ようかい   作:いのかしら

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酒を飲みたい











 

 

 

 

「どうしたら良いと思う?」

 

「押し倒せ」

 

「お前、俺を罪人にしたいのか?」

 

 

 秋も深まってきた。虫の声も盛りを過ぎ、長袖の上にセーターが必要になってきた。そんな中でも彼女との関係は変えずにいる。いや、変えられずにいる、とした方が正しいのだろう。

 

 変えたいと変えるべきではない、後者が無理矢理にでも前者を抑え込もうとするも、なかなか気の持ちようというのは上手くコントロールできないものである。

 

 大学で時間割が変わったからか、彼女を見かける日は前とは変わった。その中でも構内でふと彼女を見かける時、アパートでたまたま目を合わせる時、少し話す時。それに待ち遠しささえ覚えていた。だが積極的にその帳尻を合わせることはしていない。

 

 こうして一人悶々としていても、解決すべきものかもわからないとはいえ解決には近づかない。根本的な解決になるかはわからないが、人に相談してみることとした。

 

 

 そして選んだのが高校時代からなんだかんだ付き合いのある、正面にいる河端という男である。

 ヒョロヒョロとした見た目だが背は190をゆうに越えており、並んで立てば自分の頭は此奴の顎先にすら届かない。その身長を活かして高校の時からバレーボール部でレギュラーをやっており、そして自分より一年早く同じ大学に入っていたのだ。

 そしてその体格を活かして2年にしてベンチ入りメンバー候補になっている。

 

 大学で自分もバレーボールをやる中で、高校時代より此奴との関係は深化しているように思う。高校時は同じ同学年の部員の一人だったが、大学では以前から面識あることもあり、今では最も付き合いのある人間の一人だ。

 

 

 

 此奴を練習終わりに連れ出して向かったのは大学近くにあるパブである。イギリスのあのパブをモチーフにした酒屋だ。ビールやカクテルをはじめとした酒に軽食を頼める場所である。

 

 だがこの手の店の飯類は値が張るのが世の常で、飯は近くの牛丼屋で掻っ攫った後に地下のこの場へとやってきた。そして店の端に近いところにある丸い机の付いた立ち飲みスペースで、二人揃ってビールを頂いているのだ。

 その名もパブクラフト。どこぞの神話生物を生み出す作家に語感が近いが、ちゃんとしたここオリジナルのクラフトビールである。エール系に近いのかサッパリ、スッキリとした飲みごたえである。

 

 

「おいおい、相談に乗ってる相手にその言い草はないだろ」

 

「それはお前のさっきの言葉を振り返ってから言えってんだ」

 

 その酒の助けもあってこっちも少々口が軽くなり、色々と心の内をぶつけている最中なのである。

 

 

 

 そしてこのノッポを頼った理由はその他にもう一つある。此奴去年のうちに彼女を作っていたのだ、自分が必死こいて予備校通いをしている間に。

 まぁ男目線で見ても顔立ちは悪くないし背は高いし、人をよく見て動け配慮もできる出来た人間だ。ど本命として女性に群がられる男とは違うが、彼女を探そうとして困るタイプではないだろう。

 写真でしか見たことはないが、黒髪の清楚そうな人だったと思う。

 

 

「いずれにせよその好きな人とやらにすることは一つだ。とっとと告白しろ、玉砕したらそれはそれでいいじゃねぇか」

 

「一理ある」

 

「だろ?」

 

「だが残り九里はない」

 

「なんで!」

 

「フラれたあとも隣同士の関係続くんだぞ?嫌すぎるだろ」

 

「そんなことかよ!」

 

 それでもこれも理由の一つにはなっている。

 

「あとは……自分を信用できないことに加えて、将来を描けない」

 

「そりゃ大学一年のうちから将来決めてる文系の方が少ないだろうよ。して、自分を信用できないって?」

 

「好きな気持ち、という奴か?それが何者か分からない曖昧なものだから、いつスッと消えてしまってもおかしくない。それがこの先も続くものかどうか自分は分からない。

 何を求める気持ちなのか判然としないんだ。何も求めたくないんだろう」

 

「……まぁ、求め過ぎないのは普通だと思うけどな。求めるもんって手に入ったら満足して終わるし」

 

 

「その通りだ。だからこそ彼女を求めるという手段に訴えるのは正着ではないんだ。

 仮に無理矢理にでも告白してその告白が通ったとしよう。その後こっちにはその行動の責任が伴い続ける。

 だが頼れるものは、告白した後ですら同じと保証できない曖昧模糊とした代物だけだ。それだけで何年何十年も続くと言えるか?」

 

「なんで今の段階で別れる可能性ずっと考えてんだよ」

 

 泡の消えつつあるビールを残りが1/3になるくらいまで飲み干す。

 

