姉妹
「それであかりちゃんの様子はどないなん?」
ここは時空管理局の本局
その廊下を私はフェイトちゃんとはやてちゃんの三人で歩いている。
「うん…。まだ目を覚まさないんだ…」
「…そっか」
あの日、お面の子の正体が私の妹のあかりだと発覚した後、茫然自失としてしまった私の下に真っ先に来たのはフェイトちゃんだった。
フェイトちゃんは私のいる宙域で大爆発が起きたから私のことを心配して飛んできてくれた。
飛んで来たフェイトちゃんは私の無事を見て喜んだ後、気絶したあかりに気づいて目を見開いた。
フェイトちゃんが来てくれたおかげで我に返った私はフェイトちゃんと一緒にあかりの応急手当を行った。
酷い状態だった。
爆発をまともに受けた所為で全身はあちこち火傷していて、目を引いた左眼からは止めどなく血が流れていた。
そして一番大きな怪我は胸にポッカリと空いた穴
あの時はどう考えても爆発でできた怪我に見えなくて、なんであんな怪我を負ったのかわからなかったけど、シュテルちゃん達からマクスウェルさんの左腕があかりを貫いたと後から聞いた。
映像を見せてもらった時、まるで一年半前の闇の書事件の時の私みたいだと思った。
でもあの時はリンカーコアに干渉されただけで、蒐集が終わったらすぐに穴は閉じた。
でも映像のあかりは…
私とは違い物理的に胸に穴を空けられたため、飛び出た腕が消えても穴はなくならずそのまま血をたくさん出していた。
その映像を見て、正直マクスウェルさんに怒りを覚えた。
マクスウェルさんはもう捕まったからどうこうしようとは思わないけどね…。
とにかくそんな酷い状態だったから私とフェイトちゃんは二人がかりで急いであかりに治癒魔法をかけた。
私も少し怪我していたけど目の前のあかりの様子を見れば弱音を吐いている場合じゃないと思えた。
そうして治癒魔法をかけていたらはやてちゃんが来て、あかりに驚きながらも少し悩んだ後管理局に連絡。
あかりは管理局の医務室へと送られた。
診断の結果
火傷はすぐに治り、胸の穴も時間はかかるけど完治するみたい。
左目は、完全に陥没していて長期の入院は必須。
絶対安静でどうなるかはわからない。
それが診断結果だった。
そしてあかりが病室に移されて三日間経って
その三日の間に私の怪我は全快したけど、代わりにあかりが重傷になったと考えたら素直に喜べずにいた。
そして今、私とフェイトちゃんとはやてちゃんはあかりのお見舞いに来ていた。
そう思い返しているうちにあかりの病室へとたどり着いた。
私は二回ノックをし
「あかり、入るよ」
当然のように返事はないけど病室へと入っていく。
病室にはベッドが一つだけ置かれている。
そしてそのベッドの中に
「あかり、今日も来たよ」
私の妹のあかりが眠っている。
あかりの具合は三日前よりもかなりよくなっている。
全身の火傷は綺麗に治り、胸の穴も未だに包帯は巻いてあるけど日に日に小さくなっている。
左目はガーゼで被われていて、まだまだどうなるかわからない。
私の脳裏にあの時のお父さんが病室で横たわる様子がよぎる。
あの時は一人だった私にあかりが一緒にいてくれたんだっけ…
「今日はね、フェイトちゃんとはやてちゃんが一緒に来てくれたんだよ」
あれからたくさんの人があかりのお見舞いに来てくれたみたいだった。
私やお母さんやお父さんといった家族を最初に、次にフェイトちゃんとはやてちゃん、ユーリちゃん達も来て、アリサちゃん、すずかちゃん、それに八神家のみんなも来てくれた。
みんな、みんなあかりが起きるのを待ってるよ。
だからね
「速く、速く目を覚ましてよ。あかり…」
「なのは…」
「なのはちゃん…」
…
……
………
「………また来るからね。あかり」
そう言って私達は病室を後にした。
フェイトちゃんとはやてちゃんが心配そうに私を見てくる。
そして
「なのは…。その元気出して、ね」
フェイトちゃんが私を気遣うように声をかける。
「せやで、なのはちゃん。幸い…と言うたらあれやけど、命には別状はないみたいやし。
きっとそのうち目覚めるよ」
はやてちゃんもそれに続く。
「…うん。ありがとう二人共。…でも」
「「?」」
「…私はあかりのことを何もわかってあげられなかったんだな…って」
「なのは、そんなことは…」
フェイトちゃんが否定してくれようとしたけど私は首を横に振り
「ううん。あかりの一番近くにいたのは間違いなく私だったはずだもん。
それなのに私はあかりが魔法に関わっていたことにまるで気がつかなかった。
気がつかずにひたすらに誰かを助けるために走ってた。
そうしているうちに家から…あかりからどんどん離れちゃった。
