聖杯大戦に妖精國の面々が殴り込む話   作:ぴんころ

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ちまちま書いてたのが一話分になったからとりあえず投稿しました。


第一話

 ある日、目をさますと腕になんか面妖な刺青があった。多分刺青、痣というにはどこにもぶつけた記憶がないので違うと思う。

 色は血のように濃い赤。複雑怪奇な紋様ではあるが、よくよく見れば三つで一つの図画を描いていて、それが七セット。あるいは、美術における権威であれば面妖以外の何某かの反応が出たのかもしれないが。

 

「うわ、気持ち悪っ」

 

 少なくとも、俺にはそんな審美眼は備わっていない。よって腕にびっしりと描かれている赤に抱いた感想はその程度のもので、むしろいつのまにか刻まれていたことや、洗っても消える気配がないという事実への恐怖の方が大きかった。

 とはいえ、実害そのものはそうそうなかったと思う。せいぜいが腕の肌色を埋めつくさんと描かれているから夏だったのに長袖着用を義務化された程度……いや、これは十分実害なのではないだろうか? めちゃくちゃ汗をかいたし、それでも不良のレッテルを貼られるのは面倒だから半袖にするわけにもいかず、汗で消えることもなく自己主張を続けているので煩わしかった。

 あるいは昔であれば多量の刺青を見せ付けたり、包帯で刺青を隠して「封印された腕」とかやったのかもしれないが、もうこちらは大学一年生。そういうのは卒業するお年頃をさらに三年くらい過ぎ去ってしまったのだ。

 

 と、まあそんなしょうもないショックを受けた次の日のこと。これが前世の知識にある令呪と呼ばれるものだと気がついたのは実家の両親の訃報が原因だった。

 

「今回のことは非常に残念だった。ご両親は私が受け継いだ教室が軌道に乗る前、泥舟と思われていた頃の受講者でね。彼らの出した成果がなければ、あるいは今日ほどの評価は得られていなかったかもしれない」

 

 長い黒の髪と煙草の匂い。眉間に寄せた皺と着慣れている様子のスーツが特徴的な男性。なんとなく脳裏に引っかかるものがあって名前を聞けば、思いついた通りロード・エルメロイⅡ世。そこで初めて、俺は自分が生まれ変わったのが前世において型月と呼ばれた世界だと知った。もちろん、大抵の世界観でも生き残ってるウェイバー君の存在では何処かまではっきりとわからなかったのだが。

 両親の死因はトラックによる轢殺。別にゲームと違って魔術師(キャスター)騎乗兵(ライダー)に弱いなんてことはないが、『魔術師は神秘によらないものを軽視する』というのを実感することになった。

 話を聞く限りではあるが、どうやら両親はエルメロイⅡ世の教室の初期の生徒だったらしい。魔術師としてのあれこれは兄が教えられていて、俺はスペアにもなれなかったというところだろうか。

 その辺りのことは両親が死んでしまった以上は永遠に謎であるが、魔術師としての遺産は全て兄に譲渡されて俺に残されたのは開かないトランクたった一つというのがなんとなく事情を伺える。

 

 だから普通はそこで終わるはずだった。俺が魔術世界の住民にわずかに関わることになる唯一の機会はその葬式が最初で最後になるはずだったのだが、そうならなかったのはやはり、葬式にエルメロイⅡ世が参戦していたからだろう。

 

 まあ、なんてことはない。腕に宿った令呪に気づかれたというだけの話だ。

 

 あれよあれよと言う間に気がつけばエルメロイⅡ世が後見人となり、令呪が七セット宿るという特異性を研究することを名目にロンドンまで連れ去られて、最低限の魔術についての講義。

 神ならぬ身としてはどういう理由で彼が俺を引き取ることを選んだのかは知らないが、彼が相手ならばきっと悪いことではないのだろう。

 

「ぐえー、死ぬー」

 

「そんなことを言う余裕があるならもう少し詰め込んでも良さそうだな」

 

「ファック! この非道教師! 時計塔で抱かれたい男ランキング上位者! 抱きたい男ランキングにも載ってたって本当ですか!?」

 

「はっはっは。面白い冗談だ。宿題を三倍に増やして欲しいならそう言え」

 

 魔術の基礎の基礎、魔術回路の作成から始まり、強化、治癒、解析、投影、支配や結界、その他諸々。

 別に時計塔に名高い彼の授業を受けたからと言って、へっぽこにすら至っていない俺がすくすくと魔術師としての成長を果たせるわけではない。

 とは言え、教えを請う相手は時計塔の講師としての一つの到達点。まず確実に他の人から習うよりは早く最低限の習得に至った。

 

