読んだらレトロゲームのディスク1がやりたくなる短編 作:peg
久々にやりたくなったけど、時間がないので書きました(本末転倒)
剣と魔法の世界。
誰しも、そんな世界に憧れた事があるだろう……。誰だってそうだ。俺だってそうだ。
でも、こんな形で叶うのは……、未だに納得できなかった。
『業務連絡です。生徒No.11508 リンコ。至急、8番出撃ドッグまで来てください。繰り返します――』
「はぁ……。これは……めんどくさすぎる……」
寮の自室でゴロゴロと現実逃避していると、廊下に取り付けられたスピーカーから、呼び出しを食らった。
今日は最終試験の日だったが、ぶっちするつもりで寝ていたのだった。
通常、規律違反は厳罰対象であり、時間厳守なマギ候補生は呼び出しを食らう段階で試験には落第となる。しかし、今年が最後の試験参加チャンスと言うことと、恐らく新任の教員が着任早々にポイントを下げたくないと言うしょうもない理由で、俺の計画はおじゃんになった。生徒の呼び出しではなく業務連絡と言っている辺り、あの教員は俺が落ちると本当に困るのだろう。
眼鏡を掛けた普段は寝癖だらけの女教員の顔が思い出された。あの新任教員は、齢15歳で試験に受かったあと、実務2年を駆け抜けて歴代最速で教員として採用された才女だった。あの教員に対して特に隔意は無いが、周りから見れば同い年の跳ねっ返りにでも見えるのだろう……。本当にしょうも無さすぎて、早く辞めたくなってきた。
尚、無事落第できた暁には、近くの港町の食堂で働く予定だった。落第しても身分保証してくれる辺り、この施設にも有情はあった。食堂のおばちゃんとは、カードゲームを通した
『――繰り返します……』
「はぁ……。はいはい、今行きますよー」
既に10分程放送が続いている。この迷惑行為を止めさせるためにも、ベッドから飛び降りた。2つの邪魔な脂肪が不快に揺れた。舌打ちをしつつ思考の端に追いやって、詰め襟とセーラー服が融合した様な碧い制服へ手を伸ばした。
この世界に、俺は孤児として生まれた。そう、孤児として突然生まれてしまったのだった。両親もおらず、突然ポップした俺を孤児院で保護してくれたのは、このクレイドルの創設者である魔女だった。
クレイドルは傭兵の養成機関であり、次代を担う魔女を探すためのシステムだった。この辺りは明言されていないのだが、生徒の間では何故か暗黙の了解となっていた。
茶色の髪を三つ編みに結い直し、制服をしっかりと着た。跳ねた前髪が鬱陶しかった。緑色の目をした女が、鏡に写っていた。表向きの見た目は、清廉な優等生だ。中身は酷いことになっていたが……。
愛用の機械組立式槍斧を手に取った。前世では、大の男ですら持ち上げられなかった物を片手で扱えるようになった辺り、剣と魔法の世界のすごさを感じる。まぁ、この世界も個人の力の有り無しが顕著になっただけで、筋力についてもピンきりなのだけれど。
8番ドッグまで施設内を全力で駆けても、10分程かかる。めんどくさいので〈
試験前に大出力の魔力を消費するのは、あまり誉められたことではなかったが、転生チートの影響か俺にとってこの消費は微々たるものだった。
紫色に空間が歪み、向こう側にドッグが写った。踏み込んで跳ぶと、ガラスの割れる音がして転移した。転移後の酩酊感は、あまり好きになれなかった。
地面から飛び出した俺は、既に集合している班員の前に着地した。
「おーおー。真面目ちゃんが迷惑掛けたわりには、ド派手な登場じゃねぇか。あぁ?」
「……」
「いやあの、まぁ。来てくれたんですから……」
「ちっ」
最初にぶちギレをかましたのは、班長のセイリアだった。背は程々で金髪を肩までの長さで切り揃え、瞳は青かった。人形の様な見た目のわりには、柄が悪かった。