私が探していたお面の子はこんなに近くにいたのに…、気がつくことができなかった。
私が気づけばあかりもこんな怪我をせずに済んだんじゃないかって、そう思っちゃうんだ…」
私は思い悩んでいることを全てフェイトちゃんとはやてちゃんにぶちまけた。
私が話している間フェイトちゃんとはやてちゃんは静かに聞いてくれた。
そして
「それなら…あかりが気がついたらたくさんお話ししないとね」
「フェイトちゃん…」
「そうやで。気がつくことができなかったなら、理解が足りなかったなら…もっと話してわかり合えたらええ」
「はやてちゃん…」
「うん。少なくとも私は…なのはのそのやり方で救われたんだから」
フェイトちゃんのその言葉に私はフェイトちゃんとわかり合えた時のことを思い出す。
「…うん。そうだよね」
「まあ全てはあかりちゃんが目を覚ましてからや」
そう言って地球への転送装置の下へ向かう。
話しているうちにロビーまで戻ってきたみたい。
そして地球へと
ブーッ!ブーッ!ブーッ!
向かおうとしたら警報が鳴った。
「な、なんや!?」
「警報…?」
そして
『治療中の高町あかりが病室を脱走!
対象はデバイス保管庫へと向かっている模様!
付近の管理局員は現場へと急行し対象を確保!
繰り返す!治療中の…』
…
……
………
走る。
これまで生きてきた中でこんなに速く走ったことはないんじゃないかと思えるほどに速く走る。
そして私は…私達はデバイス保管庫にたどり着く。
ここまでの道のりにあの子はいなかった。
つまり、この中に…
私は扉を開ける。
そして
「あかり!!!」
あかりが…私の妹がそこにはいた。
名前を呼ばれたあかりはこちらを振り返る。
その手には
「デバイスを…!」
いつもお面の子…あかりが使っていたデバイス、ルシフェリオンがその手に握られていた。
はやてちゃんが驚きの声を上げるけど、私はそれよりも…
あかりの怪我していない方の目、右目が気になった。
何故かというと、似ていたから
最初の頃に会ったフェイトちゃんの目に
悲しみと寂しさでいっぱいだったあの頃の目に
「あか…」
私が話しかけようとしたその時
あかりの右目付近の空間が歪む。
「待って!!あかり!!!」
私は必死に手を伸ばしあかりに近づく。
予感があった。
ここで行かせたら、もう二度とあかりに会えないような
そんな予感が
そして
「なのは!?」
私はあかりと一緒に空間の歪みに呑み込まれた。
ーーーーーーーーーー
「ここは…?」
なのはが空間の歪みに呑み込まれた先にたどり着いたのは、真っ暗闇の世界だった。
10m四方程度の大きさの足場があちこちに無数にあり、後はただひたすらに暗闇が続く世界
これでも日は浅いがなのはは時空管理局の局員である。
それでもなのははこんな世界は見たことも聞いたこともなかった。
なのはが首をひねっていると
「ここは私のレアスキル…神威でのみ来ることができる異空間ですよ。…なのは姉さん」
なのはの後ろから声が聞こえた。
聞きなれた声になのはは振り向く。
「あかり…」
そこにはなのはの妹であるあかりがいた。
管理局でなのはが目撃した写輪眼の状態ではない。
いつもの見慣れている青色の目をしたあかりの姿
しかしなのはにはどこか孤独感みたいなものをあかりから感じていた。
「私の両目に宿っているこのレアスキルを神威と呼んでいますが、その神威で現実とこの異空間を行き来することができます。
そしてこの空間に干渉する手段は神威のみ。
例え管理局だろうと有名な科学者であってもこの空間に干渉することはできません。
まあ現実の空間同士を繋いだり、体の一部をこの異空間に飛ばすことで攻撃をすり抜けたりといったこともできますが…」
なのはは小さい頃アリサ達と一緒にあかりを尾行していた時のことを思い出す。
そしてその尾行が何回やっても必ず見失っていたことを
「私はこの異空間で魔法の練習や戦いの訓練を行ってきました。
発現したのは…お父さんが入院したあの日でしたか。
もっとも、訓練自体は隠れてもっと前からやっていました」
「…」
「ここに入ってきたのはシュテル姉さんを除けばあなたが初めてですよ。なのは姉さん」
「…なんで」
「?」
「なんで黙ってたの…?あかり」
以前の正体を知らなかった頃のなのはであればこの空間や神威に対して興味を引かれていただろう。
しかし今となってはそんなことは些細なことだとなのはは思っていた。
それ以上に目覚めたあかりに聞きたいことがあったからだ。
「…」
「もっと…もっと速く話してくれていれば」
「以前から何度も言っていたでしょう?