「……別れたら何の意味がある?」

 

「何の意味って……」

 

「付き合うのだって時間もいるしカネだって必要だ。体力や気力だって要る。それを費やして別れた先に何がある?人生経験?行った店の味?その程度だ。

 だったら付き合った後別れることのないよう熟考を重ねるのは当然だろ?」

 

 これもまたあの酷暑の自室で導いたものの一つである。

 

「人生経験も捨てたものじゃないと思うけどな……」

 

「だが自分の経験のために人を巻き込むべきではない。人と付き合うのは現実の出来事だ。夢や仮想で占有できるものじゃない」

 

 現実なのだ。社会の一員としての行動なのだ。

 

「それにしても、お前はどのくらいの心持ちで告白したんだよ」

 

「どのくらいの、って?」

 

「告白前どんくらいの確率で告白成功すると思ってた?」

 

「うーん……そうだな、60%、くらい?」

 

「ひっく!よう行ったな」

 

 わからん。ほぼ半分断られるじゃないか。戦略性も何もあったものじゃない。

 

「フラれたらスパッと諦めるつもりだった」

 

「……そこまで割り切れるのか。羨ましいな」

 

「お前もそうしちまえば良いんだよ。というかそもそもお前さ、その彼女に彼氏いるか確認してんのか?」

 

「……あっ……」

 

「おい」

 

 そうだ。感づかれたりすることを避けるためこのような話は出さないようにしていた。日常的に見る感じいないとは思うが、実際にどうなのか聞いたことはない。

 

「そこ崩れたら意味ないだろ」

 

「そりゃぁ、そうだ……な」

 

「そっちが現実見てねぇじゃん」

 

 

 

 

 

 このパブにはカウンターの近くにテレビが設置されていて、良く海外のスポーツの試合を放送している。今日は……どうやらイングランドのサッカーのようだ、というくらいこの手の話には疎いのだが。

 

 ここがカウンターから離れていることもあり、内容がどうなっているのかはよくわかっていない。しかし野郎ばっかりの他の客の様子を見ると、じっくり見ている人間がだいぶ少なくなっているように思える。大差でも付いてしまったのだろうか。

 

 

 

 

 そんな中だった。

 

「何話してんのさ」

 

 自分たち二人に話しかけてきた若い兄ちゃんが現れたのは。

 

 

 

「あ、いや……こいつが告白するかでウダウダやってまして……」

 

「そうなん?相手どんな子なの?」

 

 河端が金髪のストライプが入った兄ちゃんに事情を説明していく。酒場で知らない人に話しかける人がいると聞いたことはあるが、実際に見たのは初めてである。

 その見てくれもあって警戒しつつ話を聞いていたが、やりとりしていくと単に話し相手のいないだけの兄ちゃんのようだ。タバコなどの売人とかではないらしい。

 

「その好きな子って同学年?」

 

「いえ、歳は一緒なんですけど、自分浪人してるので学年はこっちが一個下です」

 

「その子大学でどんなことやってんの?」

 

「戦車道やってますね」

 

 

 

 そんな会話を続けることしばらく、その兄ちゃんは突然言い出した。

 

「君、聞いてる感じその子と合わなそうな感じするよ」

 

「ええっ!」

 

 その唐突な一言に思わずらしくもない大声を出してしまった。

 

「なんというかね、君姉さん女房的な人が合ってる気がするんだよね。引っ張ってくれる人の方が」

 

「あー……確かにこいつはそっちの方がいい気がしますね」

 

「んで、聞いてたけど向こうから、って感じはないし、君も実質的に年下っぽく見ているところがあると思うんだよ。そうしたら先々ツラくなんじゃない?」

 

「そう……ですか」

 

「まぁ、応援はするよ。早めに動いときなよ」

 

 

 そう言ってその兄ちゃんは別の卓を探しに離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全くの外部の視点から『合わない』の評価。それは自分の動きを一層硬くさせた。反論しようにも事実の部分はある。こちらが優位まで行かずとも対等な関係、もし可能性として存在するとしたらそのようなものを望んでいた。

 

 その後彼女相手に動いたほぼ唯一のことは、また彼女が自室に友人を呼ぶことを伝えにきた際に、その友人が彼氏の類でないか確認したことだけだ。

 その際も『このアパートそこまで壁が薄くはないので、そういうことなら外で時間潰しましょうか』という何とか捻り出した理由を付けて、だ。

 

「あははっ、彼氏なんていないよ〜。単なる戦車道の仲間よ仲間」

 

 

 そう聞いて少しばかり安心したものだった。だが動くに足りる要素はそれ以上増えることはなく、ただの隣人としての時間が過ぎ去るばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 あの日までは。

 

 

 

 

 

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