【改訂版】響鬼外伝・仮面ライダー吹雪鬼 ―愛、凍てつき堕ちようとも― 作:裕ーKI
後退る狐夏に、怪童子と妖姫はジリジリと間合いを詰めていた。
頭上に上げた黒い爪が、キラリと鈍く光っている。
次の瞬間、怪童子は容赦なく爪を振り下ろし、攻撃を仕掛けた。
「きゃっ!」
反射的に身を逸らしたおかげか、服に掠った程度でギリギリ直撃は免れた。だがそれでも、狐夏は刹那に悲鳴を上げていた。
何故なら。
「あ……? あああぁぁー!! ジャケットが……フブキさんのジャケットが……」
よりにもよって怪童子の爪が切り裂いたのは、フブキから預かっていた水色のダウンジャケットだった。
数日前のフブキとのデートの際に、自分が着ているピンクのダウンジャケットと一緒に購入したばかりの新品だったのに。
「ちょっとぉ!! 何してくれてんのよぉ!! このっ……バカァ!!!」
マグマが噴き出す火山の如く、怒り心頭の狐夏は右腰のホルダーに手を伸ばす。
取り出したのは、フブキのものと同形状の変身鬼笛・音笛。
本来、正式な鬼として認可されていない弟子は、師匠の許可抜きで鬼に変わることは許されておらず、当然、狐夏も例外ではなかった。
ただし、フブキと狐夏の間で定めた独自のルールとして、何らかの理由で師匠の判断を仰げない場合に限っては、弟子の独断での変身が許可されていた。勿論、その時の責任は、全て自身に降りかかることを肝に銘じた上でのことだが。
音笛を手にした狐夏は、感情の赴くままに息を吹き込んだ。怒り任せの吹鳴故に、フブキのように綺麗な音色を出せる訳もなく、空気を掻き乱すような少し耳障りな音が辺りに鳴り響いた。
しかしそれでも鬼の力は解き放たれる。
狐夏の体から放出された桜色のオーラが突風を呼び、吹雪となって狐夏の全身を包み込んでいく。
抱えていたフブキの水色のジャケットも、狐夏が着ていたピンク色のジャケットも、結局どちらも細切れとなって飛散した。
そんな中、裸身となった狐夏の肉体は見る見る変化を遂げる。
「うううぅぅぅ……はあぁ!」
まるで師匠を模倣するように、手刀で吹雪を振り払う。
そこに立っていたのは、4本のツノを生やした名も無き鬼だった。
狐夏変身体。
その姿は一見、師匠の吹雪鬼と瓜二つ。ツノの本数も、全身を覆う銀色の筋肉も全て同じ。唯一違う点があるとすれば、それは顔面を彩る隈取風の模様の色ぐらいだ。
吹雪鬼が紫色なのに対し、狐夏変身体の隈取は薄いピンク色に染まっている。
そしてその色の違いこそが、狐夏の未熟さの表れでもあった。
どんなに姿が似ていても、狐夏はまだ、吹雪鬼のように膨大な冷気を操ることもできなければ、美しい音色を奏でることもできない。
姿も力も精神力も、まだまだ完璧には程遠い半端者だ。
だがそれでも、
そうだとしても、
拳を握り、戦うことはできる。
半端な鬼――狐夏変身体は、ダウンジャケットを破かれた怒りを糧に怪童子と妖姫に立ち向かっていく。
〇
左右の銃口から繰り出す早撃ちが、ユキジョロウの脚の1本を粉々に砕いた。
吹雪鬼が両手に構えるのは、普段は2丁拳銃に分離している管楽器タイプの音撃武器。その名も、音撃管・
雪波は吹雪鬼の操る冷気を取り込み、氷の弾丸を発射する銃撃モードをメインとし、魔化魍にとどめを刺す際には、2丁の銃を連結させ、マウスピースとバックルに携行されている音撃鳴・
一刻も早く狐夏の元へ辿り着きたい吹雪鬼は、愛銃の雪波を握りしめたまま、目の前の巨体に向かって迷わず突っ込んでいく。
すると、脚の1本を失ったユキジョロウは、鋭い牙が生え揃った口を大きく開けた。そこからまるでミサイルのように飛び出してきたのは、先端が尖った黒い氷柱だった。
吹雪鬼は一旦立ち止まると、銃撃で即座に黒い氷柱を撃ち落とす。
空中で粉々に砕け散った氷の破片が、キラキラと光りながら雪面に散っていく。
だが飛んでくる黒い氷柱は一発だけではない。
間髪を容れず、弾幕となって次々と降り注ぐ黒い氷柱の雨。
吹雪鬼は前後左右に避けながら、一心不乱に撃ち続ける。
しかしこのままでは埒が明かない。
そう思った吹雪鬼は連射速度を加速させ、直近の黒い氷柱を全て撃ち砕く。そして次射が迫るまでのほんの僅かな隙に、スライディングの姿勢で勢いよくユキジョロウの腹の下に滑り込んだ。
雪面を滑走しながら、すかさず上向けた雪波を発砲し、ユキジョロウの腹に数発の氷の弾丸をめり込ませる。
「キシャァアアアアア!!!」
その瞬間、ユキジョロウは悲鳴のような咆哮を上げながら半身を浮かせ、その重心を大きく傾かせた。
吹雪鬼は追い討ちをかけるように、銃撃でさらに2本の脚を破壊する。
完全にバランスを崩したユキジョロウの巨体は、そのまま地響きを立てながらひっくり返ってしまった。
今回の標的が、腹を見せた姿勢で完全に無防備となっている。
本当ならここでとどめの音撃を決めたいところだったが、先刻から怪童子と妖姫を同時に相手にしている狐夏のことが心配だった。
一騎打ちならともかく、2対1は戦闘経験が浅い彼女には少々荷が重い。
ここはひとまず、狐夏の助太刀を優先することにした。
藻掻くユキジョロウに背を向けた吹雪鬼は、弟子の元を目指して走り出す。