俺の青春にスマイルなどあるのだろうか?   作:紫睡

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よし付き合った!これからガンガン攻めてくぜ!(主にれかちゃんが)


第10話 それでも、日野茜は愚直である
(1)


 俺は今不思議な空間にいる。

 

 そこでは動物も虫も人と同じ大きさをしており、空には魚が泳いでいて、キノコが井戸端会議に花を咲かせている

 

「僕は比企谷八幡!見ての通り、爽やかフェイスの14歳さ!」

 

「こんにちは!ライオンさん今日のご飯はウサギさんなんだね!」

 

「ん?エリンギさんどうしたの?……なになに、え?!二軒隣のマイタケさんがなめこさんと不倫してるだって!?大変だ!みんなに教えてあげなきゃ!」

 

 ……なんっだコレ……

 

 突然俺が現れたと思ったら、気が触れたとしか思えない様な事を言い出してライオンとキノコに喋りかけてやがる……

 

 唖然とその様子を伺っていると奴がいきなり『ぐりんっ』と顔をこちらに向けてきて目が合った。……合ってしまった。

 

「……そこに居るのはもう一人の僕じゃないか!もう一人のぼくぅ!」

 

 奴は意味不明なことを呟きながら、ヒタヒタと近づいてくる。

 

「モウヒトリノボクゥ」

 

 逃げようとするが体の感覚が全く感じられず逃げるどころか目を逸らすことも出来ない。

 

「イッショニナロウ……」

 

 奴の手が俺の顔にかかる…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあ!!はぁ、はぁ……夢か」

 

 なんちゅー夢を見てるんだろうな、俺は……

 

 昨日、れいかから告白され、晴れて俺とれいかは恋人になった。……まぁ、それは今でも幸せな気持ちは残ってるし、良い事なんだが、問題はれいかが帰った後だった。れいかが作ってくれた卵酒のお陰か体調も良くなり始め、いつも通りの行動をとっていたのだが……何をするにしてもれいかの事が頭を()ぎってしまって落ち着かなかった。

 

 食事の時も一緒に食べた記憶が、トイレでもれいかの体で用を足した時の記憶が、挙句は寝ようと布団に入った時にも二人で布団に入った時の事が頭から離れずに悶々として、うまく寝付けなかった。

 

 思えばそのせいでこんな酷い夢を見たのかもしれない。

 

「うーん……もっかい寝直すか?」

 

 一度寝て、頭の中が整理されたからか、昨日の様に落ち着かないなんてことは無い。それにどうせ起きるならば、もっと気持ち良く起きたい。

 

お兄ちゃーん!ご飯だよー!

 

「……もうそんな時間だっけか?」

 

 寝直そうと思ったが、もうそんな時間は無いようだ。

 

「……今行くー!」

 

 返事を返し、一度伸びをする。

 

 

 

 顔を洗ってから居間に入る。テーブルには既に朝食の用意がされていた。

 

「おはよう、悪いな全部任せちまったみたいで」

 

「おはよ、お兄ちゃん。いーのいーの気にしないで小町今日は機嫌いいから」

 

 実際機嫌が良いのは確かなのだろう。鼻歌を歌いながら使った調理器具を洗っている。

 

 ……何か昨日のうちにいい事でもあったのかね?

 

 椅子に腰かけ、なんとなしに目に付いた赤飯に、嫌な予感を覚えながらも小町が席に着くのを待つ。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんお待たせー、じゃ食べよっか」『いただきます』

 

 用意されていた牛乳に口をつけ、口内を湿らせてから赤飯を一口。

 

「そういえば小町、昨日は何かいい事でもあったのか?今朝は機嫌も良いし赤飯なんて炊いて……」

 

 小町も席に着いたので気になってた事を聞いてみる。

 

「あったよ!もう小町史上最高って位のことが!」

 

「……お、おうそうか?」

 

 だいぶ食い気味に返されたわ……でも小町史上最高って事は相当いい事なんだな………まさかな……

 

「だってぇ……昨日は、お兄ちゃんとお義姉(ねえ)ちゃんがお付き合いを始めた記念日だもん!そりゃお赤飯も炊くよ!」

 

「ぶふっ!ごほっごほっ!……米が鼻に」

 

 小町の爆弾発言に思いっきりむせてしまった。これが牛乳を飲んでいる時だったら、思いっきり小町に吹き出してたかもしれない。

 

「ごほっ!……ん!はぁ、お前見てたのかよ……」

 

「まっ、たまたまね。時間潰すために外でぶらぶらしてたら、これからお見舞いに行くって言う皆さんに会ったから、それについて帰ってきたの」

 

「……おい待て、皆さんってなんだ?」

 

 皆さんって……皆さんか?あの四人組か?

