へ付いていくことが多いため、露出過度な制服を着込んだ者には、それぞれ黒烏が衣装を繕って渡している。
エクセターには、改造時の服をベースに胸元を覆う生地面積を拡大させ、短かったスカートも膝下までに延長したものを与えた。
スリットも廃そうかと思ったが、動き易いのは確かだったためそのまま残している。
ヨークは、同じく改造後衣装の胸元の生地を広げた他に、下半身には黒のエナメルショートパンツを穿いていた。
彼女は専属艦ではないのだが、エクセターに手製の衣装を渡している場面を見てしまい、黒烏に自分の分も作ってくれと強請ったのだ。
KAN-SENに対して比較的甘い黒烏はそれを快諾し、空き時間を利用して繕ってやった。
――幾分"普通"の格好に近づいた2人を連れてやってきたのは、重桜僚近くの鍛錬場。金属同士がぶつかるような鋭い音が聞こえてくる。
国名の由来となった巨大な桜…重桜と天守閣を中心に広がるちょっとした城下町、風流な自然が特徴であるこの場所の一角に、大き目の屋敷と併設されている。
この屋敷は、鍛錬で汗を流したKAN-SENのための入浴設備、甘味処などの施設だ。
饅頭が常在しているため、24時間いつでも開いている。
「あら?指揮官じゃない」
「エクセター殿にヨーク殿も。また打ち合いか?」
屋敷の縁側に、KAN-SEN『高雄』と『愛宕』が座っていた。
2人はよく、早朝や出撃のない日にここへ足を運んでおり、剣を使い始めて間もないKAN-SENたちへアドバイスを与えている。
ヨーク級の2人も、彼女らには世話になったものだ。
庭には、鶴を思わせる羽織を身に纏った女性2人が、重桜刀で激しく斬り合っていた。
途絶えることのない金属音とともに、刃がぶつかり合った際に生じる衝撃波や剣圧が、周囲へ砂塵を舞い上げている。
そこらの剣士では、剣戟を目で追うことすら敵わない。両者とも、相当な使い手だ。
ガキリと刀が激突し、鍔迫り合いが展開されたところで、黒烏が2人へ声を掛ける。
「翔鶴、瑞鶴。おはよう」
それに反応した2人が振り向き、相好を崩した。
「指揮官。おはようございます」
「おはよっ!指揮官!」
重桜の双鶴、翔鶴型航空母艦『翔鶴』『瑞鶴』。
同国空母KAN-SENの中でも、トップクラスの実力を持っている姉妹だ。
それでも、"あの2人"からすれば「まだまだひよっ子」らしいが。
「あれ?エクセターにヨークもいるじゃん」
背後の2人へ目を向けながら、瑞鶴が言った。
「そ。…てなわけで、2人が良いなら庭借りるわよ」
「えぇ、大丈夫ですよ。瑞鶴、休憩しましょうか」
「うん」
翔鶴たちと入れ替わりで庭に立った。
ヨーク級姉妹もそれに続き、黒烏と対面する。
「…そういえば、指揮官が刀を振るところって見ないわよね?」
「確かに。"オブザーバー"とやり合ったらしいが…」
縁側に腰かけた4人がそんなやり取りをしている間に、ヨーク級姉妹が得物を抜いた。
エクセターはショートソードの双剣だが、ヨークが構えているのは黒く輝く1本の棒のみ。
「…ヨークはあれで戦うの?」
瑞鶴が疑問を呈した瞬間、その棒の先端から液体が噴き出した。
銀色に輝くそれは重力に逆らって流れ落ちることなく上に向かい、刀身の形を形成していく。
刀身根元の両側面からも、液体が硬化したブレードが突き出ている。
「はぁ…!これぞ私の求める聖剣†エクスカリバー†…!」
新しい玩具を買ってもらった子供のような反応を示しながら、90センチほどと思われる長さの刀身を見つめる。
これこそ、明石と夕張をはじめとした技術陣が作り上げたヨーク専用の剣――試製05式液体金属ブレードである。
新兵器開発で文字通り猫の手も借りたいほど忙しかった彼らだが、セイレーンやデータベースの技術も一部用いることで、何とか短期間の開発に成功したのだ。
因みにヨークは当初、レーザーの刀身を持つ剣を所望していた。
技術的に困難だという理由で突っぱねられたが、彼女より妥協案として提出されたこの液体金属ブレードの希望は、それに比べれば遥かに現実的だったため、何とか望み通りの一品を作ることができた。
後日、エクセターが自作の菓子折りを持って、開発に携わった者たちに謝罪行脚する羽目になったが。
明石曰く、「仮にこいつをぶっ壊したらバラバラに切り刻んで強化素材にしてやるから覚悟しろニャ」とのことだ。
それだけで、制作に相当苦労していたことが伺える。
「何と面妖な…」
初めて見るヨークの得物に、高雄は思わず声を漏らした。
「指揮官!行きますよ!」
ヨークは一声とともに剣を構え、エクセターも斬りかかる体勢を整える。
黒烏もそれに応え、愛刀――
その直後だった。
「「「…!?」」」
その場の全員、特に相対しているヨークとエクセターは、まるで肩に岩を乗せられたかのような威圧感を覚えた。
いつも優しく、KAN-SENたちへ気さくに接する黒烏だが、刀を握る今の彼女はそんな面影など微塵も感じさせない、正に別人だった。
居心地が悪くなるような間が数秒続いた直後、ヨークが仕掛けた。
恐怖心を振り払い、剣を振りかぶって突っ込んでいく。
単純な動きだが、中々早い。
