【改訂版】響鬼外伝・仮面ライダー吹雪鬼 ―愛、凍てつき堕ちようとも―   作:裕ーKI

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四:索敵、その心得

 再び身なりを整え、ダウンジャケットに身を包んだフブキと狐夏がテントから出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

 

 分厚い雲に覆われ、星1つ見えないほどに黒く染まった冬空からは、大粒の雪がしんしんと降り注いでいた。

 

 事前に設置しておいたランタンのおかげで、ベースキャンプ内は明るさを保っているが、標的の魔化魍が潜んでいるであろう雪山の深淵は、完全に暗黒の世界と化している。

 

 探索に出したディスクアニマルたちは、依然としてまだ1体も帰ってこない。

 

 フブキと狐夏は食事の準備をしながら、ディスクの帰還を待つことにした。

 

 熱湯で温めた簡単なレトルト食品で腹を満たし、その後は熱いお茶を飲みながら戦闘に備えて装備のメンテナンスに勤しむ。

 

 その間に幾つかのディスクたちが帰ってきたが、残念ながらいずれも当たりではなかった。

 

 結局、魔化魍の居場所を突き止めたディスクアニマルが戻ってきたのは、次の日の朝方だった。テントで一夜を明かし、空が薄っすらと明るくなってきた頃に、鷲型のディスクアニマル――浅葱鷲が舞い戻ってきたのだ。

 

 標的の鳴き声を録音し、持ち帰ってきた浅葱鷲の探索エリアを地図で確認したのち、フブキと狐夏は身支度を済ませた。

 

 そして、浅葱鷲の先導を頼りに魔化魍の追跡を開始した。

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 鬼走術・雪走り。

 

 それは雪の名を持つ鬼にとっては必須と言っても過言ではない技術。

 

 両足の筋肉に特殊な鬼の気を込めることによって、足場の悪い雪道や氷道でも、平地と同じ機動性を発揮できる技。寒冷地での戦闘に特化した鬼にとっては、基礎的な走法である。

 

 先代からその名を受け継いだフブキは当然のことだが、弟子の狐夏も技自体は既に習得済みであり、2人は風を切るように山の白い斜面を駆け上っていく。

 

 岩肌を踏み越え、枝木の間をスルリと潜り抜ける。

 

 道無き道をパルクールの要領で走り抜け、眼前を飛行する浅葱鷲との距離を一定に保ちながら、目的地を目指す。

 

 

 

「ねえ! フブキさん!」

 

 

 

 目の前を軽やかに走るフブキに置いて行かれないように、狐夏は必死にその背を追いかけていた。

 

 技そのものは習得していても、やはりテクニックもスピードもまだまだフブキには及ばない。フブキの背中に付いて行くのも、本当は心身共にしんどかったが、しかしそんな余裕のない中でも、狐夏は自分の存在を欠かさずアピールするようにフブキの背中に声を掛けた。

 

 

 

「ん? なんだい狐夏?」

 

 

 

 疲労を隠しきれない狐夏とは対照的に、余裕綽々な表情で宙を跳ぶフブキは、しかしちゃんと狐夏の声を拾っていた。

 

 

 

「そういえば! 今回の魔化魍って結局何なんですかねぇ!」

 

「んー……どうだろう……。猛士の判断だと、ナマハゲかユキバンバが有力らしいけど……」

 

 

 

 魔化魍の特定は、気温や湿度、季節などの生育環境を手掛かりに、猛士が長年掛けて構築したデータベース、もしくは古来より保管されている文献から導き出される。

 

 今回、猛士東北支部の情報分析担当“金”は、最終的に可能性を2つにまで絞り込んでいた。それがフブキが候補に挙げた2体――ナマハゲとユキバンバだった。

 

 それらはいずれも東北地方を中心に古くから伝わる魔化魍であり、ナマハゲは全身に無数の刃を生やした4足歩行型の獣、ユキバンバは2本足で大地を揺るがす巨人のような姿をしている。

 

 その特徴から、ナマハゲは弦担当のヤマアラシ、ユキバンバは太鼓担当のヤマビコとの類似性をかねてから指摘されており、もし、出現場所が寒冷地でなければ、それらの音撃を扱う他の仲間たちにも御鉢が回っていただろう。

 

 

 

 

 

 20分ほど走り続けて辿り着いたのは、不自然に開けた中腹の松林。

 

 そこに茂っていたはずの無数の枯木は無残にも薙ぎ倒されており、まるで伐採されて更地になったかのような有様だった。

 

 先導していた浅葱鷲は、その開けた空間の中心で甲高い鳴き声を上げた。それが目的地に到着した合図であることは、フブキも狐夏も一目で理解した。

 

 足を止めた2人は、すぐさま辺りを見渡して状況を確認する。しかし目が届く範囲を見る限り、魔化魍らしき影は見当たらない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 張り詰めた空気が流れる異様な雰囲気に、フブキと狐夏は無意識に息を呑む。

 

 

 

「誰も……いませんね」

 

「うん。でも注意して。ディスクは嘘をつかない。敵は必ずここにいる……。姿が見えないということは、見えない場所にいるということだ……。なら!」

 

 

 

 そう言うと、フブキは道案内してくれた浅葱鷲に視線で合図を送った。

 

 ディスクアニマルは鬼の手助けを使命とする優秀な助手だ。動物の魂をその機械の体に宿している彼らには、鬼の意思を理解する知性がある。

 

 浅葱鷲はその小さな頭でクンと頷くと、一気に高度を上げて遥か上空へと舞い上がった。そして今度は全身を高速回転させながら、一点を目掛けて急降下していく。

 

 狙いは広場のど真ん中。まるで空から海中に潜水する海鵜のように、白い雪面に頭から突っ込み、姿を消した。

 

 僅かばかりの静寂が辺りを支配する。その間もフブキは、浅葱鷲が潜り込んだ箇所を一瞬たりとも目を離さずに凝視し続けた。

 

 何秒ほど経ったのか。10秒か。30秒か。ただ白いだけの地面を眺めていると、時間の感覚さえも曖昧になってくる。

 

 しかしそう思った矢先、浅葱鷲が潜り込んだ雪面がボコッと大きく膨れ上がった。

 

 まるで大きなタンコブでもできたかのように膨張した大地から、先に姿を見せたのは浅葱鷲だった。垂直に飛び出してきた浅葱鷲は、慌てて空へと避難する。

 

 そんな浅葱鷲の後を追うように、盛り上がった大地を突き破って巨大な影が姿を現した。

 

 それは8本の長い足を持った巨大な怪物――白虎のような黒と白の縞模様が特徴的な蜘蛛型の魔化魍だった。

 

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