「宿題への嘆願はまた後にするとして。それでせんせー。俺はいつになったら召喚術を教えてもらえるんです?」

 

 もちろん、教えてもらった範囲については、なのだが。教えてもらってない範囲については全く知識がないので遅々として進んでいない。

 具体的には召喚術。そこらの学生でも調べられる程度にはこの世界には亜種聖杯戦争が広まった世界らしく、英霊召喚の術式それ自体は普通に見つかったのだが、まずそこに至るための基礎が身についていない以上、主人公方式の突発的な召喚に賭けるしかないのだ、今の所。

 

「教えたら貴様は嬉々として聖杯戦争に突っ込むだろう」

 

「失敬な! 教えられなくても嬉々として突っ込みますよ!」

 

「まず突っ込むなと言ってるんだが!?」

 

「魔術師に標本にされるなら華々しく散った方が良くないと思いませんか」

 

「フラット。面倒を見てる時間は単位修得において考慮に入れてやるから、こいつを見張っておけ」

 

「え、本当ですか、先生! やったー! それじゃあ、しばらく一緒に行動しようか!」

 

 突然やってきたフラットが監視についた。クソがっ!

 

 

 

 

 

「それで、何をどうすればそこから我が夫が聖杯戦争に参戦するにまで至ったのです」

 

「いやあ、フラットがそっちの方が面白そうだからって儀式陣を描いてて、その場所にまで連れてかれたんだよ。キャスターを召喚したのがその場所」

 

「なるほど。そこでマスター権を奪おうとしてアヴァロン・ル・フェに敗れたと」

 

「いや、キャスターがタジタジになるレベルでぐいぐい話を聞きに行ってただけだったよ」

 

「……命知らずか何かで?」

 

「あー、確かに命知らずだったかも。あいつ、多分今ひーこら言いながら教授の課題やってるだろうし」

 

 召喚した七騎の内の一騎、バーサーカーのサーヴァントに言われるがままに語った過去のこと。その締めくくりとなった学友の暴挙を口にすれば、どこか困惑したような、呆れたような表情。

 いや、そんな目で見られても。ぶっちゃけ、説明だけじゃサーヴァントのすごいところとか現実味がないし、へっぽこ成り立て魔術師に魔術用語ですごいんだよって説明されても困る。フラットのやったことが命知らずだとはわかっても、どれくらい命知らずなのかまではわからんのよ。

 

 俺が召喚したのは七騎、つまり聖杯大戦においては一陣営を作るに値する数であり、通常の聖杯戦争においては根源に到達するための儀式としての『聖杯戦争』を成立させる数。

 どういうことかというと、早々戦う相手がいないということなのだ。これがどこぞの聖杯戦争であれば七騎揃っている時点で令呪で自害させる、でいつでも終了させることが許されているし、聖杯大戦であればまずロンドンから戦場になるルーマニアまで飛ばねばならない。

 

 つまり、ロンドンだとどうしようもない。ついでに言えば渡航する金はあるが行きだけでギリギリ。もう一回言うが自分のもらった遺産は開かないトランク一つだけである。

 

「では、それは空間転移でどうにかしましょう」

 

「……日本から来るときにも先生の暗示でパスポートが無いのを誤魔化したから、負けた場合、日本にいるはずの俺がなぜかルーマニアにいるって事態になるのは困るんだけどなぁ」

 

「戦う前から負けることを考えても仕方ないとは思いますが」

 

「それは……まあ、そうなんだけど」

 

「あなたが召喚したのは最強の六騎と一匹の糞蟲です。糞蟲はともかく、残りの六名であればどうとでもなるでしょう」

 

 シュレディンガーのトランク理論を用いれば、中には何が入っているのかわからないので空間転移の術式が入っている可能性もなきにしもあらずだが、まず開かないので意味がない。

 遺品の開閉をキャスターやバーサーカーに頼むというのも何か間違ってる気がするのでやるつもりはないが、強化して角でぶん殴るという武器以外の用法もいい加減見つけてやらないとトランクがかわいそうだ。

 

「あの糞虫の見つけてきた、というのが気にくわないのは事実ですが、マスターの拠点に求めるものとして最低限の水準は満たしている代物です。というわけで何も心配する必要はありません。行きましょう」

 

 そういうことで、突然の空間転移。たどり着いたのはルーマニアの一角、どこなのかの詳しいことまでは知らない。

 わかっているのは見た感じ外観は豪邸くらいはあるんじゃないだろうかということと、あとは山の中にあるっていうことだけ。正直、ルーマニアであるのかどうかも怪しいところがある。

 ただまあ、話の流れ的に聖杯大戦の本場であるルーマニアではあるのだろう。多分。

 

「おや、お早いお着きだねお二人さん」

 