 

「え?そりゃプリキュアのお義姉(ねえ)ちゃん以外の人達でしょ」

 

「……マジ?マジかぁ……」

 

 俺今日これから教室で会うんだけど……どんな顔して会えばいいんだよ……

 

 れいかはこの事を知ってるのか?……いや、知らなくても普通に今日、教室で話してそうだわ……

 

「……どうせ知られるなら別にいいか」

 

 彼奴らなら変に騒ぎ立てる事もないだろうしな……

 

「……お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「いい顔する様になったね」

 

 言われてはっとする。小町にはこれまで結構な心配を掛けていたみたいだ。

 

 小学校の頃から周りの奴らはみんな、関わりたくないのがほとんどだったが、存外今はそうでもないらしい。

 

 自分の事なのに、らしいと言うのは少しおかしいかも知れないが、あまり実感が湧いてない今は、この言葉が妥当だろう。

 

 だからと、言っていいか分からないが、れいかだけではなく、彼奴らとも過ごす学校生活は……

 

「……まぁ、案外悪いものじゃないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの様に挨拶すること無く教室に入る。最近は予鈴に間に合わない事も減ってきており、実際今もまだ予鈴が鳴るまでにだいぶ余裕がある。

 

 これも、れいかと花壇の世話をする様になってから、比較的朝が早くなっているのが理由だ。

 

「八幡君、おはようございます!」

 

 自分の席に近づくと、れいかが俺に気づいたようで直ぐに挨拶をしてくれる。

 

「……あ、ああ、おはようれ、れいか」

 

 最近は()()にも慣れてきたもので(ども)る事無く挨拶を返せるようになった。………いや、なっていたのだが、流石に昨日の今日で動揺するなという方が無理な話だ。案の定吃った

 

 何か他の話題で誤魔化せないかと、視線を彷徨わせ、目に付いたれいかの机には教科書とノートが広げられていた。どうやら今日の授業の予習をしていたようだ。

 

「……げっ、数学か、そういえば今日もだったか……」

 

 れいかの綺麗に整理されているノートを覗き込むと、そこには俺の苦手な数学の数式が書き留められていた。

 

「もう、嫌そうな顔をして……今日は寝ないで下さいね?」

 

 揶揄う様に言うれいかだが、その頬はうっすらとだが確かに赤く染まっていた。

 

「……まぁ、善処する」

 

 いつも普通に授業を受けてるつもりだが、上手く理解出来ない話を延々と聞かされると結果的には寝ちまってるんだよな……これはきっと人間の防衛本能だから仕方ないんだわ、うん。

 

「……比企谷、アンタまたろくでもない事考えてるでしょ?そんなに苦手なられいかに教えてもらえばいいじゃない」

 

 突然後ろから声を掛けられ、振り返ると朝練上がりらしく頬が上気し少しあせばんだ、緑川が立っていた。

 

「緑川か」 「あらなお、おはようございます」

 

「二人ともおはよう、さっきは急に会話に入り込んでごめんね。たまたま話が聞こえたからさ、つい口を挟んじゃった」

 

「大丈夫ですよ。でも、そうですね。いいかも知れません。私は平気ですが八幡君はどうですか?」

 

「いや、俺も教えて貰えるなら大歓迎だが……良いのか?」

 

「ええ、もちろんです!また後日、予定を確認したら連絡させていただきますね。八幡君の都合の悪い日などはありますか?」

 

「……いや、特にそういう日はないな」

 

「それなら良かったです!」

 

 れいかはメモ帳を取り出すと、嬉しそうに緑川と話しながらメモ帳に書き込んでいる。

 

 緑川の提案からトントン拍子でれいかとの勉強が決まってしまった。緑川の顔を見ていると俺の視線に気付いたのか、此方を向くとウインクをして、またれいかとの会話に戻っていった。

 

 ……え、なにあれ、かっこいい……。緑川にキャーキャー言ってる後輩ちゃん達の気持ちがわかった気がするわ……

 

 

 

 

 

 

 

 無事……とは言い難いが授業も終わり放課後、数学の時間もたまに、れいかに突っつかれて起こされる程度で先生に見つかって咎められること無く切り抜けることが出来た!……後でれいかになんかお礼しないとな。

 

「八幡君、今日は一緒に帰りましょうか」

 

 鞄に教科書等、荷物を詰め込んでいると隣から声が掛かる。そう、こうして最近は、れいかが声を掛けてくれるおかげで、わざわざタイミングを見計らって一人教室を出る事が無くなった。今日は生徒会も無いようで一緒に帰れるらしい。

