運命?なにそれ?と言わんばかりにデレない美しき巫女 作:レオ2
只の常識人が見れば立派過ぎて逆に呆れてしまうような豪邸、その中の一室で涼花は机に向かって勉強していた。
だがその頭の端には今日見た彼のあの顔と言葉が忘れられない
『好きな女の幸せを願う位、別にいいだろ?』
その言葉を聞いた時、涼花の心臓がズキンっと音がした。言われたことを理解したくなかった。あの言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。比喩なしで本当に何にも考えられなかった。
あの後は本当に呆然と拓斗と別れ遠山に迎えに来てもらった事しかお覚えていない。
正直に言うと今も拓斗のあの光景がリフレインして集中が出来ない。今までこんな事は拓との話が楽しくて拓の事ばっかり考えていた時位だ。
……というよりそれではまるで自分が拓斗の事を──
「別に氷火君が誰と恋愛しようが知った事じゃないわ!」
そう自分を奮い立たせ恋愛している拓斗を心の中で嘲笑った後、自分の机に向かう。最初の内は拓斗の事を意識の端に追いやれたが5分もしたら再び拓斗の事が頭の中に浮上してきた。
それを何度も繰り返すが結局この日は最後まで集中は続かなかった。
★
次の日の月曜日、涼花は拓斗と顔を合わせる事が出来なかった。席は隣だから物理的な距離はずっと近いが心理的な距離は前よりずっと遠くなったと思う。
何時もこれだけはしていた挨拶も今日はしなかった。涼花は昨日の言葉を気にして、拓斗は涼花じゃない別の誰かを思い浮かべて。
挨拶しなかったのは今だけは問題ではない。先週あれ程騒ぐほどの大喧嘩(主に涼花と力也と大智が)をして拓斗と涼花は正真正銘今は敵同士なのだから。
だが涼花は拓斗の事が気になりすぎて授業の途中でもちらちらと拓斗を見る。拓斗もその視線に気が付いているが特に話もしない。
自分にとっては花さんが好きなのは確かだしそれを言った事に後悔もしてない。涼花がその好きな人いる宣言を聞いて周りに言いふらすとは思わなかったから話したのもあるが。
そして何だか気まずい時間を過ごした後の昼休み……涼花は拓斗に聞きたいことがあり声をかけた
「お昼一緒に食べない?」
その一言に教室から動揺が広がる。それもそのはずで今この二人は中間考査を競うライバルだ。ついで言いうならどちらも己の信念と誇りを懸けて。
それなのに涼花は敵である拓斗と昼食を共にしようと言ってきたのだ。動揺しない方が可笑しい。
動揺してないのは涼花を睨んでいる力也、若干オロオロしている大智位だろう。
本人の拓斗は少し眼を見開いた程度で驚きは少ない。
そして……
「……お嬢様から誘ってくるなんて今日は吹雪でも吹くのか?」
ふざけた。
いや拓斗自身も朝から涼花と自分を繋ぐ微妙な雰囲気をどうしようかと思っていたところなので今回のはしょうがないのだ。
そう、しょうがn……
「……」
「なくないですよねー」
絶対零度の冷たい眼をもらいましたありがとうございます。
「ふざけてるの?」
「滅相もございません! 喜んで一緒させてもらいます!」
それを見た涼花は疲れたように一つため息をつき自分の弁当を手に持とうと鞄をあさる。それを見届けた拓斗の肩に力也が触れる。
拓斗が振り返ると少し顔を強張らせている力也といつも通りの大智がいた。
「悪いお前ら。という訳で今日は2人で食べてくれ」
「……何かされそうになったら呼べよ」
……涼花に限ってそれはなさそうだけどな、と拓斗は思ったがこの親友は純粋に自分の心配をしてくれているのだからそう返すというのは野暮というものだろう。
「ああ、その時は頼らせてもらうよ」
拓斗は2人の前に自分の手を出した。2人もそれを見てふっと笑い次々と自分の手を重ねそれが終わったら手を引き真ん中で自分の拳と他の2人の拳をぶつけた。
これは拓斗の……拓斗達のチームでするルーティーンみたいなものだ。
それを終えたらもう言葉は必要ないとばかりに3人は自分の机に向かった。拓斗は自分の鞄から弁当を取った。
「じゃあ行こうぜ」
拓斗は先程までのふざけを出していた眼ではなく真剣な眼差しで「話があるんだろ?」と言外に告げた。涼花はそれを見て一瞬よどんだがそれ以上言葉を出さず歩き出した。
(ついて来いって事か)
拓斗はクラスメートの視線を背中に感じながら涼花の後を追う。
涼花は迷うそぶりもなくスタスタと歩いていく。そんな背中姿を見て拓斗が感じたことは
(何だかモデルみたいに綺麗な歩き方だな)
育ちが良いのか本人の気質なのかは分からないが普段そんな事気にしない拓斗でも涼花の歩き方は綺麗だと思った。
……まあ拓斗は本物のモデルなんて見たことないのだが。
だが拓斗が思った感想は概ね当たっている。実際、涼花とすれ違った男女は涼花を必ずチラ見している。背後にいる拓斗でもそれに気が付いているのだ。涼花本人も気が付いているだろう。それを無視する事にはなれているのだろうか?
