聖杯大戦に妖精國の面々が殴り込む話   作:ぴんころ

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なんかめちゃくちゃ感想評価来てて嬉しいけど怖いので、月姫探しの旅に出ます。


第三話

「それで、僕に一当てしてこいって話だけど。倒してきちゃダメなの?」

 

「さすがに本来の姿ならともかく、今のサーヴァントになってしまった状態で竜殺しを含めた英霊複数を相手にしろっていうのは酷かなぁって」

 

 ルーマニア、トランシルヴァニア地方。その一角、以前はユグドミレニアが保有していたのだろう上質な龍脈の上に、ブリテンのキャメロットとなった俺たちの拠点はある。なんと、この拠点は地味にトゥリファスと同じ地方にあったらしい。

 元の世界において”原作”と呼ばれていたものを読んだのはもう十年以上前のこと。覚えているところもあればもう記憶の彼方に消えてしまった部分もあるけれど、カルナとジークフリートによる初戦とその後のことはある程度覚えていることが発覚したのがつい先日のこと。

 ”赤”のバーサーカーがキャスターに唆され出奔し、それを追いかけるライダーとアーチャー。目指す”黒”の拠点で待ち構えるのはアサシン以外の全員という構図で発生する戦い。

 ”黒”の拠点があるトゥリファスの東に位置するイデアル森林を舞台として発生するその小競り合いをただ放置するというわけにもいかず、呼び出したのはうちの最強戦力の一人、ランサー。

 

 そう、今回はオベロンに任せるわけにはいかないのだ。

 

「むぅ……そんなに弱いと思われるのは心外だな。これでも僕は最強なんだよ?」

 

「でも、負けないってわけじゃないだろう? それにそもそも、英雄なんてのは大体が絶対に勝てないはずの相手に勝利をつかんだ連中なんだ。そんなのが二桁近く揃う場所で大立ち回りなんて危険はできる限り避けるべきだと思うな」

 

「だからって、陛下の水鏡まで持ち出したりするかな、普通。いや、“赤”のライダーが普通じゃないっていうのは聞いたし、そもそもマスターが僕のために、って頼んでくれたんだから文句なんてあるはずはないけど」

 

 その理由がこれである。前回は戦闘を避けても問題なかった、かつ相手がジークフリートとカルナだったということ。朝が近づいて来たタイミングでの接触などなどの理由があったから。

 けれど今回は戦闘に多少は混じることになるし、そもそも逃げるに至っては相手が悪すぎる。なのでこちらもランサーを投入するという結論に至ったのだ。

 

 妖精騎士ランスロット。あるいは妖精騎士メリュジーヌ。異聞帯ブリテンにおいてランスロットの名前を冠するそのサーヴァントは、別に主君の恋人を寝取りそうだからつけられたというわけではない……はず。

 不貞の騎士ではなく、最強の騎士としてのランスロット。境界を司る竜であるアルビオンの左手が変化したことで誕生したこのサーヴァントは、弱体化しているとはいえ間違いなく最強戦力の一人だ。

 だからと言って『勝ったぞ、綺礼。我々の勝利だ』とはいかないのが聖杯戦争というものなのだが。最強程度ならばいくらでも覆すのが英雄というもの。というか最強で勝てるなら全員ヘラクレスを召喚する。一回でいいからキャスターの代わりにアヴェンジャーを入れての七騎全クラス真名ヘラクレスの聖杯戦争とか見てみたい。エルメロイⅡ世に言ったら怒られたけど。

 

「モルガンの防衛が整うまでもう少し時間はかかりそうだからな。“赤”のライダー(アキレウス)速度(ほうぐ)を考えたら、速度に由来しない移動は必須だと思うよ」

 

「ふぅん、正直試したいところではあるけど、そこまでいうなら今回は諦めようかな」

 

「おう、そうしてくれると助かる……一当てするのも、赤と黒が接敵してからで十分だぞ?」

 

「うん、任せて」

 

 サーヴァントの基本技能、いつでもどこでも戦闘服に着替えられるあれを使って貴族の令嬢じみた服装から一瞬で妖精騎士としての姿に切り替わったメリュジーヌ。

 少し残念そうな声を出しながらも、じゃあ行ってくるよと口にした少女が窓を開けて飛び立つのを姿が見えなくなるまでその場で見送って。

 

「さて」

 

 鎌首をもたげたのはこれからどうするべきかという疑問。メリュジーヌの様子を使い魔を使って見届けるのが多分マスターとしてやるべきことなのだろうけれど、それができるほど魔術師として熟達しているわけでもない。いや、使い魔を作る程度ならばできるが、流石にメリュジーヌについていける使い魔なんて作れる現代魔術師がいてたまるかという話だ。

