運命?なにそれ?と言わんばかりにデレない美しき巫女 作:レオ2
3年前の夏真っ只中、灼熱の太陽がアスファルトを照り付ける中拓斗はその虚ろな足を動かしていた。太陽が照り付ける中で拓斗の表情は優れなかった。
それどころか絶望している様な、拓斗の周りだけブラックホールのような空間が漂っていた。それこそ未来で会う涼花の絶対零度より遥かに濃度が高い怖さがあった。
『ごめんなさい。私他に好きな人が出来た。別れてください』
唐突に送られてきたその文を最後に拓斗は花と連絡を取れなくなってしまった。その時、何を思ったのか拓斗自身も覚えていない。
ただ絶望して母に蒼葉の事を任せ夜の公園で一人泣きつくした事だけは覚えている。
──どうして?
その思いだけが止まらなかった。順調に見えていたのは自分だけだったのか、花は自分の事を何とも思っていなかったのか。
──あの告白は全部嘘だったのか
「……はぁ」
家の近くの河川敷で拓斗は項垂れていた。太陽が拓斗を焼くが拓斗はそれすらもどうでも良かった。喪失感だけが彼を満たしていた。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして……
あの時の拓斗の表情を親友達は死んだ魚のような眼や抜け殻のような状態だったと言っていた。何故あの二人がこの時の拓斗を知っているのか?
それは……
「氷火、大丈夫か?」
落ち込んでいた拓斗へと声をかけたのが……虚ろな眼で拓斗は顔を上げた。そこには大智と力也が心配気な顔で拓斗の顔を覗き込んでいた。
当時の拓斗はこの2人の事をよく知っていた訳じゃない。こう言っては何だが拓斗は人と話すのが苦手だった。だから余り友達なんて出来なかったし拓斗は拓斗で花さんの事で精一杯だったので作るつもりもなかったのだ。
なので実質これがこの二人とのファーストコンタクトだ。
この2人はただ自分を心配して声をかけてくれたのは分かっている。恐らく拓斗が普通の状態なら有難かっただろう。
だが当時の拓斗はそんな事を考える余裕は無かった。それどころかその心配がうざかった
だから……
「……大丈夫だ」
何とか八つ当たりを我慢してそう言った。それだけ言えばどっか行ってくれるだろうと、そう思った。しかし
「いやいやそんな訳ないだろ。昨日からお前顔色スゲー悪いぜ?」
大智がそう言った。それに拓斗は残っていた心で純粋に驚いた。友達でもなんでもない自分の様子を見ていた事に。
自分はクラスでも目立っていた方ではない。それどころか目立っていないほうだ。最早空気というのに相応しい。
とてもぱっと見特待生とは思えない。
だけど……今はそんな心配が煩わしかった
「大丈夫つってんだろ!! 」
だからそんな怒鳴り声をあげた。それも河川敷に響くくらいの大音量で。
「……」
その今まで大人しい方だと思っていた拓斗から放たれた怒声に大智と力也は驚いた表情のまま固まった。河川敷にいた人たちも余りに大きい声だったので何事だと拓斗を見る。その中にはカップルもいて拓斗もそんな人達が眼に入ると一瞬花と自分を思い浮かべる。
それで余計に心が痛くなり何も考えたくなかった。
拓斗は怒鳴ったのは久しぶりだったのかそれとも感情の整理が追い付かないのか酷い顔で項垂れていた。そんな今まで見たことないような落ち込んでいる拓斗に2人はどう声をかけたらいいのか分からなかった。
「……もう声かけるな」
ただそう言って拓斗はのろのろと立ち上がった。その足はとてもよろよろとしていて心配しかなかった。だがそれ以上に今の拓斗はどこか危険だと思った。でも当時の2人はいきなり変わった拓斗に声をかける事は出来なかった。
項垂れ、トボトボと歩いていた拓斗は顔に影が差していた。それが拓斗の今の心を表しているようで暗い。
そんな時スマートフォンに通知が入った。拓斗は一瞬花から連絡が来たのかと心を躍らせてスマートフォンを見た
「……はぁ」
だが違った。それはニュースの通知で今年度の全国大会のお知らせだ。それに脱力しながら拓斗は再び顔を暗黒に染める。
最早ブラックホールを字で纏っていると言っても過言ではない。街中に来た拓斗はショウウィンドウに写っている自分をふと見た。
「……こんな顔、蒼葉に見せられねえな」
妹にはこんな顔を見せる事は出来ない。母親か自分が酷く落ち込んでいた時は蒼葉の体調も共に悪くなるからだ。
蒼葉はもう少しでまた入院する。それまでは自分の酷い顔は隠さなければならない。その為に……
「行くか」
低く呟き拓斗は少しだけ歩いていく。拓斗の心情は何も考えたくないが本音だったが蒼葉に酷い顔を見せないために笑顔になれる場所に向かった。
そこはタッチだ。階段を上りガラス張りの扉を開き入っていく。
「お、いらっしゃい拓斗君……?」
何時もの店長がカウンターから拓斗を迎える。だが直ぐに拓斗の異変に気が付いた。何時も元気……という訳では無いがそれなりに明るい顔をするのが常だった拓斗が死んだ魚のような眼をしていたら戸惑うものだ。
だが拓斗は店長の心配をよそにファイトテーブルへと向かっていく。何時もなら少し勇気を出して誰かとファイトするのだが今の拓斗を見た他の客は関わりたくないのか離れて行く。
「何だよあいつ」
「怖い、行こうぜ」
彼らを責める事は出来ない。それだけ今の拓斗は触れがたいのだ。拓斗は誰ともファイト出来ずにベンチで落ち込んでいた。
(クソ、これじゃあ蒼葉に心配かけちまう!)