…管理局にバレたくなかった、と」
「だとしても!私にくらいは言ってくれてもよかったんじゃないの!?
私は…私はあかりの…!」
「…なのは姉さんは管理局員じゃないですか。
一番バレてはならない人間です」
「なんで、そこまで管理局を信じないの!
管理局は犯罪者を取り締まる正義の組織なんだよ!!」
なのはは言葉を荒げる。
そんななのはの様子をあかりは静かに見ていた。
そして
「…ジェイル・スカリエッティという次元犯罪者をなのは姉さんは知っていますか?」
「突然何を…」
なのはは最初話題を逸らそうとしているのかと思ったがあかりの真剣な様子に押し黙る。
「…名前だけなら局内で何度か聞いたことはあるけど…」
「ジェイル・スカリエッティは生命操作や生体改造、機械技術の分野において違法研究を行っているため指名手配されている科学者です。
そして…あのフェイトさんを産み出したクローン技術をプレシアさんに渡した張本人です」
「!?」
「ここまで言えばその危険度はわかりますよね?」
「…うん。危ない人だということはよくわかったよ。
でもそれがあかりといったい…?」
「管理局はスカリエッティを長年追っています。
何度もアジトを検挙するも踏み込んでみればもぬけの殻。
どんなに隠密に動いても、です。
…おかしいとは思いませんか?」
「…まさか」
「そうです。管理局とスカリエッティは繋がっています」
なのはは愕然とした。
なのはが管理局に入局したのは自身の魔法を誰かを守るために使いたかったからだ。
なのにその管理局が犯罪者の片棒を担いでいる?
「…」
「もっと言えば最高評議会…管理局のトップですね。繋がっているのは。
まあトップがそれなら上層部はほぼ真っ黒と思った方がいいんじゃないでしょうか。
…なのは姉さんはそれでも管理局が正義の組織だなんて言えますか?」
そう問われ、なのはは何も言えなくなってしまった。
無理もない。
管理局に入局してまだ間もないのにそんな話をされてしまったのだから
なのはが黙っているのを見たあかりは
「…少なくとも私はそうは思えません。
私にとっては管理局に身柄を預けるのは、スカリエッティに自身を研究材料にして下さいと言ってるようなものです。
私のレアスキルはそれだけの貴重性を持っているのですから」
「…」
「…私の目的は二つ。
一つは管理局及びスカリエッティに身元を特定されないようにすること」
「…もう一つは?」
「もう一つは…」
あかりは若干逡巡した後、続けて言葉を紡ぐ。
「もう一つは私の家族の身の安全…なのは姉さんを守ることでした」
「私を…?」
「ええ。お父さんが入院したあの日から、私はもうあんな思いはしたくない。そう思ったのですよ。
だからなのは姉さんが出来る限り大怪我を負わないように立ち回っていました」
なのはは驚いた。
何故ならなのはもまた誰かの大切なものを守るために戦うようになったのは、なのはの父の入院がきっかけだったからだ。
あかりも私と同じように…
そんな思いがあかりに伝わったのか、あかりは首を横に振り
「私はね、なのは姉さん。あなたのように見ず知らずの誰かや昨日今日出会った誰かの孤独をなくすために戦おうなんて殊勝な考えは持っていないのですよ。
私は私が傷つきたくないから私に関係のある人を守っていた。ただそれだけなのです。
だから知らない人がどうなろうと私は別に興味はないのです」
「そんな…そんなの!」
間違っている。
なのははそう思った。
しかしあかりは
「…まあ正体がバレてしまった今となってはそれらももうどうでもいいことですが」
「…これから、どうする気なの?」
あかりがどこか投げやりになっているような口調で話しているのに気づき、嫌な予感がしたなのはが問いかける。
そして
「もう家には…高町家には戻りません」
その予感は的中した。
「家に…戻らない?」
「身元が割れた今、戻っても管理局に捕まるだけですから」
「…一人でどうするの?」
「まずは体の回復に努めます。
そして回復が終わり次第、力をつけます」
「力?」
「ええ。管理局だろうとスカリエッティだろうと手出しが出来ないほどの絶対的な力。
それを見つけます」
「そんなものあるはず…」
「例えばユーリさんに使った同じく私の両目に宿っている須佐能乎のような、ね」
