運命?なにそれ?と言わんばかりにデレない美しき巫女 作:レオ2
まだ誰も来ていない教室の中、2人はそれぞれ昨日の日誌の確認や黒板を綺麗にしたりしていた。そんな中涼花は珍しく自分から拓斗に声をかけていた
「それで……昨日はどうして神社に?」
本来は別に神社に来ること自体には文句はない。というよりも短時間とは言え働いている巫女がそんな事を言えば終わりだ。
今回は単純に気になったのだ。拓斗はいつもふざけているが頭は良い。学年順位で常に自分に迫っているのだからそれは疑っていない。
最も涼花本人は拓斗が本気を出せばもっと上に行けるんじゃないのか? とは考えているが。
そんな拓斗が神社に来たのは少し意外だった。
拓斗は涼花の言葉を聞き昨日の口留めでもするのかと思ったから少し意外な気持ちになった。涼花に自分が神社に通い続けるのかを話そうかと思った、が別にあくまでも赤の他人だ。巫女さんには神社に行く理由を話さないといけないなんてジンクスは無い。
適当に誤魔化そうと思った
「3年前、ある人が俺の目の前から消えたんだ……」
だが口から出たのはそんなどこか懺悔に聞こえる声だった。拓斗は何故か思っていた事とは全く反対の言葉を言ってしまった事に口元を抑えてしまった。
「……ある人?」
「何でもない。気にしないでくれ」
拓斗はそう言って涼花に背を向け黒板を何度も拭く。もう既にピカピカなのにも関わらず拭いている。
涼花は拓斗にも何か事情があるんだなと思った。本来ならここで話を切る。涼花にだって人に知られたくない事はある。
それでも3年前というワードが引っかかった。今日はよくあの日の事を思い出す
★
3年前の夏、涼花は夏休みなのにも関わらず病院のベッドの上にいた。上手く動かない身体、気怠さ、自分の思い通りに身体が動かないことに嫌気がさしていた。
自分を徹底的に排除しようとする継父、余り自分達に干渉しない母親。自分を哀れだと見てくる使用人たち。
兄に関しては今は酷いことしたと思ってる。
それでも……涼花は彼とやり取りする時間がとても楽しかった。最初は適当に返事を返して時間を潰すだけの人だった。
だけれども……彼はしつこかった。遠回しに話したくないと言っても次の日にはメッセージが入っている。それは何気ない日常の会話で当時の涼花には眩しかった。
『大丈夫、もう慣れちゃったから』
彼が涼花の醜い環境の事を聞き涼花は煩わしくなってそう返した
(どうせこの人もそうなんだって言って終わり。頑張れなんて無責任な事を言って何事もなく過ごすのでしょ)
涼花は『頑張れ』という言葉が嫌いだ。
もう自分はとっくに頑張っているのだ。頑張っても病気は治らない。精神論を振りかざす奴が一番嫌いだ。自分の事を何も知らない癖してそうやって無責任に応援する。
自分は今でも精一杯生きているのだ。これ以上どう頑張れって言うのだ。誰も努力は認めてくれない。頑張っても病気を治せないと言う事に呆れている。
心無い言葉を吐く連中だっている
『サボりかよ』
『社長出社だぜ』
遅れてきたくて遅れた訳じゃないのに陰で自分の悪口を言う同級生
『病気移っちゃう』
『いや~!』
そんな事実はないのに面白おかしく誇張して笑うカースト上位の女子共。
泣きたかった
思いっきり泣き喚きたかった。だけどそうすれば自分の弱さをさらけ出す事になるから出来なかった。
『大丈夫?』
そう聞いて来てくれた人もいた。だが「大丈夫」と返せば「そうなんだ」と言って寄ってこなくなった。
事実は逆だ
大丈夫じゃないに決まっている
人は言う、「生きていればいい事がある」
そうだろうよ、周りの奴らは自分を出汁に優越感に浸っているのだから。自分には良い事なんてない
人は言う、「周りを信じろ」
自分を汚いものを見るかのように見てくる人物をどう信じろと
世界のなにもかもが信じれなかった。どうせこの画面の向こうにいる人も自分が大丈夫と言えば身を引くだろう。
誰も助けてくれない、自分自身すら今を生きたいとは思わなかった。
死にたい、でもそんな勇気はなくて……でも生きたい理由もなかった
だけど
『本当にそう思う?』
その言葉を見た瞬間、涼花は血が沸騰する感覚に見舞われた。
一気に血の気が引いた。呆然とその言葉を見る。
『はぁ……はぁ……』
それを見る度に息が荒くなり汗が出てくる
そんな中、自分のスマートフォンが濡れた。
濡れたと言ってもずぶ濡れではなく
『あ……』
その瞳から流れる涙だった
『ごめん、妹が熱出したからちょっと出れない』
『妹さんを見てあげて』
辛うじてフリップしてそう入力した。しかしその指は震えていた。入力し終わったら涙が……止められなかった。
──どうして?
その想いだけが止まらなかった
★
場所は変わらず教室、もう少しで他の生徒も来るであろう時間帯が迫っている。
今日は日直だから涼花と二人でいても何も思われないはずだがそれでも何だか気が滅入る
そんな事を考えていたら今まで何かを思い出していた美人のクラスメイトがどういう訳か神妙な表情で拓斗に向いた
「……ねえ。あなたの妹って」
「ん?」
机を揃えていた拓斗は手を止めて既に机で日誌の確認を終わらせた涼花を見返す。
別に妹がいることを知っているのには驚きはない。昨日は妹がお兄ちゃんって言ったりしていたのだ。それが涼花に聞かれただけだろう。
しかしなぜ今妹の話が出るのかが分からなかった。だけど妹の話ならば思いつくのは
「は! まさかお前も我が妹の可愛さに気が付いたのか!」
「……あなたってシスコンなの?」
「寧ろ家族が好きじゃない人は……」
いるのか? と続けようとしたが過去を思い出した。
家族が嫌いという人がいた
自分はその人の為に何をしてあげられたのだろうか?
「氷火君?」
涼花の声で我に返った
「いや、悪い。それで俺の妹がどうしたって?」
「その……あなたの妹ってもしかして」
身体が弱かったりする? と言おうとした。嘗ての想い人の妹が病気がちだったというのを覚えていたからだ。
別に本気で氷火が件の男だとは思っていない。ただ何となく……その筈だ。少なくとも本人はそのつもりだ
「おはよう!」
しかし涼花の問は大智の元気のよい挨拶によって頓挫した。
「おう、おはよう大智。早いな」
「朝練が早く終わって……な?」
大智はそこで拓斗と涼花を見比べた。そして徐々に大智はビクビクし始めた。拓斗自身は疑問符を浮かべている表情だったがその正体は後ろで質問の邪魔をされて眉を引きつらせている涼花を見たからだ。
一世一代の勇気を振り絞った気でいる涼花、それを遮った大智。2人に挟まれている拓斗は何となく寒くなったと思った
「あれー大智、何か俺の背後がとても寒くなったんだけど」
大智の顔を見て何かを察した拓斗は飛び切りの笑顔を見せていた。
(何でそんなに笑顔なんだよ──!!)
結局この日は極小のブリザードが吹き荒れていた
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