俺の青春にスマイルなどあるのだろうか?   作:紫睡

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最近久しぶりにまどマギを全部一気見してギャン泣きしました。


(5)

 先程の話し合いで贈り物は湯呑みに決まったので陶器類の売られているスペースにやってきた。陶器類が多いと言っても少し離れればガラス食器のエリアになっているので食器エリアの一角という位置づけだろうか。

 

「……なかなかの品揃えだな」

 

 それでも多くの湯呑みが売られていることには変わりない。あまりこのような場所に立ち寄らない俺としては、それだけで圧倒されるようだ。

 

「ええ、綺麗な柄のモノも多いですし、これなら贈り物にピッタリなものも見つかると思います」

 

 さっそくれいかも周りをある程度な目星を付けている。

 

「よし、じゃあ早速探すか」

 

「ええ、でも八幡君がまた一人で探しに行こうとしなくて安心しました」

 

「っぐ……さ、流石に俺も学ぶからな」

 

 修学旅行での買い物の時に別れて探そうとした事をチクリと言われてしまった。

 

「はい、ですから安心しました。買い物は二人で一緒に……ですからね?」

 

「ああ、一緒に……だ」

 

 

 

 

 

 偶に気になったモノがあった時には立ち止まり、手に取って見たりしながら周っていると、一つだけやけに主張しているモノがあったのでつい、反射的に手に取ってしまった。

 

「えっ……八幡君?流石に母の日にそれは……」

 

 れいかのちょっとだけ引き気味な視線に軽いショックを受けながらも慌てて弁明をする。

 

「いや、コレは違うぞ!母ちゃんに似合うとかじゃなくて、一つだけ明らかに場違いだからつい手に取っちまっただ」

 

 慌てる俺にれいかは軽く表情を崩す。

 

「ふふっ、すみません。冗談ですからそんなに慌てなくても大丈夫ですよ。私も随分ユニークなモノがあるなと、目を引かれてしまっていましたから」

 

「それならよかった……のか?」

 

 まぁ、れいかが笑ってくれるならそれもいいだろう。

 

「それにしても、本当に場違いですねぇ」

 

 俺が手に取ったのは湯呑みではあるのだが、魚へんの漢字が大量書かれている湯呑みだった。……ぶっちゃけ寿司屋のアレだ。鳥や植物が描かれている湯呑みが多い中でポツンと一つだけ大量の漢字が羅列されているのだ。……圧が凄い。

 

「ま、まぁ気を取り直して他のも見ようぜ」

 

「ええ、そうですね……」

 

 

 

 

「やっぱり花とか描いてあるのが綺麗だよなぁ」

 

「そうですね。……あっ、花でしたら八幡君は梅や桜の様な枝に咲いているものと、すみれや薔の薇様に茎に咲いているものでしたらどちらがいいですかね?」

 

 木に咲いてるのと地面に咲いてるのか……それなら答えは決まってるな。

 

「俺は茎に咲いてる方だな。花壇の世話をしてるからか、そっちの方が馴染みがあるし良いな」

 

「ふふっ♪そうですか、お世話をお願いした私が言うのもなんですが、そう思っていただけたのなら嬉しいですねぇ」

 

 この答えはれいかの琴線に触れたようだ。まぁ、れいかに頼まれなければ花壇の世話をする事もなかったのでれいかのお陰とも言えるのだが……

 

「ちょっとだけ戻ってもいいですか?私が特に気に入ったモノが八幡君にも気に入って貰えそうですので」

 

 少しだけ見て周ってきた道を戻り、れいかが手に取った湯呑みは小さな白い花が沢山、繊細に描かれた湯呑みだった。

 

「これは……良いな。なんでさっきは気づかなかったんだろ」

 

「そうなのですか?少し奥まった所にあったのでそのせいかもしれませんね」

 

「それでか……。所でこの花はなんて名前の花なんだ?」

 

「これはカスミソウですね。小さくて可愛い花が特徴なんです」

 

「カスミソウ……名前もなんか綺麗だな」

 

 この湯呑みで確定でいいかもな。もう一個はっと………ん?

