【改訂版】響鬼外伝・仮面ライダー吹雪鬼 ―愛、凍てつき堕ちようとも―   作:裕ーKI

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十:ヒビキの弟子たち

 結論から明かすと、明日夢の説得のおかげで、狐夏は桐矢 京介の協力を取り付けることに成功した。

 

 とはいえ、スムーズに事が運んだかと言えばそうではなく、尊大な一面を持つ京介から理解を得るのは、なかなか一筋縄ではいかなかった。

 

 

 

『もしもし?』

 

「あの……もしもし? 安達だけど?」

 

『いちいち名乗らなくても良いって。携帯に名前出てるんだしさ……。それで? 何か用か?』

 

 

 

 携帯電話から聞こえてくる青年の声は、ことごとく素っ気なくて不愛想だった。常に上から目線な態度が、スピーカーに耳を当てる明日夢の聴覚をチクチクと刺激した。

 

 それでも、京介の性格をよく知っている明日夢は、とくに不快感を顔に出すこともなく、平然とした表情で冷静にヒビキの在否を訊ねた。

 

 その様子を、狐夏は息を呑みながら静かに見守っていた。

 

 願わくは、ヒビキとはここで確実にコンタクトを取っておきたい。そして、できることなら直接会って話がしたかった。

 

 しかし、そんな彼女の期待とは裏腹に、やはり然うは問屋が卸さなかった。

 

 京介曰く、彼とヒビキは現在、折悪しくも別行動を取っている最中なんだとか。

 

 

 

「別行動?」

 

『少し前に、人里の近くにヤマビコが出たって知らせがあってね。緊急だったから、ヒビキさんはバイクで一足先に現場に向かったんだよ』

 

「現場にって……こんな時間に? もう日も暮れてるのに……」

 

『鬼の活動に時間なんて関係無いんだよ。まあ、鬼を諦めた君にはわからないだろうけどね』

 

 

 

 相変わらずの嫌味だった。

 

 どれだけヒビキの下で修行を重ねても、京介のこういう性根の悪さはいつまで経っても変わらない。電話の向こう側にいる友の顔を思い浮かべながら、明日夢は小さく苦笑を漏らした。

 

 

 

『わかったならもう切るぞ? こっちはヒビキさんの後を追わなくちゃいけないんだ。準備で忙しいし、無駄話してる時間なんてないんだよ』

 

 

 

 そう言って、京介は一方的に通話を切ろうとする。

 

 明日夢はそれを慌てて制止した。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 悪いけどこっちも緊急なんだっ!」

 

 

 

 京介には京介の都合があり、彼もまた、鬼の1人として自分の為すべきことを為そうとしているのだろう。それ故に今、彼に余裕がないことも重々理解はしていた。

 

 しかしそれでも、これが押しつけがましいことなのは百も承知の上で、明日夢は自分たちの事情――強いては狐夏が抱える事態を京介に代弁した。

 

 自分の傍にいる狐夏の素性と、彼女が東北からわざわざ関東へとやって来た理由、そして何より、彼女の師匠であるフブキを危機から救うためには、早急にヒビキの力が必要であることを説明したのだ。

 

 電話越しにそれを聞いた京介は、考え込むように僅かながらに呻いた。

 

 だが、直後に飛び出た彼の言葉は、依然として冷淡なものだった。

 

 

 

『東北支部の鬼か……。でもそんな話、事務局長からは何も聞いてないぞ? それにヒビキさんはもう出発してるんだ。今さら何を言われたって、俺にはどうすることもできないんだけど?』

 

 

 

 スピーカー越しでも伝わってくる京介の冷ややかな態度は、どうやらなかなかにしぶとく、ちょっとやそっとじゃ揺るがないようだった。

 

 それなりに付き合いも長く、彼の個性にも慣れていると自負していた明日夢でさえも、携帯電話を握りしめたまま、辟易と返事を詰まらせていた。

 

 するとそんな様子を見かねたのか、狐夏が1つの提案を持ち掛けた。

 

 

 

「電話の相手……桐矢 京介って言ったっけ? 彼がこれからヒビキさんのところに行くって言うならさ、私も一緒に付いて行く! 出発前に私を拾うように、京介に伝えてくれない?」

 

 

 

 狐夏の案を明日夢から口伝えに聞いた京介は、当然のように不満の声を上げた。色々と屁理屈を並べて、どうにか要望を一蹴できないかと必死だった。

 

 しかしそれが、ただ単に面倒くさがっているだけだということは、明日夢も狐夏も容易に見抜いていた。

 

 

 

「俺からも頼むよ。京介だって、もしヒビキさんに何かあれば、どんな手段を使ってでも助けようとするだろ?」

 

『それは…………』

 

 

 

 痛いところを突かれたのか、今度は京介が言葉を詰まらせた。

 

 かつての兄弟弟子として。

 

 あるいは、本音をぶつけ合った友人として。

 

 明日夢は知っている。

 

 京介が普段、どれだけ捻くれた振る舞いを見せようとも、彼のヒビキを慕う心は紛れもなく本物であることを。

 

 師匠を大切に想う心が京介にあるのなら、フブキを救いたいと願う狐夏の気持ちにも、きっと理解を示すことができるはず。

 

 明日夢の言葉は、そう信じてのものだった。

 

 そしてそんな思惑通り、ヒビキの名を出されたことで頭ごなしに拒否できなくなった京介は、とうとう観念した。

 

 

 

『ああぁぁーもう! わかったよ! 迎えに行けばいいんだろ! ただし、出発は明日の早朝になるぞ? 5時半頃には迎えに行くけど、寝坊したら容赦なく置いて行くからな!』

 

「わかった、狐夏さんにそう伝えるよ。合流場所は俺のバイト先の診療所でいいかな?」

 

『ああ、それでいいよ!』

 

「それじゃあよろしく。あの……、京介?」

 

『ん?』

 

「引き受けてくれてありがとう」

 

『別に……。気にすんな……』

 

 

 

 改まった口調で明日夢が謝辞を述べると、京介は照れ隠しをするように素っ気なく返事を吐き捨てた。

 

 そしてそのまま、通話はぶつりと切電した。

 

 

 

 

 

 その後、明日夢の計らいで、診療所で一泊する許可を貰った狐夏は、京介が迎えに来る時間まで、診察台をベッド代わりにして仮眠を取ることにした。

 

 隣の執務室のソファーでは、すでに明日夢が毛布に包まって寝息を立てている。

 

 仲介役を担ってくれた彼に対する感謝の想いを抱きつつも、狐夏は自分の心が少しだけ安堵に満たされているのを確かに感じていた。

 

 明日夢のおかげで、もうすぐヒビキに会える。

 

 もう少しで、フブキを救えるのだと。

 

 毛布の中でそんなことを思いながら、狐夏もやがて瞼を閉じたのだった。

 

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