 では、約束通りキャスターから魔術を習えばいけるのでは無いか、なんて簡単な話でも無い。そもそも、魔術を習ったところで聖杯戦争には役に立たない。最速のクラスであるランサーについていける使い魔ってなんだよ。それに、戦術のせの字も知らない俺は、口を出さず、サーヴァントに全てを任せて聖杯戦争中には魔力タンクに徹するのが正しいとは思うのだが。

 

「モルガンが動けない以上、俺が指示を出すしかないんだよなぁ……」

 

 とは言っても、今やることはそうそうない。

 モルガンはロンゴミニアドの準備をしているし、オベロンはとりあえず情報蒐集にまたどこかに行ってしまった。バーゲストは敵が来た時のための防衛に城から動かすのはアウト。メリュジーヌは今仕事を任せたばかりなので空いているのはアーチャーこと妖精騎士トリスタン、ハベにゃん、アルトリアの三名。

 やれることなんて、ハベにゃんとかアルトリアに癒されるくらいなのでは、と錯覚するくらいできることがないのだ。

 

 トリスタンは……うん、まあ。お母様が外に出そうとしないし。バーゲストは残虐性でルーラーの討伐対象になることを心配してのことだと考えてたけど。

 

 汎人類史の人間は悪辣だからね、しょうがないね。

 

 

 

 

 

 メリュジーヌが空を舞う。緩やかに、空を飛ぶことを生態機能として持つ獣のようにも、あるいは人類の叡智の結晶である戦闘機のような苛烈さを灯して。

 目指す先はイデアル森林。尋常な人間の移動手段では数時間とかかる距離であろうと、メリュジーヌであれば数分もあれば到着する程度の距離でしかない。

 そしてそれは特段彼女に限った話ではないという実例が、上空より見下ろす彼女の視界には映っている。

 

「一番先頭がバーサーカーで、追いかけてるのがアーチャーとライダーだっけ。普通のバーサーカーってあんな、会話すらできそうにない奴なんだ」

 

 妖精騎士の頭の中に浮かんだのは自陣営のバーサーカー。陣営のトップすら張ることができる女王陛下。

 聖杯によって与えられた知識によればあれこそが例外であり、普通の狂戦士は会話すら成り立たないものであるとのこと。

 彼女の眼下には理性の欠片も見せず、正面に屹立する障害をその肉体で砕きながら進む”赤”のバーサーカー、スパルタクス。

 彼の放つ固定された狂気、会話を成り立たせるつもりのない言葉の数々を竜種の聴覚で捉えたメリュジーヌは、その言葉を受けてわずかに顔をしかめる。

 

「狂ってなお口にする言葉がそれだというのなら、君の生前はどんなものだったんだろうね……まあ、僕には関係ないことといえばそうなんだけど」

 

 この場で消し飛ばしてやるべきか、と思い、それを振り払うように頭を振った。

 圧制者、という言葉を何度も口にするバーサーカー。その言葉の意味はわかる。そして同時に、狂ってなお圧制者を狙うバーサーカーの高潔さとでも呼ぶべきものも察することも。

 けれど何よりも、今の状況からでも見え隠れしている『強い者を打ち倒し、弱き者を救う』というスパルタクスのあり方が、かつて彼女の弟が円卓軍と呼ばれるレジスタンスを率いていた頃のお題目を思い出させる。

 

「けれど悪いね。今の僕は“黄”のランサーなんだ」

 

 好ましいか好ましくないかでいえば、まず間違いなく好ましい部類。狂ってなお弱き者を救うための形は、メリュジーヌにとって好ましくないはずがない。同時に、そのために弱き者が住まう村を踏み潰しながら向かう様は見ていて哀れに思う。

 殺してやるという慈悲を示すには十分な理由であるが、けれど同時に騎士としての在り方を崩すには至らなかった。

 

「できることなら早めに“黒”とぶつかって欲しいな。そこで消滅してしまった方が君のためだろうし」

 

 何より、今回の彼女に与えられた命令の意味を思えば、そんな勝手はできない。

 赤のバーサーカーのわずか後方を見れば、そこには手出しできない最大の理由。スパルタクスの異様な筋肉とはまた別種の鍛え上げられた肉体を持つ赤のライダー、アキレウス。

 その肉体は宝具によって神性を持たぬ相手の攻撃を通さぬようになっており、だからこそ“黄”の陣営の色々と特殊なサーヴァントの攻撃が通用するのかを確認しておきたいということ。

 最悪、モルガンが用意するロンゴミニアドであれば攻撃は通るだろうとマスターは口にしたけれど、手段が多いに越したことはないというのはわかる。

 スパルタクスへの憐憫とは天秤にかけるまでもなく、メリュジーヌが妖精騎士ランスロットの名を剥がすほどの理由にはならない。

 