もう1人は、赤い魔導書を片手に持った背の高い優男だった。黒髪で丸い眼鏡をしていた。飛び出した時、俺の下着を凝視していたのを見逃してはいなかった。内心で、俺はこいつをポッターヴァレス=ムッツリーニと呼んでいる。本当の名前は忘れた。
ちなみにコイツらは、今年がマギになる最後のチャンスの年の生徒だった。マギ試験は初回の試験へ参加してから、連年で3回しか挑戦できなかった。俺が来なかったら、コイツらは連名で落第だった。まぁ、俺にとっては、どうでも良いのだけれど。
「良かった! 間に合いましたね!」
人畜無害な笑顔をこちらに向けてきたのは、小柄な例の教員だった。何時もはボサボサショートの金髪を帽子に納め、教員用の赤い制服をパリッと着こなしていた。眼鏡は金縁だった。俺がサボろうとしたことなんて、全く考えていなかった様な言い回しだった。過去の確執があり、多分苦労したはずのこいつにも罪悪感は沸かなかった。
「う、うぅん! 班員でのブリーフィングは船内で行え。では、第8班、任務を伝える。ドッグから出撃、後に上陸後、直ちにガイレル兵と思われる一団を制圧。また、敵の襲撃目標を明らかにすること。敵の目的物を接収もしくは、破壊することを念頭に置いて行動しろ。以上」
可愛く咳払いした教員に、任務を伝えられた。教員の脇には、魔法で作られたディスプレイ上に周辺の戦況概要が乗っている。あとで端末に送られるのだろう……。
毎回思うが、戦時中に人んちの物を平気で回収してこいとか言う、完全にヤバイ集団だ。尤もこれには理由があり、取引先との契約上、速やかに戦況を終了させる必要があるため必要な措置だった。接収した物品は、あとで有償買い取りとなる。表に出せないヤバイものもかなりあり、出来れば知らなかったことにして、見つけ次第すべて破壊したかった。
「えぇ!? ここドゥルマ圏の激戦区じゃないですか……。はぁ……」
「先生さんよ。接収もなにも、元々敵の標的物はドゥルマ国のものだろう? 勝手していいのかよ?」
「……」
「マギ候補生セイリア。疑問はもっともですが、既に考査が入っていることは忘れないように!」
「ちっ! またそれかよ……」
ポッターが嘆き、セイリアが頭をガシガシと掻いた。
基本的に、無駄口や余計な考えを抱いていることがバレると、査定が下がる。クソみてーな制度だった。あと、セイリアは俺の1個年上だ。班長なんだから、今更しょうもない質問をするんじゃない。
査定と言うのは、試験合格後に付与されるマギ位階のものだ。大体30位くらいあり、上に行くほど位が高くなり戦闘力も強い傾向となる。このチビ先生の
「おい、お前ら。班長の言うことは聞けよ?」
「あなたが、なんで班長なのか疑義は残りますが……」
「あんだとぉ!」
「……」
俺はこれまで、一切しゃべっていない。コイツらは、受かりたいのか落ちたいのかさっぱりだった。まぁ十代の若造なんてそんなものか……。
「リンコさんは流石ですね。
「……」
そう言ったチビ先生を尻目に、俺は肩を竦めて高速船に乗り込んだ。遅刻しそうではなく、チビ先生によって遅刻が揉み消されたが正しい。あれだけ騒いでいたにも関わらず、放送が消えなかった辺りかなり上まで掛け合ったのだろう。なぜ彼女がここまでするのか、新任ポイント以外にも1つ思い当たることがあった。
俺が試験をブッチしようとした理由は幾つかあるが、このチビ先生と一緒に試験を受けた時の事を船で思い出していた。
当時、15歳の時チビ先生を班員として、俺は班長で試験に参加していた。この試験は、必ずしも適正あるものがリーダーに着く訳ではない。限られた状況の中で、最善を尽くすことが求められていた。
