気がつくと、部屋は明るくなっていた。目が覚めてから、どれだけ時間が経ったのかな? 身体を起こしたままだったから、少しだけ背中がハッテルかも……。
ボクは、深く息をする。心臓のドキドキがやけにうるさい。この部屋は、今のボクには、ちょっとだけ静かすぎるかな。
ハッとして、向かいのベットを確認した。大丈夫だ、マヤノの布団は丸くふくらんでる……なんというか、ひとりぼっちじゃないことに、ほんの少しだけ安心した。
ボクは、おそるおそる脚の感触を確かめる。あのへんな違和感はなくて。やっと、さっきのデキゴトがただの夢だったんだと、そんな実感が湧いてくる。
「あ、あはは……汗で服がベッタベタだ」
なんで、よりにもよって今日なんだろ……楽しみにしていた大切な約束があるっていうのにさ。……とりあえず、お風呂に入ろう。それ以上のことは、今は考えられないや。
ボクはマヤノを起こさないように、そろりそろりと部屋を出た。
気付けば、お風呂場の前に立っていた。そして、扉を開けようと手をかける……あれ。なんか、いつもとちょっと違うような?いったい、なんだろ……?
両方の手のひらを見る……その正体に気がついて、思わずトホホってなる。
「あはは。ボクってば、寝ぼけてるのかな? お風呂セット、もってないじゃん」
部屋に戻って取って来なきゃ。お風呂場へ背を向けると、かってに、身体がブルッて震える。……そういえば、もう冬になったんだ。
なんだろう? 来るときは何も思わなかったのに。まるで、水の中を歩くような抵抗を感じて、ちょっとだけイヤだなってキモチになる。
やっとのことで階段をのぼっていると、マヤノに会った。マヤノは、こんなに早起きするタイプじゃないんだけど……ボクのせいで起きちゃったのかな?
「あっ、おはよー! テイオーちゃん」
「う、うん!おはよう、マヤノ! ……もしかして起こしちゃった? ごめんね?」
「ゼーンゼン大丈夫だよー! たまには、マヤも朝のお風呂に入りたいなーって! ……テイオーちゃんも行くんだよね?」
手には、ふたり分のバスタオルと部屋着を持ってる……マヤノってば、どこまで分かっちゃうんだろう。ときどき、ほんのちょっとだけ怖くなるかも? なんちゃって。
「あ、うん……じゃあさ、一緒に行こっか?」
「イイの、テイオーちゃん? ……わぁーいっ! ひさしぶりに洗いっこできるねー? うれしいなー! テイオーちゃんとおっふろ~! おっふろ~!」
「あ、あははっ! マヤノってば、あんまり騒ぐと寮長に怒られちゃうよ~?」
「ん~~。そんな時はね……一緒に怒られればイイよ! そんなことよりー、さっそくお風呂場へ向かってテイクオーーーフ!」
マヤノといると、ボクも自然と元気になれそうだ……ありがとね、マヤノ。
水に濡れたタオルから良い香りがする。身体もポッカポカで、なんか……しあわせだなって思った。
「ねぇねぇ、テイオーちゃん!」
「ん? どうしたのさ、マヤノ?」
「トレーナーちゃんとの約束まで、まだ少し時間があるんだよね?」
マヤノに聞かれて、ボクは時計を見た。たしかに、授業を2つ分くらいの余裕がある。
「う~んと、そうだね。8時に待ち合わせだから……何して時間をつぶそうかな?」
「分かった! じゃあね、テイオーちゃん! これ付けてみて?」
「これは……アイマスクだっけ?」
「うんうん! マヤも愛用してるアイマスクなんだ! あったかくてキモチいいんだよー?」
へぇ、あまり使わないから知らなかったけど、そんなモノまであるんだね。ボクは、マヤノにすすめられるままアイマスクをする。これは……ホントに、夜なんかより真っ暗だ。
「あのさ、マヤノ。ボク、何も見えないんだけど? それに、あんまりあったかくないよ?」
「大丈夫、大丈夫! 少しずつあったまるから! じゃあ、マヤが手を引いてあげるからねー」
されるがままに、ボクは何か……いや、これはボクのベッドかな? そこに、寝かされる。んー……どういうこと?
