(1)
夏休み。それは学生が一年という周期の中でもっとも楽しみに、心待ちにしている期間ではなかろうか?
春休み、夏休み、冬休みとあるが、とりわけ夏休みだけは群を抜いて長い。もう長いったら長い……わくわくしちゃう。地域によっては差があるだろうが長い事には変わりは無い。
休息とは人間にとって必要不可欠なモノであり、率先して取るべきものである。そういえば
「つまりは人間、無闇矢鱈に外に出ずに家に篭っているのが一番って事だな」
「…………お兄ちゃんさぁ、夏休みでだらけてるのは良いけど、小町の前でニート宣言はどうかと思うよ?」
そう言う小町は、まるで道端で見つけた吐瀉物を見るような……そんな視線で俺の事を見下ろしていた……ちょっと吐瀉物は言いすぎだな、砂場に落とした飴……とか?
「……小町、逆に考えるんだ。俺がこんな事を言えるのも小町だからこそ何だぞ?」
「うわっ……嬉しくなーい」
「酷いー」
〜♪〜♪
「お兄ちゃんはい携帯」
着信が入った携帯を小町が渡してくれる。みゆきからだな。珍しい。
「サンキュ……はい、もしもし?」
『あっ!比企谷くんのお宅ですか?』
「………そりゃ俺の携帯に掛けたら俺が出るだろ……」
この子は何を言ってんだろうか……
『あそっか!えへへ……あっ、そうじゃなくて明後日の水曜日なんだけど八幡くんって暇かな?あ、突然でごめんね。あかねちゃんに聞いたら八幡くんなら何時でも大丈夫って言ってたから予定が決まってからになっちゃったんだけど……』
あかねぇ……!事実だけどよぉ……後で覚えとけよ……
「……まぁ、空いてる事には空いてるな」
「そんな事言ってぇ、お誘いなんでしょ?お兄ちゃん何時でも暇なんだから家に籠ってないで出かけて来なよ?」
『ほんと!?良かったぁ!その日にみんなで海水浴に行こうと思ってるんだ!あ、もちろんれいかちゃんも来るよ!』
「行くわ」
『やった!なおちゃんがこう言えば八幡くんは絶対に来るって言ってたんだ』
そう言われると俺チョロぉ……いやでも、れいかときょうかと海水浴だろ?そりゃ行くわ。例え予定があったとしても絶対行くわ。
『それじゃまたね!八幡くん楽しみにしてるね!』
「おう」
どうやらみゆきの用事はそれだけだったようで通話が切れた。
「……にちゃあ」
「口で言うなよ……あと小町には似合わないからよしなさい」
「あれあれぇ?家に篭ってるのが一番って聞いた気がしたんだけどなぁ?」
「………」
「なぁ?」
小町が鬱陶しい。顔を背ける度に回り込んできやがる。
「ああ訂正するよ、外にも出るべきだよ。これでいいだろ?」
「べっつにー?お兄ちゃんが嬉しそうで小町も嬉しいだけだもーん……ほんでぇ?お兄ちゃんどこ行くの?可愛い小町ちゃんに教えてみ?なっ?」
「うぜぇ……海だよ海。明後日にみんなで海水浴に行くんだよ」
「うっみ!きたぁー!やっぱり夏といえばだよね!……あれ?明後日……?」
「おう、明後日の水曜日」
「小町、その日は予定が……」
「……どんまい?」
「うぅ、薄情者ぉぉ!お兄ちゃんのスケコマシ!ひと夏の過ちでお義姉ちゃんを孕ませちゃえぇ!!」
「おまっ!それは洒落になんねぇぞ!?」
とんでもない捨て台詞共にトタタタッと自分の部屋へと戻っていく小町……つか母ちゃんだろ?あんな事小町に教えたの……
「青い海!」
「白い砂浜!」
「照りつける太陽!」
『うーみだぁぁぉ!!』クル!」
叫ぶのは我らが元気組、みゆき、あかね、なおの三人娘+キャンディだ。
「元気だねぇ……マジで」
「ふふっ、良い事じゃないですか」
「……少し、元気過ぎる気もするけどね」