(……どこまで行くんだ?)
涼花が階段を上り始めた辺りで拓斗はそんな事を思った。生徒会室は過ぎてしまったし食堂は反対方向だ。階段を上るにつれて段々と明かりが無くなっていく。それがどこか不気味に思った。
どこに行くのか拓斗が気になった時、とうとう階段を上り切った。そして涼花はその上り切った所にある扉に何やらガチャガチャと動かし開いた
「──ッ!」
その扉から溢れた太陽光に眼を細める。というよりも上った先でこんな太陽光を拝めると言う事は……
「……この学校屋上に行って良かったのか?」
屋上で女子と弁当を食べるシチュエーションなんて絶対に3次元じゃないって思っていた拓斗! だが今、あの優等生である涼花自ら屋上の扉を開き昼食を取ろうとしている!
件の涼花は拓斗に振り向きもせず答える
「生徒手帳には屋上に行くことを禁じる記述は無いわ」
「いやでもだからって屋上って鍵が……」
拓斗がそこまで言って涼花の弁当箱を持っている反対の左手を見るとそこには屋上のドアにかけられていた南京錠と鎖が握られていた。
「ええ。これがあるから生徒たちは屋上は立ち入り禁止って思ってるのでしょう。だけど私はこの通り……」
「まさかお前……超能力者なのか? ……あ、その眼怖いからやめてください」
再び絶対零度に当てられ拓斗は反射的に謝った。涼花はまた露骨にため息をつき鎖と南京錠を屋上のドアノブに引っかける。
「……貴方のそれ面白いと思ってるの?」
「俺はただこの雰囲気を和ませようと……」
「そう、だったら私の時はいらないから」
(俺が和みたいんだよ──―ッ!!!)
涼花が話すときはいつも体感温度が低くなる。それを少しでも普通に戻したが為にこんなふざけた発言をしたくなるが涼花がそれを許してくれない。
涼花は再び歩きながら口を開いた
「貴方が知らないだけで結構使われているのよ、ここ」
涼花について行くとそこにはベンチがあった。それもちゃんと手入れされて綺麗なベンチだ。
それを見て拓斗は涼花の言う事が本当なんだと思った。
屋上にベンチが幾つかあるのもそうだがその一つ一つが丁寧に手入れされているのは屋上が余り使われないのならあり得ないと思ったからだ。
そもそも余り使われないなら手入れだってする必要が無い。
涼花はベンチの一つに腰を掛けた。拓斗は隣のベンチに一瞬座ろうかと思ったが少し遠かったので諦めて涼花の隣に座った。隣と言ってもベンチの端同士だ。
「……」
「……」
座ってからは2人とも少し無言になった。屋上に少しの風が2人の間に突き抜ける。ふと拓斗が涼花を見ると涼花はその風によって吹かれている髪を抑えるような格好になっていた。そしてその涼花の表情がどこか寂しそうな……今にも泣いてしまいそうなそんな顔だった。
恐らく、大概の男ならこの表情で落とせることが出来るんだろうなと拓斗は思った。
だけど拓斗が見ていることに気がつき直ぐに仏頂面に戻った。
「……食べましょ」
「ああ」
そう言って2人は自分の弁当箱を開けた。拓斗が一瞬涼花の弁当を見ると色とりどりの惣菜、そして玄米入りのお米が顔を表した。
拓斗の方は涼花の様に色はない。それもその筈で拓斗の弁当は昨日の残り物で構成されている。そんな弁当が色とりどりの筈はない。
(……よく考えたら三月と食べるのは初めてだな)
などと思いながら2人は同時に手を合わせた
「「いただきます」」
ほぼ意識せずに重なり2人は一瞬顔を見合ったが昨日の事があったからか涼花の方が眼を逸らした。ゆっくりと2人はそれぞれの弁当を食べ始めた
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