ようかい   作:いのかしら

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うらやま





 

 

 

 ジャケットの下にセーターを着込むようになって暫く。年末年始を過ぎると、大学生が後期の試験期間が近づいてきているのを気にする頃になる。

 かく云う自分もその一人である。前期こそなんとか大きな問題を残さない成績にしたが、前期後期両方合わせて結果の出る科目もある。それが特に落としたくない語学なので、一層必死になるというものである。

 

 そして年末の最後の授業くらいから、早い科目は期末課題が提示される。2000字とか4000字とかのレポート課題を、大学に行って課題図書や参考資料を必死こいて探しつつ、なんとか埋めて形にしていくのだ。

 

 そしてその合間に語学の試験に向けた単語や文法の直前の勉強もこなしていかねばならない。

 この試験対策はどれほどやっても安心というものは手に入らないものだ。覚えたと思っても本番忘れるものであるし、試験範囲の核と考えていたところが大外れとなれば落単も遠くない。

 レポートはまだ文書や資料を観ながら作れるが、試験はその手の持ち込みが禁じられるのが普通だ。その持ち込みが認められるものは大方試験の難易度が上がる。

 確証が得られないとは、かくも難儀なものである。

 

 

 

 そしてさらにこの時期になってくると、部活内部でも学生同士の立ち位置がおおよそ固まる頃である。将来的な各種役職の見込みだけではなく、この先レギュラーやベンチメンバーを掴めそうか、その展望という点でもそうである。

 ちなみに自分はセッターもセッター控えも厳しくなった。結構強い高校から来た同学年の2人に勝って食い込めるビジョンが湧かないのである。下から優秀な人材が入って来でもしたら尚然りである。

 

 ちなみにここの大学、県内大学リーグの2部リーグの中でも上位に食い込めていないところなのだが、そこの中ですら自分は戦力としての価値を失いかけている。

 あとそうだ。この前会った河端はその身長を活かして、2年生にしてミドルブロッカーとしてスタメン候補にのし上がった。

 こうなったらマネージャー等裏方に回ってしまって経験を積んだ方が早いのかもしれないが、磨いてきた自分の武器のことを思うと未だにその雑念を捨てきれずにいる。

 

 

 

 

 以前に作ってもらった料理の器を返すタイミングを調整したいから、と言ってアパートの同じ階のグループから彼女のLINEアカウントを手に入れていた。

 しかしそのLINEもそれ関連の事務的なことにしか使っていないし、ここ暫くは向こうから連絡もない。

 向こうも本来自分と同様試験対策に没頭しているであろう。特段こちらから連絡を取る要件もない。

 部活関連や授業関連のグループのみ通知を許可して、ただひたすらに勉強に没頭していた。

 

 

 

 もうすぐ日付を跨ごうとしていた頃、明日までのレポートをオンラインで提出し終え、寝る前に水を飲みつつメールとLINEのチェックを行う。

 予想通り画面上の青いメールと緑のLINEのところから、赤い数字がこちらを突き刺さんばかりに警告する。これを見ると思わず開きたくなるのも、何らかの心理学的な理論が影響しているのだろうか。

 

 

 だいたいのものはクラスLINEで試験対策絡みの話をしていたり、部活LINEで練習や活動絡みの報告、試験打ち上げの計画が流れたり雑談などに収まる。それを除けば広告とかだろう。

 大概はその場で返事を考える必要などないものだ。あったとしても了と解の2文字で片付く。

 

 

 

 だがこの日は違った。あまり考えずに画面の赤文字を一つずつ消す中で、即座に消してはならないものを見つけたのである。

 

 

 

 武部沙織

 

 

 

 

 

 来るとしても大した要件ではないだろうと考えていたが、その後の文面には一層唖然とさせられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すまない、動揺のあまり文章を文章として視認するまでにちょっと時間を要してしまった。再度確認する。

 

 

 

 

 

 

 うん、可笑しい。

 もう一度文面を確認してみる。だがその可笑しい内容しか書かれていないし、そうとしか読み取りようがない。

 いや、まだ自分の勘違いであろう。勘違いなら勘違いを前提にしてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや真だ。

 

 

 

 

 親戚から映画の優待チケット

 2枚貰ったんだけど、期限が

 3月末までなんだ。予定の合

 う時に一緒に見に行かない?

 

 

 

 

 

 左端に寄ったこの内容に間違いない。

 

 

 

 

 

 うん、間違いないんだよな……

 

 

 

 自分を誘ってくださっているのはありがたいことだ。だがこれを易々受けていいものだろうか。

 これによって彼女との関係を徒に縮めようとするのは、自分を信じきれていない今踏み出して良い一歩なのだろうか。

 

 これがいい方向に向かう保証などどこにもない。これを機に一切の関係が無くなることだってあり得る。それを自分は望むのか?

 

 

 

 

 簡易ベットに寝っ転がり、再度文面を確認していく。

 幸いにして口調なども見るにそんなに重い招待ではない。こちらが深く考え過ぎてるだけなのかもしれない。

 だがそれにしても2人で、となると、多少なりとも隠された思惑を考えてしまうのは仕方のないことだろう。自分がそうあることを願ってしまう。

 そう考えると映画であるというのは一種幸運であるかもしれない。上映中に互いの顔を見なくて済むし、喋らなくてもいい。自分からボロを出す機会が少ないということなのだから。

 

 

 表示によると3時間前くらいに来ていたようだ。今日返すにももう日付を超えてしまう。

 遅過ぎて起こしてもいけない。少し確認してから明日また返すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝、眠いぼんやりした頭をなんとかフル稼働させて絞り出したのは、

 

『1月は試験期間ですし、行くとしたら2月前半くらいですかね。試験打ち上げみたいな感じで』

 

 できるだけ軽く、こちらも深い意味を持たせないように配慮した。素っ気なく、いざとなれば自然消滅可能な動きで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 LINEで送られてきた赤いチケット入れと優待券の画像を見るに、この近辺でそのチケットが使えるのは水戸から少し友部寄りの内原という駅に近いところにある映画館だけのようだ。他はつくばや県外まで行かないと無いらしい。

 

 ということで場所は決まったものの、詳細に関しては遅々として進まなかった。こちらも休暇中の練習日程がなかなか出ず、向こうも春の大会に向けて忙しくなるかもしれない、とのことだったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 結果的にその詳細まで決める動きとなったのは試験終わってすぐの2月2日。受けた数多の試験結果を気にする余裕は既に存在しなかった。

 

 自分の知る数少ない彼女に関する情報から、映画館の上映スケジュールの中で最も無難なものを探る。目下とある世界的女優のルーツ、前半生を映画化したものが候補だ。他がアニメものだったりR指定が付いてたりするものだったため、これしか無いということもあるが。

 

 平日の朝早い時間の上映しかなかったのも難点だったが、幸いその提案はあっさりと受け入れられた。あとは日程だ。

 

 

 

 

 

 

 映画いつ行く?

 

 

       この先だと予定もあるので

       9日以降にしたいですね

 

 

 あ、そうなんだ。

 そしたらこっちは10か

 14が丸々空いてるかな

 

 

       10はこっちが用事がある

       ので、14にしましょう

 

 

 

 

 

 

 上記のやりとりの末に日程は決まった。

 

 

 10日に用事があるというのは嘘である。部活もない日だ。だが自分はそうしてまでこの日にすることに踏み込んだ。

 

 

 バレンタインデー、恋人の日とされるその日付にするために。

 

 

 

 

 

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