「それじゃ、髪もかるく結んじゃうね? ……うわ~、テイオーちゃんの髪の毛、あいかわらずサラサラだー! マヤのは、ちょっとだけくせ毛だから、うらやましいかも~!」
「ちょ、ちょっと待ってよマヤノ? とりあえず、まずは説明してよ? 時間があるって言っても準備とかしなきゃだし。それに、ボクは眠くなんて——」
「テイオーちゃんはね。今からいっぱい、寝らなきゃいけないの」
その声は、大人な落ち着いたトーンで。顔が見えなくても真剣なんだなって分かった。
「ごめんね、テイオーちゃん。マヤね、実は見てたんだ。テイオーちゃんが『イヤだイヤだ』って……うずくまってるところ」
「え? ……あ、あはは。そんなこと言ってたんだね、ボク。はずかしーなぁ」
「はずかしくなんてないよ? ほんの少しだけ、ビックリはしちゃったかもだけど」
マヤノは、ボクの髪から手を放す。でも、物音はしなくて。離れていくわけではないみたいだ。ボクのことを心配してくれてるのかな?
「テイオーちゃんが、今日のおでかけをすっごく楽しみにしてたの、マヤは分かってるから。だから、全力で楽しんできて欲しいんだ。準備ならマヤがやっておくから、ね?」
「そんな、わるいよマヤノ。ボクなら全然だいじょーぶだからさ」
「んーん。わるくなんてないよ……えーと、そうだ! これは、オ・レ・イなんだよ、テイオーちゃん!」
「オレイ? ……オレイってなんのこと?」
んー? なんのことだろ? ……この前、学食のプリンをあげたこととか?
「それはね~、メイクデビューだよ! 4コーナーからビュンッて抜け出して、そこから突き放してゴール! 昨日のテイオーちゃんの走りは、ホントにキラキラしてたんだ~……って大きな声だしてごめんね。思い出したら、ついつい熱くなっちゃって……えへへ~」
「そ、そ~なんだ……あはは、なんだか照れちゃうな~」
「うん、とってもワクワクしたんだ。マヤもあんな風に走りたいなーって。だから、これはそのお礼なんだよ、テイオーちゃん」
あいかわらずの真っ暗ヤミで。僕には、マヤノがどんな顔をしているかなんて分からない。でも、聞いて欲しい? ……知って欲しいのかな? ……たぶん、マヤノなら分かってくれると思ったんだ。
「……マヤノ、メイワクついでなんだけどさ、聞いてくれる? ……少しおかしな話なんだけど」
「うんうん、もちろんイイよ」
「ありがとう、マヤノ。……ボクが少しだけ、ほんのちょっとだけ寝不足なのは……イヤな夢を見ちゃったからなんだ」
「イヤな夢?」
ホントに忘れてしまいたい夢……とっても怖い夢だった。
「うん、それがね。ボクが走らなきゃいけないレースをさ……ボクしかいない部屋で、ベッドに座って見てるんだ」
「うん」
「なんのレースだとか、なぜそう思うのかは分からないんだけどね? ……そのレースに出られないのが、どうしようもなく悲しくて……なんでボクは、そこにいないんだろって」
「……うん」
「泣いても泣いても……涙が止まらなくなちゃってさ。イヤだイヤだって……夢だからかな? 声には出せてないんだけど……ただの子どもみたいに叫んでたんだ」
どうして、こんな夢を見てしまったんだろ。思い出すだけで、なんだか泣きたくなってきた……あははは。アイマスクを付けててよかったね。
「それでね。誰でも良いから、人に会いたくなって歩こうとしたんだ。でも、それはできなかった……気付いたら、ボクの足にギプスが巻かれててね。どうやら大きな怪我をしていたみたいなんだよ、ボク。もちろん、夢の中でだけどね?」
「……」
「それでさ。うわぁーっ! ってなって目が覚めたんだ。まだ部屋は暗かったんだけど、眠れなくて。気が付いたら朝になっててね? だからさ……。だからボク、今は……眠るのが少しだけコワかったんだ」
話終えて、胸のイガイガがとれた気がした……あれ? マヤノから反応がない。
少し考えて、ハッとした。そ、そうだよね! いきなり、こんな話をされても困っちゃうよね!
