「お爺様の部屋の前に着いたら、先に私が入りますので八幡君は私が呼ぶまで少し待っていてくださいね」
「お、おう」
緊張がやばい……なんか後で入ってきて下さいって転校生の挨拶みたいだなぁ。なーんて……HAHAHA……はぁ
マジやべぇよ……れいかの母ちゃんと初めて会った時の比じゃねぇよ……
クイッ
不意に袖を引っ張られる。
「んっ……ど、どうした?」
吃ったのは見逃して欲しい……
「ふふっ、あまり緊張しなくても大丈夫ですよ。お爺様も八幡君に会って見たいと、前にも
……それ、――孫を誑かした野郎の面ァ拝んでやろうか――みたいな意味だったりしない?
「……頑張ってみる」
「はい!頑張って下さい!」
ああ……期待の眼差しが……
「八幡君、お爺様のお部屋に着きましたよ。少しだけ待っていてくださいね?」
「……コクッ」
どうやら魔王の部屋の前に着いてしまったようだ……ところでセーブポイント何処?
「失礼します。お爺様、入ってもよろしいでしょうか?」
『……入れ』
廊下に正座をしたれいかが声を掛けると部屋の中から厳格そうな声が帰ってくる。
……お高い旅館かな?座り、襖をスっと開くれいかの所作はまるで高級な旅館の女将さんのようで、慣れすら感じる。
やっぱめちゃくちゃ厳しそうじゃん……緊張の度合いが更に上がっているのが自分でも感じられる。
『お爺様、実は今日、紹介したい方が居るのです。今は廊下で待っていてもらっているのですがお呼びしてもよろしいでしょうか?』
閉められた襖越しに二人の会話が聞こえてくる。……れいかに習って正座して待ってるんだが……これであってるよな?
『……ふむ、入ってもらいなさい』
『はい、八幡君。入ってきて下さい』
呼ばれた!
「し、失礼します」
出来るだけ静かに襖を開け、部屋に入るため立ち上がろうとした時だった……
「あっ……」
たいした時間正座を続けていた訳でもないのに、緊張のせいか足が少し痺れてしまったようで、立ち上がろうとした瞬間に足がもつれてしまった……
ドタンッ!
「八幡君っ?!」
慌ててれいかが抱き起こしてくれる。
「うう……すまん」
なんだか無性に自分が情けなくなってくる。
恐る恐る、れいかのじいちゃんの方を見ると目を瞑り此方を一向に見ようともしない。
「八幡君、あまり気になさらないで下さいね?」
れいかに抱き起こして貰い、れいかのじいちゃんの正面に二人並んで座る。
「お爺様、こちら、私がお付き合いさせて頂いている比企谷八幡君です」
「ひ、比企谷八幡と申します」
「…………」
しかし……れいかのじいちゃんは目を瞑ったままなんの反応も返さない。……もしかして俺が粗相をしたから呆れられてしまったんだろうか……
「……お爺様?」
「……むっ、どうやら眠ってしまっていたようだ。比企谷君と言ったかな。すまぬな、あまり歳はとりたくないものだ」
「まぁ、お爺様ったら」
どうやられいかのじいちゃんは先程の失態を見なかった事にしてくれているようだ。それも自分で泥を被って……
「……いえ、ありがとうございます。改めまして、比企谷八幡と申します。お孫さん、れいかさんとお付き合いさせて頂いております」
ゆっくりと頭を下げる。……この人はただ厳格なだけでなく、とても心の広い人のようだ。俺もこの人にきちんと誠意を示したい。
「うむ、ただ、そう緊張せずとも良い。君の事はれいかからも聞いている。私は青木
「……いえ、俺……自分の方こそ、れいかさんにはとても良くしていただいています」
「謙遜せずとも良い。今のれいかは昨日と違い、迷いが晴れている。……その迷いを晴らしたのは比企谷君だろう。そうだな?れいか」
「はい、八幡君にお話を聞いてもらい、私の悩みを解きほぐしていただきました」
「……そうか。比企谷君」
「はい」
「……ありがとう。私の助言では、れいかがこうも早く、元気に立ち直る事など無かっただろう」
「……当然の事をしたまでです。自分もれいかさんが悩んでいるのは心苦しいので。……それにれいかさんの方から相談してもらうまで自分から尋ねる事が出来なかったのです」
「上を見過ぎずとも良い。れいか、良き相手を見つけたな」
「はい!お爺様」
これは……れいかのじいちゃんに認めてもらえたって事だよな!
「失礼します。お茶をお持ち致しました」
丁度会話が途切れたタイミングで、れいかの母ちゃんがお茶を持って入ってきた。
これってもしかしなくても外で話を聞いていてタイミングを計ってたんじゃないだろうか?……やっぱ青木家ってすげぇな。
「ありがとう、静子さん。……そうだ、静子さんから見た比企谷君の事も教えてはくれないかね?」
「ええ、勿論構いません」
……構いますけど?
