【改訂版】響鬼外伝・仮面ライダー吹雪鬼 ―愛、凍てつき堕ちようとも―   作:裕ーKI

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八:邪気退散―音撃、雪月花―

「吹雪鬼さん!?」

 

 

 

 何事かと思い、吹雪鬼の背後から顔を出すと、その目に飛び込んできた光景に狐夏変身体は言葉を失った。

 

 やはり片手が使えないというハンデは大きかったのだ。

 

 撃ち漏らした1発の黒い氷柱が、吹雪鬼の胸に深く突き刺さっていた。

 

 ポタポタと雪面に落ちる真っ赤な雫。

 

 脱力したように、白銀の両膝がガクンと折れる。

 

 その様に、途端に狐夏変身体は血相を変えた。

 

 

 

「吹雪鬼さんっ! 吹雪鬼さんっ!!」

 

 

 

 悲痛な叫びを上げながら、慌てて吹雪鬼の傍に寄り添った。

 

 

 

「この……感覚は……。何かが……流れ込んで……う……くっ……はっ……はっ……はぁ……」

 

 

 

 狐夏変身体が縮こまった吹雪鬼の肩に手を乗せると、その体は痛みに堪えるように打ち震えていた。呼吸も途切れ途切れで、明らかに苦しそうだった。

 

 先刻までの頼もしさから一転して、見る見る弱っていく師匠の姿に、狐夏変身体は戸惑いを隠しきれなかった。

 

 そんな彼女たちに、ユキジョロウの巨影が容赦なく覆い被さる。

 

 ジリジリと間合いを詰めてくるユキジョロウを、狐夏変身体は溢れんばかりの憎悪を宿して睨みつけた。

 

 気づいた時には、彼女の手は地面に落ちた雪波の片割れを拾い上げていた。

 

 力任せにグリップを握りしめ、上部のピストンバルブを押し込む。そして銃口をユキジョロウへと突きつける。

 

 今はまだ、安定した冷気を操ることができない狐夏変身体では、吹雪鬼のように氷の弾丸を音撃管の中で生成することはできない。だが実弾なら――。

 

 

 

「よくも吹雪鬼さんを! ざけんなこのバケモノがぁ!」

 

 

 

 憤怒のままに絶叫すると、狐夏変身体は雪波を発砲した。銃口から撃ち出されたのは、結晶状の氷の弾丸ではなく、真っ赤に光り輝く石の弾丸――鬼石だった。

 

 銃撃モードの音撃管には、発射する弾の種類を切り替える機能が付いている。今はまだ、自力で氷の弾丸を生成できないことを自覚していた狐夏変身体は、早々にそれを諦め、音撃管に常時装填されている鬼石に頼ることにしたのだ。

 

 眉間を狙って放たれた鬼石は、大きく逸れてユキジョロウの顔を僅かに掠めた。

 

 どんなに照準を合わせたつもりでも、頭に血が上り精密さを欠いていては弾は思い通りに飛びはしない。

 

 しかしそれでも、狐夏変身体は構わず撃ち続けた。

 

 すると偶然か奇跡か、我武者羅に撃ちまくっていた鬼石の数発が、ユキジョロウの片目をグシャリと潰した。

 

 

 

「キシャァアアアアアアアアァァァ……!!」

 

 

 

 視覚に飛び込んできた思わぬ衝撃と激痛に、ユキジョロウは悲鳴らしき咆哮を上げながら悶え苦しんだ。

 

 手ごたえを感じた狐夏変身体は、さらに鬼石を撃ち込んでやろうと意気込むが、それを制するように不意に伸びた紫の手が、狐夏変身体が持つ雪波にそっと覆い被さった。

 

 

 

「落ち着いて狐夏……。君も音撃道を歩みし鬼の1人なら……、簡単に感情の波に呑まれちゃいけないよ……」

 

 

 

 それは傍で膝をついていたはずの師匠の手。雪波に重なった吹雪鬼の手が、狐夏変身体の怒りを優しく静める。

 

 

 

「吹雪鬼さん……」

 

「狐夏……。君は僕の弟子――僕と同じ……冷気を司りし鬼なんだ……。なら……雪と氷の鬼らしく……常に冷静さを絶やさないようにしないとね……」

 

「ごめんなさい……。吹雪鬼さんを傷つけられたことに我慢できなくて……、私つい……」

 

「そっか……。まあ……その気持ちは嬉しいよ……。それに今の攻撃も……悪くはなかったしね……。後は僕に任せて……」

 

 

 

 震える脚に必死に力を込めて、なんとか立ち上がった吹雪鬼は、胸に刺さった黒い氷柱を強引に引き抜き、血飛沫を散らせながら地面に投げ捨てた。

 

 

 

「吹雪鬼さん、大丈夫なんですか……?」

 

「うん、安心して。心配はいらないよ……」

 

 

 

 不安げな狐夏変身体にそう言って、彼女から雪波の片割れを返してもらうと、吹雪鬼は右腕を覆った糸に自身の鬼の気を集中させた。

 

 肉体から発せられる鬼の冷気が、怪童子と妖姫の糸を瞬く間に凍結させる。

 

 凍りついた糸の固まりごと、自らの右腕を膝に打ち付け、右腕を覆っていた糸を粉々に砕いた。

 

