【改訂版】響鬼外伝・仮面ライダー吹雪鬼 ―愛、凍てつき堕ちようとも―   作:裕ーKI

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五:雪蜘蛛退治

 

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「フブキさん、あれって……」

 

「雪山の白い蜘蛛……ユキジョロウか!」

 

「ユキジョロウ!? ナマハゲでもユキバンバでもないじゃないですかぁ!」

 

 

 

 猛士の予測が完全な的外れだったことに対し、狐夏は怒り混じりに狼狽の声を上げた。

 

 しかしそんな弟子の姿を尻目に、フブキはベテランらしく冷静さを保ち続ける。

 

 たしかに猛士の予測と異なる魔化魍の出現に面を食らったのは事実だし、その原因も気にはなる。しかし今、何より優先すべきことは敵の殲滅。考えるのはその後で十分なのだ。

 

 

 

「落ち着いて狐夏! それより上にいるディスクの保護は任せたよ! 僕はこいつを!」

 

 

 

 眼前のユキジョロウを視界に捉えたまま、狐夏に指示を出したフブキは右腰の装備帯に手を伸ばす。緊迫した空気を断ち切るべく、腰のホルダーに指を掛けた。

 

 だがその時、

 

 

 

「あぁー! ちょっと待ってフブキさん! 変身するならちゃんとジャケット脱いでくださいよぉ! それ、一緒に買ったばかりの大切なものなんですからぁ! 破いたら、私怒りますからね!」

 

 

 

 気勢を削ぐように飛び出したのは狐夏の叱責だった。別の意味で場の空気を断ち切った弟子の叫び声に、フブキは思わぬ肩透かしを食らう。

 

 

 

「わかったわかった……、悪かったから……。じゃあ無くさないようにちゃんと持っててよ!」

 

 

 

 やれやれと苦笑を浮かべながらもファスナーを下ろし、律儀に脱いだ水色のダウンジャケットを狐夏に投げ渡す。

 

 寒さに強い鬼としての表れか、露になったのは素肌の上に黒いタンクトップのみという、常人なら100%凍えて震えるような薄着の上半身だった。

 

 そしてフブキは改めて、右腰のホルダーから特殊な形状の小さな笛を引き抜いた。

 

 変身鬼笛・音笛――鬼面が刻まれたホイッスルのようなそれは、威吹鬼をはじめとする管の鬼たちが携帯しているものと同型の笛。

 

 フブキは妖艶な唇にマウスピースを乗せて、そっと優しく息を吹き込んだ。

 

 刹那に美しく澄んだ吹鳴音が、山全体に木霊する。

 

 音笛が発するのは、肉体に秘められた鬼の力を解き放つ特殊な音波だ。その音波を額にかざし、全身に浴びてフブキは“変身”する。

 

 どこからともなく吹き出した突風が地面の雪を巻き上げて吹雪となり、紫色のオーラとして視覚化した鬼の気と共にフブキの体を包み込む。

 

 

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 吹雪の渦は身に纏っていた衣類全てを切り刻み、一糸纏わぬフブキの肉体を強靭なものへと変えていく。

 

 

 

「……はっ!」

 

 

 

 やがて手刀で吹雪を振り払い満を持して現れたのは、全身の筋肉を銀色に染め、顔面を紫の隈取で彩った4本ヅノの鬼。

 

 

 

「吹雪鬼さん……、やっぱりいつ見ても綺麗……」

 

 

 

 それこそが“冬に咲く花”と狐夏が比喩し、愛してやまないフブキのもう1つの姿――妖魔を打ち倒し、その邪気を聖なる旋律で清めし音撃戦士・吹雪鬼だった。

 

 

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 凛と佇む師匠の鬼としての姿を前に、狐夏は回収したディスクを握りしめたまま、すっかり我を忘れて見惚れてしまっていた。

 

 そんな弟子の視線を背中に受けながら、吹雪鬼はユキジョロウに向かって走り出した。

 

 ところが。

 

 

 

「ようこそ御出でくださいました……」

 

