【改訂版】響鬼外伝・仮面ライダー吹雪鬼 ―愛、凍てつき堕ちようとも―   作:裕ーKI

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純潔之巻:吹雪く鬼
一:序幕


 自分の名前には“夏”という字が付いている。

 

 だからという訳ではないが、私は冬より夏が好きだ。

 

 理由はまあ……いろいろあるけど、早い話が寒さに弱いのだ。

 

 なにしろ物心ついてから此の方、超が付くほどの冷え性だから。

 

 私は冬が嫌いだ。

 

 ついでに言えば雪も嫌いだ。

 

 なんだあれは。

 

 一部の人間たちからは、美しいだのなんだのと美学的目線を向けられているらしいが、私にはさっぱり理解できない。

 

 あんなもの、所詮は水蒸気が固まって結晶の粒になっただけのもの。地上に降り積もれば、生活の妨げになることの方が圧倒的に多いというのに。

 

 しかしこれだけ冬や雪に対して嫌悪していた私だけど、それでも実は、好きなものがひとつだけある。

 

 それは一面真っ白に染まった雪景色の真ん中で、凛と佇む一輪の花。

 

 例えるなら、“冬に咲く花”。

 

 もちろんこれは比喩的表現だけど、少なくとも私の目にはそう見える。

 

 あの人は間違いなく、全身を白銀と紫色で彩った一輪の花だ。

 

 ずっとその背中を追いかけてきた私が言うのだから間違いない。

 

 数年前、街中に現れた魔物に襲われていたところを助けてもらったあの日から、私はあの人に一生ついていくと心に決めた。

 

 だからあの人のことなら誰よりも理解している。

 

 あの人は白く寒い、雪と氷の世界がよく似合う女性だ。

 

 あの人の引き立て役としてなら、不快と決めつけていた冬の寒さも白い雪も、意外と悪くないとさえ思える。

 

 そして、今の私の人生の生き甲斐とは、そんな銀世界に咲く一輪の花を、生涯一番近くで眺め続けること。

 

 それが私の、何よりの幸せ。

 

 あの人と一緒なら、冬の寒さにだって耐えられる。

 

 あの人の傍に寄り添うためなら、寒さだろうと雪だろうと、気合と根性で乗り越えられる。

 

 そう、気合と根性。

 

 あの人と同じ道を往くためならと、私は気合と根性で冬の寒さに耐え忍ぶ術を手に入れた。

 

 昔、あの人がそうして“雪”の名を先代から受け継いだように、私も今、あの人の傍で己を鍛え続けている。あの人と同じ、鬼であるために。

 

 私にとってあの人は憧れの存在であり、かつては大学の教育的指導者だった。

 

 そして今では、鬼の道を導いてくれる唯一無二の師匠であり――、

 

 同時に、愛を誓い合った人生のパートナーでもある。

 

 ……長々と前置きしたけれど、つまりはそういうこと。

 

 要するに私と彼女は、恋人同士である。

 

 私と彼女。

 

 女同士でありながら。

 

 女同士であろうとも。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 関東地方を中心に、日本全国で起きた魔化魍の異常発生――オロチと呼ばれる超常現象が終息してから、一体幾年が過ぎただろうか。

 

 

 

 あれは2006年初冬のことだった。

 

 当時、日本中に溢れんばかりの怪物が無秩序に出現し、数多くの人々が脅威に晒された。

 

 巨大な怪獣のようなもの。等身大の怪人のようなもの。様々な大きさ、姿形の夥しい数の化け物が、昼夜問わず何の前触れも無しに出現し、餌と見なした人間に容赦なく牙を剥いた。

 

 無差別に襲い掛かるその様は、まさに凶悪な獣そのものだった。

 

 従来の大災害とは訳が違うこの未曽有の危機に対し、秘密裏に活動している民間組織――猛士の各支部は、魔化魍退治の専門家――鬼と呼ばれる音撃戦士たちに対処を命じた。

 

 猛士東北支部に所属する、雪の名を持つ女の鬼――吹雪鬼も、オロチの脅威と戦った勇敢な戦士の1人だった。

 

 吹雪鬼はその名の通り、雪と氷の力を司り、二丁拳銃型の音撃武器を使った銃撃戦を得意とする戦士だ。

 

 オロチがピークを迎えていた年明けの1月上旬、吹雪鬼は市内のビルの屋上に立っていた。

 

 本来、戦闘において彼女が最も得意とするフィールドは、雪原や雪山のような気温の低い寒冷地。しかし、人命救助を最優先とし、尚且つ猫の手も借りたくなるような状況の中では、さすがに場所を選ぶ余裕などあるはずもなく、総動員された他の仲間たちに混ざって、死に物狂いで切り抜けるしかなかった。

 

 関東のオロチに呼応し、各地に自然発生した大量の魔化魍は、山や海や空などの自然界は勿論、人口が密集する村や市街地にも出現した。

 

 同胞と共に戦場に飛び込んだ吹雪鬼は、鬼石が尽きるまで銃を撃ち続けた。そして、関東最強と謳われる鬼――響鬼がオロチを鎮めるその時まで、ただひたすら清めの音を奏で、眼前に広がる敵たちを祓い続けたのだった。

 

 

 

 

 

 そして時は流れ現在。あの頃と同じ年明けの冬。

 

 オロチが去り、今では全てが元通りとなっていた。

 

 魔化魍の出現頻度も、鰻登りだった2005年から2006年の1年間と比べれば、明らかに落ち着きを取り戻したと言える。

 

 とはいえ、当然ながら全く出現しなくなった訳でも、被害が皆無となった訳でもない。

 

 魔化魍の出現は、ある種の自然現象だ。

 

 様々な条件が重なれば、雨雲のようにいつでも現れる。その上、魔化魍を人工的に生み出し、改造を施して研究している傍迷惑な連中も今だ健在であり、奈良に存在する猛士の総本部も、引き続き奴らの行方を追い続けている。

 

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