剣持ちのKAN-SEN相手に練習を重ねてきたと言っていたが、本当だったようだ。
次いで、エクセターもロングソードを手に突進していく。
こちらは、剣を持ってからかなり日が経っているので、戦い慣れているように見える。
「動きは悪くない…寧ろ良くなってるわね…」
互いの剣戟が干渉しないよう、時間差をつけて放たれたそれぞれの一撃を見ながら、黒烏は独り言ちる。
ヨークの動きはまだ粗削りな感があったが、これでも十分だと思った。
2人の振りを見切った黒烏は、軽く居合切りを放った。
紫色の閃光が煌いた瞬間、金属的な叫喚や火花とともに、液体金属ブレードが宙を舞う様が一瞬の出来事の中で確認できる。
「え…っ!?」
驚愕の表情を浮かべたヨークが剣圧で飛ばされ、地面を二転三転していくが、エクセターは辛うじてこの一撃を防ぎ、双剣を振るいながら向かってきた。
エクセターの両腕がまるで別々の生き物のように動き、対象を微塵切りにせんと迫ってくる。
だが黒烏は、目の前の地面へ向けて、横薙ぎの斬撃を2つ、互い違いに放った。
足元へ深い亀裂が入った途端、衝撃波とエネルギーで構成された細かな斬撃が、向かい雨のようにエクセターへ吹き付ける。
間合いまで後半歩といったところで期先を制された彼女は、迫りくる凶刃の雨を全て捌ききったが、その僅かな隙が命取りだった。
双剣の範囲に到達し、X字型に得物を振ったエクセターが、その瞬間、黒烏の姿が煙のように消える。
「っ!?」
咄嗟に背後を振り向いて斬りかかろうとした瞬間、紫色の"飛ぶ"斬撃がエクセターの得物を叩き落し、後方へ吹き飛ばした。
「ゲームセットよ」
黒烏が刀を収めた途端、重苦しい威圧感が霧散し、圧倒的な剣技に目を剥いていた高雄たちも、思わず溜息をついていた。
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午前7時。起床時刻となった硫黄島駐留艦隊泊地の食堂では、KAN-SENたちが各々食事を始めていた。
「あぁ~…。シジミのエキスが五臓六腑に染み渡るわ~…」
「二日酔いのオッサンかよ…」
「二日酔いだけどオッサンではないわよ」
シジミの味噌汁を啜った黒烏は声を漏らし、それを見たKAN-SEN『飛鷹』が、呆れたような口調で言った。
因みに、黒烏のメニューは鮭の塩焼き定食、胡瓜のニンニク醤油漬け、飛鷹は鯖の味噌煮定食にホウレン草の和え物だ。
「てか、指揮官馬鹿だろ…。二日酔い状態で刀振るなんて…」
早朝の鍛錬でヨーク級姉妹をあっさり負かした黒烏は、高雄たちから相手を頼まれ、それを快諾したのだが、昨夜ワインを4本開けたダメージがここに来て浮き出たようで、その場で口を押さえて崩れ落ちたのだ。
「だってイケるって思ったんだもん。何より、約束を違えるわけにはいかないでしょう」
「その姿勢は見習ってもいいが…」
飛鷹は黒烏の膳へ目を落とす。
白米は恐らく2号分、鮭の塩焼きは3切れ、味噌汁は丼サイズもある椀によそられているが、明らかに先ほどまで二日酔いで蹲っていた者の食べる量ではない。
「喰いすぎじゃね…?」
「吐いたら元気になったわ…ん?」
何かに気が付いた黒烏が視線を移すと、高雄と瑞鶴が何やらズカズカと歩いてきた。しっかりと自らの膳を持っている。
「ちょっと指揮官!あの剣術何!?私でもできる!?」
「た、頼む指揮官殿!どうか弟子にしてくれ!」
「弟子にするのは良いけど、私の剣術を使うことはできないわ。…冷めるわよ」
軽くあしらいつつ、温かい内に食べるよう促した。
2人は黒烏の隣へ腰掛ける。
「…私の剣術は、あの刀があってこそなのよ。別に私が超能力者だからとかじゃないの」
黒烏の"紫雲神去"は、紫色のメンタルキューブ――インフィニティキューブが"ある人"によって姿を変えたものであり、常にエネルギーを漏らしている。
黒烏はこれを攻撃に応用し、エネルギーを弧状の切断力場に変形させて飛ばすことで、遠距離攻撃も可能にしているのだ。
なお、彼女の身体にもセイレーン因子が埋め込まれており、刀へそのエネルギーを流し込むことで、折れた刀身を再生させたり、形状を変化させることも可能というチート能力を持っている。
「…指揮官、それ狡くない?」
説明を受けた瑞鶴が狡いのではないかと言ったが、正直黒烏が普通の刀を持ったとしても、自分が勝てるビジョンが浮かばなかった。
最初に放った軽い居合切りも、彼女にとっては異次元の速度なのだから。
「貴女たちも弾幕使ったりして戦うじゃない。お互い様でしょう」
元々黒烏は、"オブザーバー"が造った中でも史上最強の人造個体であるため、強いのは当たり前なのだが。
「マジかよ…」
飛鷹も、黒烏の強さの裏を説明され、軽く引いていた。
「ほら。今日は転移してから久しぶりの休日よ。皆英気を養うこと」
その場を収めるべくそう言い、自らの膳へ箸をつけ始めた。
しかし、思い出したようにその手を再び止める。
「…瑞鶴。後で翔鶴と私のところに来なさい」
「え?うん…」
エネルギーで構成された飛ぶ斬撃…?書いてて気付いたけど一体どこの兄上なんでしょうねぇ…。
次は水着回にしようかなぁ…。