「この時を指折り数えてお待ちしておりました……」

 

 

 

 その瞬間、早々に吹雪鬼の足を引き止めたのは、どこからか聞こえてきた2つの不気味な声だった。

 

 1つは男の声、もう1つは女の声。それぞれが別々の方向から聞こえてきた。

 

 吹雪鬼は眼前のユキジョロウの行動に気を配りつつ、周囲に視線を走らせる。

 

 すると、男の声がした方角には、端整な顔立ちの女が1人。同じように女の声がした方角に目を向けると、そこには痩せ細った男が1人立っていた。

 

 どちらも白い布を身に纏い、枯木の陰からまるで亡霊のように吹雪鬼と狐夏を見ていた。

 

 

 

「全く気配を感じなかった……。いつの間に……」

 

 

 

 ベテランの鬼として、他者の気配を察知する能力には自信があった吹雪鬼でさえ、直接視認するまで2人の男女の存在を認識することができなかった。

 

 だがそれでも、彼らが何者かはわかっている。吹雪鬼は変わらぬ警戒心で男と女を交互に睨みつけた。

 

 その正体は、童子と姫。魔化魍が誕生する前兆として現れる男女一組の存在。

 

 2人は言うなれば魔化魍の両親であり、子にあたる魔化魍の育成と守護を担っている、悪しき者たちだ。

 

 彼らの最大の特徴は、性別と声の矛盾。男性である童子は常に女の声を発し、逆に女性である姫は常に男の声を発する。

 

 

 

「我らが血筋を受け継ぐ資格があるかどうか……」

 

「試させてもらいます……」

 

 

 

 一見、丁寧な声音と口調で語る童子と姫。しかし次の瞬間、その容姿は不気味な異形へと変貌を遂げた。

 

 全身に纏った白い布が首に巻きついてスカーフのようになると、体色はユキジョロウと同じ黒と白の縞模様に変わり、両腕は蜘蛛の足を模した爪状に変化した。

 

 ユキジョロウの怪童子と妖姫。その姿は最早、白い蜘蛛の怪人である。

 

 

 

「血筋を受け継ぐ資格? こいつら一体、何の話を……」

 

 

 

 ユキジョロウに加えて、怪童子と妖姫の相手も同時にしなければいけなくなり、吹雪鬼はより一層気を引き締める。

 

 が、さっきからどうしても、2人の言葉が頭に引っかかる。

 

 血筋。奴らの言う血筋とは一体何を意味しているのか。

 

 本当ならば、じっくり時間を掛けて考察したいところだが、生憎今はそんなことをしている場合ではない。

 

 仕掛けるタイミングを見計らっている間に、敵側の方が先に行動を起こしたのだ。

 

 しかも相手の矛先は自分にではなく、背後に佇む弟子に向けられていた。

 

 同時に走り出した怪童子と妖姫が、待ち構えていた吹雪鬼を素通りして狐夏へと迫る。

 

 

 

「狐夏!」

 

 

 

 無防備な狐夏の元へ助けに向かおうと、吹雪鬼はすかさず踵を返す。

 

 しかしそんな彼女の隙を突くように、ユキジョロウが大木のように太い足を豪快に振り下ろしてきた。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 その殺気を背中で感じた吹雪鬼は、視認も無しに反射的に横転し、ユキジョロウの一撃を回避した。

 

 

 

「邪魔する気か……」

 

 

 

 避けるのは容易かった。だがそのせいで狐夏との間合いが余計に広がった上に、その間をユキジョロウに割り込まれてしまった。

 

 狐夏の元へ辿り着くには、どうにかしてユキジョロウの巨体を掻い潜らなければならない。

 

 吹雪鬼は小さく深呼吸して昂りつつある感情を静めると、腰にぶら下げた2丁拳銃型の音撃武器を両手で引き抜いた。

 

 

 

「なら……本気でいくよ」

 

 

 

 その言葉に静かな怒りを込めながら、2つの銃口をユキジョロウに突きつける。

 

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