チート指揮官の前線活動   作:アーヴァレスト

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あれ、過去語ったことあったような···まぁいいか!


その傷跡の意味~Past & Present~

「ボイラー点検終わり、と・・・この機材もだいぶボロだからな・・・頼むからもう少し持ち堪えてくれよ?」

 

ある日、私は基地内の風呂用のボイラーを点検していた

先週から不調気味でパーツを取り寄せていたのが届き、交換作業をしていたのだ

ちなみに今日は交換後数時間ほど誰も利用できないと通達している

理由は・・・私が長風呂を楽しみたいからだ

 

「ってちょっと待て、何で先客がいる?」

<止めたのですが入られました、中にいるのはペルシカリア博士です>

「アホ耳もいでやるか」

 

いざ入浴、と浮かれた気分で中に入ったらいないはずの先客がいた

しかも相手はペルシカリア博士ときた

苦手ではないが腹が立つ相手だ、特に今回の件では

 

「今は入浴禁止だと通達をしていたはずだがな、ペルシカリア?」

「あら、あの通達の裏には貴女が長風呂を・・・」

 

背中を向けたままの彼女に質問すると振り返りながら返答をして・・・私を見て彼女は凍った

 

「何だ?人を見てなぜ固まる?」

「身体の傷・・・」

「戦傷だ、全てな」

 

首から下の体の傷は100を超えてから数えるのをやめた

推定ではあるが300は超えている

 

「・・・消そうとは思わないの?」

「考えたことはあるが、やったことはないな。身体の傷は消せようとも、心の傷は消せはしない。それはいつも自分の中にあるものだ。だから体の傷も消さない、消えることがないものとして残すのさ」

 

身体を洗いながら返答し、泡を流す。次に頭を洗いながら続きを話す

 

「どんな過去があるというの、貴女に」

「聞いたところで吐くだけだぞ、やめておけ」

「・・・吐かない範囲で教えてくれないかしら?」

「それなら無理だな、諦めろ」

 

そう言ってまた泡を流し、シャワーを止める

先に浴槽に入っていた彼女から少し離れた所に浸かり、天井を眺めながら告げる

 

「聞きたいという顔だな?」

「吐いてでも聞いてやるわ」

「誰が掃除すると思っているんだ貴様?話すのやめるぞ?」

「冗談よ、我慢するから教えてくれないかしら?」

 

目も顔も真剣そのもの、引く気はないようだ

 

「私の家は代々軍人を輩出してきた家系だったんだ・・・それこそ男女関係なくな」

「だから貴女も軍人に?」

「そう育ってきたからな・・・だがまぁ、初めの数年は不思議な事に実戦に出たことがあまり無かったんだわ、大規模な戦争が起きているというのにな」

「どのくらいの規模よ?」

 

その質問に少しだけ回答に困る、なにせ私の生まれた世界の戦争はとても長く、様々な国が参戦しては撤退をしていたからだ

 

「二次大戦と三次大戦が同時に起きてるレベルと言えば分かるか?」

「ちょっと吐きそうになったわ」

「先が思いやられるな・・・」

 

そう言って吐くなら外の洗面台にしろと伝えて浴室の壁に目線を移す

最近模様替えをして無色の壁に少しだけ色がついた

それを見ながら過去を思い出していく

 

「初めて見た戦場は、地獄だった。人の形をした炭がゴロゴロしていたよ。あぁ、男に強姦された後殺された女性の遺体もあったな。下は中学生くらいから上はちょうどお前くらいの年代まで見境なくな。それに男の遺体は・・・」

「ごめんちょっとタンマ、マジで吐きそう」

「吐いてくれば?」

 

外を指差すと彼女は少し慌てながら洗面台に向かっていった

その際に胸が揺れているのを見て少しだけ嫉妬する、明らかに私より"ある"からだ

 

「いいわよ、続けて・・・」

「顔が少し青いが?」

「気にしないで頂戴」

「なら続けるぞ」

 

暫くして戻ってきた彼女は少し顔が青くなっていた

 

「次の戦場はもっと酷い、炭はなかったが生皮を剥がされた遺体があったり、街頭に晒し首だ。首がない遺体もあったし、歪なオブジェになった遺体もあったな。さすがの私も吐かずにはいられなかったよ」

 

