【改訂版】響鬼外伝・仮面ライダー吹雪鬼 ―愛、凍てつき堕ちようとも― 作:裕ーKI
目が覚めると、そこはベースキャンプに設営したテントの中だった。
持参しておいた小型のファンヒーターが作動しているようで、内部は随分と温かくて心地が良かった。
横たわっていた上半身を起こすと、体を覆っていた毛布が膝の上に脱げ落ちた。
頭が重くて、なんだかぼんやりとする。
寝ぼけ眼を擦りながら、なんとなく俯くと、自分の豊満な乳房が目に留まった。どうやら全裸のままで眠っていたらしい。
徐々に覚醒しつつある意識の中で、フブキは記憶の回顧を試みた。
自分はどうやって下山してキャンプ地に戻ってきたのか。
ユキジョロウと、その童子と姫はどうなったのか。
何より狐夏は無事なのか。
ところがどんなに思い出そうとしても、断片的な記憶しか出てこない。
確かに覚えているのは、霞がかかった景色の中で爆散したユキジョロウの姿。
その後のことは、完全に記憶になかった。
ただ、ユキジョロウにとどめを刺す直前、奴が放った黒い氷柱の1つが自分の胸に刺さったことは、ハッキリと覚えている。
あの時に感じた焼けるような痛みと衝撃、そして胸の内に冷たい何かが流れ込み、染み込んでいくような妙な感覚は、恐らくそう簡単に忘れることはできないだろう。
でも――と、フブキは自分の胸に手を重ねる。
その胸には今、あの時に負ったはずの傷は一切残っていない。
ほんの僅かな痕跡すらも見当たらない、色白の素肌を指先で撫でながら、フブキは不思議そうに首を傾げた。
一体何がどうなっている? 現実だと思っていたあの出来事は、実は夢や思い込みだったとでもいうのか……。あの時実感した痛みは、間違いなく記憶に残っているのに……。
そんな錯覚紛いな疑問を頭に思い浮かべていると、テントの外から小さな物音が聞こえ、人の気配を感じた。どうやら狐夏は外にいるようだ。
立ち上がったフブキは、着替えのシャツとホットパンツを身につけて、テントの外に顔を覗かせた。
テントの外では狐夏が帰り支度をしていた。
キャンプ道具を黙々とバッグに詰め込む狐夏の後姿に、フブキは胸を撫で下ろすと、その背中に向かって声を掛けた。
「何か手伝おうか?」
突然の声に驚いたのか、途端に肩をビクッと跳ね上げた狐夏は、すぐに作業の手を止めて振り返った。
「フブキさん!」
視界にハッキリと映る、愛しの師匠の姿。
そこからの狐夏の動きは速かった。
フブキが無事に目覚めたことが何より嬉しくて、バッグに入れかけていたキャンプ道具を思わず投げ捨てる。そして一目散に駆け寄ると、そのままの勢いでフブキに思いっきり抱きついた。
「うわぁあああああ~フブキさぁああーーーん!!! 良かった良かったぁ! ホントに良かったぁ~! めちゃくちゃ心配したんですよぉー!!!」
「ごめんごめん。心配掛けたね。もう大丈夫だから」
泣いているのか笑っているのか、よくわからない表情で喜ぶ狐夏を宥めるように、フブキは彼女の背中に手を当てて優しく擦った。
やがて狐夏が落ち着いた頃合いを見計らって、フブキは彼女から顛末を聴いた。
ユキジョロウは消滅したものの、童子と姫を取り逃がしてしまったこと。
ユキジョロウを祓った直後に、フブキが意識を失い倒れてしまったこと。
黒い氷柱が刺さった際にできたフブキの胸の傷が、どういうわけか綺麗さっぱり消えて無くなっていたこと。
狐夏の話を傾聴したフブキは、己の不甲斐なさに頭を掻いた。
「そっか。じゃあ……気を失った僕を、狐夏がここまで運んでくれたのか。ごめん、手間を掛けさせて悪かったね……」
「そんな……謝らないでください。そもそも悪いのは私なんですから。私が足手まといだったせいで、フブキさんがあんな目に……」
普段は滅多に落ち込まない狐夏が、今回は珍しく本気で気に病んでいる様子だった。
そんな狐夏の頭を、フブキは優しく撫でた。
「お互い、まだまだ精進が必要ってことかな。次は失敗しないように一緒にがんばろ。ね、狐夏」
そう言って励ましてくれたフブキの笑顔に、狐夏は思わず言葉を失う。その身を包み込むような優しい微笑みに、心の底から安堵した。
やっぱりフブキさんは、自分にとってかけがえのない大切な存在。
狐夏は今日、改めてそう実感した。
フブキが意識を失っている間に、狐夏の報告を受けた支部長の判断により、2人には帰還命令が下された。
傷が消えたとはいえ、フブキが負傷した以上、2人にこのまま任務を継続させるのは得策ではないと考えたのだろう。
行方を晦ませた童子と姫の捜索は、他の鬼に引き継がれることとなった。
フブキ以外の鬼に、雪山での活動を託すのは正直リスキーではあったが、生き残った敵を放っておくわけにもいかず、支部長は苦渋の決断を下した。
任務を完遂できなかったことを悔しく思いつつも、フブキと狐夏は命令に従い、山を下りたのだった。