無事ホームルームの前には教室に着くことが出来た。その時に青木だけ先に入らせて、少しだけ時間を潰してから俺も教室に入って席に着く。
「比企谷君、少し遅れて来ましたが何かありましたか?」
「いや、特に何も無いが一緒のタイミングで入ると青木に変な噂でも立つと悪いかと思ってな」
「それは……お気遣いありがとうございます。ですがそのような事、お気になさらずともよろしいのに」
「いや、俺が気にする。昨日、日野も言ってたが青木はモテるんだからな。そんな中噂にでもなってみろ、俺は針のむしろだぞ」
実際、青木はかなりモテる。先週も誰か告白したとか聞いた覚えがある。いや、人が話してるのを聞いただけだが。
「そう言われてしまうとこちらも弱いですね。では、せめて教室に入る順番は交互にしませんか?いつも遅く来てもらうのは私も心苦しいです」
「却下だ。レディファーストだとでも思っておいてくれ」
青木に負担を強いると後で小町に知られた時が怖い。
返事が無いので青木の方を見ると凍えるような笑顔をしていた……
「……では、明日から手を繋いで教室に入りましょうか?」
「交互でお願いします……」
速攻負けたわ。何かやばい片鱗を感じたぜ……
「はーいみんな席に着いてー、ホームルーム始めるわよ!」
結局、ホームルームが始まってしまったので青木に話しかける事も出来なくなってしまった。
あの後も話しかけようとしたのだが、別の生徒と喋っていたり、職員室に行っていたりと尽く空振りだった。明らかに避けられている。でもここまで青木の方から交互を推してくるなら小町への言い訳もたつだろう。押してダメなら諦めろ。俺の座右の銘にもあるじゃないか。
天気が良いと俺みたいな日陰者には少し辛い。ていうか
「……暑い」
今日も今日とてベストプレイスを探しているがなかなか見つからない。前の場所は良かったのだが、今は既に陽キャ共に見つかって奪われてしまった。
アイツら頭イカれてんだろ。急に近くに座り出したと思ったら『ちょっと!さっきまで居なかったよね!?ここ、アタシ等が見つけたんだからどっか行ってよね!』と来たもんだぜ。ステルスヒッキー強すぎない?自分で自分の才能が怖いぜ!
しょうがなく、人気のない階段で購買のコロッケパンをぱくついている。焼きそばパンが良かったのだが売り切れていた。
ゴロゴロゴロッビタンッ!「げふっ!」
階段脇から異音が聞こえて来たので少し顔を出す。
「プリキュアのことは秘密クル!」「なんでぇ……」
「そりに、誰でもプリキュアになれる訳じゃないクル!」
げっ!?星空にキャンディ!気付かれないうちに離れよう。
星空達から逃げて来たが、どこに行こうか?昼休みも残りなかばというところだ。まだ教室に戻るには早い。
出来るなら人の来ない、静かな所がベストなんだが……
という訳で、やって来ました弓道場。職員室で鍵を借りて来たので開けて入る。昼休みにまで練習に来るやつは居ないのでとても静かで落ち着く。
何故俺が弓道場の鍵を借りられるのかと言うと、実は弓道部だったりする。幽霊部員だけどな。なので弓も道衣も持っていない。……高いし。
弓道場の射場の縁に腰を下ろし、的をボーっと見つめながら、先程チラッと聞こえた会話を思い出す。
『プリキュアのことは秘密クル!』
『そりに、誰でもプリキュアになれる訳じゃないクル!』
星空が誰かを勧誘でもしてるのかもな、星空一人であの怪物達と戦い続けるのも無理があるのだろう。
まぁ、なんとかなるだろう。星空ならばなんとかしてくれそうな、そんな安心感がある。
予鈴までは取り留めのない事を考えながら、ただただボーっとしていた。
キーン コーン カーン コーン
「比企谷君、この後に少し、部活の方に顔を出していただいてもよろしいでしょうか?」
放課の鐘がなると、直ぐに青木が声をかけてきた。
「ん、あぁ、大丈夫だ。この後向かえばいいか?」
「そうですね。私も直ぐに向かうので少々お待ちください」
言って、支度を始める青木……あれ?この流れは一緒に行くことになる……のか……?
