俺の青春にスマイルなどあるのだろうか?   作:紫睡

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昨日のがちょい少なかったのでバランス取りました
バランス大事、栄養もバランス、運動もバランス


(2)

 顔の火照りを冷ますように少し、いつもよりも早く歩いている。思い出すと一向に顔の熱が引かないので今は一旦忘れることにする。

 

 そうして別の事にばかり意識が向いていた為か、気付くと図書室のすぐ前まで来ていた。

「なんか最近こんな事が多い気がするな……」

 

 独り言を口にしてから、慌てて周りを確認してため息一つ。

誰にも見られてなくて助かった……もし、見られでもしたら放課後にブツブツ独り言を呟くゾンビとして七不思議のお仲間入りを果たしてしまう……

 

 

 

 そう、あれは何を隠そう俺が小学五年生の体育の時間。

クラスメイトが爽やかに汗を流しているのを尻目に、舞台の隅で一人しり取りで盛り上がって居た時の事だ。

急に叫び出した奴が居て、こっちを指差してから泣きながら逃げやがった。その後はもうクラスメイトから教師に至るまで全員が逃げ出した。俺も怖くなって後ろを見たが何も居ない。

 

 後で盗み聞いた話だと舞台の隅に子供の霊がニヤニヤしながらこっちを見ていたのだとか……

 

 最初に勘違いして逃げた高嶋ぃ、俺は今でも許してないからな……

 

 昔の黒歴史を思い出して、荒ぶる感情をリセットしつつ図書室の中に入る。

 

 そして当然の如く貸し出しカウンターに置いてある【退席中】と書かれた紙……

 

「こいつ仕事してないだろ……」

 

 今学期一度も見たことの無い図書委員への文句を垂れ流しながら面白そうな本は無いかと物色する。

 

「おっ、これ何か良さそうだな」

 

 興味を惹かれたのは、ある短編集だ。その短編集に収録されている物語の中に、昔チラッと聞いた事のある物語があったのだ。

 

 『た〇ぽぽ娘』海外の短編小説で著者はロバ〇ト・F・ヤング、SF物の話らしい、カウンターに図書委員が戻って来ていないのを確認し少し読み始める。

 

 

 思った以上に面白くて『たんぽぽ娘』は読み切ってしまった。気分よく本を借りようと貸し出しカウンターへ向かうがカウンターので上には相も変わらず鎮座する【退席中】の紙……俺の気分も良いし、もう少しだけ待ってやろう。次は許さんが……

 

 またぞろ本を探して本棚の間をうろうろと歩き回っていると一つの本棚に目が止まる。あの本棚は一昨日、星空が吸い込まれて消えた本棚だ。

 

 近くに寄って確認してみるが、特に他の本棚との変わりは無い、ごく普通の本棚だ。

 

 思い出しながら星空の動きを再現してみる。

確か……星空は本を右に寄せて、次は左に、最後に本を両脇に広げる様に寄せてたん……

 

「……うわぁ 」

 

 目の前で光り出す本、そして引き寄せられていく体………

 

「星空と一緒じゃないですかやだー……」

 

 そして本格的に踏ん張れなくなり

「ちょっ?!」

 

 吸い込まれた。

 

 

 

 

「うおぉぉぉあぁぁぁ?!」

 

 光の中に吸い込まれた俺は、悲鳴を上げながら周りが虹色に輝いている空間を落下していた。

いや、落下しているという表現が正しいのかも分からないが、上下左右の感覚もなく、虹色の空間の中を何処かに向かって落ちている。

 

 そして急に目の前に強い光を感じたと思った瞬間には……

 

「うおっ?!げふっ……痛っつぅ……」

 

 何処かに放り出され、バランスを崩しコケてしまった。

 

「いったい何だってんだよ……お?」

 

 立ち上がり、あたりを見回すと、そこは木で出来た複雑な形の本棚と森に囲まれた、そんな不思議な空間だった。

 

 大きな切り株が中心部付近にあり、足元は芝生の様だ

所々に大きなキノコが生えており、どこかゆったりとしていてここだけ時間が切り離されて居るんじゃないかとさえ思えてくる。

 

 

「ん?、なんか一冊だけ落ちてるな」

 

 本棚に近寄ろうとして、一冊だけ本棚に収まらずに地面に落ちている本を見つけた。開いてみるとどうやら絵本のようだ。

 少し懐かしい気持ちになりながら読み始める。

 

 

むかしむかし、絵本の国メルヘンランドがありました

 

そこは絵本に出てくる様な、楽しく可愛い妖精たちが住む平和な国でした

 

でもある日、悪の皇帝ピエーロが手下を引き連れ攻めてきたのです!