 

「……おう、そうだな」

 

 帰り支度が終わり、席を立とうと一瞬、窓側を見ると星空が日野を連れて駆け寄ってくるところだった。

 

「みんな聞いて!今日からあかねちゃんが店長なんだって!」

 

 ……なに?話が全然見えてこない。

 

「みゆき!それじゃ全然伝わらんやろ……」

 

 

 

 話を聞くと、昨日から日野の父親がぎっくり腰になり、入院して働くことが出来なくなってしまった為、入院期間中は日野が店長としてお好み焼き屋を切り盛りするらしい。……日野の家がお好み焼き屋っていうの、今初めて知ったんだけどな。

 

「ねっ!?ねっ!?すごいでしょ!偉いよね!」

 

「うん!あかねちゃんすごい!」

 

 褒め殺しだなぁ、おい。

 

「いやぁ、それ程でも……あるでぇぇ!!」

 

「それを言うならそれ程でも無い……でしょ」

 

「ふふふっ」

 

 騒がしくなってきたが、まぁ、こういうのも悪くは無いと思ってきたところだ。

 

「……ただな、最大の難関は日曜日やねん」

 

「どうかしたの?」

 

「町内会長さんらが、うちで食事会することになってんねん」

 

「あ、確か町内会長さんは美食家だと伺ったことがあります」

 

 最近はこういう話の中でも、日野の家のことしかり、引っ越して来てから一年も経ったが知らない事がまだ多いんだなと感じることがある。

 

「……グルメってこと?」

 

「そやねん、そのグルメな町内会長さんが父ちゃんのお好み焼きを、今まで食べたお好み焼きの中で一番美味しいって褒めてるんや!ガッカリさせへんよう頑張らんとあかんねん」

 

 へえ、美食家の人がそんなに褒めるなんて、マジで美味いんだな……なんか腹減ってきたわ

 

「あかねちゃん家のお好み焼きほんとに美味しいもんね。家で食べるのとはひと味もふた味も違うねってママと話してたんだ」

 

「へえ、聞いてたらお腹すいてきちゃった!」

 

「キャンディも食べたいクル」

 

 キャンディもこういう話には結構目敏いよな……

 

「よっしゃー!じゃあみんな一回家に帰ってそれからウチのお店に集合や!」

 

『やったぁー!』「……マジで?やった」

 

 お好み焼きの話聞いてて、丁度食べたかったんだよなぁ。

 

「よっしゃ!みゆき行くで!」 「うん!」

 

 日野と星空は直ぐに駆け出して行く。

 

「おふたり共!廊下は走らないで下さいね!」

 

『はーい!』 「もう……しょうがないんですから」

 

 返事だけは良いことで……れいかも諦め気味だな。

 

「じゃあやよいちゃん、アタシ達も行こっか?」

 

「え?……あ!そうだねなおちゃん」

 

 黄瀬は一度、俺達を振り返ったが何かを思い出したのか、少し顔を赤くして緑川に続いた。

 

「じゃ、二人とも先に行くよ!」

 

「ええ、また後程(のちほど)」「……おう、後でな」

 

 緑川と黄瀬の二人を見送り、れいかと顔を見合わせる。

 

「……なんか気を使わせちまったみたいだな」

 

「そうですね……でも、少しだけありがたいです」

 

 緑川は朝の時もそうだがだいぶ俺達のことを気にしてくれている様だ。

 

「八幡君はあかねさんの家の場所は分かりますか?」

 

「……いや、前を通った事くらいはあるんだろうが全然分からないな」

 

 知り合いの家なんて、れいかの家以外行ったことないし、外食なんてほぼサイゼだしな……

 

「では、私があかねさんの家にご案内しますね。いきましょう」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 そうして俺達は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手……繋ぎます?」

 

「いや、流石にこの人目の中じゃ……」

 

「………………」

 

「学校から少し歩いたら繋ごうぜ……」

 

「はい!」

 




 夢とかは特に今後に響いていく伏線とかではないです。ただ書き出しが思いつかなくて夢に逃げただけなので……

今章はあかねちゃん回ですね。あ、章タイトルの愚直って良い意味ですからね!?あかねちゃんいい子よ!

この話で気付いた人もいるかもしれませんが、入れ替わりの事件を機に八幡のれかちゃん以外への好感度も爆上がりしてます。困ってる時に助けられると気を許しちゃいますよね。

追伸、なおちゃんは男だったらマジでイケメンだと思います


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