白銀の烏と異世界母港【再演】   作:夜叉烏

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 こんにちは。夜叉烏です。

 水着回お待たせしました。


右腕はサイコパス軍医

 「「私たちが教官役?」」

 

 《烏の巣》に造られた人工ビーチに、水着を着た鶴姉妹の声が同時に響いた。

 

 「そっ。クワ・トイネ海軍、クイラ海軍はそう遠くないうちに空母を保有するわ。搭乗員の指導役をお願いしたいんだけど…」

 

 パラソルの下に置かれたビーチチェアーに寝転がる、レースで飾られた黒の水着を纏う黒烏が、その言葉に答えた。

 

 「それに、貴方達2人が教えた方が良いかなって。厳しくもなく優しすぎることもなくって感じだし」

 

 「え~?そんなことないですよぉ」

 

 間延びした口調で翔鶴が謙遜するが、顔は赤い。嬉しそうだ。

 

 「彼方の竜騎士たちが単独で後進の育成ができるようになるまで、貴女たちに頼んで欲しいわ。手が足りないなら、ロング・アイランドとラングレー、レンジャーも向かわせる」

 

 いずれのユニオン空母も、かなりの古参たちだ。母港の教師役も務めているし、これほど適した人材はいないだろう。

 

 「一航戦の先輩方の方が良いんじゃ…」

 

 「その先輩方からの頼みなのよ」

 

 瞬間、2人は驚愕した。

 

 重桜五航戦として、自分たちもそれに見合った実力がある思っているし、血の滲むような鍛錬もしている。

 黒烏や空軍のパイロットたち、エンタープライズやイラストリアスといった面子からその力を賞賛されることはあっても、一航戦の赤城、加賀両名は頑なに実力を認めなかった。

 

 そんな堅物から指導教官の任務を任せられる日が来るとは、翔鶴も瑞鶴も思っていなかったのだ。

 

 「あの2人からすれば貴女たちはひよっこらしいけど、陰では認めていたってことよ。…翔鶴?」

 

 「はいィ…っ!?」

 

 先にも増して赤面させた翔鶴が、頓狂な声で返事した。

 本当は先輩から認められていたという事実が、途轍もなく恥ずかしかったらしい。

 

 「べっ、別に、嬉しくなんてありませんからねっ!」

 

 握り拳を作り、勢いよくそっぽを向く。

 

 「…指揮官、翔鶴姉。私はやるよ。先輩方から任されたんだから」

 

 「勿論よ瑞鶴」

 

 「結構。ほら、休日なんだから思い切り泳ぎなさいって。明日からたっぷり働いてもらうわよ」

 

 波打ち際で水かけ遊びを楽しむ駆逐艦たちに参加するべく、2人は駆け出していった。

 

 「瑞鶴はまだしも翔鶴まで…。まるで子供ねぇ」

 

 そう言いながら、黒烏はサングラスを目の上へ押し上げ、傍らのトロピカルジュースを手にし、ストローを口に含んだ。

 それぞれ真紅と白のビキニを身に着けた美人鶴姉妹が、幼い駆逐艦たちと戯れる様は、見ていて飽きるものではない。

 

 「いいじゃない指揮官、偶には。…ほら、お菓子作ってきたわよ。後、リットリオさんから冷たいカプチーノを預かってるわ」

 

 KAN-SEN『グラスゴー』が、クッキーの入った籠と水筒を差し出してくる。

 彼女も、パステルグリーンのワンピースタイプの水着を着ていた。

 

 「あら、リットリオも中々気が利くわね。私以外の女にうつつを抜かしているだけじゃなかったってことかしら」

 

 プレーンとチョコレートの市松模様のクッキーを口に入れるや、丁度良い甘さが口いっぱいに広がる。

 それを冷たいカプチーノで流し込んだ。リットリオは、黒烏の好みに合わせて甘口で淹れてきたらしい。

 

 「…流石はリットリオ。分かってるわ」

 

 「クスッ…。ですが、飲み過ぎるのも大概にしてくださいね。でなければ、糖尿病治療のため私が出向かなければならなくなってしまいます」

 

 この場にいないはずの、やや低い声が聞こえた。

 

 「そうだよ指揮官。リットリオさんにも頼んでもう少し甘さ控えめのやつ…を……」

 

 それに違和感を感じたグラスゴーが、声のする方を向いた瞬間…。

 

 「ぴぎゃあぁぁぁぁぁっ!!??」

 

 彼女に似合わない叫び声がビーチ中へ響き、思い思いの時間を過ごしていたKAN-SENたちが、一斉に黒烏らの方へ視線を移した。

 

 「…相変わらず、死神のような出で立ちですね。大佐」

 

 「クスッ…いえいえ。妖のような気配を常時放っている貴女ほどではありませんよ。黒烏さん」

 