結果から言って、チビ先生は受かり俺は落ちた。そして、班員の一命が命を落とした。俺の指示で。だからなんだと言う話だが、その事を、チビ先生は多少気にしているのかもしれない。俺は気にしていない。そうしないと、既にどちらもこの世にいなかったであろうことは容易に想像できたからだった。当時の判断では、最善だった。
ただ、マギを目指す事はなくなった。目が覚めたと言ってもいい。別に戦闘力が無くても、この世界で暮らせるのだ。そこから、俺は力を磨くことを止めた。
「ちっ! クソ愛想のねぇ優等生と根暗ムッツリかよ」
「誰が根暗だ」
「……」
ポッターヴァレスは、ムッツリを否定しなかった。しょうもない。
事前試験における、この二人のクラス相当値は、15と14。なかなかに優秀な候補生だった。俺はサボったので1。15歳の時はクラス17相当だった。俺が優等生と言われる所以も、見た目と当時の成績に起因しているのだった。まぁ、これで損をしたことはない。
ブリーフィング後、ピリピリした沈黙が嫌になり、小さい高速船の甲板に出た。支給された端末を見ると、進行ルートが表示された。この試験には、マギも参加しているようだった。重要地制圧を行うのだろう。俺たち以外にも、マギ候補生のチームが参加している。
チビ先生が伝えた任務は、クレイドル全体への要請内容で、この班に与えられた指示とは別だった。可能な限り先の任務を履行するが、市街地一角の制圧と維持。これが、この班への基本指示だった。
戦場がにわかに近くなった。
銃撃の音や魔法による爆撃音で、小さな船が揺れた。
「くく。始まるな。ビビってチビるなよ、おまえら」
「はぁ……なんでこんな班に……」
「……」
俺は天井を見上げた。船の無機質な天井が目に入ったが、視界の端に淡く光る光球があった。考査用の追跡魔法だ。一瞬、
そうこうしているうちに、船が岩礁に乗り上げそうになった。自動操縦のはずだったが、いつの間にかセイリアが解除して操舵輪を握っていた。
「よっしゃ! 突っ込むぜぇ!」
「ええぇ……」
「……」
ポッターと二人、激しく揺れる船内で荷物にしがみついた。
衝撃と爆音が響いて船が止まった。ハッチが開き、海岸線より内側にある浜が見えた。今の衝撃で海岸線に張られた防壁を破壊したようだった。
「続け無脳ども! 進軍だ!」
「無茶苦茶だよ、こんなの!」
「……」
セイリアは、機械組立式の長剣を扱うようだった。3枚刃が重なった剣の重さは、中々なものだろう。用途によって、刃を切り替えるのがあの剣のオーソドックスな使い方だ。
機械式は一見して強度に問題があるように見えるが、ここは剣と魔法の世界。強度なんて魔法で補強できた。大事なのは、取り回しのしやすさと攻撃力、そして重さだった。
俺も機械組立式槍斧を起動した。弧を描くように組み上がり、関節のように節くれ立った柄に重厚な刃がついた。
ガイレル国は、機械信奉の国だ。魔法の技術は他の国よりも劣るが、内導機関を内蔵した超兵器の開発に長けていた。内導機関は魔石で稼働するものだ。最新型の超兵器は、
俺たちの班は、マギ隊から突出するような形で進軍した。市街地には、ガイレル正規兵と思われる着ぶくれした特撮ヒーローの様な兵器を着込んだ兵士たちの一団がいた。一兵卒はともかく、将校クラスには気を付けないといけない。支給品の性能の違いか、一兵卒の10倍は強い。
「こっちを見ろ雑魚ども!」
「あぁぁぁ、なんで奇襲しないんだ……」
「……」
セイリアの言動は、案外理に叶っているかもしれない。ガイレル正規兵に捕まっているのはドゥルマ国の一般市民だ。奇襲なんてかけたら恐慌状態になる。
「なんだ!?」
「まさか、マギ?」
「いや見ろ。訓練生上がりだ」
一兵卒が二人、将校クラスが一人だった。幌付きのトラックに、市民達が押しやられていた。
「おまえらは、雑魚を相手にしろ!」
「ああ! もう!」