「さて、そろそろあのバーサーカーも黒の陣営と接敵する頃かな?」

 

 ランサーの呟きの先、上空からは見え難い森林地帯へとスパルタクスが侵入し、それを追いかけてアキレウスとアーチャー、アタランテが突入する。

 けれど居場所に当たりをつけるのは容易いことだった。『避ける』という概念がないスパルタクスはあらゆる障害をその肉体一つで突破するのだから。彼の進路にあった樹木は哀れ、一切の瑕疵もないというのにただ目の前にあったというだけで粉砕されることになる。

 そうして樹木が倒れる音がすればその少し先を見れば目的の筋肉。スパルタクスが練り歩く姿がそこにはあった。

 

「あれは……ホムンクルス、だっけ。後ろのゴーレムも出してあげればいいのに」

 

 汎人類史における作られた生命。同じ顔をした無表情の少年少女たちが斧槍をはじめとした武器を構え、異様な筋肉の前に立ちはだかる。

 突き出す槍は所詮は人類より上程度の速度と練度。異様な分厚さを誇る筋肉の奥、スパルタクスにダメージを与えるほどの威力にはならず、手にした小剣(グラディウス)によって吹き飛ばされるだけだ。

 その奥にはサーヴァントの気配。黒の陣営のほぼ全てがそれぞれの形で迫る赤を迎え撃つ準備をしている。

 

 故に今からが、彼女が与えられた命令を果たす時間だ。

 

はぁー……(レイ・ホライゾン:A)

 

 ふん、と気合を入れれば、その瞬間に少女の姿が変わる。妖精騎士の姿から、境界を司る竜の形に。

 両腕にあった、普段は魔術的に刀身を生成する鞘は消失し、代わりにツインブレードになったアロンダイトの刃を手にする。

 先ほどまでの飛翔よりもわかりやすく竜の翼にて滞空する少女が照準を定めるのは、両の手に一つずつ持つ竜の顎門でもあるツインブレード。右手のものを赤へ、左手のものを黒へと。

 顎門に凝縮されるエネルギーはいつ爆発してもおかしくないほどのもの。二つの息吹は、揃えば森林を焼き尽くすには十分な火力を宿したもので。

 

「薙ぎ払う……!」

 

 宣言とともに放たれた二つのドラゴンブレスは、狙いを過たず着弾し、一瞬遅れて轟音とともに赤と黒を焼き尽くす。

 無論、超上空から解き放ったエネルギーが届くまでの間に、彼らは防御を固める程度の余裕はあっただろうが、それでも無傷ではいられないだろう。

 これ以上は一当てではなく戦闘だ。そう判断したメリュジーヌは竜種としての力を引き出した姿から、妖精騎士ランスロットとしての形を取り繕う。

 預けられた水鏡を取り出し、起動させた、その次の瞬間。メリュジーヌはつい先ほど撃ち貫いたばかりの場所へと勢いよく振り返った。

 

「そこにいたか、“黄”のサーヴァント!」

 

(なるほど、これは早い……!)

 

 煙の中から一直線に飛び出してくるのは赤のライダー。

 妖精國にて最も速く、最も強い騎士であるメリュジーヌから見ても速いと称するほどの速度で、超上空へと一瞬で詰めてくる。

 

 けれど。

 

「悪いけど、君とは遊んであげられないんだ」

 

 水鏡による帰還まで、あと一瞬。もう一瞬出て来るのが早ければ、それこそ千や二千は打ち合えたのかもしれない……いや、この速度であれば確実に打ち合えただろう。

 けれど、その一瞬は現実にはあり得なかった。だから、騎士の形に戻ると同時に現出したばかりの鞘から魔術によって構成された刀身(イミテーション・アロンダイト)が一度、アキレウスの宝具の一つである槍と激突した瞬間に、少女の姿が消える。アキレウスの二撃目は届くことはない。

 

「ちぃっ、逃したか!」

 

 宙を切った穂先を引き戻しながら、アキレウスはつい先ほどまでのランサーと同じ視点から被害を見る。

 英雄譚によくある怪物の一撃を彷彿とさせる、生半なものではこうはなるまいと思うほどの、爆発による火災。先の一撃はアタランテが側にいたために防ぐという方法をとることにはなったけれど、これほどの被害を容易く出せるのであれば。

 

「どうやら、多少は期待できるかもしれないな」

 

 あるいは、神性を持ち自らを傷つけられる者がいるかもしれないと。そんな期待が生まれる。

 直後に、自らの師と戦うという形によってその期待が叶えられるとは知らずに。




メリュジーヌは村正が見惚れるほど綺麗。……ペンちゃんぺんちゃん、アキレウスゥゥ!が彼女を見たらなんて行動すると思う?

感想とか高評価がくると嬉しいな。
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