【改訂版】響鬼外伝・仮面ライダー吹雪鬼 ―愛、凍てつき堕ちようとも― 作:裕ーKI
吹雪鬼の予想通り、狐夏変身体は手間取っていた。
どんなに拳を振るい蹴りを打っても、怒り任せの単調な攻撃では、いとも簡単に軌道を見切られてしまう。
狐夏変身体の猛攻は、怪童子にあっさりといなされていた。
まともに攻撃が当たらず、苛立ちはますます増していく。
その結果、視野はさらに狭まり、状況を冷静に見極めることさえも疎かになっていた。
狐夏変身体は完全に見落としていた。いつの間にか、視界から妖姫の姿が消えている事実を。
そして狐夏変身体は気づいていなかった。背後に忍び寄る、妖姫の殺気を。
知る由もなく狐夏変身体が前方に拳を打ち出すと、怪童子はそれを掻い潜り、狐夏変身体の顔に自身の顔をヌッと近づけた。
「これは儀式……。どうやらあなたは、まだ雛鳥のようですね……」
女の声で突然そう言われ、狐夏変身体の体は思わず強張った。
「なにっ!?」
困惑しながら慌てて仰け反るが、そうしている間に妖姫が地面を蹴って飛び掛かっていた。
背後の殺気に気づき、ようやく振り向いた時には既に遅く、妖姫の爪はまさに目前だった。
「ヤバッ――」
完全に反応が遅れた。
絶体絶命だった。
しかしその時、一発の銃声が空気を裂くように鳴り響く。
真っ直ぐと飛んで来た氷の弾丸が、宙を跳ぶ妖姫を吹き飛ばした。
ハッとなった怪童子と狐夏変身体が、銃声がした方向に揃って目を向ける。すると2人の視界に飛び込んできたのは、銃口を突きつけながら駆け寄ってくる吹雪鬼の姿だった。
「吹雪鬼さん!」
「狐夏! 無事か!」
狐夏変身体が安堵の声を上げる中、吹雪鬼の銃口は既に怪童子の眉間に狙いを定めていた。
「ほう……。やはり彼女は見込みがあるようですね……」
怪童子は感心するように呟くと、銃口を向けられているにも拘らず、自ら吹雪鬼の元へと駆けだし始めた。
「こいつ……!」
吹雪鬼は両手の雪波を連射して牽制を試みるが、怪童子は走る勢いを殺すことなく、首や肩を小さく反らす程度の動作で軽々と弾丸を避けてしまう。
ならばと足を止めた吹雪鬼は、あえてその場に止まり、接近してくる怪童子を待ち構えることにした。
ギリギリまで引き付け……引き付け……――。
そして相手が爪の一撃を振るった次の瞬間、右肩を引いてそれを回避し、そのままの勢いで円を描くようにして、後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
狙い通り、吹雪鬼の美しく長い脚は怪童子の脇腹にめり込んだ。
蹴り飛ばされた怪童子は、降り積もった雪の上をゴロゴロと転がる。
追撃するべく、吹雪鬼はすかさず右手の雪波を構えた。
だがその時、突然背後から飛んで来た一筋の分厚い糸が、吹雪鬼の右腕に絡みついた。
「これは!?」
すぐに振り返り、糸の出所に目を向ける。
そこにいたのは氷の弾丸で吹き飛ばしたはずの妖姫だった。
いつの間にか体勢を立て直していた妖姫は、四つん這いの姿勢で口から糸を吐き出し、吹雪鬼の片腕を封じ込めていた。その様子は、まさに地を這う蜘蛛そのものだった。
吹雪鬼は急いで絡みついた糸を引き千切ろうとするが、今度は前方からも糸が飛んで来た。
吹雪鬼の右腕は、雪波の片割れを巻き込んで二重の糸に覆われてしまった。
前方から飛んで来た糸の正体は、言うまでもなく怪童子のものだ。蹴り飛ばされてもなお、地面に横たわった姿勢から、そのまま上半身だけを起こして糸を吐いている。
「吹雪鬼さん! 今助けます!」
右腕を拘束された師匠を救うため、狐夏変身体が駆けつける。
しかしそんな彼女の姿を、既に別の目が捉えていた。半数近くの脚を失いつつも、いまだ健在の魔化魍――ユキジョロウである。
残された5本の脚で何とか身を起こしていたユキジョロウは、その口を大きく開けて、再び黒い氷柱を発射しようとしていた。
自身に向けられた矛先を、狐夏変身体は知る由もない。
そんな彼女よりも先に、ユキジョロウの殺気に気づいたのは吹雪鬼だった。
「来ちゃダメだ狐夏! 狙われてるぞ!」
咄嗟に叫んだ吹雪鬼の声にビックリして、狐夏変身体は反射的に足を止めるが、しかし既にユキジョロウの準備は整っていた。
音撃武器を所持していない狐夏変身体に、無数の黒い氷柱を防ぐ術は無い。
早急に助けに行かなくては。そう判断した吹雪鬼は、右腕を拘束する糸の除去を急いだ。
まずは拘束を免れた左手の銃撃で、前方の糸を切断する。
それからもう一方の糸を思いっきり引き寄せ、背後の妖姫をスイングして、前方の怪童子に叩きつけた。
衝突した2人は、重なり合うように地面に倒れこむ。
その隙に残った糸も切断し、なんとか拘束から解放された吹雪鬼は、全速力で弟子の元を目指した。
右手にはまだ怪童子と妖姫の糸が絡みついたままだが、ゆっくりと解いている時間は無い。とにかく走り、狐夏変身体の傍に駆け寄ると、すぐに彼女の肩を抱き寄せた。
「狐夏!」
「吹雪鬼さん!」
「僕の後ろに下がって! 魔化魍の攻撃が来る!」
狐夏変身体を背後に隠し、ユキジョロウの前に立ちはだかった吹雪鬼は、両手の雪波を構えた。
睨んだ通り、間もなくユキジョロウの口から黒い氷柱が発射された。まるで漆黒の流星のように、次から次へと降ってくる。
吹雪鬼は引き金に掛けた指に力を込めて迎撃を開始するが、しかし早々に1つのアクシデントに見舞われた。氷の弾丸が、左手の雪波からしか発射されないのだ。
右手の雪波は、複雑に絡みついた糸が邪魔で引き金が作動できなくなっていた。
片割れが使用不能となれば、雪波の連射力は激減する。さっきは対処できた敵の攻撃も、こうなると話が違ってくる。
しかし悩んでいる暇はない。
吹雪鬼は即座に考えを切り替えた。右手の使用を諦めて、左手の雪波に全神経を集中させた。
片腕だけでもやるしかない。
片割れだけでもやるしかない。
後ろにいる、大切な愛弟子を護るために。
吹雪鬼はいつも以上に連射に意識を向けて、圧倒的な氷柱の弾幕を迎え撃つ。
その銃さばきは、師匠の立場に恥じない見事なものだった。
ハンデを背負いながらも、的確なエイムと早撃ちで黒い氷柱を次々と撃ち砕いていった。
しかし――。
「ぐっ!?」
次の瞬間、吹雪鬼の喉奥から唐突に息が詰まったような声が漏れた。
同時に銃撃がピタリと止まり、硬直した左手から雪波がストンと抜け落ちた。