「……」
セイリアが一人突っ込んでいき、ポッターが支援魔法を掛けた。防護壁系の魔法だった。安全策としては上々だった。ただ、この場合は速度をあげた方が良かっただろう。
ガイレル正規兵たちが両手を組み合わせると、機銃の滅多撃ちが始まった。速度があれば、すべて避けて接近できたが……。仕方がないので、防護壁を利用して肉薄した。接近ギリギリで割れた魔法が散った。俺は身体の左右で、槍斧を突き上げるように2周した。一兵卒の外装が砕け、強化服である網目状のインナーを晒した。そこへ、徐に腕を突っ込んで魔法を起動した。
「ひぃっ。や、やめ……」
「あぁあああ」
魔力を運用し片側から熱を奪って、もう片方へ移動させた。その時、動力の力も奪うことも忘れない。一人は氷漬き、もう1人は内側から炭化した。下手に生き残らせると、昔みたいに苦い思いをすることになる。氷像を槍斧で砕いた。
「ひゅ~。かわいい顔して、えげつないことやるなぁ!」
「そこまでする必要が、あったんですか……?」
「……」
将校クラスとの戦闘を、一瞬で終えたセイリアが煽ってきた。ポッターはこれまで、支援隊での経験が多かったのか少し怯えていた。
セイリアは単独の戦闘力で見れば、意外とできるのかもしれない。このまま敵に突撃を続けるのであれば、いずれ止めなければならないが。
俺達の目標は、市街地の制圧と維持だ。それさえ達成していれば、セイリアの様な戦闘狂ですら正義だった。当然、俺の殺し方も。
俺たちは、制圧された町を徐々に解放していった。追い付いて来た後発隊が、解放地区に駐留していった。後発隊のマギ候補生達は、このまま運が良ければなにもせずに正規なマギに成れるだろう。昔の俺が見れば、労せず成れる彼らを羨ましがるだろう。その後の苦労は知らないが……。
俺も船のなかで色々考えていたが、試験に合格しても辞めればいいや、と楽観的な考えを思い付いていた。
作戦開始から5時間が経過した。市街地のあちこちで鳴っていた戦闘音も既に散発的となっている。既に大部分の制圧が進んだようだった。任務終了まであと2時間と少し……。
「ちっ! クソ雑魚どもが! もっと私を楽しませろ!! 出てこい!」
「わざわざ、敵を呼ばないでくださいよ……。ほぼ勝ち戦なんですから……。リンコさんからもなんか言ってください」
「……」
戦闘狂いのセイリアが、痺れを切らして叫び始めた。ポッターヴァレスがストレスで禿げそうだったが、完全に無視してやった。俺のパンツを見た罪は重い。
「ぁぁぁああ! やってられるか! お前ら着いてこい!」
「班長! どこ行くんだ! やめろ!!」
セイリアは、道に深く轍が残る山道へ走っていってしまった。これは、班員に対する評価はどうなるんだ……。経験から言って、従う方がいい気がする。落ちるならそのままが良いが……。
上を見上げた。視界の端にある光の点が、振動しまくっていた。チビ先生、動揺してんのこれ?
「リンコさん行きましょう。このままだと、試験に落ちそうな気がします」
「……」
いや、落ちて良いんだけど。
なんとなく嫌な予感がして、端末を取り出して開いた。いつの間にか、進行ルートに改変が加えられていた。基本指示内容が、候補生の治安維持レベルからマギのソレへと変わっていた。
――任務を通達する。
1. 市街地内のガイレル兵を駆逐せよ。
2. ガイレルの標的物は山頂に有り。対象を丙と呼称する。
3. 至急丙を破壊せよ。
4. 乙所有大型超兵器に注意せよ。
いや、前段階飛ばしすぎてちょいちょい意味不明なんだが……。
5. 候補生監査員は、今後、身分証明剥奪の権利を有する。
は??
任務内に、とんでもない爆弾が投下された。つまり、任務に背くと無戸籍に戻されると言うことだった。なんなんだこれは……!