 

「……もしかしてコレって二個ないのか?」

 

「あら?……本当ですね、確認不足でした。……どうしましょう、お母様達にはお揃いでプレゼントしたかったのですが……」

 

 どうすっかな……棚の下とかに在庫とかしまってねーのか?…………あったな。棚の下も一応陳列スペースだったらしく数点、上箱が取り去られた状態で中の商品がこちらを向くように陳列されている。……普通気づかなくね?

 

「れいか、全く同じのって訳じゃねぇが……あったぞ」

 

「えっ?本当ですか?」

 

「ああ、しかも都合のいい事に二つセットだ」

 

 棚のしたから取り出して、れいかにも見せる。それは先程見つけた白いカスミソウの花とは違い、水色とピンク色のカスミソウのセットの湯呑みだった。一方はピンク地に水色のカスミソウ、もう一方は水色地にピンクのカスミソウと対になっている。

 

「まぁ!素晴らしいですね。それならお母様達にピッタリだと思います!」

 

「よっし、早速買って来るか」

 

「はい、いきましょう」

 

 

 

 

 

 

 買った湯呑みはレジで個々にラッピングしてもらった。セットで渡して分けてくれというのはどうにも格好がつかないと思ったからだ。

 

 因みにれいかと話して母ちゃん達のイメージで勝手に水色の花はれいかの母ちゃん、ピンクの花はうちの母ちゃんと分けている。ラッピングも花の色のリボンを使ってもらっている。

 

「よし、これであとは渡すだけだな」 

 

「ええ、お二人とも喜んでくれると嬉しいのですが」

 

「そりゃ喜んでくれるだろ……流石に」

 

 微妙な顔とかされたらかなりショックなんだが……

 

 

 

「わっ!」

 

「きゃっ?!」 「ひゃっ?!」

 

 れいかと渡す時の事を考えていると、急に後ろから声と共に肩を掴まれ驚きのあまり変な悲鳴をあげてしまう。

 

「二人共可愛い反応だねぇ。……びっくりした?」

 

「……はい、とっても驚きました……ふぅ」

 

「……いやいや、脅かすんじゃねーよ。危うくプレゼント落とすところだっただろ?」

 

 後ろから急に驚かせて来たのは母ちゃんだった。俺もれいかも湯呑みを落とさなかったから良かったものの、落としていたらせっかくのプレゼントが台無しになるところだった。

 

「え?あ〜……うん、ごめんね」

 

 後ろから来ていたからか、母ちゃんも俺達の手にプレゼントがある事は見えなかったようで素直に謝るが――

 

 バシッ!

 

「あたっ?!」

 

「……全く、急に走り出したかと思えば貴女は……自分の子供達に何をしているのですか」

 

 ――遅れてやって来た、れいかの母ちゃんに頭を引っぱたかれていた。……若干慣れを感じるのは気のせいだと思いたい……いや、やっぱ慣れてるわ。

 

「痛った〜い。静ちゃん酷い、今謝ってたとこだもん」

 

「だもんじゃありません。貴女は昔から……」

 

「え〜でも静ちゃんだって……」

 

 

 

「ふふっ♪びっくりしましたけど、お母様達の仲の良い姿が見られるのなら驚かされた甲斐があったのでしょうか?」

 

「そうさなぁ、まぁ、仲良き事は美しきかな……てか?」

 

「もう、それじゃあ答えになっていませんよ」

 

「ふふふっ」 「くははっ」

 

 言い争う(じゃれあう)二人は普段見る姿よりもかなり若く見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 終わらないじゃれあいを仲裁して四人で昼食をとった後は直ぐに帰路に着いた。俺もれいかも、落ち着いた場所で母の日の贈り物を渡したかったからだ。母ちゃん二人に相談するとれいかの家で贈り物を渡す事になった。

 

 

 