「実は比企谷さん、私の友人の息子だったようでして……」
「ほう、それはなんとも奇縁な……」
「お母様?御霊お母様は親友だったのでは?」
「れいか、それは今は良いのです///」
「はっはっはっはっ!」
「…………………」
「ところで比企谷君?」
「ひゃい!」
かなり緊張したご挨拶……と、何故か盛り上がっていた紹介後の話も終わり、今はれいかの部屋に通され死んでいる。
「八幡君、だいぶお疲れのようですね?」
「……すまん」
「ふふっ、いいんですよ。今はゆっくりと休んで下さい」
れいかは優しくそう言うと、俺の体を自分の方へ引き寄せその膝に頭を乗せる。
「お爺様があの様に人を褒める事は滅多にないんですよ?それにあんなに笑っている所私も初めて見たかもしれません」
そう言いながら、れいかはゆっくりと俺の頭を撫で、もう片方の手で胸元をあやす様に軽く叩く。
「それは……めちゃくちゃ光栄ってやつだな」
「ええ、とっても凄いです。そんな凄い八幡君にはご褒美をあげなくちゃですね」
「……よしてくれ、あんまり褒められ慣れてないんだ」
「ふふっ、それに八幡君には私の悩みを解きほぐしてもらったお礼もしていませんでした」
頭を撫でていた手が目隠しをする様に瞼の上を覆う。
れいかは俺が悩みを解消したみたいに言うが俺はほんの少しだけ背中を押したに過ぎない。
「……それだって俺から悩みを聞いてやれれbんむぅぅううう??!!」
顎に何か触れたと思った瞬間、柔らかいものに唇を塞がれる。
「ちゅぷっ……ちゅっ///ちゅぱっ…はぁ…はぁ…///」
「れっ?!ちゅぱっ///むぅぅ!?なっ///なっちゅう……むぱっ///」
唇を塞がれた瞬間……何が起こったのか全く理解が出来なかった。起き上がろうにも目元と顎を抑えられ唇を貪られる。
「んっ...///ちゅぱっ…ちゅぴ///んむんむ…あぁむちゅ///」
キス、接吻、ベーゼ、口付け、口吸……言い方は数多くあれど、今、俺は初めて
……しているようだじゃねぇ!?
どういうことだよ……///
「ちゅっ…ちゅっ///ちゅぷ…んぱ///」
「はぁ…はぁ……///ど、どういうことなの///?」
ゆっくりと目元を抑えていた手が離れ、光が差し込んでくる。目を開き、段々と焦点が合ってくると、頬を上気させ口元を淫らに濡らし、こちらを見下ろすれいかと目が合う。
「……キス、してしまいました///これが私からのご褒美兼お礼……という事で…どうでしょう///」
「や……どうでしょうって言われても///」
なんというか///反応に困るぞ……///
「嬉しく……無いですか?」
俺が何も言えずにいると、れいかは少しだけ悲しそうに返答を求めてくる。
「いや嬉しい!嬉し過ぎるくらいだ!……でも急すぎて///なんというか困る……困った!」
困ったってなんなんだよ……もうテンパり過ぎて頭が湯だりそうだ。
「ぷっ!ふふふっ♪そうですね……困ってしまいますよね?では、納得出来るまで続けますね♡」
ちょっ?!
「んむぅぅぅ!?ちゅっぱ///」
「……もう…らめだ///」
「はぁ…はぁ///ふふっ、お互い口元がべたべたですね///」
初めてなのに……いや、初めてだからだろうか?れいかと俺は甘いキスの味に、夢中になってお互いを貪り合っていた。舌を入れるような事はなかったものの、最後の方には膝枕の体勢からいつの間にか、れいかが俺に馬乗りになる様な体制になり必死に唇と唇を押し付け合っていた。
「私……癖になってしまったかも知れません///」
「俺も……そうかもしれん///」
『……………///』
「……今日はお夕飯を食べていきますか?」
「いや、今日は何も言わなかったから、小町が俺の分ももう作り始めてる……と思う……」
「あ、そうですよね。小町さんに迷惑をかける訳にもいきませんし……すみません」
「そんな……謝らないでくれ。俺もれいかともっと一緒に居たいと……思ってる…し///」
さっきのキスを通じて、もう俺は完全にれいかの虜になってしまった様だ。
「ふふっ、ありがとうございます。……では、八幡君が帰ってしまう前に、少しだけお散歩にでも行きましょうか。八幡君のお家と私の家の丁度真ん中まで……」
れいかの母ちゃんに見送られ、れいかと外へと出ると丁度日が落ち始め、辺りが薄らと黄色く染まりだしていた。
「今日という日も、もうすぐ終わってしまいますね」
「……そうだな」
手を繋いで、歩きながらの雑談なのだが……何となしに会話がしんみりとしてしまうのは名残惜しさからだろうか……
「八幡君……明日も会って頂けますか?明後日の花壇のお世話まで待てないです……」
れいかがこうやって我儘を言うのは珍しく、それも俺に会いたいなんて我儘なら考えるまでもない。
「ああ、明日も会おう。それに今夜だって不思議図書館でなら会えるだろ?」
そう提案するとれいかは目を丸くする。
「そうでした……不思議図書館でなら何時でも会うことが出来るんでしたね」
自分で言ってて、ふと、気づいた。あ……これ歯止め効かなくなるやつだわ……
「ふふっ、それでは今夜も……っ?!」
話をしている途中で……ばっ!っと、急に上を見上げたれいかの視線を追うと、段々と黄色から橙色に変わってきていた筈の空が赤茶けた色に変わっていた。
「バットエンド空間ですか……」
「色的にアカオーニのやつだな……」
れいかの纏っていた艶やかな雰囲気も既に剣呑なモノになっている。
「せっかくの大切な時間を……」
「……れいか?」
「ふぅ……大丈夫です。みゆきさん達も既に向かっているかも知れません。私達も急いで探しましょう」
「……わかった!」
キャンディがいないので正確な場所は分からないが、俺達はおおよその見当をつけ、走り出した。
はい、という訳で初チッスの回でした。(八幡視点では……)
構想段階ではもっとロマンチックな雰囲気でするはずだったんですが、れかちゃんの我慢が効きませんでした。はい。
と言うかこの回で本当はバトルも終わらせて次回は次章になる筈だったんですよ。……言い訳でした。
蛇足かもですが、れかちゃんがよりディープなのをしなかったのにはちゃんと理由があります。まぁそれは乞うご期待なんですけどね。……あ、れかちゃんの個人的な理由ではなくてお話の都合上ってやつですね。