「うわあああ!」
「リンコさん! いったいどうしたんですか!? って、はっや! えぇ……、さっきの三倍くらい速いんだけど……」
遠くから、叫び声が聞こえた。任務内容を再確認していた俺は、全速力で声のする方向へ駆け出した。魔力を身体の中で駆動させ、最速を出した。班長及び班員を帰還させなかった場合、身分証明が剥奪されるリスクが上がる。
端末に表示されるクレイドルからの指示は絶対だ。そこに、間違いなど無い。いや、正確には、倫理的に間違っていてもすべてが許される。それがクレイドルだった。ディストピア、そんな単語が頭をよぎった。
セイリアに追い付くと、先程の叫び声はドゥルマ正規兵が出した声だと分かった。付近山頂に生息する怪鳥に囚われ、その身を貪られていた。
可笑しな事に、地元民であるはずのドゥルマ兵が怪鳥に喰われてた。普段、怪鳥のやばさは知っている筈なのだが……。
「は。はっはは! 人間相手の次はクソ動物ってか。いいぜ、かかってこいよ雑魚」
「ガァアア!」
無駄に煽るセイリアに向かって、怪鳥が翔んだ。セイリアは空中から襲いかかる怪鳥と交差すると、3枚刃を一瞬バラして攻撃をしかけた。
鉈・長剣・サーベル。ワイヤーで繋がったそれぞれが後追いをするように、怪鳥を両断する役目を順に果たした。
「へっ。硬いだけで大したことねーな」
「あの巨体を一瞬で……」
ポッターが驚いていたが、特に大したことはしていない。前衛のマギは、自前の障壁魔法や強化魔法が真骨頂だ。武器を保護したり、リーチを伸ばしたりと色々と応用が利いた。
しかしながら、セイリア程の射程を伸ばす技術は、
「ちっ。折角の実地試験だってのに、雑魚しかいやがらねぇ……」
「……試験に落ちたくないんですよ。勘弁してください……」
「ちっ! 男の癖に……玉ついてんのか!? チキン野郎が!」
「男とか女とか関係ないだろ! 私の第一志望は、後方支援隊なんだ!
「あんだとぉ!」
剣を肩に担いだセイリアがこぼした言葉から、口論に発展していた。チビ先生の魔法が超振動している。基本指示事項放棄、不和……これは落ち……、いやまだ大丈夫そうか。基本指示事項が、いつの間にか書き変わっていた。チビ先生は昔、これよりやらかしていた。ソレに比べたら可愛いものだった。
その時、セイリアの腰高辺りから電子音が鳴った。
――ザザッ。
『第八班、応答してください。こち 、マギオ レーター』
――ザザッ
「あん?」
「マギのオペレーター?」
何となく嫌な予感がした。候補生へはミッションの難度から言って、個別の通信機器は預けられていなかった。今回は、班長だけが持っている。そこへ連絡が来ると言うことは、撤退指示か緊急指示のどちらかだった。撤退時間まで後二時間あるはずだ。
「あー。こちら、八班。どうぞー」
『! 良か た、繋 った。所在地確認できました。は? 山道? 直ちに撤退し ください!』
「は?」
『
「あと15分もねぇじゃねーか!!」
「
もともと居た市街地の外れからここまで、ポッターに合わせた先の速度で3分少々かかった。そこから港までなので、さっきの速度で疾走してギリギリ間に合うかどうかだった。
「ちっ! 浜まで全力疾走だ! 遅れるなよ、チキン共!」
言うや否や、セイリアは全力で駆け出していった。しかも、強化魔法全開だった。漏れたオーラが煌めき、燐光を残しながら戻って行った。やっぱ、あいつ受からんだろうなぁ……。
「あ、待ってください班長! ドゥルマ兵が! ……リンコさん?」
「……」
怪鳥に片腕が捥ぎ取られたドゥルマ兵だったが、辛うじて生きているようだった。簡易の止血を施して背負い縛り付けた。
ドゥルマ兵は、槍斧より軽かった。何があるかわからない。回復魔法は温存すべきだった。
「行きましょう! もう、12分しかない。……なんだ?!」
先に行けば良いのに、律儀に待ってくれたポッターヴァレスはそう言った。しかし、参道の壁面が揺れ、崩壊し始めた。
「に、にげろぉぉぉ!!」
「……っ!」
土砂に混じって、幼児程の大きさの蝿捕蜘蛛が、大量に湧き出てきた。
こいつらを完全に破壊するには、プログラムを書き換え自滅させるか、塵も残さずに消すしかなかった。
マギの撤退命令は詰まるところ、依頼元とクレイドルは、ドゥルマ市街地の破棄を決めたと言うことだった。
土砂崩れの濁流のように