 

メルヘンランドの女王、ロイヤルクイーン様は、メルヘンランドを守るために戦いましたが、力の源であるキュアデコルを奪われてしまいました

 

そして皇帝ピエーロは、それを呪いの赤い絵の具で覆い、手下達に渡してしまったのです

 

女王様は最後の力でピエーロを封印し、戦いは引き分けに終わりました

 

悪者たちは皇帝ピエーロの封印を解こうと考えました

 

そんな悪者たちの企みを止めるため、女王様は奇跡の光を地球に送りました

 

そしてキャンディに「五人のプリキュアを探しなさい」と言いました

 

 

 ん?じっくり読んじまったが、この絵本に出てくるキャンディって、あのキャンディか?イラストにもキャンディが描かれているし、そうなんだろうが、いったいどういう事だ?

 

 ページを捲ると今度はキュアハッピーが描かれている。次のページには、俺は見たことの無いキュアサニーというプリキュアが、その次のページは……

 

「白紙だ……」

 

 つまりはあれか?この絵本は現在進行形で更新され続けていて現実(リアル)で起こったことが反映されているのか?

 

「じゃあ、ハッピーが星空としてこのオレンジなのは…………日野か?」

 

 今日の様子を見た感じ、あいつら急に仲良くなってたしな……

 

 

 

「にしても、二人に増えたか……」

 

 一人で抱えるよりも、二人の方が何かと便利だし助け合えるだろう。それに絵本の通りなら、あと三人は増えるはずだ。

 

「まぁ、よかったよかったってな」

 

 俺は閉じた絵本を、近場にあったキノコの上に置き、少し辺りを散策する。

 

 まず本棚の前にやってきた。どうやらここにある本は、世界中から集められた本の様だ。日本語以外にもたくさんの言語の本が収められている。しかも、全て童話だと思われる。

 

 日本語で書かれているものは見た限り全て童話だったし、英語の本も読める範囲で有名所のグリム童話とかもあった。 ……流石にあの恐ろしい、原典とかでは無いと思うが……

 

 周りの森も回ってみたが、生き物が居ないことを除けば普通の森のようだ。奥に行くのは怖いのでやめた。

 

 ある程度見回ってみたが特に危険なモノは無さそうだ。それに時間も結構経っている。そろそろ帰ろうかな?と思っていた所で、ふと気付いた……

 

 

「……あれ?どうやって帰んの」

 

 え?どうしよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っとぉ!」

 

 帰れました

うん、普通に来た時と同じ手順で本を動かすと帰れるみたいだわ。八幡おぼえた。

 

 今日の所はもう帰ろうかね。

 

 帰る前に(人が戻ってきていた)貸し出しカウンターへ

本を置く。

 

「これ、貸し出しお願いします」流石に俺もこの程度なら噛まずに言える。

 

 

「ん?……ヒェ?!」

 

「あ?」

 

 ……なんだコイツ俺の事見て悲鳴上げやがって、失礼過ぎるだろ。

 

「……か、貸し出しは!にに、二週間になりまふ……」

 

 ……コイツ震えてるんですけどー、もーなにーさいてー

 

 顔を背けて、本だけをこっちに差し出して来たのでさっさと受け取って帰る。不愉快です。

 

 

 

「たでーまー」

 

「あ〜、お兄ちゃんおかえり〜」

 

 帰ったら家の妹が溶けきっていた件について……なんかラノベでありそうだな。

 

「おー、小町よ、死んでしまうとは情けない」

 

「あ、そういうのいいから、て言うか聞いてよ」

 

 おうふ、辛辣〜

 

「ねぇ、どうして抜き打ちテストなんかあるんだろうね〜入試だって決められた日にその日までの対策とかして挑むんだよ。急に、はいコレやって、なんて言われても困るから、そう思うよねお兄ちゃん」

 小町のクラスでは今日、抜き打ちテストがあったようだ。

 

「気持ちは分かるがそう言ってやるなよ」

「小町、教師ってのはな、大変な仕事なんだよ。クラスで何かあれば責任を追求されて、何も無くても親からの苦情に戦々恐々している。今小町がぶーたれているみたいに、抜き打ちされたら家で文句を言うだろ?それが教師から各親への仕事してますアピールなんだよ。分かってやろうぜ」

 

「うん、小町もう先生を前みたいに見れないかも。それより小町は中学生でそんな考え方してるお兄ちゃんが心配だよ……」

 

 小町がなんか「うへぇ」見たいな顔している

 

「まぁ、そういう事だ。俺は部屋に行くからな、これからは先生を労わってあげるんだぞー」

 

 そうして「あ〜い」という、何とも気の抜けた返事を聞きながら部屋に戻ってきた。

 

 部屋に入り、取り敢えずカバンをベッドに立て掛け、着替え始める。服を脱ぎながら本棚に近づき先程の事を思い出す。

 

 そして………「フンッ!」右へ「八ッ!」左へ「セイヤッ!」両脇へ。振り返ってポーズ「フッ、またひらァァ?!」

 

 ………吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 




これにて連続更新は終了となります
次回は来週の水曜日9月の8日になります
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