「オベオベ」

 

「うん、その呼び方はやめようか。真名に繋がる要素がどうこう以前に気持ち悪い」

 

「貴様の好悪などどうでもいい。わざわざ姿を見せたというなら何か動きでもあったのだろう。それを口にして速やかに去るがいい」

 

「仰せのままに女王陛下。まあ、端的に言えばルーラーも君たちに先んじるようにルーマニアに到着したのさ。“赤”の拠点からもサーヴァントが出たみたいだから、聖杯大戦の初戦もしばらくすれば始まるんじゃないかな」

 

 姿を見せたのはオベオベ……プリテンダー。にこやかな笑顔で切って捨てた彼を前にバーサーカーが口にした言葉は、向けられているわけでもない俺が震え上がりそうなほどの嫌悪に満ちている。

 だというのにさらっと流す辺りさすがはサーヴァント。人類史に刻まれるのはすごいことなんだなぁとぼんやり思いながら、そちらに意識を向けたままだと狂いそうなので視線をそらす。

 

「というわけでだ、マスターは君なわけだから方針は聞いておきたいところなんだけど。一応バーサーカーも来たことでこちらの陣営は全員ルーマニアに揃った状態になる。僕が伝えるとどうかはわからないけど、君が直に命令を出せば大抵のメンツは動いてくれるんじゃない?」

 

 言われて、頭の中に思い浮かべるのは自陣営のサーヴァントと、原作においては”赤”と”黒”と呼ばれた二陣営の面々。

 今回出てくるのは……確か”赤”のランサーと”黒”のセイバーだったか。知っている情報との差異がないという前提になるが。

 その情報を大前提にして考えると……いや、その前にまずは出てきたというサーヴァントか。

 

「”赤”のサーヴァントの特徴は?」

 

「ん、白い髪の痩せぎすの男だけど?」

 

 それがどうかしたのかい、なんて聞いてくるオベロンを横目に頭をかかえる。そっかぁ……やっぱりカルナかぁ。

 もしも違ったならこっちのセイバーを出すのもアリかとは思ったけれど、カルナであるならしょうがない。

 

「任せた、オベロン」

 

「はぁっ!? いや、なんでまた僕が」

 

「だってほら、第三陣営の存在がルーラーに刷り込まれてるのかわからない以上、確認のためにも行かないって選択肢はないけど、そこで一人脱落するっていうのは避けたいし」

 

「我が夫。であれば私の分身を出しましょう。このクソ虫には隠れて情報蒐集するアサシンの真似事を任せる程度でいいはずです」

 

「いや、オベロンに任せたい」

 

 なぜです、というバーサーカーのジト目が痛い。とはいえ考えなしではないのだ。

 こちらのランサーは”黒”のセイバーの特攻対象に入っているし、セイバーはちょっと迂遠ではあるが敵わないと考えるに足る理由がある。

 じゃあアーチャーはどうなんだろうかと考えると、三騎士と纏められているが他の二騎よりは純粋な実力面で一回り劣るだろう。

 ライダーも戦闘能力はよくわからないし、キャスターはそもそも後方で陣地作成するのが仕事。バーサーカーは理性がないわけではないが、本来のクラスはキャスターだろう。前衛に出るという面ではやはり不安が残る。

 

 というか彼女ができることを知っているので、まずはここの防衛設備の充実を任せたいというのが本音だ。

 

「ああ、はいはい。そういうことね。騎士でもないから逃げられて、かつブランカの力を借りれば追える手段が限られる空路を逃走経路に入れられる僕が適任だと」

 

 そんな感じのことを説明すれば、イヤイヤと言った様子のオベロンがそれでも納得の気配を見せてくれてちょっとだけホッとする。

 

「ついでに言えば、バーサーカーが用意できる迎撃術式があればオベロンを追ってくるサーヴァントがいたとしても迎撃はどうにかなりそうだし」

 

「それ、僕ごと消されそうなんだけど」

 

「その時はその時で。高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するということで」

 

 二人に呆れたような目で見られた。辛い。

 

「まあ、こんなマスターに当たったのが運の尽き、か。仕方ない、頼むよ、ブランカ」

 

 ブランカと呼ばれる虫の形をした妖精に、バーサーカー……モルガンが顔をしかめる。

 その事実を気にも留めずブランカと共に飛び去ったオベロンが、この陣営の初の行動だった。




剣:妖精騎士ガウェイン!
弓:妖精騎士トリスタン!
槍:妖精騎士ランスロット!
術:アルトリア・キャスター!
騎:ハベにゃん!
暗:いない! 代わりにオベロン!
狂:モルガン!

だいたいこんな感じでApoに殴り込むお話。
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