ひたすら走って市街地に突入した。最初に陣取って居た円形の広場で振り返ると、
周りを見渡せば、建物の中に立て籠った市民達が不安そうな顔で階下を見下ろしていた。哀れにも、自国に見捨てられる予定の人々だった。自然と溜め息が出た。
「……はぁ」
「はぁはぁ、リン、コさん?」
暗がりのなか、
まだ動くであろう車両に、ドゥルマ兵とポッターを掴んで投げ込んだ。
「うあっ!」
「行け! ポッター! ボロ車両でも、後衛のお前が走るよりはマシだろう!」
「いや、ポッターって誰!? 初めて喋ったらそれですか……。あ、リンコさん! くそ!」
紛争地域にあって既に廃車寸前となっていたオンボロだったが、意外にも最近流行り出したガソリン車だった。ドゥルマ市民の高給取りがいたのかも知れない。この世界でも、百年後に環境環境って叫ばれるのだろうか……。
アホなことを考えていると、支援魔法を俺に掛けまくったポッターが去った。俺が殿になる事が、分かったのだろう。
残り時間は、あと6分。恐らくだが、撤退と同時に対物消滅魔法が撃ち込まれるのだろう。
この状況、前の時と似ている。結局、マギになれるかどうかは結果次第なのだろう。あの時、逃げたチビ先生は受かり、俺を見捨てられなかった班員は死んだ。
「フフ、あっははは。……はぁ、……ばっかみたい」
自然と笑いと独り言が漏れた。既に将来の夢は、港町の食堂のおばちゃんとなっていたのだが……。前世から引っ張ったモラルと俺を拾った魔女先生に植え付けられた善性が、俺の脚をこの広場で止めたのだった。もはや、性分と言って良い。
槍斧を構えた。いつの間にか全ての蜘蛛共と一体化し、山のようにでかくなった
ポヒュンとバカみたいな音をたてて、
重ね掛けされた支援魔法を身体へ
その後、槍斧を全力で強化した。15の頃まで鍛えていた魔法を、再度使うことになった。
〈
槍斧の先に紫と黒の光球が集まった。光球に紫電が纏わりつき、ありとあらゆる環境音を混ぜたようなチグハグな音が響いた。
振り下ろせるように、槍斧を上段に構えた。
――それでも、
「この世から、全て消え去るよりはマシだろう!」
俺は、魔法を振り下ろした。
周りの音が消え、色が反転した。
振り下ろした槍斧を起点に、拡散した魔法は
足が残っているが、徐々にほどけるように消えつつあった。
「フぅ……ふぅ……。ふっ」
乱れた息を一息で切った。再度、槍斧を背に構えた。これで、終わるとは思っていない。残りの足達が八体の大蜘蛛になって、俺の方へ一心不乱に駆け寄っていた。
さっきの切り札の魔法は打ち止めだ。残りは、砕きながら戦うしかない。流石に掌大まで砕けば、停止するはずだ。
残り4分。
槍斧が一体目と邂逅した。一息に、脳天への叩きつけから胴体を半分に割った。
振り下ろしから、石突き側へ重心移動して空へ舞った。二体目が、地面を突いたままの槍斧を払った。
身体が引っ張られる方向へ、〈
四体目の脚での叩きつけを躱し、五体目の尻を砕いた。無強化の槍斧が軋んだ。すかさず、一時停止した五体目へ右手を突っ込んだ。魔力を操作し、熱量の略奪を行った。集まった熱量で槍斧の先が赤熱した。
凍結した五体目を砕いて、六体目が襲ってきた。体制を整えられず、六体目の体当たりに負けて弾き飛ばされた。
砕けた破片が、幼児大の蜘蛛へと変わっていた。その蜘蛛を、像のような大きさの蜘蛛が食べた。増えた数が減る分には助かる。
残りは2分……。再度、俺は赤い刃を下に槍斧を構えた。
「くそったれだよ、ホントに……」
これじゃない転生に、俺は再び絶望した。ここを乗りきって、食堂のおばちゃんに俺はなる!
俺は、黒い機械蜘蛛のなかへ飛び込んだ。
◆
【ミッションリザルト】
リンコ・クレイデリア(18)
・事前試験
筆記試験 ―― F
魔力試験 ―― F
身体試験 ―― F
判定クラス ―― 1
・マギ実地試験
従順度 ―― C
規律 ―― E
判断力 ―― C
魔法力 ―― S
行動力 ―― A
攻撃力 ―― A
心力 ―― S
減点 ―― 80pt
加点 ―― 100pt
付与マギ
・特記事項
ガイレル国に鹵獲された、ドゥルマ国所有超兵器
パーティー会場で壁の花となっていたあなたの前に、忽然と現れた謎の黒髪の少女が天井を指差して言った。
「やりたくなーる、やりたくなーる」
やっぱ、全盛期だったのかなって(賛否両論)