マズイな注目は浴びたくない……よし。
「わかった。なら廊下で待ってるぞ」
言うだけ言って歩き出した。青木が反応する前に、廊下に出るグループの後ろについて行く。
……ミッションコンプリートだ。
無事廊下に出ることが出来た。しかし青木は危機感が足りんな、中学生なんてのは、なんでも色恋に繋げたがる恋愛脳共だ。そんな奴らにわざわざ話のネタをやる必要は無い。……と言うか目立ちたくない。
そんな事を考えているうちに青木も教室から出てくる。立ち止まり、周りを見渡して俺に気付くと、少し口角を上げこっちに向かって来る。
……何今の、ちょっとトキメキそうになったわ。
「すみませんお待たせしました。では、行きましょうか」
青木と二人で歩き出す。
そーっと、ちょっとずつ、歩く速度を緩めて、旗目から見ても青木と一緒の方向に歩いてるだけのモブに徹する。
もちろん青木が不審がらないように、一定の間隔は保ったままだ。これぞボッチクオリティ。
それからは特に何も無く弓道場に着いた。青木が鍵を開ける。
「私は着替えるので、比企谷君は先に中で待っていてください」
おう、と一声返し弓道場の中へ入る。
中に入り昼休みと同じように射場の縁に腰を下ろし、青木を待つ。
それほど待つことも無く青木は直ぐに来た。着慣れているためか、道着と袴に身を包んだ青木はどこか毅然としている様に感じる。
「お待たせしました」
「いや、それほど待ってないから気にするな」
俺が青木の方に向き直ると青木は俺の正面に腰を下ろす。
「今回お呼びした理由ですが、私の個人的な話なのでそれほど緊張なさらないでください」
「実は花壇のお世話なのですが、今日だけで無く、これからもお手伝いをお願いしたいのです。」
「今日お手伝いをしていただいて、感じた事なのですが、比企谷君は真面目にしっかりとお花の水やりをされていました。」
「実は、今までにもお手伝いを申し出てくれる方もいらしたのです。ですがその……少しキツい言い方になってしまうかもしれませんが、不真面目と言いますか男性の方はその……下心が透けて見えるようでして……女性の方も周りの方とお喋りを始めてしまって、水やりが疎かになってしまわれていて……」
話を聞いて出てくる感想といえば、まぁそうなるだろうと、いうものだ。男共は好かれようとか、あわよくば、みたいな下心で手伝ったのだろうし、女子も水やりをしている青木を見て「皆で手伝って上げよう!」みたいなノリで手伝ったのだろう。
「その光景が目に浮かぶように想像出来るな……」
「……えぇ、まぁそのような事が続きましたのでお手伝いの申し出は断るようにはしていたのですが……」
そりゃ断りたくもなるだろう。そんな事が続くようじゃやり方を教えるだけ時間の無駄だろうしな。……ん?
「じゃあ、なんで俺の申し出は断らなかったんだ?」
「……それは、今まで比企谷君を見てきて、そのような事をする姿が想像出来なかったので……」
「……これは褒められてるのか?」
「褒めていますよ。比企谷君が仕事を任されると真面目に、丁寧にやっているのは知っていますから」
……それ、押し付けられてるだけなんですけど。
それにキッチリやるのは文句を言われないためにだし……
「……まぁ、俺でよければ引き受けさせてくれ」
「本当ですか!ありがとうございます。お礼に私に出来ることなら何でも仰ってくださいね」
「お、おう……何かあったら頼むわ」
……勢いが凄い、それに何でもってホントに何でもいいの?おっとこの考えは危険だ……
「それでは明日の朝からお願いしたいのですが大丈夫でしょうか?」
「ああ、明日からで問題ない」
「ありがとうございます、ではお願いしますね。……あ、そういえば先生に伺ったのですが、今日の昼休みにここの鍵を借りられたそうですが何かあったのですか?」
「その事か……特に何かあったって訳じゃないんだ。少し人の来そうにない所でゆっくりしたくてな」
「そうですね、確かにここは昼休みは誰も使わないですからね。何も無いのなら良かったです」
「比企谷君はこの後はどうしますか?私は少しここで鍛練をしてから帰りますが……」
どうしようか特に帰ってもする事も無いしな……
「少し見学させてくれないか?急ぐ用事も無いしな」
「えぇ、大丈夫ですよ。お目汚しですが、それでもよろしければ見ていってください」
この後は青木が弓を引くのを見学してから帰った。
……ちなみに青木の弓道の腕はやばかった。もう百発百中ってレベル。
もっと親密に