一度目の戦場でも吐いた、吐いて吐いて、胃の中が空になっても吐いていた

それほどに衝撃を受けたし、軍人になった自分が・・・いや、軍人でなかろうとも、明日はこうなるかと思うと恐怖した

とてもではないが同じ人類がこんな事を出来るのかと愕然とした

二度目も同じだった、ここまでの事が出来るのかと、憎悪はここまで人を歪めるのかと怯えた

それでも、私は戦線に出続けた。そうする事が務めだと思っていたし、実際それを求められたからだ

 

「それでも貴女は、戦場に出続けたのね?」

「それを求められたからだ、そうある事を強いられたからだよ」

 

そう言って自分の手を見る、既に何千何万もの犠牲の上に立っている自分が、護りたいと思ったものを護れなかった手を

 

「それを出来たのは・・・」

「愛国心なんて最初から無いぞ、私はただ流されてそうなっただけの人間だったからな、激しい後悔に苛まれたし、鬱になったこともある」

 

それがきっかけとなり、一時は軍人であることをやめたこともある。

その前から親との関係は最悪だったが、軍人であることをやめた時に絶縁された

それ以降死ぬまで顔を合わせなかったし遺書も残さなかった

 

「だが結局は軍人に戻った、軍からの命令もあったし、私も自分にやれるのが結局軍人だけだと悟ったことも理由だがな」

 

そう言って、自分の手を見ながら天井を見上げていた

 

「どんな理由で軍人になろうとも、明日には死んでいることだってある。それが軍人という身分の者達だ・・・それでも、私はせめて同期だけは死んでほしくなかったんだ」

 

だからどんな状況でも諦めることはしなかったし、無様にも抗ったこともある

もちろん、敵に捕まったこともあるし、なんとか守り抜いたが処女を散らされそうになったこともあった

それでも、やはりというか必然というか、仲間の死を見続けるハメになった

 

「たくさんの死を見て、たくさんの地獄を見て・・・それと同じだけの死を作り、地獄を作った・・・いつしか同期からは"冥界の女王(エレシュキガル)"と言われていたよ」

 

全く皮肉な言い方だ、何故メソポタミア神話に登場する冥界の女神と同じ謂れをしなくてはならんのだ

 

「どれだけの作戦に関わったらそんな言われ方になるのよ・・・」

「1万くらいやれば言われんじゃね?」

「貴女、どれくらい作戦こなしたの?」

「8万、同期の平均は2.5万だから圧倒的な数をこなしているな」

 

ペルシカリアの顔が引き攣る、あまりの数にビビったのかな?

 

「ある時は敵の陣地を爆砕したし、ある時は仲間を助けに敵の包囲をブチ破ったこともある。またある時は自分がピンチなって切り抜けたこともあったな」

「全てその時の傷?」

「あぁ、全てだ・・・何度死にかけたかは10越えたあたりで数えるのを止めた」

「見る限り20回以上は確実ね」

 

私の身体を見てペルシカリアはそう返してくる

不思議に思うと、彼女は続けた

 

「前側に比べて、背中の傷は大きな物が多いわ。これ、背中で仲間を庇った証拠でしょう?」

「よく分かるな」

「傷のつき方で大体は分かるわよ。それにしても・・・」

 

そう言って、彼女は私の背中に触れた

 

「これだけの傷を負ってなお、護れなかったものがあったのね・・・」

「それでも、最後まで意地を張り続けた。もうそれが生きる理由になっていたからな」

 

最後まで諦めることだけはしなかった

それだけは、私に残された唯一のプライドが許さなかった

 

「そしてその果てに今こうして指揮官なんてやっている。数奇なものだよ運命というものは。私はその言葉が大嫌いだがな」

「運命は自分で作っていくものだから?」

「その通りだ、運命とは自らの歩む道筋で作っていくものと俺は考えている」

 

つい、昔の癖で俺という一人称を使った

今は極力、私と言っているが気が緩むと俺と言ってしまう

まぁ、そういう生き方をしてきたのだから今更変える方が難しいのだが

 

「そっちの方が似合うように見えるのは何故かしらね?」

「さぁな、少なくとも胸のサイズは関係ないな」

「あら、気にしているのかしら?」

「見せつけるな、もぐぞ?」

 

そう言って、一度浴槽から出る

そして少しだけ身体をマッサージして再度浸かる

 

