【改訂版】響鬼外伝・仮面ライダー吹雪鬼 ―愛、凍てつき堕ちようとも―   作:裕ーKI

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二:フブキと狐夏

 猛士に在籍している鬼たちの活動は、主にシフトで管理されている。

 

 魔化魍の出現に伴い、事務局長や各支部の支部長が組んだシフトに従って、鬼たちは出動しているのだ。

 

 その日、岩手県のとある山奥に、大型の魔化魍が出現したとの通報があった。

 

 現場は一面真っ白な雪山。

 

 支部長から知らせを受けたフブキは、弟子の 小宮香 狐夏(こみやが こなつ)を連れて魔化魍出現の地へと急行した。

 

 本来、猛士の鬼は太鼓、管、弦の3つの担当に振り分けられている。

 

 吹雪鬼の担当は管の音撃。普段は飛行タイプのような、直接攻撃が届きにくい敵の討伐を主な任務としているが、実はそれ以外にも、彼女には特別に任されている案件があった。

 

 それは、雪の名を持つ鬼が代々受け継いできた、使命とも言える務め。

 

 特殊な修行の末に身につけた、超低温に順応した肉体。その体質を活かし、通常の鬼では戦闘に不向きなほどの豪雪地帯や、極寒の気候にしか生息しない魔化魍は、吹雪鬼が専属で退治することになっていた。

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 灰色の雪空に向かって、白い湯気が薄っすらと立ち昇っている。

 

 周りは白く着飾った枯れた木々に囲まれており、少しばかり寂しさを感じさせる。

 

 湯気の下からは、別の黒い煙が小さく伸びていた。2つのコンクリートブロックに挟まれた焚き火が、メラメラと燃えているのだ。

 

 コンクリートブロックの上には、巨大なドラム缶が立っている。その中には大量のお湯が張られており、湯気はそこから立ち昇っていた。

 

 所謂ドラム缶風呂である。

 

 

 

「フブキさん! もうすぐお風呂沸きますよ!」

 

 

 

 山奥に比べれば積雪が少ない麓に構えたベースキャンプの中で、ピンク色のダウンジャケットを着込んだ茶髪の少女が活発に声を上げた。

 

 姿勢を繰り返し上下させて、焚き火の調子とお湯の温度を交互に見るたびに、ミディアムパーマの巻き毛が忙しなく揺らめいている。

 

 師匠のフブキが主業で手を離せないその間、キャンプに必要な諸々の雑用を熟すのが弟子の小宮香 狐夏の仕事だった。

 

 ちょうど今、これから入浴予定のドラム缶風呂の準備ができたところ。

 

 アウトドアテーブルに広げた大きな地図と睨めっこしていたフブキは、狐夏に視線を送ると共に返事をした。

 

 

 

「そう、いつもありがと。こっちもあと少しで終わるけど、なんなら先に入っても良いんだよ?」

 

 

 

 水色のダウンジャケットをクールに着こなし、寒風に靡く、艶のあるショートヘアの黒髪を無意識にかきあげる仕草は、大人の女性でありながら男性的な色香をも醸し出していた。

 

 中性的。あるいは王子様系女子、という表現が正しいだろうか。

 

 とにかく清楚で端麗で、雪景色を背景にして、なお映える美しさがそこにはあった。

 

 フブキは今、山奥に潜む魔化魍を探索するための下準備の真っ最中だった。

 

 専用のケースに収納されている複数の円盤型ディスクアニマルに、山の地図の情報をプログラムしているところだ。

 

 ディスクアニマルとは、猛士から支給される鬼のサポートツールの1つ。

 

 古来の陰陽道の式神に、現代の科学技術を加えた“音式神”とも呼ばれる代物であり、円盤状のディスク形態から、様々な動物の姿に変形できる。魔化魍の探索は勿論、鬼の戦闘の手助けまで担ってくれる、まさに優秀な助手である。

 

 

 

「え~! 嫌ですよぉ! 私はフブキさんと一緒に入りたいんですからぁ!」

 

「でも狐夏は寒がりだし、早く温まりたいだろ?」

 

「大丈夫です! 私のお目当ては熱いお風呂じゃなくて、フブキさんの柔肌なんですから! フブキさんの身体に密着するためなら、いくらでも我慢しますよっ! そのために鍛えてるんですから!」

 

「いや……ちょっとその言い方は生々しいんじゃないかな……。っていうか、そのためって……鍛えているのは鬼の力のためだろ?」

 

「鬼の力は手段に過ぎないというか……、あくまで結果論? ……みたいな。とにかく、私がフブキさんの傍にいるのは、鬼になりたいからじゃありません。ずっとフブキさんの傍にいたいから、仕方なく鬼の道にいるだけです!」

 

 

 

 でんと構えてハッキリと言い切った狐夏の言葉に、フブキは唖然とした顔で溜息を吐く。

 

 

 

「なんていうか……、それを師匠の前で堂々と言えるなんて、ある意味感心するよ……。きっと大物になれるね、狐夏は……」

 

 

 

 しかしそう言いつつも、実際はフブキ自身もまんざらではなく。

 

 

 

「まあでも……僕も嫌いじゃないけどね、狐夏とお風呂に入るの……」

 

「そうでしょうとも、そうでしょうとも! なにしろ、いざとなれば一番乗り気になるのは、誰であろうフブキさんですからねぇ~!」

 

「こら。あんまり調子に乗って茶化さない! ……さ、準備はできた。まずはこの子たちに頑張ってきてもらおう!」

 

 

 

 弟子の弾んだ声にやれやれと呆れつつも、準備を整えたフブキは気を取り直し、ケースに収められたディスクに向けて音笛を吹き鳴らした。

 

 笛から発せられる特殊な音波に呼応した無数のディスクアニマルたちは、一斉に動物の形に変形しながらケースを飛び出し、山奥へと散開していく。

 

 鳥型のディスクは空へと舞い上がり、獣型のディスクは地上を駆ける。そして猿型のディスクは木から木へと飛び移っていく。

 

 色とりどりのディスクアニマル達が白い世界へと散っていく光景は、なかなかに鮮やかで、美しいものだった。

 

 

 

「お待たせ。じゃあ、お風呂に入ろうか!」

 

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