という訳で、やって来ました海。移動手段は電車だ。一応あかねの家が海岸に海の家を出すらしいので車に一緒に乗せていってもらうという話も出たのだが、流石に人数が人数なので最終的に電車に相成った訳である。
「よーし!早速泳ぐよ!」
「おっしゃー!」
「あ、まってー!」
「キャンディもクルー」
ばさっ!という音とともに、俺目掛けて降ってくるのはなお達の衣服だ。中に水着を着込んで来ていたらしく、服を脱ぎ捨てた三人娘は既に海に向かって走り出していた。
「みなさーん!ちゃんと準備運動をしてから入るんですよー!」
『はーい!!』
「小学生の男子かよ……元気良すぎだろ……」
「……あはは、わたし達はシートとパラソルの準備しよっか」
俺に引っかかってたもの以外に砂浜に落ちてしまっていた上着や靴下等を拾って砂を落とし、俺達は移動開始した。
「戻ったぞ」
「あっ、おかえりなさい。こちらも準備は出来ていますよ」
ビーチパラソル借りて戻ると麦わら帽子を被ったれいかがシートの上に座っていた。
シートの中にはみんなの荷物がまとめられていて三人娘の服もきちんとたたまれている。
「やよいさんは先に着替えに行きました。戻って来たら私達も着替えに行きましょうか」
「そうだな」
頷きながらシートの端にパラソルを突き刺し固定する。
「そういえば……八幡君と初めて不思議図書館で会った時に、ビーチパラソルの下でお昼寝をしてましたよね」
「よ、よく覚えてるな」
あの時はなぁ……恥ずかったよなぁ///
「ええ、初めて八幡君に膝枕をした記念日ですから」
『えー、それ私聞いてませんけど?」
「言ってませんでしたっけ?」
『言って無いですー」
「あらあら、じゃあ今日八幡くんにしてあげましょうね」
『まぁ!良いですね!そうしましょう」
あっれ?俺抜きで話が進んでんな?
「そういうことですので八幡君、お願いしますね?」
「ま、まぁお手柔らかに?」
「善処します♪」
なにを?!
「二人ともお待たせ」
水着に着替えていたやよいが戻ってきた。
白地に所々黄色の星があり、フリルのあしらわれたワンピースタイプの水着のようだ。
「その水着似合ってるな」
女性が普段と違った服装をしている時は取り敢えず褒める。コレ鉄則。
「ええ、とっても可愛らしいです」
「えへへ、ありがとう。今度はわたしが荷物を見てるね」
「おう、よろしく」
「お願いします。では八幡君、行きましょう」
ぱぱっと着替えて仮設の更衣室の前でれいか達を待つ。
ここは海開きの期間中だけ臨時で毎年建てられている更衣室だ。簡素な作りなものの、毎年立替えていだけあって中は比較的綺麗だ。
「お待たせしました」
その声に振り返る。
「…………」
ゴクッ……
咄嗟に声が出なかった。
「……どう、ですか?」
『見惚れてもいいんですよ?」
れいかの水着は黒と白のビキニだった。たしか、アーガイル柄といっただろうか、黒と白のダイヤ柄のビキニは普段よりも一層れいかときょうかを妖艶に魅せている。
「……すっげぇ綺麗だ」
「あら///」
『あらあら///』
「嬉しい、です」
『二人で悩んだ甲斐がありましたね」
普段と少し違う姿を見ているだけなのに、こんなにも違って見えるのは海の雰囲気に流されているからか……
「す、すまん。もっと上手く褒められると思ってたんだが……」
「いいえ、変に言葉を重ねされるよりも……」
『その一言だけの方が心が伝わってきます」
「そ、そうか///」
「ふふっ、行きましょう!皆さんが待ってます」
『私、海は初めてなので楽しみにしてたんです!」
すっと絡められた腕を引かれ……
「あ、ああ」
俺達の夏休み最初の思い出作りが始まった。
実は海よりもプール派の作者です。
執筆中れかちゃんの水着を考えてるのが今回で一番楽しかったです!
それではまた次回もお楽しみに!