そう言われてなのははまたしても黙ってしまう。
あかりとユーリの戦いはあかりが寝ている間に映像で見ていたからだ。
最初に見た時は頭が真っ白になった。
ユーリの攻撃をもらってもびくともしない防御力、地面を一撃で叩き割る攻撃力、そして何よりあの大きさ。
管理局が相手でもかなり手のかかる力なのは間違いなかった。
そしてあかりは口にこそ出さなかったが、あてはあった。
冥府の炎王イクスヴェリアである。
彼女を見つけだしてシュテルと同じように自身に宿してしまえば…
マリアージュと須佐能乎の力で管理局が相手でも戦えるとあかりは踏んでいた。
しかし、イクスヴェリアの方は宿せるかわからない上に頼みの須佐能乎も左目が完治するかどうかにかかっている。
分の悪い賭けなのは間違いない。
しかし
「だから…ここでお別れです。なのは姉さん」
分の悪い賭けであっても他に道がない以上進むしかない。
あかりはそう決断し右眼を万華鏡写輪眼にし神威を発動させる。
無論傷つけるためではない。
なのはを現実に、管理局へと戻すためである。
なのはの付近の空間が歪む。
しかし
「…なんのつもりですか?」
なのははそれを横に移動しかわす。
なのはをここに連れてきてしまった時もそうだったが左眼が使えないせいで神威の速度が落ちているのである。
よって容易くかわすことができてしまうのである。
「…行かせない。
管理局員としても…あかりのお姉ちゃんとしても…
私は絶対にあかりを行かせるわけにはいかない」
そうなのはは強い瞳であかりを見る。
「…大人しく捕まってスカリエッティの玩具になれと?」
「そんなこと言ってないでしょ!
…確かにスカリエッティの話は規模が大きくて今の私じゃどうすることもできない」
「…」
「でも私にはフェイトちゃんが、はやてちゃんが、リンディさん達がいる。
みんなの力を合わせればきっとなんとかできるはず!
きっとあかりを守ってみせる!
だから…」
なのはがあかりに手を伸ばす。
「一緒に帰ろう?あかり」
そうなのはは呼び掛ける。
その様子は崩れる時の庭園にてフェイトがプレシアに手を差し伸べた時とどこか似ていた。
そして
「…はいそうですかと、手を取ると思っているのですか?」
その手を取らないところまでも
しかしなのはは差し伸べた手を引っ込めると
「なら…やりたくないけど、力ずくでも連れてく!」
そう言いレイジングハートを手に取る。
「…私を倒したところで私の能力がなければこの空間から出ることはできませんよ?」
「だったらあかりの考えが変わるまで戦い続けるだけだよ」
「そもそもの話ですが、私に勝てると思っているのですか?シグナムさん達やユーリさんにも勝ったこの私に?」
「うん、勝つよ。絶対に」
なのはは迷いなくそう答える。
その様子にあかりは
「…正直今のは少しカチンときました。
確かに今の私は須佐能乎は使えないですし、この異空間で戦う以上すり抜けも使えません。
しかし私はなのは姉さんが魔法を知るずっと前から鍛練を重ねてきました。なのは姉さんが遊んでいる間もずっと。
それなのに…私に勝つ?」
あかりもまたルシフェリオンを取り出す。
「いいでしょう。どちらにしてもなのは姉さん、あなたを送り返すには少し大人しくしてもらう必要があるみたいですからね」
そして
「レイジングハート」
「ルシフェリオン」
「「セットアップ」」
赤と桜色の光が二人を包み、一方は白、もう一方は黒の防護服を身に纏う。
そして二人は空へと昇る。
向かい合う二人
そんな中なのはは薄く笑みを浮かべ
「…そういえばこうしてあかりと喧嘩するのは初めてだね」
「喧嘩じゃありません。これは決別です。なのは姉さん達との繋がりを断ち切るために私は戦うのです」
「ううん。喧嘩だよ、あかり。この喧嘩が終わってしばらくしたら私とあかりは笑い合うの。こんなこともあったねって」
そして
「行きますよ、なのは姉さん!」
「来て、あかり!」
「パイロシューター!」
「アクセルシューター!」
「「シュート!!」」
赤色と桜色の魔力弾が衝突し相殺される。
それと同時にあかりとなのはは杖を振りかぶり互いに接近し
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
激突した。