 温暖な気候なのにも拘わらず、黒く丈の長いコートとラテックスの手袋を纏い、鍔の長いハットを被った男だ。

 汗は全くかいておらず、涼し気な風貌に微笑を浮かべている。

 

 薙刃桐生(なぎはきりゅう)大佐。

 黒烏にとっては頼もしい軍医且つ正面戦力であると同時に、永遠のライバルでもある、何とも奇妙な立ち位置にいる人物だ。

 

 嘗ては、上層部お抱えの暗殺者だった男だ。

 かなり優秀な人材だったが、常に血の匂いを纏わせ、依頼を受けても内容によっては途中で帰ってしまうこともあるなど、性格に難のある人物だったため、上層部は彼が軍医であるのをいいことに、この《烏の巣》泊地へ部下共々追いやってしまったのである。

 

 噂によると、彼は見た目――20代後半程度――の割に途轍もなく長生きであり、実年齢は100歳を越えているらしい。

 

 理由としては、重桜人特有の"ミズホの神秘"が覚醒の域に入り、寿命の概念がなくなっただとか、年を取らない病に侵されているためだとか、任務とはいえ人を殺め過ぎた――私用で殺した分を含めて――結果、天国からも地獄からも嫌われているためなどが挙げられているが、真偽の程はわからない。

 

 黒烏やKAN-SENと同じく年を重ねない稀有な人材であるため、ほぼ永久的にこの泊地へ所属させる手筈だったらしい。

 

 「それと、そのクッキーとカプチーノへ手をつけて良いとは言ってませんが?」

 

 「クスッ…失礼。とても美味しそうだったもので。ですが、流石にこれは甘すぎですねぇ。偶にならまだしも、1日何回も飲み、その習慣を毎日続けているようでしたら、改めるべきでしょう」

 

 「え…?あっ、何時の間に…!?」

 

 数枚のクッキーと紙コップに入ったカプチーノが、薙刃の手の中にあった。

 グラスゴーが思わず籠の中身を確認するが、確かにプレーンとチョコレートの渦巻き模様クッキーがなくなっている。

 一瞬の隙を衝き、甘味を失敬したのだ。

 

 「そもそも、一体何の用ですか?女の園に」

 

 「いえ。折角の休暇ですから、久しぶりに貴女と戦ってみたくなりましてねぇ…」

 

 直後、禍々しい重圧感がその場を満たした。

 KAN-SENたちが背筋をゾクリと震わせ、身構える。

 

 黒烏が傍らの砂浜へ鞘ごと突き刺していた"紫雲神去"に手を添え、薙刃も手袋を嵌め直したときだった。

 

 「しゅきかん~!あいすかってきた~!」

 

 「あわわ!はしったらあぶないよぉ~!」

 

 幼い子供の無邪気さ故か、この状況でも動けているKAN-SEN『睦月』『卯月』が、アイスクリームを両手に持って走ってきた。

 しかし、ここは足場の悪い砂浜。

 

 「はうっ!?」

 

 粒の細かい砂の地面に足を取られた睦月が転倒し、手を離れたアイスクリームが宙を舞う。

 このまま砂浜に落下して台無しになる…と思いきや、それを瞬時に搔っ攫う人影。

 

 「クスッ…。足場が悪いので、あまり走らない方がいいですよ?」

 

 三日月のように口角を上げ、薙刃はキャッチしたアイスクリームを睦月へ差し出した。

 

 「うわぁ!ありがとうおにいさん!」

 

 目を輝かせて礼を言う睦月。見ただけで失神してしまうような笑みを浮かべる薙刃の表情など、どこ吹く風といった様子だ。

 アイスを受け取った睦月は、そのままテクテクと薙刃の横を通り抜け、ビーチチェアーに寝転がる黒烏の元へ走り寄る。

 

 「はい、しゅきかん!」

 

 「フフフ…。ありがとう、睦月」

 

 睦月からアイスを渡された黒烏は、バニラとチョコの2段重ねアイスにペロつく。

 

 「クスッ…。そういえば、KAN-SENの皆様もいらっしゃるのでしたね。…本日の手合わせはお預けにしましょう」

 

 「そうしていただけると助かります。ですが、業務に支障が出ない程度に斬り合うというのであれば、いつでもお相手しましょう」

 

 踵を返した薙刃の背中へ、黒烏はその言葉を投げかけた。

 

 「わかりました。それでは…」

 

 フッ…という擬音でも聞こえてきそうな動作とともに、彼の姿は消失した。気配もしない。

 睦月型姉妹を除き、重圧感に圧し潰されそうになっていたKAN-SENたちは、ホッと息を吐いていた。

 

 




 黒烏指揮官、割とNLも似合いそうなんだよなぁ…。

 前作の薙刃さんは海兵隊所属だけど、今作では泊地の影で黒烏の右腕として活躍させます。
 まぁヴェスタルがいるのでそんなに仕事は多くはないんですけどね。
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