分かっているのに考えてしまう。花とのことを。
交際は……自惚れかもしれないが順調だったと思う。花はもう少しで退院すると言っていた。だから直接会おうと何度も話し合って……会う約束を固くしていた。
それなのに……
(どうしてだよ、花)
それだけをずっと考えている。だが考えれば考える程分からなくなる。
(俺は何も分かっていなかったのか……?)
画面越しに付き合う……そんな奇異な状態を可笑しいと思った事は何度もあった。だがそんなものは結局話していくうちに気にならなくなった。それだけ花との会話が拓斗にとって楽しく、ドキドキしたのだ。
だけども……花はそうではなかったのか? 自分とこんな関係なんて嫌だったのか? だから現実で会える人を好きになったのか?
入院しているという花がどうやって他の男と知り合ったのか知らないがそれだけで胸が苦しかった。
自分じゃなくて他の男が花の隣にいる所を想像するだけで胸が張り裂ける、そんな感覚が拓斗を貫く。
「何でだよ……花」
今にも死にそうな眼で涙を流しそうな拓斗、それを客は遠巻きに見ているが話す勇気が無いのか単純に近寄りがたいのか誰も声をかけない。
そんな拓斗に唯一声をかけたのは店長だった。ある紙と共に。
拓斗の眼の前に出されたのはヴァンガードの全国大会のお知らせと全国大会の地区予選に出場するチームを決めるショップ大会のお知らせだった。
「君が始めてから時間もたったし、そろそろいいんじゃないかい?」
全国大会……その響きは男の子ならば奮い立つ言葉の一種だろう。拓斗も普段ならば喜んだかもしれない。だが今は……
「……そんな気分になれません」
そうかぶりを振る。今拓斗の中を動かしているのは花への想いだけであり全国大会など眼中になかった。それに拓斗がそんな気に慣れない理由はもう一つあった
「ショップ大会も全国大会も3人一組のチーム戦。チームメンバーがいないんですから出ようがありませんよ」
顔に影を差し込みながらそう言った。いくら拓斗がやる気あったとしてもチームメンバーがいなければ出場すらできない。
そして拓斗は自慢じゃないが人付き合いが上手い方ではない。そんな拓斗がチームメンバーを探すのは骨が折れる。今の拓斗は負のオーラが漂っている。これでは誰も声をかけてこない。
店長もそれが分かっているのかこれ以上言えなかった。そんな時、ショップの扉が開閉音と共に開かれた。店長はそっちを見ると初めて見る顔だった。
だが誰が来ても店長としてやる事は変わらない。
「いらっしゃいませー!」
拓斗は何となく瞳に光を無くしながら顔を上げた。そして
「「あ」」
店内に入って来た2人の声が重なった。拓斗は驚く気力もなくただ入って来た新参者見ていた。
「氷火、ここにいたのか」
心底驚いたといったふうに大智が言った。
だがそれすらも当時の拓斗にはどうでもよかった。それでも大智は顔を明るくして拓斗に近づいてくる。そして拓斗の目の前に来た時、拓斗もやっているヴァンガードのデッキを取り出して拓斗に見せた
「なあ、ファイトしようぜ」
ファイト……要は勝負しようぜと言う事だ。大智になんの思惑があってそんな事を言ってくるのか分からなかった。でも……気分が紛れるのは拓斗も望んでいた事なので頷いた。
2人は揃ってファイトテーブル……ファイトする場所まで歩いて行った。2人を見送った力也もついて行こうとするが店長が声をかける
「ちょっと君」
「……はい?」
「拓斗君の知り合いかい?」
力也は店長が何故そんな事を気にするのか分からなかったが素直に答えておいた
「まあ、同じクラスです」
「そうか。もし君達が良かったらなんだけど……」
そう言って見せたのは先程拓斗にも見せた全国大会お知らせの広告だった。
「これに拓斗君を誘ってもらえないかい?」
力也はその広告を見た後、店長を見る。店長は拓斗を心配気な表情で見ている。その表情はどこか子供を見守る父親の眼のように見えた。
「最近の拓斗君は元気が無さすぎる」
ただそれだけを言った。力也もそれに心当たりがありまくるので自分も拓斗を見る。拓斗は大智と向き合って虚ろな眼でデッキをシャッフルしている。
そしてスタンバイが終わったのか2人はファイトを始めた
「「スタンドアップ!」」
「THE!」
「「ヴァンガード!」」
ファイトは全飛ばし
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