ボクは勢いよく身体を起こして、アイマスクを外す。うっ、朝陽がとっても眩しくて、目がしばしばする。
「あ~、あははっ! ねっ、ねっ? ホントに変な夢だったでしょ? マヤノもそう思うよねっ! なんだか、暗い話しちゃってごめんっ! こんなの、ボクらしくなかったよ! うんうんっ、話せてなんだかスッキリした! だから、マヤノが言ってくれた通り気にせず寝なくちゃ——わひゃっ!?」
あっ! あばばばばばばばばっ!? これってもしかしなくてもマヤノに抱きしめられちゃってるーっ!?
「な、なななっ! なにやってるのさマヤノ!? ちょっ! ダイジョウブだからっ! あくまで、夢の話なんだって——」
「ありがと、テイオーちゃん……」
「……へ?」
その「ありがと」の意味もよく分からない……けれど、それよりマヤノの声が絞り出すような、湿っぽい声で。ボクの方が、どうしたのかって不安になりそうだ。
「ど、どうしたのさマヤノ? そりゃ、起きた時はボクも泣きそうだったけどさ? ホント、ただの夢の話なんだよ? ここは、笑うところだよ、あははははっ! ってさ?」
「……んーん。マヤは笑わないよ。テイオーちゃんの走りたいってキモチ、マヤは分かってるから」
「な、なんだよマヤノ? らしくないよ? ……でも、ありがと」
「え、えへへっ! マヤの方こそ話してくれてありがとーって感じだよ! テイオーちゃんのこと、また少しだけ分かれて、マヤはとってもうれしいんだっー!」
「……も、もぉー! 分かったから、とりあえず離してよっ! こんなんじゃ、寝れるものも寝れなくなっちゃうよー!」
あの夢が怖いのは変わらない。それでも、さっきまで歩くのすらイヤにだったのに。今は、寝ちゃうのが惜しいくらいワクワクしてる。
ボクを抱きしめていた腕はほどけて、マヤノはベッドから下りた。ボクは、そのまま倒れ込む。
「あのさ、マヤノ」
「ん? どうしたの、テイオーちゃん」
「ボクも、マヤノのメイクデビュー楽しみにしてるからっ! おやすみなさい!」
「……うんっ! ありがとー! おやすみなさい!」
アイマスクを付ける、同じように目を閉じているのに、さっきよりも少し明るい気がする。ボクも恩返しをできるように……いつか、マヤノに何かあったら必ず力にならなきゃ。
ボクはそんな、特撮映画のような妄想をしながら目を閉じた。
——マヤノ。ボクは、ヒーローになってみせるからね。
キャラクターが、この作品の世界で生きているように感じられますか?
-
はい
-
いいえ
-
分からない
-
たぶんそう、部分的にそう
-
たぶん違う、そうでもない
-
はちみはちみはちみーー♪
-
アイ・コピー☆
-
栄光の日曜日の主役となった
-
私が一番なんだから!
-
俺とタンデムしないか?
-
えい、えい、むん!
-
どけ!!!俺はお兄さまだぞ!!!
-
どけ!!!俺はモルモットくんだぞ!!!
-
どけ!!!俺はお兄ちゃんだぞ!!!
-
どけ!!!俺は商店街だぞ!!!
-
どけ!!!俺は水族館だぞ!!!
-
どけ!!!俺は赤ちゃんだぞ!!!
-
どけ!!!俺はたわけだぞ!!!
-
どけ!!!俺はお父さんだぞ!!!
-
俺の愛馬がァアアアア‼(いない)