「貴女が戦うのは誰のため?」

「人形の子達からよく聞かれるが、返すのはいつも一つだけだぞ」

「聞かせてくれるかしら?」

「ほとんど理由はないのだが、強いて言うなら···笑顔、だろうな」

 

その言葉に、ペルシカリアは頭の上にクエスチョンマークを出した

 

「笑顔って···漠然としているわね···」

「いやなに、理由は小さなものだったのさ」

 

そう、理由なんて本当に小さなきっかけに過ぎないものだった

 

「本当に、小さな···小さな笑顔の花と出会い、それで俺の全ては打ち砕かれた」

 

ただただ機械的に戦うことだけをしていた頃、勝利の余韻すら噛み締めることさえしなかったその当時···

 

「呆然としたよ。理解できなかった。何がなんだかわからず、どれだけ放心していただろうな。だが、それでも···瞳の奥が熱かったのを覚えている」

 

ありったけの感謝とともに、自分よりはるかに幼い子供に渡された花を目の前に、自分は動けなかった

戦場でも破壊する事しか考えず、市民の安全など、考えてすらいなかった。

だから、当然それは的はずれな感謝であるはずだったのに、いつものように、無視することもできた笑顔のはずなのに

 

「初めて、感謝されたんだよ。認めてもらえた気がしたんだ···お前も周りと変わらない、ちゃんと一人の人間なんだと。こんな、こんなどうしようもない破壊者であろうとも。誰かの為に生きていいと、美しいものを守れるのだと知った。よりにもよって、自分より遥かに幼い子供に教えられたんだぞ?笑えるだろ?」

 

真っ当に、当たり前に前を向いてよいのだと···

言葉にできない衝動に打ちのめされた自分に対し、いずれ英雄と呼ばれる同僚がそっと肩に手を置いた。その雄々しく熱い眼差しが、胸を張れと告げていたのを覚えている。

お前の守った笑顔だというその一言に支えられ、恐る恐ると差し出された花を掴んだ瞬間に···

 

「そう、その時に。命を懸ける、理由を得たのさ」

 

花弁を濡らす涙とともに、壊すことしかできない拳を、握りしめるべき意味を知った

 

「その時の貴女は、満たされてなかったのよ···承認欲求、というものを」

「だろうな、私もそう思っている。だが、それでいいのさ」

 

輝く明日を、大切な者達が笑顔で生きられるように。

いつか自分に代わり、平和の中で笑顔の花を咲かせてくれると信じているからこそ戦うことを誓っている

 

「次の世代を笑って生きる子供たちは、立派な大人になるんだよ。きっと胸を張りながら、親を超えていくんだ」

 

簡単だとも、パンでも焼けるようになれ。花を育てられるだけでもいい。そんなことさえ俺にはできないんだよ。馬鹿だろう?

そう苦笑いして語った時、わかったと頷く子供達の笑顔のためならば軍人としてこれ以上の喜びは、この世の何処にもありはしないだろう。

小さな命が成長し、やがてそれぞれの道を歩んで先人を超えてゆくこと。

自分達には出来なかった···優しくて、穏やかな、新たな境地を描いてくれるその姿に胸の震えは止まらない。守り抜こうと何度も思う

それがたとえ自身の子でなかろうと、その子供達こそが次代を生きるものであるから

 

「ならばこそウィリアムのやる事を許せはしない、世界を自分の欲望のまま壊すと言うならば···私がそれを阻止してやる」

「全ては次代を担う子供達のため?」

「そうさ、私はその為にココに居る」

 

そういうと、多分立てないであろう彼女を抱えて外に出る

そして···

 

「あぁ、そういえばだが、お前に依頼しているボディの件はどうなっている?」

「完成まであと少し···今は完成度95%ね、要求スペック通りのものは流石の私でも時間がかかるわ」

「ほう、そこまで来ていたか···引き続き頼むぞ」

「分かっているわ、オーダーメイドの特注品。完璧に作り上げるわよ」

 

そう言って浴場を共に後にする

彼女は自室兼研究室に、私は執務室兼自室に

過去を語ったのは何気に今回が初めてなような気がするが···まぁいいだろう




作:何気に凄い過去のあるやつやなお前?
主:これでもかなりマイルドにしたってマ?
作:マ
主:マジか···ちなみにマイルド化の前の内容は?
作:地獄の責め苦にのたうちながら絶叫あげて敵を皆殺すヤベー奴だった
主:マイルド化した方が正解だな
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