 そうして、ようやく右腕の自由を取り戻した吹雪鬼は、すぐさま音撃の準備に取り掛かる。

 

 2丁の雪波を1つに連結させ、後部にマウスピースを取り付ける。そして装備帯から取り出した音撃鳴・冷華を装着し、雪波をトランペット型の音撃モードへと変形させた。

 

 吹雪鬼は鍛え上げた精神力で、乱れていた呼吸を整える。

 

 一時で良い。全神経に静寂を与え、清めの音を奏でるのに適したコンディションへと己を導く。

 

 

 

「スゥー……」

 

 

 

 自然の山々が生み出す冷たい空気を体内に取り込むように、吹雪鬼は深く息を吸い込んだ。そして、雪波をゆっくりと構えると――。

 

 

 

「音撃射……雪月花!」

 

 

 

 肺に溜め込んだ空気を、一気にマウスピースに吹き込んだ。

 

 その瞬間、鬼の冷気を孕んだ白き息吹が、邪気を祓う清めの音となって放たれた。

 

 吹雪鬼が奏でる美しき音色が――その魂が、鬼石を通してユキジョロウの体内へと響き渡る。

 

 内側から浄化されていき、やがて耐えきれなくなったユキジョロウの肉体は崩壊を始める。

 

 最初に破裂したのは頭部だった。そして連鎖するように残された胴体が爆発し、巨大な蜘蛛の魔物は消滅した。

 

 

 

「やった……やりましたね、吹雪鬼さん!」

 

 

 

 歓喜の声を上げる狐夏変身体の目の前で、さっきまでユキジョロウだった木屑の固まりが風に吹かれて散っていく。

 

 標的たる魔化魍は滅びた。後は残りの怪童子と妖姫を始末すれば任務は終わる。

 

 喜びもほどほどに、狐夏変身体は怪童子と妖姫に目を向けた。ところが以外にも、2人は既に戦意を失っているのか、怪人体としての姿を解いていた。

 

 いつの間にか人間を模した姿に戻っていた童子と姫は、吹雪鬼と狐夏変身体をただただジッと見つめ続けていた。愛する我が子であるはずのユキジョロウが滅びたというのに、顔色一つ変えず、不気味なほど冷静に。

 

 

 

「なに? 手塩に掛けて育てた子供を倒されて、やる気でも失ったの? でも残念。あんたら2人とも、どっちもここで倒すから!」

 

 

 

 童子と姫を睨みながら、狐夏変身体はケリをつけるべく拳を構える。

 

 さっきは2対1と分が悪く、思った以上に手間取ってしまったが、今度はすぐ傍に吹雪鬼がいる。絶対に負けはしないと、自信に満ちた声を張った。

 

 相手に戦う意思があろうと無かろうと関係ない。童子と姫の息の根を確実に止めるため、狐夏変身体は走り出す。

 

 すると迫りくる狐夏変身体に向けて、童子と姫が徐に口を開いた。

 

 

 

「いいえ……。儀式は無事に終えました……」

 

「我らの洗礼を、“彼女”はその身に宿してくださいました……」

 

 

 

 童子が女の声で言うと、姫も男の声で後に続く。

 

 

 

「時が来るまで、我々は待つとします……」

 

「その時が来れば、またお会いいたしましょう……」

 

 

 

 交互に語った童子と姫は、自身の姿を真っ白な雪の固まりへと変化させた。

 

 

 

「訳わかんないこと……言うなぁ!」

 

 

 

 狐夏変身体は、童子と姫の言葉に聞く耳持たずに拳を打ち出した。

 

 だがその一撃が命中する寸前、童子と姫だった雪の固まりは風に吹かれて空へ飛散し、どこかへ消え去ってしまった。

 

 

 

「くそっ! 逃げられた……」

 

 

 

 結局、敵は消失した。

 

 空振った拳を引っ込めながら、狐夏変身体は悔しそうに舌打ちをした。

 

 仕方なく顔だけ変身を解除し、吹雪鬼の元へ戻ろうと踵を返す。

 

 ところがそこで視界に飛び込んできたのは、思わぬ光景――一糸纏わぬ姿で横たわる、フブキの姿だった。

 

 雪面の上に倒れてピクリとも動かない師匠の姿に、狐夏の顔は瞬く間に青ざめた。消えた童子と姫のことも忘れるほどに、一瞬にして頭の中が真っ白になった。

 

 

 

「え……? フブキ……さん……? フブキさんッ!!」

 

 

 

 嫌というほど心臓が早鐘を打つ中、慌てふためきながらフブキの傍に駆け寄る。

 

 そして、瞼を閉じて沈黙したままのフブキの体を抱き起した途端、狐夏は「えっ?」と思わず目を見開いた。

 

 黒い氷柱が突き刺さってできたはずのフブキの胸の傷が、いつの間にか消えて無くなっていたのだ。

 

 傷口が無ければ出血も全く見当たらない。

 

 まるで最初から、そこに攻撃なんて受けていなかったかのようだった。

 

 消えた痕跡を探すようにフブキの胸元を見つめながら、狐夏は震える声で呟いた。

 

 

 

「なんで……? どうなってんの……?」

 

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