「わぁお、大っきいねぇ。静ちゃんこんな凄いところに嫁いでたんだねぇ」

 

 れいかの家に着くと母ちゃんが圧倒されるように口にする。

 

「偶然好きになった人の家が大きかったと言うだけです。さぁ、入りますよ」

 

「なになにー?馴れ初め聞きたいなぁ」

 

「後にしなさい。二人が待っているんですよ?」

 

「あ、ごめんねぇ。さっ、入ろうか」

 

 そう言うと母ちゃんれいかの母ちゃんに続くように入っていく。……母ちゃん全く緊張してねぇな。俺は初めて来た時かなり緊張したんだがなぁ……

 

「……私達も入りましょう。早くお母様達がどんな顔をするか見てみたいですしね」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 家の中へ入ると、廊下を進んでいき客間の一つに通される。部屋の中には少し大きめの座卓があり、先に入ったれいかの母ちゃんが座布団を用意してくれていた。

 

 座卓を挟んで部屋の奥側に母ちゃん達二人が座り、入口側に俺とれいかが座る。

 

「……………」

 

「……………」

 

 え?これどう切り出すの?

 

「……?プレゼントくれないの?」

 

 母ちゃん助かった!その切り出し方は普通にねーとは思うけど……

 

「あっ、はい!これがお母様の分です。お母様、何時もありがとうございます」

 

「ありがとうございます。ですが私もれいかには何時も助けられていますよ」

 

 

 

「こっちが母ちゃんの分な。母ちゃん、何時も……あー、ありがとな///」

 

 なんか照れるよな……こう改めて感謝するのって。

 

「んふふ、ありがと。八幡もあたしは普段留守にすることが多いけど何時もありがとね」

 

 

 無事二人にプレゼントが渡せたのでなんだか肩の荷が降りたような気分だ。

 

「ねぇ?これ今開けてもいい?」

 

「ええ、どうぞ。むしろ今開けて欲しいです」

 

 母ちゃん二人は顔を見合わせると揃ってラッピングを解き始めた。

 

「……これは」

 

「わぁ……可愛いねぇ」

 

 二人は湯呑みを取り出すとお互いの物を見比べてクスリと笑みを浮かべる。

 

「静ちゃんとお揃いだねぇ」

 

「全く……変な気遣いを///」

 

 れいかの母ちゃんも口ではそう言っていても表情はかなり嬉しそうだ。

 

「お母様方、喜んで頂けましたか?」

 

「結構考えたから、喜んでもらえるとこっちも嬉しいからさ」

 

 二人はまた顔を見合わせると笑みを浮かべ続ける。

 

「あたしは大満足だよ。二人共本当にありがと、大切に使うからねぇ」

 

「ええ、少し気恥ずかしくもありますが、あなた達二人が私達の事を考えて下さったのはよく分かります。大切に使わせて頂きますね」

 

 二人共贈った湯呑みは気に入ってくれたようだ。気に入ってくれるだろうとは思っていたが、やはり、いざ直接言われると嬉しいものだ。

 

「お母様達に気に入って頂けたのなら幸いです。あ、そう言えばお母様、御霊お母様にも家で使っている茶葉を…………」

 

 

 楽しそうに話しをする三人を見ていると家族が増えたかのような気がしてくる。あの中に俺も入っているのだと思うと胸の奥から幸福感が湧き出してくるようだ。

 

 ここまで充実した母の日は初めてだった。また来年もれいかと二人の母ちゃんに感謝を伝えられるように頑張らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ静ちゃん?コレって夫婦湯呑みだよね?」

 

「そう……ですね。二人は気づいていないようでしたけど」

 

「じゃああたしがパパで静ちゃんがママだねぇ」

 

「……はぁ、また馬鹿な事を……」

 




因みにカスミソウの花言葉はピンクは【切なる願い】水色は【清い心】です。なんかいい花ねぇーかなぁって調べてた時に出てきてピッタリかよ?!ってなりました。

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